GHQが焚書処分した本の中で、彼らがどのような意図をもって戦後の日本人に読めなくしたかが一番わかりやすいのが、わが国の歴史に関する通史を戦後の一般的な通史と読み比べることだと思う。
戦前・戦中の歴史書でGHQが焚書にした本といえば、「軍国主義」、「皇国史観」の洗脳、というイメージがつきまとうのだが、実際に読んでみると戦後知らされてこなかった史実の多さと、戦前の書物のレベルの高さに驚かされる。
上の画像の北垣恭次郎著『新訂小学国史の指導精神.高2』は、高等小学校(現在の中学1年~2年)の国史の指導にあたる教師用に著されたもので、安土桃山時代以降の日本の歴史の解説書である。この本は、神代から室町時代について書かれた『新訂小学国史の指導精神.高1』の続編にあたるのだが、著者が同じであるのにもかかわらず、焚書処分されているのは続編だけである。
たとえばこの本の豊臣秀吉の記述を読んでみると、拙著『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』で採り上げた、バテレン追放令に至った背景がしっかり書かれている。
秀吉はよく信長の政策を遵守して、その偉業を大成した人であるが、キリスト教に対しては、反対な態度を執ってこれを抑制した。しかしそれには相当の理由があったのである。当時同教の信者の中には、熱心その度を越えて、あるいは社、寺を破壊し、あるいは仏像位牌などを川に流し、また火中に投ずる者もあるという次第で、彼らの眼中には君父なく、キリストの為には甘んじて身命をなげうつという態度であった。なお、宣教師も次第に高慢になり、徒歩は品位を失墜すとして、必要のない場合も、立派な輿に乗って往来し、途中顕要の地位にある諸侯とであっても、輿を下りないのみならず、これに対して敬意を表することもしないのが常であった。…(中略)
然るに天正十五年秀吉が島津家を降して筑前博多に引き上げた時、戦勝を祝するため、長崎から来た宣教師に対面して、まずその態度の傲慢を憎み、尚、彼らが大村家に貸し付けた軍用金の代償として、長崎地方が彼らの領地となっていることを知り、大いにその不埒を怒り、大村家の不法を責めた上、長崎を取り上げて公領とした。その上秀吉は神道及び仏教の信者とキリスト教信者との衝突が各地に絶えないことなどを考えあわせた末、同年六月十九日筥崎八幡宮の社前において、断然キリスト教を禁ずる法令を出した。
北垣恭次郎 著『新訂小学国史の指導精神.高2』昭和12年刊 明治図書p.37~40
当時日本で宣教していたイエズス会のルイス・フロイスの記録には、宣教師の教唆により信者が各地の寺社や仏像などを破壊した話や、大量の日本人を奴隷にして海外に送っていたことなどが詳細に記されているが、戦後のわが国の教育ではこのような史実は長い間タブーとされており、マスコミの解説でもそのような真実が語られることがない。しかし、このような史実を知らなければ、この時代に何があったかを正しく理解できるとは思えないのだ。
下記のリストは、GHQ焚書リストの中から、タイトルをみてわが国の通史と判断できる69点を集めてみたものだが、そのうち20点が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。
戦勝国にとって都合の悪い史実が書かれていると思って、覗いていただきたいと思う。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL | 出版年 |
海の二千六百年史 | 高須芳次郎 | 海軍研究社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1261362 | 昭和15 |
感激の国史 12.10.25 | 小酒井儀三 | 永沢金港堂 | ||
感激の国史(下巻) | 小酒井儀三 | 永沢金港堂 | ||
皇国史概説 上巻 | 高野忠男 | 松華堂書店 | ||
皇国史要 | 猪谷文臣 | 日本出版社 | ||
皇国大日本史 | 渡辺幾治郎 | 朝日新聞社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1918508 | 昭和15 |
皇国二千六百年史 | 藤谷みさを | 大阪毎日新聞社 | ||
高等小学国史課程の新展開 | 大松庄太郎 | 明治図書 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1465619 | 昭和7 |
皇道の日本 国史の精華の巻 | 皇道之日本社 編 | 皇道之日本社 | ||
皇道の日本 (国史精華の巻) | 渡邉 聡 | 東海春秋社 | ||
国史概論 | 原 慶信 | 日林社 | ||
国史教育実践諸問題 | 宮越他一郎 | 晃文社 | ||
国史教育日本精神 愛国舞踊集 | 榊原帰逸 | 育生社 | ||
国史教育の解釈と実践 | 吉識義一 | 厚生閣書店 | ||
国史教育の目的論 | 中村吉之助編 | 中文館書店 | ||
国史集説 | 鮎沢信太郎 | 照林堂書店 | ||
国史資料集 第一巻 | 教学錬成所編 | 龍吟社 | ||
国史と国体 | 明治大学 史学会 編 | 明治大学 史学研究室 | ||
国史と世界史 | 中村一良 | 聖紀書房 | ||
国史と日本精神 | 植木直一郎 | 青年教育普及会 | ||
国史と日本精神の顕現 | 八木格治 | 健文社 | ||
国史の輝 | 中村徳五郎 | 巧人社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1169331 | 昭和9 |
国史の華. 千草の巻(近代) | 中村孝也 | 三学書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1717414 | 昭和19 |
国史の話 | 中村正直 | 全国書房 | ||
国史問題質疑応答 | 受験講座刊行会 | 受験講座刊行会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1188631 | 昭和5 |
国史列伝 上巻 | 大坪草二郎 | 高山書店 | ||
国体観念協調の国史教育 | 中野八十八 加田庄之助 | 新生閣書店 | ||
今後の国史教育 | 渡辺龍策 編 | 南光社 | ||
修正国史の眞精神 | 中野八十八 | 明治図書 | ||
重要教材を中心とせる 皇国日本史の研究. 上巻 | 中野八十八 | 新生閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1277975 | 昭和11 |
小学国史插絵の解説 | 及川亀治 | 厚生閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1277961 | 昭和13 |
小学生の国史 皇国の光 第一巻 | 松谷正治 | 修文館 | ||
情操的実践史観に基づく国体 感銘の国史教育 | 中野八十八 | 三友社 | ||
情操陶冶に基ける新国史の 眞髄と日本精神 上巻 | 中野八十八 | 新生閣書店 | ||
少年国史物語 平安時代後期、鎌倉時代 | 前田晁 | 早稲田大学 出版部 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1207123 | 昭和12 |
少年国史物語. 鎌倉時代後期、吉野時代 | 前田晁 | 早稲田大学 出版部 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1207131 | 昭和12 |
少年国史物語. 東京時代 | 前田晁 | 早稲田大学 出版部 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1207156 | 昭和12 |
少年国史上の外交関係 | 長井正治 | 大同館書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1717118 | 昭和12 |
上毛二千六百年史 | 平田修郎 | 清教社 | ||
女性二千六百年史 | 山口梧郎編 | 天泉社 | ||
臣格錬成の新国史教育 : 修正教科書に準拠せる | 中野八十八 | 伊藤文信堂 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1457136 | 昭和15 |
新講大日本史 第1巻 | 辻善之助 後藤守一 竹内理三編 | 雄山閣 | ||
新講大日本史 第7巻 | 阿部真琴 | 雄山閣 | ||
新講大日本史 第9巻 日本外交史 | 長坂金雄 編 | 雄山閣 | ||
新国史論叢 | 大森金五郎 | 吉川弘文堂 | ||
眞使命の国史教授と実際 | 相原 慧 | 文泉堂 | ||
尋常小学国史課程の新展開 | 大松庄太郎 | 明治図書 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1272043 | 昭和7 |
新制女子国史教科書 高等学校上級用 | 佐藤小吉 | 東洋図書 | ||
神聖日本史 | 沖野岩三郎 | 恒星社 | ||
新訂小学国史の指導精神. 高2 | 北垣恭次郎 | 明治図書 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1149616 | 昭和12 |
青少年国史 第一巻 | 飯塚重威 | 三井出版商会 | ||
素描祖国の歴史 | 清水三男 | 星野書店 | ||
大衆二千六百年史 | 岡 成志 | 民潮社 | ||
大日本建国史 | 勅語御下賜 記念事業部 | 勅語御下賜 記念事業部 | ||
地政論的新考日本史 | 前田虎一郎 | 二松堂 | ||
天皇と国史の進展 | 中村直勝 | 賢文館 | ||
天皇二千六百年史 | 山口梧郎 編 | テンセン社 | ||
なかつくに 肇国史詩 | 加藤一夫 | 竜宿山房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1128942 | 昭和17 |
南進大日本史 | 森岡美子 | 春秋社松柏館 | ||
二千六百年史抄 | 菊池 寛 | 同盟通信社 | ||
日本史代の建設 | 中村 光 | 日本問題研究所 | ||
日本精神作興と国史教育 | 菊池秀男 | 高踏社 | ||
日本精神体現の国史教育 | 滋賀県師範学校 附属小学校 編 | 文泉堂書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1466316 | 昭和9 |
日本精神に立つ教壇上の国史 尋常 5学年 | 渋谷光長 | 啓文社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145438 | 昭和10 |
日本精神に立つ教壇上の国史 尋常 6学年 | 渋谷光長 | 啓文社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145444 | 昭和10 |
日本二千六百年史 | 大川周明 | 第一書房 | ||
日本の歴史 | 風間泰男 | 伊藤書店 | ||
北進日本史 :我らの北方 | 寺島柾史 | 霞ケ関書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1041721 | 昭和17 |
私の国史教授指導尋五 | 大久保馨 | 明治図書 |
一部のGHQ焚書は復刊されて、比較的手に入りやすくなっています。電子書籍化されているものもありますが、(国立図書館コレクション)と表示があるのは、「国立国会図書館デジタルコレクション」の画像がそのまま用いられています。
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ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。
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