GHQが焚書処分した田中喜四郎の政治詩集を読む~~その1 『戦争と戦争』

GHQ焚書

 GHQが焚書処分した詩集や句集には戦意高揚させるような作品が多いのだが、世界情勢や国内の情勢について記された詩集も存在する。今回は田中喜四郎という人物が著した『戦争と戦争』の中から、いくつかの作品を紹介させていただくこととしたい。

 著者の田中喜四郎についてはネットで検索しても経歴など詳しいことはよくわからないのだが、戦前には多くの詩集や句集を出しており、戦後も『ここは寂しき処』『苦悶の花』などの詩集を出している。戦後の著書の奥付に簡単な略歴が書かれていて、彼は広島市天神町に生まれて、明大英法科、東洋大哲学科、早大英文科に学んだことと、いくつかの作品が列記されているのだが、その中にはGHQに焚書処分された二冊の詩集はなぜかカットされている。

英国の人道主義

 あまり長文の作品の紹介は難しいので、簡単に読める作品を案内させていただく。最初に紹介するのは「英国の人道主義」である。

英国の労働党よ
支那の敗戦に驚いて
対日ボイコットを
盛んに放送しているではないか
英国民よ
得手勝手主義的人道主義者よ!
英国よ
我利我利主義的博愛主義者よ!
シンガポールに
要塞を築くのが
おまえ達の平和政策の表現か
印度の民衆を
カルカッタの牢獄へ叩き込み
餓死さすことが
英国民よ
おまえ達の人道主義か
支那大陸を
植民地化せしめ
支那の排日抗日を
煽動するのが
おまえ達の平和主義か
支那やスペインへ
武器を売りつけて
世界各地の戦争を
指導し
奨励し
煽動するのが
英国民よ
おまえ達の人道主義か
世界中に植民地を持ち
耕す人間も居ないような
廣漠たる植民地を持ち
豊富な資源や原料を持ち
腹一杯満ち足りて居ながら
欧州だけでもまだ足らないで
東洋までやって来て
貧乏国日本を苦しめ
支那を煽動し
支那に食い付き
支那の血を啜り
印度を餓死せしめるのが
英国よ
おまえ達の博愛主義か
東洋の敵英国!

田中喜四郎『戦争と戦争』日本社 昭和12年刊 p.73~76

 この作品の日付は昭和十二年(1937年)十月一日となっており、支那事変の発端となった盧溝橋事件から三ヵ月も経っていない時期に書かれたものである。支那事変は戦後になってから「日華事変」と呼び方を変えられ、昭和五十年の教科書から「日中戦争」と記されて、日本が中国を侵略したというニュアンスで歴史がつづられるようになったのだが、戦前の新聞や書物を読めば、戦後のわが国に広められた歴史叙述は真実とは大きく異なることが容易に理解できる。英米人が中国人を反日に誘導し、英国は世界の植民地を搾取していて、インドでは多くの餓死者が出たことは明らかな事実であり、田中喜四郎の政治詩集には、当時の日本人の多くが共感していたのではないだろうか。

北京で排日運動が開始された背後に英米人の煽動があった
1919年のパリ講和会議でわが国が提案した人種差別撤廃案が否決された22日後に、北京で最初の排日運動(五四運動)が行われている。当時北京の民家に下宿していた長野朗が当時のことを記録しているが、支那の排日運動を煽動したのは英米人であった。彼らは黄色人種間の分断と、支那において日本が開拓した市場を狙っていた。

英米が排日運動を仕掛けたのは中国だけではなかった
中国の排日運動の始まりである1919年の「五四運動」に英米人が関与していたことは、当時のわが国の新聞にも多数報道されている。また、朝鮮半島で起きた三・一独立運動も米国宣教師が関与していたと報じられている。これらは、同年一月にわが国がパリ講和会議で人種差別撤廃案を提出したことと無関係だとは思えない。

当時のアメリカ人ジャーナリストが記した中国の排日・抗日運動
中国で排日運動を英米が仕掛けたことを、当時アメリカ人ジャーナリストであったフレデリック・ヴィンセント・ウィリアムズが、1938年11月に出版した”Behind the News in China”(邦訳『中国の戦争宣伝の内幕』)に記している。その後わが国はなぜ日中の戦争に巻き込まれたのか。

GHQが焚書処分したイギリスのインド統治に関する本には何が書かれていたのか
GHQが焚書処分にした、ラス・ビハリ・ボースの『インドの叫び』には、戦後の日本人に知らされなかった、イギリスのインド統治の実態が記されている。かっては読み書きできる国民が多かったが9割以上が文盲となり、重税が課されて毎年のように飢饉が起きた。1919年4月には無辜のインド人数百名が虐殺された。

侵略者

 次に紹介するのは、昭和十二年九月二十三日に書かれた「侵略者」という作品である。

イギリスは
アメリカは
フランスは
欧米の国々は
白色人種は
過ぎし二世紀の間
世界に何をしたか
世界の隅々まで隈なくさがし廻り
我者勝手に
土地を資源を
略奪してしまったではないか
世界の誰の許しも得ずに
白色人種は
自国の国旗を
打ち建てたではないか
そして涯しなく廣い自国の土地へ
豊富な資源を山と積みながら
自国の少数の人間が
まどらかな夢を見ながら
至極太平な睡眠を
つづけているではないか
白色人種は
かくて世界の隅々までを
侵略したではないか
それでいいのか
かかる不合理が
かかる悪徳が
全世界に許されていいのか

同上書 p.198~200

 戦後の歴史叙述ではわが国がすっかり「侵略国」にされてしまっているのだが、本当の侵略者は戦勝国の側であったというべきである。戦後になって戦勝国は、敗戦国であるわが国に「侵略国」の汚名を押し付けたのである。

手品師

 次は昭和十二年九月二十四日に書かれた「手品師」という作品を紹介しよう。

英国は軍備縮少を
盛んに口で喋(しゃべ)っているではないか
英国は巨大な手で
盛んに軍備拡張を
実行しているではないか
米国は軍備縮少を
盛んに口で
喋っているではないか
米国は巨大な手で
軍備拡張を
堂々と実行しているではないか
英国は人道を
英国は正義を
英国は博愛を
口を極めて叫んでいるではないか
英国は世界に
あまねく散在する植民地に対して
印度に対して
過去何を為し
現在如何なる行為を為しつつあるか
米国は人間の自由を
米国は人類の平和を
米国は民族の平等を
米国は世界の幸福を
米国は人間の博愛を
米国は動物の愛護を
身振りたっぷりと
まことに巧みに
世界へ放送しているではないか
米国はスペインその他の国に対して
黒色人種に対し
有色人種に対し
過ぎし年々
何を為し
現在如何なる行為を
為しつつあるか
イギリスは
アメリカは
白色人種は
まことに巧みに
口と手の使い分けを
心得ているではないか
白色文明こそ
白色人種こそ
まことに巧妙なる
悪虐なる罪深い手品師ではないか

同上書 p.201~205

 私の子供のころにテレビなどではイギリスのことを「ジェントルマンの国」などと呼んでいたことを記憶しているのだが、戦後七十八年たってもわが国のマスコミは戦勝国に忖度して、彼らにとって都合の悪い時代の歴史を解説してくれることは皆無といってよい。マスコミの解説を鵜呑みにしては、真実の歴史を知ることはほとんど不可能である。

GHQが焚書処分した詩集、歌集、句集

 本のタイトルで判断してGHQが焚書処分した詩集、歌集、句集の類は55点存在する。たまには、このような本を読んで、戦前の日本人が世界の動きや戦争に巻き込まれたわが国についてどのように捉えていたかを知ることも必要ではないだろうか。

タイトル 著者・編者 出版社 分類 国立国会図書館デジタルコレクションURL 出版年 備考
愛国詩歌 井上満寿蔵 文化研究社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1069661 昭和19  
愛国詩吟物語 鷲尾温軒 牧書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1036132 昭和17  
愛国詩謡集 大本営海軍報道部 興亜日報社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1128796 昭和18  
維新勤王志士国事詩歌集 丹 潔 雄生閣 https://dl.ndl.go.jp/pid/1028611 昭和15  
維新志士回天詩歌集 藤田徳太郎 金鈴社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1127380 昭和19  
維新志士勤王詩歌評釈 小泉苳三  立命館出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1265963 昭和13  
大君の詩 平田内蔵吉 山雅房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1684410 昭和14  
海軍軍歌集 海洋文化社 編 海洋文化社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1121094 昭和18  
歌集 一兵として 遠藤達一 芸林発行所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1127802 昭和17  
歌集新日本頌 佐々木信綱 八雲書林 https://dl.ndl.go.jp/pid/1127780 昭和17  
歌集青雲 谷 馨 八雲書林   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和20  
旗艦先頭 : 少年少女詩集 西村皎三 中央公論社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1869371 昭和17  
勤皇志士詩歌集 黒岩一郎 至文堂 https://dl.ndl.go.jp/pid/1718083 昭和18 青少年日本文学
弘道館記述義・回天詩史 小林一郎  平凡社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1038342 昭和16 皇国精神講座 第2輯
産業戦士歌集 撃たずんば 中村巳寄 編 図書研究社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1027520 昭和18  
産業戦士詩集 われらの戦場 中村巳寄 編 高田書院 https://dl.ndl.go.jp/pid/1128820 昭和18  
詩集 皇民之詩 森際盞武郎 詩洋社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1129055 昭和18  
詩集 此の糧 尾崎喜八 二見書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1129140 昭和17  
詩集 三種の神器 梶浦正之 詩文学研究会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1128952 昭和17 内務省検閲発禁図書
詩集 戦闘機  蔵原伸二郎  鮎書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1129009 昭和18  
詩集 祖国礼拝  三井甲之  原理日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1226190 昭和2  
詩魂 第一輯 絶句編 鈴木一水 編 維新日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1089822 昭和11  
詩集 百万の祖国の兵 近藤 東 無何有書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1028403 昭和19  
詩集 赴戦歌 田中令三  鮎書房   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和20  
詩集 兵魂 福島青史 軍事界社   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和18  
支那事変歌集 戦地篇 松村英一 編 改造社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1255387 昭和13  
傷痍軍人聖戦歌集 第一輯 佐々木信綱 伊藤嘉夫 人文書院 https://dl.ndl.go.jp/pid/1255543 昭和14  
傷痍軍人聖戦歌集 第二輯 佐々木信綱 伊藤嘉夫 人文書院 https://dl.ndl.go.jp/pid/1255552 昭和14  
傷痍軍人詩集 寺田 弘 編 八重樫昊 https://dl.ndl.go.jp/pid/1128848 昭和18  
少年愛国詩集 西条八十 大日本雄弁会講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1220550 昭和13  
職場の詩 中村 悳 増進社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1129086 昭和17  
新興軍歌集 新興音楽出版社編 新興音楽出版社 国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和16  
聖戦詩史
: 国民精神総動員 陣中読本 銃後必吟
四宮憲章 皇明会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1032881 昭和12  
聖戦俳句集 胡桃社同人編 都祥閣 https://dl.ndl.go.jp/pid/1111175 昭和14  
聖戦俳句集 田村木国 山茶花発行所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1206930 昭和14 山茶花叢書 ; 第6篇
戦魂 : 詩集 小田 栄 日本新国策研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1256060 昭和14  
戦線詩集 : 附:江上日記其他 佐藤春夫 小学館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1129162 昭和17  
戦線詩集 魂の突撃 飯塚野想 紙硯社 https://dl.ndl.go.jp/pid/10298342 昭和18 内務省検閲発禁図書
戦争詩集 大阪詩人倶楽部 大阪詩人倶楽部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1263144 昭和14  
戦争と戦争 : 政治詩集 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1036840 昭和12 戦争ブツクレツト ; 第1編
戦争の神々 : 政治詩集 田中喜四郎 日本社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1256048 昭和13 戦争ブツクレツト ; 第2編
大行颪 : 詩集 手塚 尹 東海出版社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1686380 昭和15  
泰国風物詩  宮原武雄  岡倉書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1272924 昭和17 新東亜風土記叢書 1
大東亜戦役詩史 塩谷 温 弘道館図書 https://dl.ndl.go.jp/pid/1900577 昭和19  
大東亜戦詩 日本文学報国会 編 龍吟社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1884685 昭和19  
大東亜戦争歌集将兵篇 柳田新太郎 編 天理時報社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1127787 昭和18  
大東亜戦争歌集 愛国篇 柳田新太郎 編 天理時報社   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和18  
大日本詩集 聖戦に歌ふ 大日本詩人協会 編 欧文社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1128797 昭和17  
千代の光 : 御大典奉祝和歌集 知新閣 編 知新閣 https://dl.ndl.go.jp/pid/1191096 昭和3  
なかつくに 肇国史詩 加藤一夫  竜宿山房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1128942 昭和17  
ナチスドイツ 青年詩集 
われら戦う
ラインホントシュルツェ 旺文社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1132131 昭和17  
日独詩盟 青山延敏 編 南山堂書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1069263 昭和18  
白衣勇士誠忠歌集 由利負三 日本皇道歌会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1127791 昭和17  
飛行詩集 翼 笹沢美明 編 東京出版社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1128841 昭和19  
満支戦線 詩と随筆の旅 白鳥省吾 地平社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1884663 昭和18  

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