GHQが焚書処分した「共産主義」「共産国」に否定的な書籍~~中保与作『赤色アジアか防共アジアか』

GHQ焚書

 GHQが没収廃棄した書籍リストの中で、タイトルに「共産」「共」「赤」を含む本を抽出すると全部で25点がヒットした。いずれも、「共産主義」「共産国」に対して否定的な立場で記された本ばかりであると思われる。

 GHQが没収廃棄した本の著者を調べたことがあるが、共産主義者・社会主義の著書は殆んど処分されていないのではないだろうか。例えば、次のような有名な人物の著作については焚書処分されたものが皆無なのである。

赤松克麿、荒畑寒村、大内兵衛、大杉栄、尾崎秀実、河上肇、小林多喜二、堺利彦、向坂逸郎、佐野文雄、佐野学、志賀義雄、田中清玄、徳田球一、鍋山貞親、野坂参三、宮本顕治、宮本百合子、柳田謙十郎、山川均、山本宣治

 ではなぜ、GHQは共産主義・社会主義に対して否定的な書物を戦後の日本人に読めないように処分したのだろうかというと、GHQに大量の左翼主義者がいたことを知らねばならない。

 チャールズ・ウィロビーはダグラス・マッカーサー大将の情報参謀で、戦後は連合国軍最高司令官総司令部参謀第2部 (G2) 部長として対日謀略や検閲を担当した人物だが、彼の回顧録に、1947年4月23日付でウィロビーが纏めさせマッカーサー最高司令官に提出した『総司令部への左翼主義者の浸透状況』というマル秘レポートが掲載されている。このレポートに、ソ連に近い人物がGHQに多数いたことが記されているので紹介したい。

 総司令部の各部局に在職している外国分子を統計的に分析してみると、ソ連またはソ連衛星国の背景をもった職員の割合がかなり高い。GHQに雇われている(無国籍者を含む)304人の外国人のうち、最大グループを形成する28%(85名)はソ連またはソ連衛星国の出身である。そのうち42名はソ連の市民権の持ち主である。通常の治安概念からみれば、このグループは事実上の脅威となるはずである。ことに最近ソ連は、元の白系ロシア人の全員、および無国籍者をソ連市民として登録してきているからなおさらである。
GHQ従業員のうち199人は帰化した『アメリカ市民権取得者の第一世代』となってはいるが、もともとはソ連またはその衛星国の背景を持つ者である。
 したがって、これらの者のなかですでに左翼主義者として知られていたり、同調者として知られている者の占める割合は決定的なものである
。…

(『GHQ知られざる諜報戦 新版・ウィロビー回顧録』p.177)

 このレポートによると、当時GHQで働く従業員の内、人種的にソ連またはその衛星国に繋がる人物が284名もいたということになる。さらにアメリカ人スタッフの中にも、出身国や人種的はソ連またはその衛星国と関係がなくとも、思想的に左翼系の人物も少なからずいたであろう。そのうち焚書に関わった人物が何人いたかは不明だが、ニューディーラーと呼ばれた左翼が一掃された昭和二十四年五月頃には、GHQによる本の没収廃棄は終わっていたのである。

 では、焚書処分された書物に何が書かれているのかというと、共産主義のソ連にとっては面白くない内容が書かれていると考えて良い。たとえば、中保与作 著『赤色アジアか防共アジアか』には、こんな記述がある。

 シナ共産党は、…コミンテルンの尖兵である。その言動の一切は挙げてコミンテルンの指揮号令に因るのである。シナ赤化工作の今後を決定するものもまた、コミンテルンであることは勿論である。シナ共産党は、上述のごとく宛として国民党化したかのようだ。しかし、それが、コミンテルン本来の目的でない…。コミンテルンは、あくまで世界革命を究極の目的とする。さまざまの妥協劇を演ずるのは、要するに、その時その場合の特殊な具体的事情に即応しつつ、そこに少しでも進路を拓こうとするがためにほかならない。

 コミンテルンの世界革命運動は、改めていうまでもなく、(A)一面において、資本主義国、帝国主義諸国に対するあらゆる手段による攻撃を目的とする。と、同時に。(B)他面において、ソヴィエト連邦を支持し、これに向かって加えられんとするあらゆる攻撃を防御せんとすることをもその目的とする。即ち、攻・防の二面を持つ。が、攻撃の方策については、(イ)さらにある場合は真っ向から資本主義国家、帝国主義国家の革命運動に邁進し、(ロ)ある場合には裏面からその植民地及び半植民地の解放運動に主力を集中するのである。

 彼らの見解に従えば――資本主義国家にとって植民地もしくは半植民地は、自らの存立強化を図る搾取の対象であり、その支柱を成しているのである。従って、(A)資本主義国家・帝国主義国家の崩壊は、同時にその植民地もしくは半植民地の解放を招来し、(B)植民地もしくは半植民地の解放運動は、同時にその資本主義国家・帝国主義国家の存立を脅威することとなるからである。コミンテルンのシナに対する諸運動も、もとよりすべて叙上如き目的・見解・方策に出ずること勿論である。

(中保与作 著『赤色アジアか防共アジアか』p.85~86)
国立国会図書館デジタルコレクション

 ソ連は、全世界の共産主義革命を目指し、各国の革命運動を支援するためにコミンテルンを結成したのだが、戦後の一般的な歴史叙述でこの組織がどのような活動をしたかについてはほとんど書かれていない。最近ではソ連諜報機関の当時の暗号文書の解読が進み、ソ連の第二次大戦に於ける関与が明らかになって、江崎道朗氏らの著作によりようやくわが国でもコミンテルンの活動が広く知られるようになってきたのだが、戦前・戦中には、ソ連の関与を見通していた人は少なからず存在していたのである。

 下記のリストが、タイトルに「共産」「共」「赤」を含むGHQ焚書のリストだが、16点は「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。

タイトル著者・編者出版社国立国会図書館デジタルコレクションURL出版年
眼前に迫る世界大戦と
英米赤露の襲来
後藤誠夫 大京社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1442250昭和7
冀東政府の全貌 : 日満支親善
の礎石 北支防共の前衛
新見浩 文成社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1464618昭和12
支那共産党の現状中保与作 善隣協会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1459151昭和18
支那の共産勢力の実情亜細亜情報社
調査部 編
亜細亜情報社
出版部
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1279630昭和9
赤化、抗日、防共長谷川了昭森社
赤軍三島康夫 中央公論社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1278154昭和12
赤軍から見たノモンハン戦闘
赤軍戦車旅団全滅
富田邦彦新興亜社
赤軍将校陰謀事件の真相山内封介 国際反共聯盟
調査部
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1120546昭和12
赤色アジアか防共アジアか中保与作 ダイヤモンド社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1441258昭和12
赤露の動きと我覚悟夏秋亀一 満蒙調査会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1279897昭和8
赤露の攻熱挑戦後藤武男貴族院情報社
日赤軍戦術原則対照軍事学指針社 編軍事学指針社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1466275昭和8
日独防共協定の検討黒木正磨 教材社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1455595昭和11
日独防共協定の意義松岡洋右 第一出版社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1453652昭和12
日本総赤化懲候司法部不祥事件
禍因根絶の逆縁、昭和維新の正義
蓑田胸喜 原理日本社
日本の脅威武装の赤露佐々木一雄 一心社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1466421昭和8
反共十字軍
独ソ戦の真相とその経過
原田瓊生 日独出版協会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460179昭和17
反共世界戦争井澤 弘亜細亜学会
福建の赤化と我国防線の危機篠原匡文 東亜政治経済
調査所
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1443633昭和9
防共強化か三国同盟か
新世紀の扉を開くもの
古谷栄一 亜細亜出版社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1437773昭和14
防共協定とナチス、ファッショ革命鹿島守之助巌松堂書店
防共ナチスの経済政策ヒャルマール・シャハト刀江書院
防共北支建設論中山正男映画画報社
室伏高信全集. 第11巻
 (社会主義批判・共産主義批判)
室伏高信青年書房https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1232007昭和12
滅共反ソか反英米か赤尾 敏建国会

【ご参考】

GHQは日本人にどのような歴史を封印しようとしたのか
GHQは昭和20年9月10日に「言論及ビ新聞ノ自由ニ関スル覚書」(SCAPIN-16)を発令し、その日から新聞や雑誌などの検閲を開始し、すぐに同盟通信社と朝日新聞が連合国を批判したとして二日間の業務停止命令を受けている。さらにGHQは「新聞遵則」などを定め、雑誌や書籍、映画、放送などの検閲も開始し、没収された書籍を見ると、中世、近世、近現代の歴史研究書までがリストアップされている。
GHQの定めた検閲指針がわが国のマスコミなどで今も実質的に守られている理由
1946年11月25日付の公文書にGHQが「削除または掲載発行禁止」とした30項目が掲げられている。戦勝国に対する批判だけでなく、中国、朝鮮人に対する批判までもがその対象とされている。GHQは、日本人の歴史観が連合国にとって望ましいものでありつづけるため、さらに公職追放により、マスコミなどから保守の有力者を排除した。
復刊されて比較的手に入りやすくなっているGHQ焚書
戦後GHQが書店で流通している書籍を没収し日本人に読ませないようにしましたが、その一部の書籍が復刊されて、手に入りやすくなっています。文庫化された本や最近復刊された本などを集めてみました。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。よろしければ、この応援ボタンをクリックしていただくと、ランキングに反映されて大変励みになります。お手数をかけて申し訳ありません。
   ↓ ↓

にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ

 ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
 通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
 読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。

無名の著者ゆえ一般の書店で店頭にはあまり置かれていませんが、お取り寄せは全国どこの書店でも可能です。もちろんネットでも購入ができます。
電子書籍もKindle、楽天Koboより販売しています。

内容の詳細や書評などは次の記事をご参照ください。

コメント

タグ

GHQ検閲・GHQ焚書228 中国・支那94 対外関係史82 地方史62 ロシア・ソ連60 反日・排日59 イギリス52 アメリカ51 神社仏閣庭園旧跡巡り47 神戸大学 新聞記事文庫44 満州40 共産主義40 情報戦・宣伝戦38 ユダヤ人36 日露戦争33 欧米の植民地統治32 軍事31 著者別31 神仏分離31 京都府30 外交30 政治史29 廃仏毀釈28 コミンテルン・第三インターナショナル27 朝鮮半島27 テロ・暗殺24 対外戦争22 キリスト教関係史21 支那事変20 西尾幹二動画20 国際連盟19 菊池寛19 満州事変18 一揆・暴動・内乱17 豊臣秀吉17 ハリー・パークス16 ドイツ15 大東亜戦争15 ナチス14 海軍13 東南アジア13 紅葉13 GHQ焚書テーマ別リスト12 奈良県12 西郷隆盛12 神仏習合12 アーネスト・サトウ11 陸軍11 フィリピン11 ルイス・フロイス11 倭寇・八幡船11 情報収集11 スパイ・防諜10 徳川慶喜10 大阪府10 兵庫県10 不平士族10 インド10 分割統治・分断工作10 フランス10 戦争文化叢書10 人種問題10 文化史10 奴隷10 リットン報告書9 寺社破壊9 和歌山県9 イエズス会9 伊藤痴遊9 ペリー9 オランダ9 岩倉具視9 自然災害史9 神社合祀9 欧米の侵略8 韓国併合8 A級戦犯8 ロシア革命8 関東大震災8 長野朗8 木戸孝允8 伊藤博文8 小村寿太郎7 ジョン・ラッセル7 山中峯太郎7 徳川斉昭7 修験7 ナチス叢書7 大久保利通7 飢饉・食糧問題7 ジェイコブ・シフ6 中井権次一統6 兵庫開港6 ロッシュ6 6 奇兵隊6 永松浅造6 ウィッテ5 紀州攻め5 ジョン・ニール5 高須芳次郎5 滋賀県5 隠れキリシタン5 大隈重信5 松岡洋右5 山縣有朋5 児玉源太郎5 武藤貞一5 台湾5 アヘン5 日清戦争5 第二次世界大戦5 金子堅太郎5 財政・経済5 5 匪賊4 F.ルーズヴェルト4 関東軍4 東郷平八郎4 平田東助4 南方熊楠4 大火災4 津波4 島津貴久4 フランシスコ・ザビエル4 阿部正弘4 堀田正睦4 水戸藩4 井伊直弼4 孝明天皇4 東京奠都4 井上馨4 福井県4 旧会津藩士4 小西行長4 高山右近4 スペイン4 乃木希典4 山県信教4 石川県4 西南戦争4 三国干渉4 日独伊三国同盟4 日本人町4 第一次世界大戦3 張作霖3 ファシズム3 大東亜3 イザベラ・バード3 明石元二郎3 ガスパル・コエリョ3 レーニン3 伴天連追放令3 文禄・慶長の役3 竹崎季長3 フビライ3 プチャーチン3 川路聖謨3 日米和親条約3 安政五カ国条約3 薩摩藩3 和宮降嫁3 生麦事件3 薩英戦争3 下関戦争3 桜井忠温3 福永恭助3 菅原道真3 平田篤胤3 鹿児島県3 徳川家臣団3 士族の没落3 山田長政3 朱印船貿易3 藤木久志3 王直3 シュペーラー極小期3 静岡県3 督戦隊3 前原一誠3 明治六年政変3 タウンゼント・ハリス3 廃藩置県3 火野葦平3 柴五郎3 義和団の乱3 勝海舟3 高橋是清3 北海道開拓3 3 プレス・コード3 織田信長3 赤穂市2 大和郡山市2 斑鳩町2 第一次上海事変2 張学良2 尼港事件2 丹波佐吉2 地政学2 国際秘密力研究叢書2 オレンジ計画2 ハリマン2 スターリン2 文永の役2 北条時宗2 弘安の役2 大友宗麟2 オルガンティノ2 ラス・ビハリ・ボース2 吉田松陰2 安政の大獄2 安藤信正2 オールコック2 大政奉還2 坂本龍馬2 王政復古の大号令2 尾崎秀實2 神道2 豊臣秀次2 島津久光2 水戸学2 文明開化2 板垣退助2 日光東照宮2 イタリア2 伊勢神宮2 三重県2 版籍奉還2 沖縄2 島根県2 大川周明2 鳥取県2 越前護法大一揆2 野依秀市2 富山県2 淡路島2 徳島県2 土一揆2 下剋上2 足利義政2 応仁の乱2 徳富蘇峰2 大村益次郎2 徴兵制2 足利義満2 仲小路彰2 懐良親王2 武田信玄2 江藤新平2 熊本県2 南京大虐殺?2 水野正次2 高知県2 大江卓2 福沢諭吉2 山本権兵衛2 領土問題2 2 南朝2 秦氏1 済南事件1 第一次南京事件1 小浜市1 浙江財閥1 蒋介石1 トルーマン1 石油1 廣澤眞臣1 山口県1 横井小楠1 便衣兵1 転向1 一進会1 蔣介石1 あじさい1 鉄砲伝来1 大村純忠1 シーボルト1 桜田門外の変1 重野安繹1 科学・技術1 徳川昭武1 グラバー1 後藤象二郎1 五箇条の御誓文1 伊藤若冲1 徳川光圀1 フェロノサ1 藤原鎌足1 徳川家光1 徳川家康1 香川県1 神奈川県1 広島県1 穴太衆1 岐阜県1 愛知県1 ハワイ1 長崎県1 岩倉遣外使節団1 東京1 宮武外骨1 宮崎県1 武藤山治1 大倉喜八郎1 日野富子1 加藤清正1 浜田弥兵衛1 大内義隆1 足利義持1 上杉謙信1 北条氏康1 北条早雲1 今井信郎1 佐賀県1 福岡県1 陸奥宗光1 鎖国1 尾崎行雄1 士族授産1 財政・経済史1 スポーツ1