教科書などには絶対に書かれていないことだが、昭和二十年(1945年)十二月十五日にGHQが日本政府に対して神道指令、正確には「国家神道、神社神道ニ対スル政府ノ保証、支援、保全、監督並ニ弘布ノ廃止ニ関スル件」(SCAPIN-448)という覚書を出している。全文は文部科学省のHPで読むことができる。
この指令には、公の財源による神道や神社の支援を禁止するほか、信教の自由の確立と軍国主義の排除、国家神道の廃止、神祇院の解体などが記されており、1952年の講和条約発効とともに効力はなくなったが、日本国憲法の第二十条に、この指令の内容の一部が継承されている。
第二十条:信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
神道指令の立案に関わったウィリアム・ウッダードは著書にこんなことを書いている。
神道を国家から分離した理由は、神道の教義が世界平和に敵意あるものであり、日本の超国家主義、軍国主義および侵略主義も国家神道のカルトに根付いており、それによって精神が汚染されているという連合国指導者たちの理解によるものであった。連合国軍の指導者たちは、右翼過激派が国民を洗脳し、天皇を制御する権力を獲得し、法律を支配し、教育を統制し、宗教を管理し、日本国を全面的崩壊の淵に追いやったのは、現津神たる天皇、神国、神の地などの概念を中心につくられた国家神道のカルトによったと考えたのである。
「神道指令」の第一節において、宗教課長ウィリアム・K・バンス博士は、このカルトを「神道の教理並びに信仰を歪曲して日本国民を欺き侵略戦争へ誘導するために意図された軍国主義的並びに過激なる国家主義的宣伝に利用」したものと呼んでいる。連合軍は、平和主義的で民主主義的な日本を作るためには、他の手段とあわせて神道を国家から分離することが必要だと考えていたのである。
(W.P.ウッダード『天皇と神道―GHQの宗教政策』サイマル出版 昭和47年刊 p.6~7)
彼らは、日本軍が命を惜しまず戦ったのは日本人がカルト宗教に精神が汚染されているからだと考えており、その論理的帰結として、神道の教義が書かれているテキストの頒布の禁止を禁止し、「大東亜戦争」、「八紘一宇」という用語や、国家神道、軍国主義、過激な国家主義と切り離せないものは使用禁止とすることを、神道指令の中に明記しているのだ。
普通の日本人なら神道の中にカルト宗教的な危険な要素があるとは思わないと考えるのだが、彼らは「神道が国家から分離され、教育体制から除去されるまでは、神道が軍国主義、超国家主義イデオロギーを宣布するための機関として使われる危険性が常に存在する」(同上書p.69)と信じ込み、国家神道の廃止の命令まで受けていたのである。
そのため、GHQが焚書処分した神道関連書籍は意外と多く、『神祇に関する制度作法事典』のような作法中心に書かれた本までが焚書されているのだ。
今回はGHQ焚書の中から山田孝雄 著『神道思想史』の一節を紹介したい。
…神道という言葉は本来わが国の上代にはなかったものであると思います。何故かと申しますれば神道という言葉は日本語ではない。元来漢語であります。これを神の道といったかどうかしりませぬが、今日われわれが神道と言っているのは漢語であります。この神道ということばが我が国史籍の上に表れたのはいつ頃かと申しますと、これは日本書紀の用明天皇の巻に初見するのが文献的に言えば一番古いのであります。その日本書紀に書いてあります文章は「信仏法尊神道」天皇仏法を信じ神道を尊び給うと書いてあります。これが我々の目に触れるものでは一番古い。それから孝徳天皇の初めに、これも天皇のことを御書き申上げたところに「尊仏法軽神道」仏法を尊び神道を軽んずと書いてあります。…中略…
そこで、その神道に対して用いられている仏法ということについて考えて見ますと、これは御存知の通り欽明天皇の十三年(西暦552年)に百済王が朝貢した際、貢物と共に伝え奉ったものであります。その初めにおいてはその仏法というものをわが国において採用すべきであるかどうかということについて、朝廷においても議論が区々で一致しない。そうして遂に政治上の争いまでになったのであります。が、用明天皇の御代を経過いたしまして崇峻天皇の御代に至りますというと、敬神主義の豪族であったところの物部氏が亡ぼされ、また同じ敬神主義の中臣氏は屏息して仏法がここから勃興したのであります。それゆえにここに言うところの日本書紀に書いてありますところの、神道という言葉は仏法が我が国に輸入せられ、それがだんだん盛んになるにしたがって、その仏法に対して用いられた言葉であるということは明らかであるのであります。…中略
そこで「古事類苑」の神道の部の初に…神道の名あるは中葉以後のことに仏道儒道に大した名前である、と…編者は説明しています。…儒教が公に朝廷に入りましたのは応神天皇の御代に論語を学ばれたことがはじめであるとしなければならぬ。しかるにその応神天皇の時から、前申しました用明天皇の御代まで随分長い間でありますのに、その間に神道という言葉が出てこないのであります。これは偶然出てこないのであると言えば癒えぬことはありませぬが、恐らくはそうではなくして、儒道と神道ということは初めから甚だしく矛盾していなかったためでありましょう。矛盾反対せず並び立ったのであります。…神道という言葉は元来儒教の使う言葉であります。儒教の周易の中にこの神道という言葉があります。この神道という言葉は支那の用法から申しますと、天然自然の怪しき道という意味でありまして、もとよりわが国の神の道というのではないが、それが我が国の神の道というのに都合がよいから、後に使うことになったのでありましょう。
(山田孝雄 著『神道思想史』明世堂書店 昭和18年刊 p.13~17)
こんな感じで、両部神道、伊勢神道、吉田神道、儒家の神道、理学神道・垂加神道、復古神道などが解説されているのだが、わたしの学生時代にこのような歴史を詳しく学んだ記憶がないし、市販の本でこのような本は先ず見当たらないと思う。
以下のリストは、GHQ焚書リストの中から、タイトルに「神」を含む書籍から、明らかに他宗教に関する本を除いたものである。全部で100点あるが、うち25点が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL | 出版年 |
天照大神の大道 | 倉光亀蔵 | 誠之道舎 | ||
天照大神論 | 酒井市郎 | 日本精神科学会 | ||
天照大神の神格論 | 田中治吾平 | 雄山閣 | ||
天照大神の神学的研究 | 補永茂助 | 明世堂書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040134 | 昭和17 |
天照大神神格論 | 田中治吾平 | 雄山閣 | ||
戦と神々 | 宮崎興起 | 会通社 | ||
伊勢大神宮の話 | 鏡沼保次 | 堀書店 | ||
海外神社の史的研究 | 近藤喜博 | 明世堂書店 | ||
神々と国家 | 西田長男 | 明世堂書店 | ||
神々と国民的自覚 | 小豆澤英男 | 越後屋書房 | ||
神ながらの修養 | 田中治吾平 | 雄山閣 | ||
神ながらの日本精神 | 川崎左門 | 神霊研究会 | ||
神ながらの道 | 足立芳之助 | 滋賀県立 彦根中学校 | ||
神ながらの道に培う 興亜建設の教育 | 渋井二夫 | 新生閣 | ||
神ながらの道 | 筧 克彦 | 皇学会 | ||
惟神大道より般若心経を駁す | 服部宗明 | 神燎会 | ||
惟神読本 | 久保田眞椙 | 世界創造社 | ||
惟神の大道 | 天野弘一 | 目黒書店 | ||
惟神の大道 | 奥沢福太郎 | 平凡社 | ||
惟神の礎 | 中沢巠天 | 紀元二千六百 年奉祝 | ||
惟神の大道と日本精神 | 加藤尺道 | 精神教育研究会 | ||
惟神の道と大祓詞 | 鈴木真道 岡田木夫 | 神道会 | ||
教育と神社祭祀 | 河上民祐 | 六盟館 | ||
近世に於ける神祇思想 | 藤井寅文 | 春秋社松柏館 | ||
近世に於ける神道的教化 | 河野省三 | 国民精神文化 研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1914001 | 昭和10 |
現代人の神道 | 溝口駒造 | 大日本鶏鳴会 | ||
皇道と惟神道 | 宇佐美景堂 | 皇道奉讃会本部 | ||
国民惟神道読本 | 平田 粲 | 新興亜社出版社 | ||
祭祀と神力 | 有賀成可 | 東大古族学会 | ||
敷島の道と神道 | 斎藤襄吉 | 神廼道雑誌社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1036650 | 昭和13 |
将来の日本と神道の新使命 | 溝口駒造 | 理想社 | ||
神意国家神道造解説問答 | 高山眞伍 | 皇学研究所 | ||
神祇教育と訓練 | 大倉邦彦 | 明世堂書店 | ||
神祇と祭祀 | 出雲地通次郎 | 櫻橘書院 | ||
神祇に関する制度作法事典 | 神祇学会 編 | 光文堂 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1123602 | 昭和17 |
神宮と国体・皇室と 国体に就て | 日本皇政会 事業部編 | 日本皇政会 事業部 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1092293 | 昭和12 |
神道叢話. 第3刊 | 小倉鏗爾 | 錦正社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1094610 | 昭和16 |
新釈日本神典 及び神ながらの道 | 松木貞二郎 | 皇道普及会 | ||
神社祭神物語、神々の誕生 | 神道研究会編 | 育生社 | ||
神社読本 | 曽根朝起 | 平凡社 | ||
神社文化史 | 中村直勝 | 四條書房 | ||
神社問題の再検討 | 加藤玄智 | 雄山閣 | ||
神道大成教の研究 | 田中義能 | 日本学術研究会 | ||
神道一日一話 | 矢部善三郎 | 会通社 | ||
神道概論 | 田中義能 | 明治書院 | ||
神道学序説 | 河野省三 | 井田書店 | ||
神道講演集 | 山口県神職会編 | 山口県神職会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1093397 | 昭和13 |
神道講演集 | 広田正信 編 | 清明社 | ||
神道綱要 | 山本信哉 | 明世堂 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040094 | 昭和17 |
神道講和 | 小室 徳 | 明文社 | ||
神道古義 地の巻 | 友清観眞 | 山神道天行居 | ||
神道史講話 | 清原貞雄 | 目黒書店 | ||
神道思想史 | 山田孝雄 | 明世堂書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1914370 | 昭和18 |
神道思想の研究 | 梅田義彦 | 会通社 | ||
神道思潮 | 宮地直一 | 理想社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040082 | 昭和18 |
神道史の研究 | 河野省三 | 中央公論社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040099 | 昭和19 |
神道心開教の言葉 | 熊崎健一郎 | 神道心開教本部 | ||
神道新論 | 渡辺誠治 | 会通社 | ||
神道精神 | 日本文化 研究会編 | 東洋書院 | ||
神道叢話. 第2刊 | 小倉鏗爾 | 錦正社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1097069 | 昭和16 |
神道大義 | 豊田珍彦 | 瓦北文庫 | ||
神道大辞典 : 第三卷 | 平凡社 編 | 平凡社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1913359 | 昭和16 |
神道哲学 | 田中伊藤次 | 清水書房 | ||
神道読本 | 河野省三 | 昭和書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1224546 | 昭和10 |
神道と国学 | 岸本芳雄 | 皇帝社 | ||
神道と国民生活 | 河野省三 | 明世堂書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040080 | 昭和18 |
神道と日本精神 | 河野省三 | 天理教道友社 | ||
神道と文学 | 臼田甚五郎 | 白帝社 | ||
神道と民俗学 | 柳田国男 | 明世堂書店 | ||
神道の宗教的新研究 改訂増補版 | 加藤玄智 | 甲文堂書店 | ||
神道の真理 | 小山陽運 | 神道産巣日会 | ||
神道の話 | 小倉鏗爾 | 錦正社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1255718 | 昭和13 |
神道の批判 | 岸一太 | 交蘭社 | ||
神道扶桑教の研究 | 田中義能 | 日本学術研究会 | ||
神道・仏道・皇道・臣道 を聖徳太子十七条憲法に よりて語る | 暁烏敏 | 香草舎 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1111202 | 昭和12 |
神道要典国体編 | 山本信哉 編 | 博文館 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040102 | 昭和17 |
神道論 | 石村吉甫 | 三笠書房 | ||
心霊学より日本神道を観る | 浅野和三郎 | 心霊科学研究会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1047530 | 昭和13 |
垂加神道 | 小林健三 | 理想社 | ||
垂加神道の研究 | 小林健三 | 至文堂 | ||
随神道は世界最高の 宗教道徳哲学なり | 栗野伝二 | 栗野伝二 | ||
戦争の神々 | 田中喜四郎 | 日本社 | ||
俗神道大意 | 斎藤一寛 編 | 日本電報通信社 | ||
谷秦山の神道 | 西内 雅 | 高原社 | ||
仕へまつる道 : 神道と生活 | 溝口駒造 | 四海書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040107 | 昭和18 |
転換期の神道 | 溝口駒造 | 畝傍書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040108 | 昭和16 |
天孫民族よ神道に帰れ | 吉良宇治那理 | 河原資郎 | ||
日本宗教大講座 神社篇 | 東方書院編 | 東方書院 | ||
日本宗教大講座 神道篇 | 東方書院編 | 東方書院 | ||
日本精神の哲学 附・神ながらのやまとごころ | 鹿子木員信 | 国民思想研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1057097 | 昭和9 |
日本精神の要諦と惟神の大道 | 橋本文寿 | 立命館出版部 | ||
日本精神文献叢書 7 神道篇 | 河野省三 編 | 大東出版社 | ||
日本精神文献叢書 8 神道篇 | 河野省三 編 | 大東出版社 | ||
日の大神経典衍義 | 宮井鐘次郎 | 川浦延寿 | ||
風俗習慣と神ながらの実修 | 筧克彦 | 春陽堂書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1106907 | 昭和14 |
武士団と神道 | 奥田真啓 | 白揚社 | ||
復古神道 | 小林健三 | 理想社 | ||
明治以後における 神道史の諸相 | 神崎一作 | 京文社 | ||
琉球神道記 | 明治聖徳 記念学会編 | 明世堂書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040100 | 昭和18 |
我が国体と神道 | 河野省三 [述] | 石川県 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1095220 | 昭和13 |
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。よろしければ、この応援ボタンをクリックしていただくと、ランキングに反映されて大変励みになります。お手数をかけて申し訳ありません。
↓ ↓
ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。
無名の著者ゆえ一般の書店で店頭にはあまり置かれていませんが、お取り寄せは全国どこの書店でも可能です。もちろんネットでも購入ができます。
電子書籍もKindle、楽天Koboより販売をしています。
Kindle Unlimited会員の方は、読み放題(無料)で読むことが可能です。
内容の詳細や書評などは次の記事をご参照ください。
コメント
コメント失礼致します。
上記100冊ある中の一つを読みたいのですが、URLがないということは図書館にも保存されてないのでしょうか?
川浦様、コメントありがとうございます。
このリストは「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されているののみURLを記していますが、ネット公開されていない書籍の大半は国立国会図書館の蔵書となっておりデジタル化もされています。
ネット公開がされてこなかった書籍は、これまでは公立図書館などの指定図書館に行かなければデジタルデータを閲覧できませんでしたが、今年の5月より、デジタル化されている大半の書物が個人のパソコンで閲覧可能となっています。
少し手続きに日数を要しますが、チャレンジしてみてください。手続き方法については次の記事を参考にしてください。
この方法で読めない本は、
(1)国立国会図書館に蔵書がない
(2)蔵書があってもデジタル化されていない
(3)デジタル化されているが、従来より国立国会図書館でしか閲覧できない書籍
のいずれかで、リストに挙げた大半の書籍は自宅のパソコンで読むことが可能になっていると思います。