GHQは日本人にどのような歴史を封印しようとしたのか

GHQ占領下

プランゲ文庫とは

 アメリカのメリーランド大学図書館に、第二次世界大戦後1945年から1949年までに日本で出版された印刷物のコレクションである『プランゲ文庫』がある。このコレクションは連合国軍占領下の日本で民間検閲支隊によって検閲目的で集められた出版物なのだが、マイクロフィルム化・デジタル化が進められ、事前予約により誰でも閲覧が出来るという。

Postwar Japan | University Libraries

 明星大学の勝岡寛次氏はこのプランゲ文庫を5年間にわたり調査され、平成十七年(1995年)に『抹殺された大東亜戦争~~米軍占領下の検閲が歪めたもの』という本に纏めておられる。この本の扉には、当時の検閲官が手書きで修正したり文章の抹消を命じている原稿の画像が紹介されており、本文においても検閲によって削除された文章が網掛けで表示されているので、これを読むとGHQが戦後の日本人にどのような歴史を封印し、どのような歴史を押し付けようとしたかが見えてくる

GHQ検閲により全文掲載禁止となった坂口安吾の原稿(『抹殺された大東亜戦争』の口絵)

 例えば次のような原稿がGHQ ( 連合国軍総司令部 ) により全文削除されている。(原文を新字・新かなに改めた)

 顧みるに大東亜戦争中、旧敵国側には国際法違反の行動が随分あったようである。無辜の一般市民に対して行える無差別爆撃、都市村邑の病院、学校、その他の文化的保護建物の無斟酌の破壊、病院船に対する砲爆撃など、数えれば例を挙げるの煩に堪えぬほど多々あった。(中略)

 これらの残虐行為を含むいわゆる戦律犯に問われるべき被告に対する擬律処断は、もっぱら戦勝国が戦敗国の彼等に対して行うのみで、戦勝国のそれは不問に附せられるという現行の面白からざる偏倚的制例の下にありては、公式の裁判記録の上には専ら日本の戦律犯人のみがその名を留められることになるが、国際法学者は別に双方の戦律犯を公平に取り扱い、これを国際法史の上に伝え残すの学問的天職を有すべく、即ちわが国は惨敗を喫して完全無比の無武装国とはなったけれども、国際法の学徒にはなお尽くすべき任務が十二分に存するのである。(信夫淳平「我国に於ける国際法の前途」『国際法外交雑誌』第四十五巻三・四号、昭和二十一年三月)

『抹殺された大東亜戦争~~米軍占領下の検閲が歪めたもの』p.19

 この削除理由は「連合国批判」とのことだが、この事例から、GHQは戦勝国である連合国が犯した犯罪はすべて不問に付し、日本だけを批判の対象とする姿勢であったことの見当がつく。

 その後、『プランゲ文庫』は国立国会図書館での一部公開がなされるようになり、今ではかなりの資料が国立国会図書館に行くか遠隔複写サービスを利用することにより閲覧することが可能となっている。

Gordon W. Prange Collection|日本占領関係資料(憲政資料室)|リサーチ・ナビ|国立国会図書館
海外の諸機関等が所蔵している日本占領関係の公文書を中心としたコレクションです。

終戦直後のGHQによる検閲

 GHQは昭和二十年(1945年)九月十日に「言論及ビ新聞ノ自由ニ関スル覚書」(SCAPIN-16)を発令し、その日から新聞や雑誌などの検閲を開始している。

 この覚書の原文は、国立国会図書館デジタルコレクションに収められている。

SCAPIN-16: FREEDOM OF PRESS AND SPEECH 1945/09/10 - 国立国会図書館デジタルコレクション
国立国会図書館デジタルコレクションは、国立国会図書館で収集・保存しているデジタル資料を検索・閲覧できるサービスです。

 その邦訳は、江藤淳氏の著書に掲載されているので紹介したい。

江藤 淳(Wikipediaより)

1.日本帝国政府は、新聞、ラジオ放送等の報道機関が、真実に合致せずまた公共の安寧を妨げるべきニュースを伝播することを禁止する所要命令を発出すべきこと。

2.最高司令官は、今後言論の自由に対して絶対最小限の規制のみを加える旨告示している。連合国は日本の将来に対する論議を奨励するが、世界の平和愛好国の一員として再出発しようとする新生日本の努力に悪影響を与えるような論議は取締るものとする。

3.公表されざる連合国軍隊の動静、および連合国に対する虚偽の批判もしくは破壊的批判、流言飛語は取締るものとする。

4.当分の間、ラジオ放送はニュース、音楽および娯楽番組に限定される。ニュース解説及び情報番組は、東京中央放送局制作のものに限定される。

5.最高司令官は、真実に反しもしくは公共の安寧を妨げるが如き報道を行った新聞・出版・放送局の業務停止を命じることがある

(文春文庫『閉ざされた言語空間~~占領軍の検閲と戦後日本』p.170)

 かなり抽象的な内容なので、何を書けば業務停止になるかがわかりにくいところなのだが、この覚書が発令されてまだ日も浅い九月十四日に同盟通信社が二日間の業務停止命令を受けている。その理由は、米兵の非行問題を報じたことが「公共の安寧を妨げるニュースを伝播した」という条項に抵触したという。続いて十八日には朝日新聞が二日間の業務停止命令を受けている。処分の対象となった記事は九月十五日付と十七日付の記事であった。

鳩山一郎(Wikipediaより)

九月十五日付の記事は鳩山一郎の談話を報道したもので、問題となったのは次の箇所にあった。

 “正義は力なり”を標榜する米国である以上、原子爆弾の使用や無辜の国民殺傷が病院船攻撃や毒ガス使用以上の国際法違反、戦争犯罪であることを否むことは出来ぬであらう。極力米人をして罹災地の惨状を視察せしめ、彼ら自身彼らの行為に対する報償の念と復興の責任とを自覚せしむること。

(同上書 p.187~188)

 また九月十七日付の記事には、GHQがフィリピンで 日本軍による非行があったと発表したことに対して、「この点は若干事情を異にするとはいえ、今日日本における連合軍についてもあてはまることであり、日本が新たな平和の再出発にあたり、連合軍側があくまで人道に立って正しく行動してもらいたいと要望している。」(同上書p.188~189)と書いたことが問題となっている。

 いずれも真実に基づいて書かれた記事なのだが、要するに戦勝国にとって都合の悪いことを書くことが「公共の安寧を妨げるが如き報道」であるとされ、業務停止処分の理由とされたのである。

『日本新聞遵則(日本出版法・プレスコード)』の内容

 法律も制定せずに業務停止のような厳しい処分を行うことにはそもそも無理がある。そこでGHQは「言論及ビ新聞ノ自由ニ関スル覚書」(SCAPIN-16)に代わって9月19日に『日本新聞遵則(日本出版法・Press Code for Japan)』を発令している。この「プレス・コード」には「新聞の報道論説及び広告のみならず、その他諸般の刊行物にもまた之を適用す」と書かれており、新聞だけでなく雑誌や書籍にも適用された。またこれに準拠して『放送遵則』、『映画遵則』も定められ、映画、演劇、放送なども検閲がなされたのだが、たとえば『日本新聞遵則』は10項目だけの簡単なものであった。

第一条 報道は厳に真実に則するを旨とすべし。

第二条 直接または間接に公安を害するが如きものは之を掲載すべからず。

第三条 連合国に関し虚偽的または破壊的批評を加ふべからず

第四条 連合国進駐軍に関し破壊的批評を為し又は軍に対し不信又は憤激を招来するが如き記事は一切之を掲載すべからず

第五条 連合国軍隊の動向に関し、公式に記事解禁とならざる限り之を掲載し又は論議すべからず

第六条 報道記事は事実に則して之を記載し、何等筆者の意見を加ふべからず

第七条 報道記事は宣伝の目的をもって之に色彩を施すべからず

第八条 宣伝を強化拡大せんが為に報道記事の些末的事項を過当に強調すべからず。

第九条 報道記事は関係事項又は細目の省略によって之を歪曲すべからず。

第十条 新聞の編輯に当り、何らかの宣伝方針を確立し、もしくは発展せしめんが為の目的をもって記事を不当に顕著ならしむべからず。

(同上書 p.193~194)

 このように検閲の基準が極めてあいまいで、これならGHQが気に入らない記事があればいくらでも適当な理由をつけて発行を報道を差し止めることができそうだ。

 一方、新聞社や出版社などからすれば、もし出版禁止などの厳しい処分を受けてはその損害は計り知れないことになる。基準があいまいであったからこそ新聞社も出版社も、連合国にとってあるいは連合国軍にとって都合の悪いことを書くことに対して、過剰なまでに抑制的になっていったのだが、それがGHQの狙いであったと思われる。

 山本武利氏の『GHQの検閲・諜報・宣伝工作』にはこう解説されている。

 同盟や朝日の処分以降、GHQは日本のメディアに戦勝国の立場から露骨な統制をおこなうようになる。19日、禁止事項を厳格に並べたプレス・コードが通達された。…重い処分を科せられた朝日新聞のショックは大きかった。朝日の処分をみて、他紙もGHQの厳しい姿勢を理解し、プレス・コードに従う態度になった。くわえて9月29日号の『東洋経済新報』が米兵の日本人婦女暴行の記事で発売禁止となった処分を知って、さらに従順になった。そして事前検閲が有力紙に実施されるようになる10月8日からは、各メディアは自らが敗戦国のメディアであり、…「この発禁事件以後、占領軍の検閲体制は戦時中の日本軍の検閲以上に厳しいものとなり、しかも検閲で削られたことを暗示するような空白は許されなかったので、とっさの間の穴埋めはじつに困難な操作をした」と朝日新聞記者は当時を回想している。

(岩波現代全書『GHQの検閲・諜報・宣伝工作』p.141~142)
GHQの検閲・諜報・宣伝工作 (岩波現代全書)
戦後の日本ではそれまでの内務省による検閲に代わり、GHQによる検閲と宣伝工作が展開された。アメリカで完全な形で保存されてきた検閲資料を丹念に調査し、検閲組織とシステムを明らかにしたうえで、朝日新聞とNHKといった組織や、緒方竹虎や永井荷風らが、占領下の検閲・諜報・宣伝活動に関わった実態を描き出す。

 分かりやすく言えばGHQは、自ら制定し日本人に押し付けた憲法に明記されている言論の自由と矛盾する行為を、組織的に行っていたことになる。山本氏の前掲書によると、検閲活動に従事したCCD(民間検閲支隊)の最盛期(1947年)には8132人の日本人が働いていて、受付、仕分け人、検閲者の9割は日本人であったという。

GHQ焚書

 GHQによる検閲は1949年10月31日まで4年以上続けられたのだが、新たに発行される新聞や書籍などをいくら厳しく取り締まっても、巷の書店には、連合国にとって望ましくないことが記された戦前・戦中に出版された書籍が多数書棚に残っていた。GHQはそれらを「宣伝用刊行物」と呼んで日本人の目に触れないようにしようとし、書店などで流通していた七千数百タイトルの書籍などを没収することを命じ、個人所有していたものと図書館が所蔵していたもの以外が押収され、ほぼすべてがパルプ化されて日本の学童用の教科書に再生されたという。

 西尾幹二氏が『GHQ焚書』と呼んだ没収書籍のリストを確認すると、戦意を高揚させる類の本も少なからずあるが、歴史書に関して言うと、中世、近世から近現代まで、日本だけでなく外国の歴史に関する研究書までもが多数リストに挙げられており、外国人の著書も多数リストアップされている。このリストを見るだけで、GHQが、戦後の日本人に読まれないようにした本がどのような内容のものであるかがある程度見えてくるのである。

 GHQは図書館の所蔵本については没収の対象としなかったことと、国立国会図書館が所蔵本などのデジタル化を推進し、かつ著作権が切れた書籍などについてはデータの公開をはじめていることもあり、今ではGHQ焚書された書籍の三割以上が『国立国会図書館デジタルコレクション』にアクセスすることにより、ネットで自由に読むことが可能になっている。興味のある方はこのブログの「デジタル図書館」メニューから「GHQ焚書」に進むと、五十音順にネットで読める書籍のURLを公開しているので参考にしていただきたい。

GHQ焚書
戦後GHQがわが国で流通していた7769タイトルの書籍等を廃棄して、日本人に読ませないようにしました。 しかし、国立国会図書館が所蔵していた書籍には手を付けなかったので、今では一部の書籍が無料で読めるようになっています。そのURLリストを制作しています。

 「GHQ焚書」に関しては、昨年にこのブログで「ネットで読める」書籍のURLリストを公開したのち、国立国会図書館で公開されていない本も含めて全件のデータ入力を続けていたのだが、先日その作業がようやく完了した。前回の記事では著者別のランキングと処分された書籍の著者別リストを公開し、それぞれの作品が国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている場合はそのURLを、復刊されている場合は復刊された年と出版社名をリストに付記している。今後については、テーマ別にどのような内容の本が焚書処分にされており、どのような書籍が公開されていないかについて、このブログで順次案内していく所存である。

 GHQはわが国に対してはあいまいなプレス・コードを定めて戦後のわが国の言論や出版などを統制したのだが、検閲する側はもう少し詳しい検閲指針を持って作業していたようだ。その指針は30項目に及び、それを読むとどのような内容の書籍が没収・廃棄処分にされたかがわかるのだが、その点については次回に記すこととしたい。

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 ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、昨年(2019年)の4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
 通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
 読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。

 無名の著者ゆえ一般の書店で店頭にはあまり置かれていませんが、お取り寄せは全国どこの店舗でも可能です。もちろんネットでも購入ができます。
内容の詳細や書評などは次の記事をご参照ください。

コメント

  1. マジカルアイ より:

    世界で一番古い国はどこでしょうか?
    今でも王朝が続くイギリスでしょうか?
    中国4000年の歴史という言葉が
    あるくらいですから、中国でしょうか?
    実は日本です。
    日本は初代神武天皇が即位されてから、
    その血統が一度も途絶えることなくずっと
    繋がってきました。
    これを万世一系と言います。
    現在の今上天皇は第126代目です。
    天皇は国民を大御宝と呼んで、我が子のように
    大切にしてきました。
    国民は天皇を親のように慕ってきました。
    親子の愛情関係で築かれた国日本。
    今年でなんと2680年を迎えています。
    では他国と比べてどれくらい古いのでしょうか?
    世界で2番目に古い国は約1000年前に出来た
    デンマーク王国です。
    その次に古い国は約800年前に出来たイギリスです。
    ちなみに中国が今の国家として成立したのは1949年ですから、
    今で71年です。
    やはり日本は圧倒的に古い歴史を持ちます。
    では国の象徴ともいえる国歌、「君が代」とは
    どういう意味のある歌なのでしょうか・・・

    しばやんさん始めまして。
    突然のコメント失礼します。
    「国歌からみえる本当の日本」~日本の歴史から学ぶ豊かさ~
    という動画を推進しております、
    マジカルアイと申します。
    歴史を愛するしばやんさんならこの動画のすばらしさを
    共感して頂けるのではないかと思いまして、紹介させて頂きます。
    是非一度ご覧下さい。
    https://tasuke-i.jp/

    • しばやん より:

      マジカルアイさん。素敵な動画ですね。
      画像も文章も良く出来ていますし、アナウンスも聞き取りやすくわかりやすいです。
      最後のベンゲル監督の言葉は初めて知りました。こんな素晴らしい発言をしておられたのですね。感動しました。全般的には良く出来ていて共感するところも少なからずあります。
      まだすべてを視聴したわけではないですが、大航海時代についてはローマ教皇の果たした役割りが重要です。人種中心で論じることにはあまり説得力を感じません。私の旧ブログや著書を読んでいただくとありがたいです。
      近現代については、最近はソ連の暗号文書が解明されてきて歴史叙述が大幅に書き換えられる可能性があります。江崎道朗氏らの最近の著作をぜひ紐解いてみてください。

  2. 勉強しました!

    • しばやん より:

      ガラステーブルさん、読んで頂きありがとうございます。とても励みになります。
      GHQによってどのような真実が日本人に封印されたを知ることがこれからますます重要になると考えています。
      時々覗いていただくと嬉しいです。

  3. ところてん より:

    どのエントリーも素晴らしく情報満載で少しづつ拝見しております。
    西尾幹二先生のGHQ焚書に関する動画がニコニコ動画にありますので並行して
    拝聴しつつ、こちらでご紹介の江藤淳先生の閉ざされた言語空間を読みながらと
    だいぶんくたびれてきた脳に叱咤激励の毎日です。

    あばかれの世では、コロナやその注射の闇についても日々語られ拡散してしていますが、知る人または知ろうとしている人と知らない人の間の溝が深く広くなっているように感じます。

    ご著書があるとのことで、一段落したら、拝読いたします
    今後ともよろしくお願いいたします

    • しばやん より:

      ところてんさん、コメントありがとうございます。いろんな方に読んで頂いていることがとても嬉しく、励みになります。
      12年ほど前にブログを書き始めて歴史に目覚め、2年前に定年退職後は古書を読んだりブログ活動とテニス中心の日々を過ごしています。
      新型コロナワクチンの危険性はテレビでは報じていませんが、ワクチン接種で重症者や死亡例が多数出ていますね。私も家内と共に接種を見合わせることにしています。
      私の著書は最近読んだ方が、ブログに感想を書かれています。よかったら参考にしてください。
      https://dreamshopes3150.blog.fc2.com/blog-entry-1030.html
      こちらこそ、宜しくお願いします。これからもブログ活動を続けますので、時々覗いてみてください。

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