GHQに焚書処分された台湾高砂族の子供たちの日本語文集

GHQ焚書

 GHQ焚書のリストの中に『拓け行く皇民 高砂族児童綴方選集』という本がある。今回はこの本を紹介することと致したい。

 「高砂(たかさご)族」というのは広義には台湾原住民のことをいうが、多くの種族に分かれていて、いずれもマライ・ポリネシア系のインドネシア語派に近い言語を話していたが、お互いに言語が通じなかったためにそれぞれの種族が独立して生活していて、種族同士が相戦うこともあったようだ。
 十七世紀に鄭成功が、植民地を作っていたオランダを追放して東寧王国を設立し、その後清国が同王国を破り台湾島を併合して以降、多くの漢人が移住して台湾島の人口は漢人が多数を占めることとなるのだが、一部の原住民は漢化したものの多くの原住民は漢化しなかったという。当時清国は、漢化した原住民を「熟番(蕃)」、そうでないものを「生番(蕃)」と呼び、後者の多くは山地に居住し、近代文明に浴さずに伝統的な生活を営んでいたようだ。
 日清戦争のあとの下関条約で台湾島は日本に割譲され、台湾総督がおかれて日本領台湾となった。日本統治時代に「高砂族」と呼ぶのは「生番(蕃)」即ち、漢化していない台湾原住民のことを指していたそうだが、誰一人日本語を理解しない人々に対して、日本語を教えたり統治に携わったわが先人たちの苦労は想像に難くない。しかしながら先人たちの努力が実を結んで「高砂族」は日本に親近感を持つようになり、のちに義勇隊を組織して大東亜戦のバターン半島陥落戦、ニューギニア戦線などで前人未踏のジャングルでの軍用道路の開設や食糧調達に大活躍したばかりではなく、日本軍とともに勇敢に戦ったことを忘れてはならないと思う。

プュマ族の写真 『台湾生蕃種族写真帖 』成田写真製版所 大正元年刊 

 子供たちの文章をいくつか紹介するが、父も母も日本語を知らないなかで、子供たちが学校で一生懸命勉強して、日本語で意味の通じるように努力していることが伝わる文章ばかりである。もちろん、日本人教師に気に入られるようにと、本心とは異なることを書いていることもあるだろうから少々割り引いて読む必要があるのだが、漢人の統治に従わなかった人々が日本の統治や教育をどのように捉えていたかについて参考になると思うので、ぜひ読んでいただければと思う。
 文章を書いた子供たちの名前は、日本名にしたり原住民の名前のままであったり様々である。またカタカナ交じり文で書かれた文章は、読みやすいようにひらがな交じりで書き換えておいた。

おとうさんのはなし

 最初に紹介するのは、当時十一歳のバザソロン弥次郎君の文章である。

台湾蕃族分布図(南部) 『台湾生蕃種族写真帖 』成田写真製版所 大正元年11月1日刊

 昔、私共のそせんは大変悪い人が多かったということであります。自分達が働きながら、同じ所のパイワン(台湾南部にいた種族)とも戦って居たそうです。戦って負ける人はくびをとられて、そうしてとったくびは自分の家の前で持って帰って、又自分が負けないようにお祭りをしたそうです。そのとったくびをまたそうしきをやって酒をのんだりぶたをころしたりして、おいわいをしたりしたのです。又自分の部落(ヤマ)の人達が畠に行ったり、水をくんだりする時には、一人ずつけいびをして居ったそうです。今私共学校に入学した人はそれを思い出して考えてみると、本当に悪いことをしたものだと思っております。今の年よりは昔のこと今の事を考えて、昔は本当に悪かった。教育所に入学して、国語も語ることが出来るようになると良い日本人になりますから、ありがたく感じて居ますと昔の年よりが言います。

 昔の年よりは本当に悪かった。
 なんにもない、つまらないことばかりをしていました。私共年よりも今は一日もこの国家の者とわかって忠義をしなければならない心があります。

『拓け行く皇民 : 高砂族児童綴方選集』南方圏社 昭和19年刊 p.57~59

 「日本大百科全書」によると高砂族には九種族あり、それぞれが固有の宗教を信仰し、ヤミ族を除いては首狩りの風習が行われていたそうだ。国立国会図書館のデジタルコレクションで『台湾生蕃種族写真帖』がネット公開されていて、パイワン族で首狩りが行われていた名残である髑髏が積まれた写真を確認することが出来る。もっとも首狩りの風習は、日本統治時代に強制的に廃止されている。

高雄旅行

 次は十二歳のカザギラントシオ君の文章である。

 学校が終わって家に帰るとき、先生が、明日高雄(たかお)につれて行ってやるとおっしゃったので飛びあがる程嬉しかった。私は今まで姉さんや兄さんから高雄の町の賑やかなことを聞いて、いちどいきたいと思って居ました。其の高雄に明日行く事が出来ると思うと、嬉しくて走って家に帰りました。お父さんは豚をころし母さんは粟(あわ)をついて御べんとうを作るじゃんびをして下さいました。制服やシャツは駐在所の奥様にお願いしてアイロンをかけて、立派にしていただきました。其の夜は色々のことを考えて良く寝ることが出来ませんでした。
 とりの鳴く時に起き準備をして駐在所に行きました。先生も起きて居られて今朝は早いねと笑って居られました。皆元気良く朝のあいさつをしました。お日さまがまだ出ない内に村を出発し、たいまつをつけて平地へ下りました。屏東(へいとう)へ二時頃つきました。屏東から生まれて初めて汽車に乗って高雄に行きました。人も畑も山も川もどんどん後にとんで行きますので面白うございました。夕方、何処の店にも灯のついた頃高尾に着きました。高雄は本当ににぎやかで、州庁を初め、立派な役所、銀行、会社がたちならんで、町には人がたくさん通って居て、私たちのほしいと思うものはなんでも売って居ました。私は生まれて初めて軍艦や汽船や港や海を見ました。此の海の向こうが支那だと先生がいわれました。私は支那で戦争をして居られる兵隊さんの事を思いました。

同上書 p.74~76

 駐在所の奥さんが生徒のアイロンがけまでした話には驚いたが、日本名安田妙子さんの文章を読むと、「私共が長い間お世話になった横山先生は、今度警察をやめられて内地へおかえりになりました。私共が二年生の時にお出でになって四年刊私たちを教えて下さいました。(「別れた先生」同上書p.136)」と書いているので、高砂族の子供たちに教育を施したのは文部省から派遣された教員ではなく警察官が行っていた地域が存在したと考えるしかない。日本が台湾の統治を開始した頃には、部外者の侵入を許さず武力で抵抗する種族が奥地などに存在したので、多くの警察官が内地から送り込まれその中から児童教育担当者を選抜して種族を懐柔していったものと思われる。

『台湾生蕃種族写真帖 : 附・理蕃実況』より

部落(やま)の今と昔

 わが国が台湾を統治するようになって、高砂族の人々の生活はどのように変わったのだろうか。次に紹介する文章はハヨン・マライさんの文章である。マライさんは、部落がここまで良くなったのは、日本人の警察官の方々の努力が大きいことを率直に書いている。

 世の中は、今日の様に、見るもの聞くもの皆びっくりするほどにひらけて来ました。陸には汽車や自動車が走るようになりました。海には軍艦や汽船が走ることが出来、空には飛行機が勇ましく飛びまわるようになりました。電話や電信ラジオ等が出来てどんな遠い所からでも話が聞こえると言うように、どんなに世の中のためになっているか分かりません。これは皆人のおかげです。

 なんでも考えてやれば出来ないことはありません。三十年前の高砂族と今とをくらべてみますと、それは大へんなちがいがあるのだそうです。昔の人は色々な悪い習慣や迷信を信じ、また部落(やま)の中には悪い者が居て一日も安心して暮らすことが出来なかったのだそうです。農業でもだれ一人としてまじめに働く者が居らず、部落の若い者は犬をつれて、あちらこちらと山をかけまわり、その日その日を狩りですごすと謂うな、つまらない暮らし方をしていたのだそうです。ところが今はどうでしょう。お役所からの御親切な御世話により、どんな山奥の部落でも安心して暮らして行くことが出来るようになりました。また悪い習慣や迷信も大分あらためられました。または水田の中で水牛の後については、その日その日を農業で愉快に暮らすようになりました。そして今まで少しも国語を知らなかった年よりたちも、今では国語で話すようになり、日本国民としてはずかしくないほどにひらけて来ました。ほんとにありがたいことです。これも立派な日本の国に生まれたおかげです。

 私どもの部落がこのようにあかるく立派になったのはけっして自分たちの力ではなく、朝晩私どもの手をとり足をとりして親切にお世話して下さっておられる警察官方々のおかげであることをわすれることは出来ません。もっともっと勉強して、一日でも早くよい日本人とならなければならないと思います。

同上書 p.195~197

 台湾は大航海時代にスペインやオランダが植民地化に乗り出したが失敗に終わり、英仏も島の中には足を踏み入れなかったと言われている。清国も台湾の統治に見るべき実績を挙げることが出来ず「化外(けがい)の地」と見下していたのだが、日本の統治となって以降、短期間で劇的な変化を遂げたことはもっと注目されてもよいと思う。

 以下は、GHQ焚書リストの中から、本のタイトルから判断して台湾について書かれたものをピックアップしたものである。いずれの本もネットで読むには「個人向けデジタル化資料送信サービス」の手続きが必要となる。

タイトル 著者・編者 出版社 分類 国立国会図書館デジタルコレクションURL 出版年
台湾教育の進展 佐藤源治 台湾出版文化 https://dl.ndl.go.jp/pid/1281125 昭和18
南方の将来性 台湾と蘭印を語る 大阪毎日新聞社 編 大阪毎日新聞社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1222230 昭和15
拓け行く皇民 : 高砂族児童綴方選集 長谷川祐寛 編 南方圏社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1142664 昭和19
満洲・台湾・海南島 石山賢吉  ダイヤモンド社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1043883 昭和17

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。よろしければ、この応援ボタンをクリックしていただくと、ランキングに反映されて大変励みになります。お手数をかけて申し訳ありません。
   ↓ ↓

にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ

【ブログ内検索】
大手の検索サイトでは、このブログの記事の多くは検索順位が上がらないようにされているようです。過去記事を探す場合は、この検索ボックスにキーワードを入れて検索ください。

 前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年の4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しました。長い間在庫を切らして皆様にご迷惑をおかけしましたが、このたび増刷が完了しました。

全国どこの書店でもお取り寄せが可能ですし、ネットでも購入ができます(\1,650)。
電子書籍はKindle、楽天Koboより購入が可能です(\1,155)。
またKindle Unlimited会員の方は、読み放題(無料)で読むことができます。

内容の詳細や書評などは次の記事をご参照ください。

コメント

タグ

GHQ検閲・GHQ焚書223 対外関係史81 中国・支那67 地方史62 ロシア・ソ連59 反日・排日51 アメリカ47 イギリス47 神戸大学 新聞記事文庫44 共産主義39 情報戦・宣伝戦38 ユダヤ人36 神社仏閣庭園旧跡巡り36 日露戦争33 軍事31 欧米の植民地統治31 著者別31 神仏分離31 京都府30 外交30 政治史29 コミンテルン・第三インターナショナル27 廃仏毀釈27 朝鮮半島26 テロ・暗殺24 対外戦争22 キリスト教関係史21 支那事変20 西尾幹二動画20 菊池寛19 満州18 一揆・暴動・内乱17 豊臣秀吉17 ハリー・パークス16 大東亜戦争15 ドイツ14 紅葉13 海軍13 ナチス13 西郷隆盛12 東南アジア12 神仏習合12 陸軍11 ルイス・フロイス11 倭寇・八幡船11 アーネスト・サトウ11 情報収集11 満州事変10 人種問題10 スパイ・防諜10 分割統治・分断工作10 奴隷10 大阪府10 奈良県10 徳川慶喜10 不平士族10 インド10 フィリピン10 戦争文化叢書10 ペリー9 和歌山県9 イエズス会9 神社合祀9 国際連盟9 岩倉具視9 フランス9 寺社破壊9 伊藤痴遊9 欧米の侵略8 伊藤博文8 文化史8 A級戦犯8 関東大震災8 木戸孝允8 韓国併合8 兵庫県8 自然災害史8 ロシア革命8 オランダ8 小村寿太郎7 ジョン・ラッセル7 飢饉・食糧問題7 山中峯太郎7 修験7 大久保利通7 徳川斉昭7 ナチス叢書7 ジェイコブ・シフ6 中井権次一統6 兵庫開港6 奇兵隊6 永松浅造6 ロッシュ6 紀州攻め5 高須芳次郎5 児玉源太郎5 大隈重信5 滋賀県5 ウィッテ5 ジョン・ニール5 武藤貞一5 金子堅太郎5 長野朗5 日清戦争5 5 隠れキリシタン5 アヘン5 財政・経済5 山縣有朋5 東京奠都4 大火災4 日本人町4 津波4 福井県4 旧会津藩士4 関東軍4 東郷平八郎4 井上馨4 阿部正弘4 小西行長4 山県信教4 平田東助4 堀田正睦4 石川県4 第二次世界大戦4 南方熊楠4 高山右近4 乃木希典4 F.ルーズヴェルト4 4 三国干渉4 フランシスコ・ザビエル4 水戸藩4 日独伊三国同盟4 台湾4 孝明天皇4 スペイン4 井伊直弼4 西南戦争4 明石元二郎3 和宮降嫁3 火野葦平3 満洲3 桜井忠温3 張作霖3 プチャーチン3 生麦事件3 徳川家臣団3 藤木久志3 督戦隊3 竹崎季長3 川路聖謨3 鹿児島県3 士族の没落3 勝海舟3 3 ファシズム3 日米和親条約3 平田篤胤3 王直3 明治六年政変3 ガスパル・コエリョ3 薩英戦争3 福永恭助3 フビライ3 山田長政3 シュペーラー極小期3 前原一誠3 菅原道真3 安政五カ国条約3 朱印船貿易3 北海道開拓3 島津貴久3 下関戦争3 イザベラ・バード3 タウンゼント・ハリス3 高橋是清3 レーニン3 薩摩藩3 柴五郎3 静岡県3 プレス・コード3 伴天連追放令3 松岡洋右3 廃藩置県3 義和団の乱3 文禄・慶長の役3 織田信長3 ラス・ビハリ・ボース2 大政奉還2 野依秀市2 大村益次郎2 福沢諭吉2 ハリマン2 坂本龍馬2 伊勢神宮2 富山県2 徴兵制2 足利義満2 熊本県2 高知県2 王政復古の大号令2 三重県2 版籍奉還2 仲小路彰2 南朝2 尾崎秀實2 文明開化2 大江卓2 山本権兵衛2 沖縄2 南京大虐殺?2 文永の役2 神道2 淡路島2 北条時宗2 徳島県2 懐良親王2 地政学2 土一揆2 2 大東亜2 弘安の役2 吉田松陰2 オールコック2 領土問題2 豊臣秀次2 板垣退助2 島根県2 下剋上2 武田信玄2 丹波佐吉2 大川周明2 GHQ焚書テーマ別リスト2 島津久光2 日光東照宮2 鳥取県2 足利義政2 国際秘密力研究叢書2 大友宗麟2 安政の大獄2 応仁の乱2 徳富蘇峰2 水野正次2 オレンジ計画2 オルガンティノ2 安藤信正2 水戸学2 越前護法大一揆2 江藤新平2 便衣兵1 広島県1 足利義持1 シーボルト1 フェロノサ1 福岡県1 陸奥宗光1 穴太衆1 宮崎県1 重野安繹1 鎖国1 藤原鎌足1 加藤清正1 転向1 岐阜県1 宮武外骨1 科学・技術1 五箇条の御誓文1 愛知県1 トルーマン1 伊藤若冲1 ハワイ1 武藤山治1 上杉謙信1 一進会1 大倉喜八郎1 北条氏康1 尾崎行雄1 石油1 スターリン1 桜田門外の変1 徳川家光1 浜田弥兵衛1 徳川家康1 長崎県1 日野富子1 北条早雲1 蔣介石1 大村純忠1 徳川昭武1 今井信郎1 廣澤眞臣1 鉄砲伝来1 イタリア1 岩倉遣外使節団1 スポーツ1 山口県1 あじさい1 グラバー1 徳川光圀1 香川県1 佐賀県1 士族授産1 横井小楠1 後藤象二郎1 神奈川県1 東京1 大内義隆1 財政・経済史1