GHQが焚書処分した田中喜四郎の政治詩集を読む~~その2 『戦争の神々』

GHQ焚書

 前回は田中喜四郎の政治詩集『戦争と戦争』に収録された作品を紹介させていただいたが、今回は『戦争の神々』の作品をいくつか紹介させていただく。

支那の軍律

最初に紹介するのは「支那の軍律」という作品である。

これが惨虐非道な
支那の真実の姿だ
支那の軍隊の手帳に在る
鉄の軍律とは何であるか
兵を縦(ほしいまま)にし
民を殃ずる(おうずる:傷つける)ものは
死刑に処すと
書いてあるではないか
支那人はかかる行為を
日日実行して居るではないか
婦女に暴行するものは
死刑に処すと
書いてあるではないか
支那人はかかる行為を
日日実行して居るではないか
民間の財物を
盗取するものは
死刑に処すと
書いてあるではないか
支那人はかかる正直な行為を
日日実行しつつあるではないか
阿片(アヘン)を吸引するものは
死刑に処すと
書いてあるではないか
支那人はかかる行為を
日日実行して居るではないか
公金を横領せるものは
死刑に処すと
書いてあるではないか
支那人はかかる立派な行為を
日日実行しつつあるではないか
かかる支那軍隊の
鉄の軍律こそ
上は軍閥政治家より
下は農民苦力(クーリー:下層労働者)に到るまで
公明正大に
支那の民衆の間に
支那の国民の間に
常に絶えず
支那人の正義の名に於いて
支那人の人道の名に於いて
日日実行されつつあるではないか
これが惨虐非道な
支那の真実の姿だ

田中喜四郎著『戦争の神々』日本社 昭和十三年刊 p.~135

「支那の軍律」についてはWikipediaに「重慶政府の中華民国戦時軍律」が掲載されており、田中喜四郎の書いている同様のことは阿片の件以外は確認できる。また支那兵がいかに軍律を守らなかったかは、日清戦争支那事変に出兵した兵士たちの記録を読めばおおよそ見当がつく。

利権大安売

次は「利権大安売」という作品を紹介しよう。

『支那利権大安売!』
支那利権いらぬか
大変安い!
大安売!
大支那大利権いることないか
南京政府の蔵相孔祥熙が
一生懸命哀れ深い表情で
支那乞食のように
欧米の国々を
憐れみを乞いながら
悲しい声で歩いているではないか
自国の民衆を
如何に悲境に沈まそうと
自国の領土を
切売りに捨値で売ろうと
彼らにとって
それが何であろう
英国の袖にすがり
米国をくどき
フランスの袂をつかみ
ロシアに泣きを入れ
何という立派な
紳士的態度であろうか
かかる蒋介石政府の態度こそ
支那全土を挙げて
白色人種の好餌にかかり
白色人種の為には
支那領土を全部でも提供するが
同色の日本人の為には
吠えつくではないか
噛みつくではないか
喰いつくではないか
何という結構な
憐れな態度であろうか
この支那犬の主人こそ
主人である英国こそ
まこと東洋人種の為には
そしてまた世界人類の為には
憎みてもあまりある
敵ではないか

同上書 p.227~230

この作品は昭和十二年九月二十八日とあり、盧溝橋事件から二か月と三週間後に記されたものである。

神戸大学新聞記事文庫 中外商業新報 昭和12年10月14日付

 神戸大学新聞記事文庫で検索して昭和十二年十月十四日の中外商業新報の記事を読むと、八月に支那の最大の貿易港であった上海に支那事変が拡大(第二次上海事件)したために、支那の対外貿易額は半減してしまった。継戦のためには軍需物資の入手が不可欠であったのだがその資金は乏しく、孔祥熙が英米に向かって借款交渉に向かったが、関税収入が激減していた支那は厳しい交渉を余儀なくされたことは当然であろう。

著者のあとがき

 あとがきで著者は、当時の日本で左傾化しつつあった政財界及び言論界を糾弾しているのたが、現在のわが国の政財界やマスコミの状況と少し似ているような気がするのだ。戦前にはソ連にシンパシーを持つ持つものが少なからずいたのだが、今は政財界やマスコミに親中派が跋扈している。文中の「ソヴィエト・ロシア」を「中国」と置き換えれば多くの日本人が納得できる文章になる。

…特に日本の知識階級の中の一部の人々の言論や言説は何たる日本人としての醜態であろう。かかる人々は真実の日本人であろうか。あれでも日本人としての睾丸を持って居るのであろうかと疑いたくなってくる。行為の裏打ちさえ出来ぬ屁理屈の理論をぐだぐだ並べて、青臭い小児病的なことを言いながら、何を為しつつあるのであろう。
何を為さんとするのであろうか。

赤化思想に対して日本精神が、日本的なものが、日本人の伝統的なものが、日本の国粋的なものが、何故反動と呼ばれなければならないのであろうか
左翼思想が何故進歩的な、何故正当なる思想と呼ばれるのであるか
かかる赤化思想こそ、最も古くして最も新しき日本精神に対して、反動の思想と呼ばれるべきではないか。日本の財界階級のある者は、日本の政治階級のある者は、日本の言論階級のある者は、日本の知識階級のある者は、このたびの日支事変*勃発前に於いて支那蒋介石の放送に耳を傾けはしなかったか。日本国内の相剋対立を助長さす為の、激成さす為の蒋介石の策謀に操られてはいなかったか。日本国内に於ける日支事変前の相剋対立こそ、蒋介石をして日支事変を勃発せしめた最大の原因であることは周知の現実ではないか。
*日支事変:勃発当初は、日華事変、日支事変などとも呼ばれていたが、昭和十二年九月に正式呼称を支那事変とした。

日本は如何に生くべきか。
日本は支那に対していかなる行為を為すべきか。
支那の排日教科書には失地回復の条項に如何に書かれて居るか。
失地回復として朝鮮を、台湾を、琉球を、満州国を叫んで居るではないか。
満州国を除き、かかる日本の厳然たる領土を支那へ返却して日本民族は狭隘なる日本領土の中で、餓死すればいいのであろうか。
それとも日本を挙げて、ソヴィエト・ロシアの植民地になって、日本が滅亡すればいいのであろうか。
そろそろ日本の知識階級の中のある部分はソヴィエト・ロシアの現実の真実の姿に目覚めてはどうだ。ソヴィエト・ロシアの現実の真実の姿はわれらに何を物語り、何を指示するか。いつまでソヴィエト・ロシアの現実を善意に誇大に理解し続けようとするのであろうか。いい加減に目を醒ましてはどうか

支那の現実に対して、英国の現実に対して、米国の現実に対して逡巡遅疑、分裂、相剋、対立することなく、思想の、観念の遊戯を絶滅して、日本は支那を、北支を、内蒙古を、満州国をいかにすべきか。
日本の頭脳は一致協力して、真実の日本人であることを、祖国日本を愛し、防衛し、守ることを、真に認識し、思考し、計画し、実行すべきではないか。 

同上書 あとがき p.5~8

 当時の支那の排日教科書にどんな噓が書かれていたかは、GHQ焚書の後藤蒼洋著『戦慄すべき排日教科書の内容』(昭和11年)を読めば確認ができるが、今の中国においても同様な反日教育が行われていることは多くの識者が指摘しておられる。また中国には「国防動員法」及び「国家情報法」が制定されており、わが国に居住している者だけでなく留学生や旅行者も、有事となればわが国に敵対することや、情報工作活動を行うことを国から命じられる可能性があるのだが、今のわが国の内閣に、その対策がどこまでなされているのだろうか。

国立国会図書館にある田中喜四郎の著書

 田中喜四郎の作品は、国立国会図書館に17点の単行本が存在する。

タイトル 著者 出版社 分類 URL 出版年 備考
戦争と戦争 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1036840 昭和12 GHQ焚書
青蛙 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1223619 昭和12  
戦争の神々 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1256048 昭和13 GHQ焚書
田中喜四郎著作集第1編 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1106432 昭和13  
夕時雨 田中喜四郎 百姓社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1056585 昭和15 百姓新書1
日本茶道論 田中喜四郎 十字屋書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1263639 昭和15  
常会の妙味 随筆集 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1683169 昭和16 百姓新書2
隣組と常会の理想 随筆集 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1123495 昭和16 百姓新書3
常会と五人組 随筆集 正 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1123497 昭和16 百姓新書4
常会と五人組 随筆集 続 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1123498 昭和16 百姓新書5
紅葉鍋 随筆集 田中喜四郎 百姓社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1130518 昭和17 百姓新書6
ここは寂しき処 田中喜四郎 思潮社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1361260 昭和36  
苦悶の花 田中喜四郎 国文社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1360489 昭和37  
悪魔の神話 田中喜四郎 思潮社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1360924 昭和38  
新シキ戦慄 田中喜四郎 国文社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1361390 昭和39  
わが心いたく憂いて 田中喜四郎 思潮社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1362740 昭和42  
夕ありき朝ありき 田中喜四郎 思潮社 × 国立国会図書館限定公開 昭和44  

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