GHQに焚書処分された西洋・欧米に関する書籍~~福沢桃介 『西洋文明の没落 : 東洋文明の勃興』

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 戦後になってわが国に関する史実の多くが封印されたことは何度も書いてきたが、わが国とは無関係な史実についても多くが封印されている。たとえば「奴隷制」に関する問題がそうだが、戦前・戦中にはこの問題は普通に論じられていた。

福沢桃介(45歳の頃)Wikipediaより

 福沢諭吉の婿養子で「電力王」の異名をとった福沢桃介が、実業界を引退したのちの昭和七年に『西洋文明の没落 : 東洋文明の勃興』を著し、「奴隷制」について次のように解説している。戦後の書物でこの制度について詳しく論じられることは少ないと思う。

 奴隷は西洋の古代において、バビロニア、アッシリア、エジプト、ギリシャ、また降ってはローマ時代にも、言語のうえではすでに存在していたのであるが、中世に至るに及んで、宗教上の原因が主となり、これへ経済上の原因も加わって、この奴隷制度は中絶してしまった。しかも近代に至り、不思議にも再び復活するに至ったのは、前に述べた如く、海外に進出していた貿易業者の必要から生まれたものである、と観なければならぬ。これが即ち、いわゆる『近代奴隷(モダン・スレーブリー)』で、15世紀の中葉にその濫觴をおくのである。

 1442年、ヘンリー親王が、アフリカの西北岸を探検しての帰りに連れてきたのが、ヨーロッパにおける奴隷再現の最初のものであるが、その当時は、単に好奇心を満足せしむるために、奴隷は蓄えられたというにすぎなかったのであるが、それがいよいよ大規模に取り扱われるようになり出したのは16世紀の末葉頃からである。

 爾来17世紀、18、19世紀を通じてこの奴隷は、ヨーロッパ人により売買されていたのである。

 奴隷売買は、なぜ非常に儲かったかと言えば、いわゆる近代奴隷は、古代における奴隷とは全く違っていて、全然その人格を認めず、人間を牛馬視するものであったからで、古代の奴隷は同じく『奴隷』と称せられても、その人格を認められ、なかんづくギリシャ時代は、王室の家庭教師なんかにさえ奴隷がいたのである。また、ユダヤの明君アブラハムの妃になった夫人も奴隷で、その間にできた子供が、王位についたということも歴史にある。さらに、エジプトの女王クレオパトラの侍婢達にも、奴隷は沢山にいたのである。…中略…

 奴隷はよく言語を理解し、巧みに事を弁別して、大いに経済的価値を発揮するから、馬や牛に較べて、数倍の市価を生ずるに至るのは理の当然で、為に奴隷は非常に高い値段で売買されたのである。そこで、歴史的に『あの時代には奴隷はいくらした。この時代にはいくらであった』ということを記述してみたいのであるが、それには材料が乏しくて困る。蓋しヨーロッパの学者達は奴隷については書くことを嫌い、これを抹殺したがっているからで、ために奴隷に関する記録は、文献の上にほとんど残っておらず、これを探すにも、これを立証するにも困るほどである

福沢桃介 著『西洋文明の没落 : 東洋文明の勃興』ダイヤモンド社出版部 昭和7年刊 p.36~39
西洋文明の没落 : 東洋文明の勃興 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 わが国にキリスト教が伝来して以降ポルトガルとの貿易が開始されようになると、多くの日本人が奴隷として売られていったことは、ルイス・フロイスの記録をはじめ国内外で記録が残されている。そのことを理解した上で、当時のイエズス会の世界戦略を知らないと、なぜ秀吉が伴天連追放令を出し、徳川家康、秀忠、家光の時代にキリスト教を厳しく禁じたかを正しく理解することができないと思うのだが、戦後の教科書や日本史の通史にはこのようなことは書かれていない。

 このテーマについては拙著『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』に出典を示して詳しく書いたので、興味のある方は覗いて頂きたい。戦前戦中においてはこのような史実を書いている本は少なからず存在したのだが、戦後になってからは長きにわたり、欧米にとって都合の悪い歴史はほとんど封印されたままの状態にあったと言ってよい。

 福沢は、この本で当時奴隷がいくらぐらいで取引されているかについて述べたあと、どの程度の人数が取引されたかについてこう書いている。

 アフリカ大陸において捕獲された奴隷の延べ人員は果たしていくらであったであろうか。イギリスやアメリカの学者たちは、流石に遠慮してこれを書いておらぬが、ドイツの学者たちは、ある程度の数字を発表している。同国で有名な植民学者チンマーマンの『植民史』、ゾンバルトの『近代資本主義』および『奢侈と資本主義』の両著中には、所々にその数字が載っている。

 これらによると、18世紀の末頃アフリカにおいて、一年間約五十万人の奴隷が捕獲されたとのことである。もちろんその時分は奴隷捕獲の非常に盛んな頃であったから、これを標準として平均することはできないが、チンマーマンの数字とゾンバルトの数字を合わせて概略計算すると、アフリカ大陸において総計一億五千万人の奴隷が捕獲されたように思われる

 奴隷にされたのはアフリカ大陸の黒人ばかりではない。アメリカ大陸のアメリカインディアンも奴隷になったのである。初めコロンブスがアメリカインディアンを発見した時には、これを赤人または銅色人種と名付けた。これはコロンブスが発見した西インド諸島は、銅色の染料を産する土地で、しかも非常に暑い所であるから、土人はすべて裸身で生活し、その銅色占領を皮膚に塗りつけて、赤色にしていたのを、コロンブスの一行は、土人の皮膚の色が元来から赤いものであると思い違え「赤色人種」と名付けるに至ったのであるが、その実は赤くもなんともなく、なおかつ黄色人種である、ということが後年に至って判明したのである。

 アメリカインディアンが、かく奴隷にせられた結果、その数は大いに減ることになった。元来アメリカインディアンは病原菌を持つことの非常に少ない民族であったに藩士、世界中で最も多くの病原菌を持っているのはヨーロッパ人で、病原菌の巣窟であるといわれているほどであるから、そのヨーロッパ人によって植え付けられた病原菌は、非常なる勢いでアメリカインディアンに伝染し、…かなりの数が、この病原菌に犯されて病毒のために倒れ、従って奴隷として残った者は少ないのである。

 また南洋諸島の褐色人種、すなわち普通一般に馬来(マレー)人と称せられている民族も、奴隷にされた。そのことはマルクスの『資本論』中の『近世植民地説』という編に出ている。それにはセレベス、ボルネオ、ジャバ等でのありさまが書いてあるが、かなり沢山の奴隷が捕獲されている。即ちアフリカの黒人ばかりでなく、東洋人たる南洋諸島の褐色人も…インドの海岸あるいはインドシナ半島、シナ海岸などで莫大なる数が奴隷にされている。

 こうして全世界において概算三億以上の者が――すなわちアフリカの黒奴だけで一億五千万、それから来馬人其の他を合算して三億以上の者が、ヨーロッパ人のために奴隷にされ、ヨーロッパ人に莫大なる金もうけをさせてやったということになる

(同上書 p.42~44)
西洋文明の没落 : 東洋文明の勃興 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 それから福沢は、ヨーロッパの近代文明は奴隷制度のたまものであると書いたのち、産業革命後には奴隷制度が衰退し、代わって近代的工業組織が勃興して、諸原料や食糧の確保、販路拡大のためヨーロッパは勢力範囲の拡張を図り、十九世紀には世界大陸の九分の八がヨーロッパ人が支配することとなり、二十世紀の初頭にはさらに極東の分割問題まで進んでわが国も分割される可能性があったことに触れている。戦後はこのような観点から書かれた歴史書は皆無と言ってよく、ページ数が92とそれほど長くないので、興味のある方は一読を勧めたい。

 GHQに焚書処分された書籍の中から、タイトルに「西洋」「欧州(洲)」「欧米」を含む64冊をリスト化した。内容については戦前・戦中の日本人が欧州・欧米の情勢や歴史を解説した本が大半だが、日本の歴史とは関係が薄いはずの西洋の歴史について、なぜ戦勝国は戦後の日本人に読ませないようにしたのか、どのような史実を彼らが隠そうとしたのかを知るきっかけとなれば幸いである。

 「国立国会図書館デジタルコレクション」で19冊がネットで公開されている。

タイトル著者・編者出版社国立国会図書館デジタルコレクションURL出版年
裏から見た欧州の外交戦長谷川了今日の問題社
欧洲広域国際法の
基礎理念
安井郁 有斐閣https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1269826昭和17
欧洲広域圏の建設東京かぶと新聞社編東京かぶと新聞社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1439279昭和17
欧洲情勢と支那事変本多熊太郎 千倉書房https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1261509昭和14
欧州戦局の推移欧亜通信社 編欧亜通信社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438859
欧州戦争をどうする石丸藤太 国民新聞社
欧州戦争を繞りて
列国の態度並軍備比較
小山与四郎編海軍有終会
欧州戦と青年浜田常二良潮文閣
欧州戦乱の真相原田瓊生原田瓊生
欧州大戦 上仲小路彰世界創造社
欧州大戦史の研究 
第一巻
石田保政 述陸軍大学校
欧州大戦における
仏軍自動車の作戦輸送
大谷清磨菊池屋書店
欧州大戦に於ける
独逸空軍の活躍
陸軍航空本部軍事界社
欧洲大戦の見透し渡辺翁記念
文化協会
渡辺翁記念
文化協会
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1036265昭和14
欧州大戦をめぐる
列強戦備の全貌
篠原武英人文閣
欧州大動乱と東亜連盟田中直吉 立命館出版部
欧州動乱読本太平洋協会編豊文書院
欧州動乱と貿易対策大阪市産業部
貿易課
大阪市産業部
貿易課
欧州動乱と次にくるもの三島康夫今日の問題社
欧州に戦雲漲る松下芳男小冊子書林
欧州の運命重徳泗水、
丸山政男
高山書院
欧州の危機アンドレ・ジーグフリード香川書店
欧州の現勢
戦局の展望と地政学 上
金生喜造古今書院
欧州の現勢と独英の将来山本實彦改造社
欧洲の現勢と準戦時経済武藤孝太郎 武藤孝太郎 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1440427昭和12
欧州の宣伝戦とは 
戦争は戦争でない
山口勝治 編厚生書院事業部
欧洲はどう動く朝日新聞社 編朝日新聞社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1100322昭和10
欧洲を繞る世界情勢白鳥敏夫 ヨーロッパ問題研究所https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462801昭和15
欧米一見随感古井喜実良書普及会
欧米外交秘史榎本秋村 日本書院出版部https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268550昭和4
欧米勢力の東洋進出太平洋問題調査部日本国際協会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1280854昭和14
欧州大戦史の研究 
第二巻
石田保政 述陸軍大学校
欧州大戦と
日本産業の将来
小島精一千倉書房
欧米の動きと支那事変鶴見三三岡倉書房
欧米より祖国へ三富秀夫鉄道時報局
危機に立つ欧州星野辰男 編朝日新聞社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1261454昭和12
危機の欧洲河相達夫 述日本青年外交協会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1100094昭和14
決戦迫る欧州戦局甲斐静馬甲斐静馬
国民主義と欧米の動き蜷川新 日本書院出版部https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1172063昭和6
今日の欧州加瀬俊一東京日日新聞社
最近の欧米教育星野華水 数学研究社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1075972昭和8
新欧羅巴の誕生山本實彦改造社
西洋戦史 欧州大戦 
下ノ1
仲小路彰戦争文化研究所
西洋戦史 欧州大戦 
下ノ2
仲小路彰 戦争文化研究所
西洋文明の没落 :
東洋文明の勃興
福沢桃介 ダイヤモンド社出版部https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1130737昭和7
戦時欧州飛脚記斎藤祐蔵清水書房
戦争史. 西洋古代篇伊藤政之助 戦争史刊行会
戦争史. 西洋中世篇伊藤政之助 戦争史刊行会
戦争史. 西洋近古篇伊藤政之助 戦争史刊行会
戦争史. 西洋近世篇伊藤政之助 戦争史刊行会
戦争史. 西洋最近篇伊藤政之助 戦争史刊行会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1221129昭和15
旋風裡の欧米岡田忠彦 述中央朝鮮協会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1099529昭和11
大東亜経済と欧州新経済桑原晋 ダイヤモンド社
第二次欧州戦は
何れが勝つか
関根郡平 健文社
第二次欧州大戦の
経済的影響
勝田貞次景気研究所
第二次欧州大戦の研究清沢 冽東洋経済出版部
第二次欧州大戦史略原田瓊生明治書房
第二次欧州大戦と
ドイツの経済力
南満州鉄道調査部編博文館
第二次欧州大戦と
ヒットラー総統
松山悦三不明
第二次世界大戦の勝敗 
第一部欧州大戦の巻
石丸藤太刀江書店
独逸の戦争目的 :
欧州新秩序の輪郭
景山哲夫 大同印書館https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1459237昭和16
動乱欧州を衝く
 独乙の欧洲新秩序建設
長谷部照俉 誠文堂新光社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1044294昭和16
ナチス経済と
欧州の新秩序
小穴 毅朝日新聞社
訪欧所感第一次加藤完治地人書館

 


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 ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、昨年(2019年)の4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
 通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
 読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。

無名の著者ゆえ一般の書店で店頭にはあまり置かれていませんが、紀伊国屋書店の下記10店舗に令和3年の2月末まで、各1冊だけではありますが常備陳列されることになっています。
川越店、流山おおたかの森店、梅田本店、グランフロント大阪店、川西店、クレド岡山店、広島店、久留米店、熊本光の森店、アミュプラザおおいた店
お取り寄せは上記店舗だけでなく、全国どこの書店でも可能です。もちろんネットでも購入ができます。
内容の詳細や書評などは次の記事をご参照ください。

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