ジンギスカンについて書かれた絵本がGHQに焚書処分されている

GHQ焚書

 GHQの焚書リストの中には、小学校低学年向けに書かれたと思われる絵本が少なからず存在する。今回紹介させていただくGHQ焚書は昭和十九年に刊行された『ジンギスカン』という絵本なのだが、わが国の偉人の伝記でもなく、蒙古帝国を築いた英雄について書かれた絵本がなぜ焚書処分されたのだろうかと誰でも考えると思う。本文は、当時の尋常小学校の教科書のように、カタカナと平易な漢字で書かれているのだが、読みやすいようにカタカナをひらがなに変え、地名ややさしい表現は漢字に変えて、内容の一部を紹介させていただく。

母の教え

 昔から世界にできた国の中で、蒙古帝国ほど土地を広く持っていた国はありません。
 ジンギスカンは、その蒙古帝国を創った人です。
 ジンギスカンは今から七百八十年ほど前、蒙古のオノン川の近くで生まれました。その時手には血のかたまりを握りしめ、目は火のように輝いていたといいます。はじめ名前をテムジンと付けられました。ジンギスカンというのは、蒙古を治めるようになってから呼ばれた名で、「強い王様」という意味です。

 ジンギスカンは、小さいときからたいへん難儀をしました。
 それは、その頃蒙古はたくさんの小さな国に別れ、ジンギスカンの父のいる国は特別強い国に取り囲まれていたからです。
 そのうえ支那には、金という大きな国があって、蒙古をさんざんいじめていました。
 とうとう父はタタールという敵のために、毒を飲まされて殺されました。
 ジンギスカンが十三の時です。そのために家来もみなバラバラに離れてしまい、ジンギスカンの家はすっかり落ちぶれてしまいました。そしてほうぼうを逃げ回り、ある時は敵につかまって殺されようとしたこともあります。また六日の間何も食べないで山の中に隠れたり、一日中首だけ出して水の中に入っていたこともありました。
 こんな苦しみの中にも、一つだけ幸せなことがありました。それはお母さんがたいへん偉い人だったことです。お母さんの名前はオエルンといいました。
 オエルンはわが子を優しいうちにも厳しく育てました。自分で弓矢などを以て敵の攻めてくるのを防いだこともあります。ジンギスカンがたいへん親を大切にし、また味方の者にはいつも情け深かったのも、そのためです。
 お母さんはいつもわが子を諫めるのに、こんな話をしました。

「お前たちの先祖に、アランという女の人がいました。五人の子供がいましたが、ある時、五人に一本ずつの弓の矢を渡して、それを折らせました。すると五人ともわけなく折りました。今度は五本の矢を一緒に集めて折らせました。が、五人ともそれを折ることが出来ませんでした。一本の矢は弱くても、五本一緒にすると強いからです。人もそれと同じです。お前たちも、この先祖の教えを守って、兄弟や味方とは力を合わせねばいけません。そうすればどんな敵でも破ることが出来るのです。」

 このお母さんの教えを受けて、だんだん大きくなるとジンギスカンは、落ちぶれた家の力を元のように強くするために、いろいろと苦心しました。蒙古は山と草原の国で、馬や羊などのほか、たくさんの獣が住んでいます。それが家の財産です。けれどもそれを手に入れるには、戦いに勝たねばなりません。ジンギスカンは国中をまわってたくさんの味方を作り、敵と戦いました。そして二十八の歳になると、父の時よりもずっと強い一つの国の頭になりました。ジンギスカンという名前も、この時付けられたのです。
 けれどもこの時は、まだ蒙古の中の少しばかりの土地を治めるだけだったのです。

マツナガ ケンヤ著『ジンギスカン』講談社 昭和19年刊 p.1~10

 ジンギスカン母が子に諭した「五本の矢」の話は、戦国武将の毛利元就が、子の隆元・元春(吉川氏に養子)・隆景(小早川氏に養子)に授けたという「三本の矢」の教えとそっくりの話だが、この話はフランスの東洋学者であるルネ・グルッセ著『ジンギス汗 : 世界の征服者』にも記されており、わが国で出版された他のジンギズカンの伝記にも書かれているので、結構有名な話のようである。ちなみに毛利家の「三本の矢」の教えについては、以前旧ブログでも書いた通り明治時代の創作で、毛利家に残されている「三子教訓状」などにはそのような話はでてこない。

世界最大の版図を獲得した蒙古帝国

 その後ジンギスカンは戦い続け、支那、中央アジア、イラン、東ヨーロッパなどを次々に征服し、最終的には人類史上最大規模の世界帝国である蒙古帝国の基盤を築き上げ、西暦一二二七年に六十六歳で病死してしまう。

 ジンギスカンはただ大きな国を建てただけではありません。これだけの土地を治めるにも、立派な考えを持っていました。ですから蒙古帝国はそれから百四十年もの間栄え、ますます大きくなっていったのです。

 またジンギスカンはたいへん心が広く、情け深く、正しいことを喜ぶ人でした。
 ある戦いのときのことです。赤ん坊が道端に捨てられて泣いていました。これを見るとジンギスカンはわざわざそれを拾い上げて自分で育ててやったこともあります。また敵兵が自分たちの大将を縛って降参してきたことがありました。ジンギスカンに褒美をもらおうと思ったからです。ところがそれを見ると、ジンギスカンはたいへん怒りました。自分の大将に背くような腐った心を憎んだのです。そしてその敵兵を斬り、大将だけを許してやったのでした。

 またあれほど憎んでいたファラズムの王子さえも助けてやったことがあります。思いつめられた王子がインダス川に飛び込んで逃げる時のことです。ジンギスカンは、
「敵ながらなかなか強い男だ。泳いでいるのを殺すのは卑怯だから許してやれ。」
といって、家来たちが岸から弓で射ようとするのを止めました。

 また味方のケガをした兵の傷の手当てを自分でしてやったことも、何度もあります。こんな情け深い大将だったから、家来がみんな親のように慕ったのです。いつの戦でも真っ先に進むジンギスカンを見て、みんなが奮い立ったのです。

 ジンギスカンが部下に教え、自分でも守っていたことの中には次のようなことがあります。
(1)一つのことをやるにも三人の人に相談せよ。
(2)目上の人より先に口を出すな。
(3)味方には乳牛のようにやさしくせよ。敵にはガチョウのように襲いかかれ。
(4)家をよく整えよ。家を見れば人がわかる。
(5)酒は人の心を狂わせる。

 ジンギスカンこそ眞の英雄だったのです。ジンギスカンは死ぬまでアジア人の手で世界を治めるのだと言っていました。

同上書 p.25~32

 このようにジンギスカンはただ戦いに強いだけでなく、リーダーたる資質を備えていて、部下からの信頼も厚かったことが書かれているのだが、なぜこのような本がGHQによって焚書処分されたのだろうか。

GHQは講談社のこのシリーズ本を全点焚書処分した

 講談社は、この『ジンギスカン』のほかに、10人の偉人についての絵本をシリーズで刊行しているのだが、調べるとGHQはこれらの全点を焚書処分している
 伝記の対象となったのは、日本人が豊臣秀吉、東郷元帥、乃木大将、山田長政の四人で、あとはすべてアジア(「大東亜」)の他国の偉人である。武人について言えばそれぞれ白人と戦って勝利した人物であり、文人については白人統治に抵抗したリーダーや、革命の指導者や、仏教、儒教の始祖が選ばれているのだが、要するにGHQはアジアの英雄の存在を認めたくなかったということではなかったか。子供のころからそのような人物に憧れたり尊敬されたりしては困ると考えたのではなかったか。戦後の教育では日本人の英雄の多くは貶められるか軽視されて、教科書では人物名が書かれている程度になっているのは残念なことである。
 以下のリストは、全点が焚書処分された講談社が出版した偉人伝シリーズで、なぜか『孫文』は蔵書がないのか公開されておらず、『東郷元帥』はデジタル化されているにも関わらず、国立国会図書館限定公開とされている。

タイトル 著者・編者 出版社 分類 国立国会図書館デジタルコレクションURL 出版年 備考
ウ・オツタマ ミヤシタ マサミ 講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1874043 昭和18  
コウシ オノ タダヨシ 講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1874050 昭和19  
シャカ ハットリ メイジ 講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1874047 昭和19  
ジンギスカン マツナガ ケンヤ 講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1874046 昭和19  
孫文 不明 大日本雄弁会講談社   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
不明  
東郷元帥 古島松之助 絵 講談社 × 国立国会図書館限定 昭和12 講談社の絵本23
トヨトミヒデヨシ オオキ ユウジ 講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1874048 昭和19  
ノギタイショウ オオクラ トウロウ 講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1874051 昭和19  
ホセ・リサール ミヤシタ マサミ 講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1874042 昭和19  
ヤマダナガマサ チバ ショウゾウ 講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1874052 昭和19  

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