わが国の戦艦発達の歴史を知る~~「最新国防叢書」1

GHQ焚書

 昭和13年に科学主義工業社から「最新国防叢書」シリーズ10点が刊行され、そのうちの4点がGHQにより焚書処分されている。今回はシリーズの第一輯、藤沢宅雄著『戦艦の話』の一部を紹介したい。

軍艦の種類

 戦後は軍艦の種類について詳しく学ぶ機会はほとんどなかったと思うのだが、当時わが国では軍艦を次のように分類していたという。

 戦艦(戦闘艦と巡洋戦艦を一緒にして)、練習戦艦、航空母艦、巡洋艦(一等、二等)、水上機母艦、潜水母艦、敷設艦、海防艦、砲艦、駆逐艦(一等、二等)、潜水艦(一等、二等)、水雷艇、掃海艇、特務艦

 ズット昔の兵船のことはさておき、近代兵器として大砲が発明されてからの軍艦は、武器として艦上に搭載したものは悉く大砲であって、強力な大砲を数多く積んだ船は即ち強い戦列艦(今日の戦艦)でありました。その後魚雷が発明され機雷も出現し、さらに飛行機の発達につれて爆弾も海上戦闘の有力な地歩を占めるようになり、大砲を「主兵」(一番主要な兵器)とする軍艦以外に駆逐艦、潜水艦、水雷艇のような魚雷を主兵とするもの、敷設艦の如く機雷を主兵とするもの、航空母艦や水上機母艦の如く爆弾ないしは魚雷を主とする艦種も現れてきました。

最新国防叢書. 第1輯 藤沢宅雄著『戦艦の話』科学主義工業社 昭和13年 p.3~4

 1921年から翌年にかけ、アメリカのワシントンで海軍の軍縮会議が開かれ、米・英・仏・日にイタリア王国を加え、主力艦保有率を米英5、日本3、フランス、イタリア1.67とするワシントン海軍軍縮条約が締結されたが、「主力艦」というのは戦艦と巡洋戦艦を一括して呼んだもので、海上兵力の根幹をなすものである。
 戦艦と巡洋戦艦の違いが分かりにくいが、速力を重視して攻撃力と防御力を抑えたものが巡洋戦艦とのことである。

昭和13年当時、世界最強クラスの戦艦とその威力

 昭和13年当時、世界で最強クラスの戦艦はどこの国が保有し、その威力はどの程度であったのだろうか。

 世界の七つの海に現在浮かんでいる最強の大戦艦は七隻、わが長門と陸奥、英国のネルソンとロドネー、北米合衆国のウェスト・バージニア、メリーランド及びコロラドの四十糎(センチ)砲戦艦であります。この四十糎砲を英国ネルソンのについて見ると弾丸の重量約一トン、大砲に四十度の仰角を与えて発射すると弾は毎秒九百メートルの速度で砲口を飛び出し、三万五千メートルの距離を約七十秒で飛んでいきます。そして一万五千メートルで五十センチ、三万メートルで三十五センチの垂直鋼板を打ち抜く力(穿徹[せんてつ]力)があるばかりではなく、弾の内部には約五十キロの炸薬(火薬)を持っていて、炸裂すると弾壁は拳(こぶし)大の破片となって飛散し、近所のものをメチャメチャに破壊する力を持っているのです。一門の四十糎砲には大抵百発くらいの弾丸が用意され、この弾は一分間に二発近く射ち出されます。

 このような恐ろしい穿徹力と破壊力を有する巨弾を、短時間に連続して数多く、遠大な距離にある敵艦に送りうること、これが大砲だけが持つ優越さであって、他の兵器がどうしても真似の出来ないところ、そして依然大砲が戦闘を左右すると言われる原因であります。一トンの爆弾、それは何百キロかの爆薬を持っていてその破壊力は確かに四十糎砲の弾丸よりは強い。しかし全然穿徹力はない。いや全然というのは嘘で二千三千メートルの高所から落とされた爆弾は、地球の引力による加速度で爆弾自身に速度を持つようになるのですが、この速度など弾丸の保有する速度に比べると僅かのもの。従って、その穿徹力は殆んどないといわねばなりません。その上大砲のように多数を連続発射することは現在の飛行機の性質から見てできない話であります。

同上書 p.5~6

 連続発射できるということの意味は大きく、射撃の効果を確認しながら上下左右に大砲の向きを調整することにより精度を高めることが可能で、命中すればそのままでどんどん打ち続けることで敵艦に壊滅的なダメージを与えることができる。射撃の効果を累積することができるのは大砲だけに許された性能であり、飛行機からの投下爆弾では到底不可能である。
戦艦が海軍兵力の根幹であるとされるのはその点にある。

 戦艦長門、陸奥は四十糎砲だったが、この本が書かれた二年後の昭和十五年には戦艦大和、武蔵が進水し、それぞれ史上最大の四十六糎砲を搭載した超弩級戦艦で、建造当初は大和が世界最大最強の戦艦だったのだ。

日本の戦艦導入初期の歴史

 今では日本の戦艦の歴史を知る機会がほとんどなのだが、本書に簡単にまとめられている。

 日本が最初に持った戦艦は富士であります。もっともコルベットと称えられた艦種から戦闘艦種に編入された初代の扶桑や、日清戦争で清国から分捕った鎮遠(ちんえん)なども、明治三十一年に軍艦類別標準が定められた時には戦艦と呼ばれましたが、扶桑は元来が帆前船、鎮遠は分捕船だからこれを省き、わが国で戦艦として建造したのは富士が最初、その姉妹艦に八島がありました。これらは建造当時世界における最新の戦艦でありました。次いで敷島・朝日・初瀬・三笠が造られ、以上の六隻が日露戦争における主力艦隊でありました。そしてこのうち最後に建造された三笠は、当時世界における最新最鋭の戦艦と認められたものです。

 当時の我が戦艦は主砲として三十糎砲四門を二連装砲に入れて艦首と艦尾の二ヶ所に載せ、副砲としては十五糎速射砲十数門を搭載した。諸外国の戦艦も大体同様でした。…中略…

 日露戦争に於ける三つの海戦——黄海・蔚山沖・日本海海戦ーーは近代戦艦の声価を定めた最初の海戦であって、これら海戦の戦訓は主砲四門では足りない、一門でも二門でも良いからもっと主砲と同じ位の勢力のある大砲が欲しいというものでありました。ところが、この戦訓とは関係なしに、いや日露戦争の前からイタリアだけは三十糎の主砲と十五糎の副砲の中間にあたる二十糎砲を積んだ戦艦を明治三十四年頃に建造していたのです。

同上書 p.13~6

 そして、日露戦争の後でイタリア式の砲装が世界を風靡し、主砲と副砲の間に中間報を積んだ戦艦が現れ、世界で採用されていったという。

最新国防叢書の全点リスト

以下のリストは「最新国防叢書」シリーズの全点である。

タイトル
*太字はGHQ焚書
著者編者出版社国立国会図書館URL出版年
*戦艦の話
最新国防叢書. 第1輯
藤沢科学主義工業社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/146225113
潜水艦の話
最新国防叢書. 第2輯
福田一郎科学主義工業社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/146224813
*航空母艦の話
最新国防叢書. 第3輯
永村 科学主義工業社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/146225413
特殊軍艦
最新国防叢書. 第4輯
廣瀬彦太科学主義工業社国立国会図書館/図書館・個人送信限定13
*巡洋艦の話
最新国防叢書. 第5輯
早川成治科学主義工業社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462252昭和13
水雷駆逐艦
最新国防叢書. 第6輯
西川速水科学主義工業社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/146225013
艦砲水雷
最新国防叢書. 第7輯
早川成治科学主義工業社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462255昭和13
海軍航空機爆弾
最新国防叢書. 第8輯
天ケ瀬行雄科学主義工業社国立国会図書館/図書館・個人送信限定13
艦隊編成
最新国防叢書. 第9輯
早川成治科学主義工業社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462249昭和13
*海軍艦船の機関の話
最新国防叢書. 第10輯
金谷三松科学主義工業社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1452087昭和13
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コメント

  1. aki より:

    ブログ主様書込みお許し下さい。
    日本が侵攻されぬ為どうか皆様に知って頂きたい、中韓へ忠誠を表明した野党が阻止する改憲の必要性とその日本献上策を、危機感を持ち知って頂きたく誠に恐縮ですが書込ませて頂きました。

    報道するテレビが無い中、尖閣奪取を狙う、中国の日本領海侵犯が激しさを増す現状は、かつて9条の様に非武装中立で平和的であったチベット等を現在も中国が武力で侵略虐殺を行う惨状を連想させ、

    韓国が日本の竹島を不法占拠した際、多くの船員が機関銃で襲撃され死傷し、北朝鮮には国民を拉致され、
    尖閣には中国が侵犯する現状でも、9条により日本は国を守る為の手出しが何一つ出来ません。

    中朝ロの数千発の核ミサイル標準は常時日本に向けられており、尖閣、台湾周辺の動きも激化する中、9条を改正し自立した戦力を持たなければ、
    有事に敵地攻撃力を持たぬ現状防衛力では日本人の命と領土は守れません。

    中韓による侵略は、野党が法制化を目指す外国人参政権や(民主党政権の超円高誘導は日本経済を破綻危機に追い込みました)

    又「朝鮮の役に立ちたい」と表明した維新による、国の権限を弱め、地方独立から国家分断を図る道州制等、多様性と言う名の文化破壊活動からも始まっており、

    外国人参政権は米国始め世界的に認める国は少なく、これを与えた事でハワイは米国に、ウクライナクリミア半島もロシアに乗っ取られた過去があります。

    又背乗りやスパイ等の犯罪発見の役割も果たしている戸籍廃止に繋がる夫婦別姓や、日本人のみを処罰対象とした、特定国への反論を封じるヘイトスピーチ条例等、

    先進国で唯一スパイ防止法が無い日本で、
    中韓に軸足を置き、友好を刷り込む野党やメディアが、制度の危険性を隠し国民を誘導する現状からも、既に浸透工作は最終段階である事、
    日本でウクライナの悲劇を生まない為に投票の大切さと、一人でも多くの方に目覚めて頂きたいと切に思い貼らせて頂きます。
    https://pachitou.com
    長文、大変申し訳ありません。

    • しばやん より:

      aki様、コメントありがとうございます。
      既存政党が頼りにならない現状は、出来の悪い政治家を選んできた有権者に大きな責任があります。今の政治の流れを変えるためには、有権者が投票行動によって意思を示すしかありません。
      投票率が5割を切っているのですから、政権政党の得票率は有権者の2割に満たないのではないでしょうか。そのうちの3割以上は、「野党がだらしないから、なんとなく」政権政党に投票しているにすぎません。
      今まで投票してこなかった人や、「なんとなく」政権政党のイメージで投票してきた有権者が、7月の参院選で投票行動を変えると、政権与党や官僚、財界に大ダメージを与える可能性があります。
      ネットの時代になって、いかに政治家やマスコミがひどいかが、調べれば誰でもわかるようになり、必要な情報が容易に入手できるようになりました。
      7月の選挙は、新しい政党が台風の目になるかもしれませんね。

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