『昭和天皇独白録』は、昭和天皇が戦前・戦中の出来事に関して昭和二十一年(1946年)に側近に対して語った談話をまとめた記録だが、その冒頭に書かれていることは非常に重要なことである。
大東亜戦争の遠因
(『昭和天皇独白録』文春文庫p.24-25)
この原因を尋ねれば、遠く第一次世界大戦后の平和条約の内容に伏在してゐる。日本の主張した人種平等案は列国の容認する処とならず、黄白の差別感は依然存在し加州移民拒否の如きは日本国民を憤慨させるに充分なものである。…
かゝる国民的憤慨を背景として一度、軍が立ち上がつた時に、これを抑えることは容易な業ではない。
加州というのはアメリカのカリフォルニア州のことで、アメリカにおける排日運動はここから始まっている。
昭和天皇はこの戦争の遠因は人種問題にあったと考えておられると理解して良いが、このような視点は天皇陛下だけのものではなく、当時のマスコミや論壇もそのような論調が多かったようだ。しかしながらこのような「民族戦」という視点は、戦後になってわが国の歴史の記述からスッポリと欠落してしまっているように思われる。
GHQが没収し廃棄処分にした書物のリストにはそのような本が多数存在する。例えば、宮田光雄 著『有色民族の復興と其経済的自決』の冒頭にはこう記されている。
今から四百年ほど前までは、ヨーロッパよりアジアの方が、精神的にも物質的にも、文化の程度が高かったのである。すなわちインドの如きシナの如き、文明の古さに於いて、またその高さにおいて、はるかにヨーロッパ諸国の上に秀でておったことは言うまでもない。わが日本の如きも、決してヨーロッパ諸国に劣るものではなかったのである。しかるにその欧米の白人諸国が、わずか四百年の間において、遂にアジア、アフリカ、アメリカなどの有色人種の国々を超越して、文化の程度を向上せしめ、物質的享楽をほしいままにし、すべての人間的欲望を満足せしめるような、いわゆる富強の国となったのは何故であるか。
一体彼ら白人は、このごとき優越の地位に立つについて、如何なる精神的及び顕在的の根拠を有したか。精神的の事はしばらく置いても、その経済的の実力を涵養すべき自給自足の資源と市場とを充分に有したかと言うに決してしからず、彼らの物欲飽満と生活向上とは、大半その基礎を有色人種の国に対する侵略と搾取に置いているのである。すなわちその生活を豊かにし、文化を進めた資源と市場とは、半ば以上これをヨーロッパ以外の有色民族の国々に求め、これを侵略してその資源を奪取し、その比制服民族に対して自己の生産品を高価に押し売りすることによって、得たる成果である。すなわちこの経済的基礎に立って、その精神的文化も発達史、その侵略的勢威によって産業も武力も進展したものである。つまり欧米白人の今日の文化は、全世界の有色民族の犠牲において築き上げられたる高塔であって、換言すれば有色民族よりの借物であり、仮設の富強である。ゆえにその踏台となっている有色民族が動揺し始め、反抗し台頭するならば、その高塔は傾いて倒れざるを得ない。それは丁度ピザの斜塔の如く、重心が基底より外に出ておらぬために助かっているけれども、言うが如く地盤が次第に陥没しつつあるのならば、それは次第に倒壊に向かって進みつつあるものと言わざるを得ないのである。
宮田光雄 著『有色民族の復興と其経済的自決』猶興書院 昭和12年刊 p.1~2
戦後になって日本人に与えられた歴史においては、わが国が「侵略者」として描かれているのだが、戦前・戦中に於いては世界中で欧米の植民地でなかった国はわが国とタイとエチオピア程度に過ぎなかったことを知るべきである。世界の歴史に照らして考えれば、どちらを侵略者と呼ぶべきなのか。
わが国はいまだに戦勝国にとって都合の良い歴史叙述が主流であるが、十六世紀以降わが国は何度も西欧に侵略される危機を乗り越えてきたのである。戦後に出版された史書の多くはこのような史実を採り上げず、説得力の乏しいものになっている。戦勝国にとって都合の良い歴史では、資源が乏しく貧しいわが国が、なぜ第二次大戦に参戦したのかという肝心なことがよくわからない。
下記のリストは、GHQが焚書にした書物のリストのうち、タイトルに「民族」という文字を含むものを抽出したものである。全てが「白人対有色民族」という視点で書かれているわけではないが、多くがそのような視点で書かれていると思われる。
全部で102点あるが、そのうち41点は「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。興味のあるタイトルの書籍を、いくつか覗いていただければ幸いである。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL | 出版年 |
アジア周辺民族史 | 竹尾 弌 | 今日の問題社 | ||
亜細亜民族起つ | 中平亮 | 東洋研究会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1445187 | 昭和7 |
アジア民族興亡史観 | 松本君平 | アジア青年社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1459164 | 昭和18 |
亜細亜民族と太平洋 | 松本悟朗 | 誠美書閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1273685 | 昭和17 |
アジア民族の中心思想. 印度篇 | 高楠順次郎 | 大蔵出版 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1230076 | 昭和11 |
アジア民族の中心思想. 支那・日本篇 | 高楠順次郎 | 大蔵出版 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040365 | 昭和13 |
アメリカ民族圏 | 稲原勝治 | 竜吟社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438890 | 昭和18 |
異民族の支那統治史 | 東亜研究所 編 | 大日本雄弁会 講談社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1042382 | 昭和19 |
印度の民族運動 | 総合印度研究室編 | 総合印度研究室 | ||
印度民族運動史 | 加藤長雄 | 東亞研究所 | ||
印度民族論 | 堀 一郎 | アジア問題研究所 | ||
美しき民族 | 秦 賢助 | 忠文館書店 | ||
永遠の民族 | ヘルマン・ゲーリング | 青磁社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1044832 | 昭和16 |
回教民族運動史 | 陳 捷 | 照文館 | ||
海洋地理学民族と制海権 | ヨーゼフ・メルツ | 科学主義工業社 | ||
科学と民族 | 浦本淅潮 | 人文書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1227908 | 昭和12 |
斯くして我が日本民族は 世界を統一する | 井頭利栄 | 国粋大衆党 | ||
建国の精神と 日本民族の覚悟 | 池田秀雄, 小磯国昭 共述 | 松山房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1098125 | 昭和7 |
興亜の理念と民族教育 | 由良哲次 | 小学館 | ||
皇道本義大和民族の 生活原理 | 希聲莊 述 | 希聲莊 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10297653 | 昭和14 |
国体と民族 | 中山太郎 | 東洋堂 | ||
国民党支部の教育政策 特にその民族主義的傾向を 中心として | 東亞研究所 | 東亞研究所 | ||
指導者民族の優生学的維新 | 池田林儀 | 日本出版社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1064564 | 昭和17 |
食糧と民族 | 後藤興善 | 成史書院 | ||
聖なる大和民族の使命 | 安岡義隆 | 豊和会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1092595 | 昭和11 |
青年よ起て : 世界変局と大和民族の使命 | 松岡洋右 | 日本思想研究会 印刷所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1447743 | 昭和8 |
世界新秩序の建設と 枢軸民族の使命 | 工藤長視 | 鉄十字社 | ||
世界変局に処する 我が大和民族 | 鈴木貞一 | 目黒書店 | ||
戦争と日本民族 | 山上八郎 | 文明社 | ||
創造の民 日本民族 | 豊澤豊雄 | 青年書房 | ||
対英戦と被圧迫民族の解放 | 小倉虎治 | アジア問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268185 | 昭和14 |
大東亜の原住民族 | 日本拓殖教会編 | 岡倉書房 | ||
大東亜の民族と宗教 | 東京帝国大学 仏教青年会 | 東京帝国大学 仏教青年会 | ||
大東亜民族誌 | 東亜経済懇談会 | 鱒書房 | ||
太平洋民族誌 | 松岡静雄 | 岩波書店 岩波書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1453694 | 昭和16 |
大陸民族の風韵 | 勝又治郎 | 黄河書院 | ||
中亜民族共和国事情 カサクスタン紀行 | 中央アジア研究会 | 中央アジア研究会 | ||
中国民族自救運動之 最後覚書 | 梁漱溟 | 大亜細亜建設社 | ||
ツラン民族運動とは何か : 吾等と血をひくハンガリー | 今岡十一郎 | 言海書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1266858 | 昭和10 |
ツラン民族圏 | 今岡十一郎 | 竜吟社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460150 | 昭和17 |
天照民族と世界維新 | 権藤重義 | 平凡社 | ||
天孫民族よ神道に帰れ | 吉良宇治那理 | 河原資郎 | ||
東亜民族論 | 白柳秀湖 | 千倉書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1270004 | 昭和16 |
東亜民族教育論 | 海後勝雄 | 朝倉書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1277210 | 昭和17 |
東亜民族の指針 皇道日本の実体 | 東亜研究会 編 | 大亜細亜社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1057095 | 昭和14 |
東洋に於ける素朴主義の 民族と文明主義の社会 | 宮崎市定 | 富山房 | ||
ナチスの民族教育 | 安藤堯雄 | 弘学社 | ||
南方の民族 | 羽生操 | 興風館 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1453161 | 昭和19 |
南方民族運動 | 満鉄東亜経済 調査局 | 大和書店 | ||
南方民族運動史 | 片山真吉 | モダン日本社 | ||
南洋の文化と土俗 : 東印度民族誌 | 宮武正道 | 天理時報社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460063 | 昭和17 |
南洋民族誌 | 沢田 謙 | 日本放送協会 | ||
西亜細亜民族 | 岡島誠太郎 三島安精 内藤智英 | 六盟館 | ||
日本民族精神 | 松尾小三朗 | 帝国経済聯盟 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1271171 | 昭和10 |
日本民族志操史 | 和田宗八 | 中文館書店 | ||
日本民族信念 | 原房孝 | 東文書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1024061 | 昭和13 |
日本民族と新世界観 | 小川弥太郎編 | 葛城書店 | ||
日本民族の思想と信仰 | 田中治吾平 | 会通社 | ||
日本民族の根本自覚 | 多賀宗之 | 朝光会本部 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1029746 | 昭和8 |
日本民族の海外発展 の跡を観る | 梁瀬春雄 | 天元書房 | ||
日本民族の新目標 | 国際思想研究所 | 国際思想研究所 | ||
日本民族の政治哲学 | 藤沢親雄 | 巌松堂書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1246541 | 昭和12 |
日本民族の大陸還元 | 金子定一 | 千倉書房 | ||
日本民族の力 | 田中寛一 | 蛍雪書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460145 | 昭和17 |
日本民族理想 | 西村真次 | 東京堂 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1466425 | 昭和9 |
日本民族論 | 白柳秀湖 | 千倉書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1461375 | 昭和17 |
ニユーギニアの自然と民族 | 太平洋協会 編 | 日本評論社 | ||
比律賓群島の民族と生活 | 山本惣治 | 南方出版社 | ||
緬甸の自然と民族 | 中島健一 | 養徳社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1454980 | 昭和19 |
ビルマ民族解放録 | 高田一夫 | 新小説社 | ||
武士道と日本民族 | 花見朔己 | 南光書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1039557 | 昭和18 |
凡人の完成 大和民族と本然自然 | 近藤常治 | 中央仏教者 | ||
マレーの民族 | 酒井寅吉 | 興亜日本社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438876 | 昭和17 |
満州民族独立の史的論拠 | 北川鹿蔵 | 日本ツラン協会 | ||
南アジア民族政治論 | 大岩誠 | 万里閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1459137 | 昭和17 |
民族 | 小松堅太郎 | 目黒書店 | ||
民族解放の歌 | 津川主一 編 | 敬文館 | ||
民族科学の本義 | 池見 猛 | 東亞出版社 | ||
民族結合の在り方 | 山本勝之助 | 聖紀書房 | ||
民族、国家、経済、法律 | ゴットル | 白揚社 | ||
民族国家と世界観 | 由良哲次 | 中文館町店 | ||
民族国家の建設 | 平井正路 | 恒星社書店 | ||
民族戦 | 長野 朗 | 柴山教育出版社 | ||
民族大東亜史 | 佐伯泰雄 | 七丈書院 | ||
民族闘争新論 | 鈴木憲久 | 一元社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1045099 | 昭和19 |
民族闘争と文化戦 | 野一色利衛訳 | 第一公論社 | ||
民族と世界史 | 小松堅太郎 | 一条書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1044675 | 昭和18 |
民族と歴史哲学 | 宮島 肇 | 培風館 | ||
民族の意思 | 戸川行男 | 目黒書店 | ||
民族農政学 | 小野武夫 | 朝倉書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1065954 | 昭和18 |
民族の科学 | 杉田直樹 | 三州閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1451332 | 昭和17 |
民族の勝利 | 大野 慎 | 不明 | ||
民族の闘魂 | 谷口栄業 | 日の出書院 | ||
民族問題概説 | 長野 朗 | 小学館 | ||
民族優生哲学 | 芝山 重 | 芝山 重 | ||
有色民族の復興と 其経済的自決 | 宮田光雄 | 猶興書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1463875 | 昭和12 |
有色民族の更生 | 水島彦一郎 | 猶興書院 | ||
猶太民族と世界制覇の陰謀 | 松村吉助 | 富山房 | ||
蘭印の資本と民族経済 | 浜田恒一 | ダイヤモンド社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1276280 | 昭和16 |
領土、民族、国家 | ルドルフ、 チェレーン | 三省堂 | ||
歴史より見たる 大東亜諸民族の特性 | 亜細亜文化研究所 編 | 亜細亜文化研究所 | ||
歴史を創る日本民族 | 石坂平 | 協栄出版社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267348 | 昭和17 |
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ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。
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