最初に昭和十二年に出版された平野零児 著『近代戦の正体』という本の一節を紹介したい。文中の「世界大戦」というのは、今でいう「第一次世界大戦」のことであるが、非常に重要なことが記されている。
世界大戦は、武力のほかに「見えざる力」思想のプロパガンダ戦があることを教えてくれた。
大戦の終末とともに、武力戦は一応完了したようであったが、各国とも平時の思想戦の必要を大いに感じて、プロパガンダによって「見えざる力」の戦いをさらに熾烈なものとした。
物の相牽制し合うときは、その力は弱い。しかし、各国とも旗印こそ違え、飢えたる狼のように、欧米の大戦参加国は、牙を鳴らして、東洋、殊に日本にとびかかったのである。
日本へ大戦末期から大戦後にリベラリズム、デモクラシー、ソシャリズム、コミュニズム、などの思想がどんどん入ってきて、思想の氾濫時代を来たしたが、これは白人列強が日本の内部衰弱を企てた現れであるといわれている。「見えざる力」を武器として、思想の侵略をはかった戦争であった。
五・五・三、パリティの海軍軍縮会議、国内に於ける師団の縮減、連盟脱退に対する措置、ソ連の第二次五か年計画と極東軍備の拡充等々、さらにこれを分解すると、
日本が満州事変後満州独立に力を籍(か)して日満提携するのに対し、日本は連盟規約、不戦条約、九カ国条約その他国際条約の侵犯者であって、武力をもってする侵略者であることを、国際連盟その他によって、世界に宣伝して日本を孤立に陥れようとする一方、日本の商品の正当な販路拡張を、不正なダンピングによる各国の既得権の侵害だと騒ぎ立てて日本商品のボイコットを行い、経済封鎖を行って、産業の発展を阻止しようとし、あるいは海外発展を嫌って移民禁止乃至は制限を加えようとするに至った。日支間の紛争を利用して各国はここに有力な立場をシナに於いて作らんとして、いたずらに支那に白い歯を見せている。このことは支那をしてますます抗日、排日を増長させる素因となっている。
こうしたことが日支戦争、日米開戦、日ソ開戦の渦中に叩き込まんとする原動力をなすものであって、第三インターナショナル*の策謀とともに、日本は台風の最も甚だしいところにあった。そこに今度の支那事変は起こったともいい得る。幸い日独伊の防共協定が成立した。これによって世界の他の列強は、欧州の二大強国の件勢力によって、自然極東への一斉射撃は、力を分散させねばならなくなったのである。
思想戦の重要部分を占めるものにスパイがある。スパイ戦の戦時に必要なことは、判りきったことであるが、近代戦が平時も一種の準戦時とするなら、スパイは平和時代が一番活躍するときである。各国のあらゆる事情が手にとるが如く、鏡にかけるように判っていることが、今日の国際情勢では絶対に必要なことであって、大戦後各国はこの方面に全力を注いである。恐るべきスパイ網は世界に蜘蛛の巣のように張られ、見えざるアンテナによって、各国ともそれぞれの国の内情を受信しているのである。…
*第三インターナショナル:1919年レーニンらの指導の下、モスクワに創設された国際共産主義運動の指導組織。コミンテルン。
(平野零児 著『近代戦の正体』六人社 昭和12年刊 p.69~71)
各国の情報戦の存在を知ることで、わが国が第二次大戦に参戦せざるを得なくなった事情が見えてくるのだが、GHQは近現代の戦争における欧米諸国の情報戦についての記述を、戦後の日本人に読ませないようにした。それはなぜなのか。
もしこのような叙述を認めれば、戦後の日本人に洗脳しようとした「自虐史観」が成り立たなくなることは、少し考えれば誰でもわかる。各国の情報戦・プロパガンダ戦を見抜いていた戦前の識者の主張を読むことは、新型コロナ禍で大国の情報戦・プロパガンダ戦が熾烈化している今こそ、日本人に必要なことではないだろうか。
GHQが焚書処分した著作リストの内、タイトルに「近代」「現代」を含む書籍は全部で63点で、うち26点が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。気になるタイトルや著者の作品があれば覗いていただくとありがたい。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL | 出版年 |
近代海軍と海戦 | 柴田賢一 | 博文館 | ||
近代海戦 | 毎日新聞社 編 | 毎日新聞社 | ||
近代科学戦 | 松平道夫 | 日本公論社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1440706 | 昭和15 |
近代思想の動向と日本憲法 | 森吉義旭 | 青年教育普及会 | ||
近代支那財政史 | 柏木象雄 | 教育図書 | ||
近代支那社会 | 和田 清 編 | 光風館 | ||
近代政治思想と皇道 | 藤沢親雄 | 青年教育普及会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1228417 | 昭和12 |
近代戦争論 | 神田孝一 | 学而書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1464317 | 昭和9 |
近代戦争と森林 | 淵 通義 | 雄生閣 | ||
近代戦と医学 | 竹村文祥 | 山雅房 | ||
近代戦と機械化国防 | 長谷川正道 | 博多成象堂 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1060046 | 昭和19 |
近代戦と航空母艦 | 近藤英次郎 | 啓徳社出版部 | ||
近代戦と国防技術 | ハウゼル 編 | 八元社 | ||
近代戦と日本刀 | 本阿弥光遜 | 玄光社 | ||
近代戦とプロパガンダ | 小松孝彰 | 春秋社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1461956 | 昭和12 |
近代戦の正体 | 平野零児 | 六人社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1109729 | 昭和12 |
近代独逸哲学思想の研究. 第2巻 | 越川弥栄 | 修学館 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1038955 | 昭和19 |
近代独逸に於ける 政治教育の発展 | エドウアルト・シュプランガー | 国民精神文化研究所 | ||
近代日本軍事史 | 松下芳雄 | 紀元社 | ||
近代日本の大陸発展 | 市古宙三 | 蛍雪書院 | ||
近代武人百話 | 金子空軒 | 陸軍画報社 | ||
“撃滅”の哲学 : 近代戦の本質的考察 | 多田憲一 | 東文館 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460255 | 昭和18 |
月刊 近代日本軍事史 | 松下芳雄 編 | 田中誠光堂 | ||
現代外交の動き | 稲原勝治 | 福田書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268744 | 昭和10 |
現代濠州論 | 伊藤 敬 | 三省堂 | ||
現代国防経済論 | エハンスト・ホッホ | 育生社 | ||
現代国家新原理 | 天川信雄 | 明善社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1451415 | 昭和14 |
現代思想戦史論 | 野村重臣 | 旺文社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1062859 | 昭和18 |
現代思想の歴史的批判 | 中村孝也 | 青年教育普及会 | ||
現代人の神道 | 溝口駒造 | 大日本鶏鳴会 | ||
現代政治の革新論 第二巻 | 堀 真琴編 | 昭和書房 | ||
現代青年の覚悟 | 小住七五三 | 清水書房 | ||
現代戦争読本 | 長野 朗 | 坂上書店 | ||
現代独逸の教育 | テオドル・ウィルヘルム ゲルハルト・グレエフ | 日本青年教育会 出版部 | ||
現代日本外交史 | 丸山国雄 | 三笠書房 | ||
現代日本対外戦史 | 鈴木艮 | 三笠書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460295 | 昭和16 |
現代日本と世界の動き | 徳富猪一郎 | 民友社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268736 | 昭和6 |
現代日本の教育を どう考へる | 渡部政盛 | 啓文社書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1457300 | 昭和9 |
現代の印度 | 日本拓殖協会 編 | 越後屋書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1044237 | 昭和18 |
現代の国防と産業 | 石川戒造 | 学而書院 | ||
現代の政治 | 関口泰 | 選挙粛正中央聯盟 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1282235 | 昭和15 |
現代の政治常識 | 大平進一 | 同文館 | ||
現代の問題としての 復古思想 | 竹岡勝也 | 目黒書店 | ||
現代名士大雄弁大獅子吼集 | 青年雄弁会 編 | 春江堂 | ||
現代用兵論 | 酒井鎬次 | 日本評論社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1454087 | 昭和18 |
国史の華. 千草の巻(近代) | 中村孝也 | 三学書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1717414 | 昭和19 |
御即位記念: 大日本現代有名集 | 太田弥作 編 | 国際良書刊行会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1112289 | 昭和4 |
思想戦 : 近代外国関係史研究 | 吉田三郎 | 畝傍書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1062862 | 昭和17 |
史的考察の帰結としての 現代日本教育の革新 | 新崎寛直 | 新崎寛直 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1275337 | 昭和10 |
辞典入り 現代軍人書翰教典 | 帝国軍事教育社 編 | 帝国書房 | ||
新時代の現代口語 青年新書翰文 | 帝国通信調査会編 | 岡村書店 | ||
人物近代日本軍事史 | 渡辺幾治郎 | 千倉書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462676 | 昭和12 |
石油、近代戦、内燃機関 | 中根良介 | 海と空社 | ||
戦争史. 世界現代篇1 | 伊藤政之助 | 戦争史刊行会 | ||
第二次大戦と近代戦略 | 柴田賢一 | 博文館 | ||
太平洋近代史 | 仲小路彰 | 戦争文化研究所 | ||
現代政治の課題 | 堀 真琴 | 昭和書房 | ||
独立運動をめぐる 現代印度の諸情勢 | 福井慶三 | フタバ書院成光館 | ||
日本古来の兵法と現代戦 | 舟橋 茂 | 成武堂 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460442 | 昭和17 |
米英研究 : 文献的・現代史的批判論策 | 松田福松 | 原理日本社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1275935 | 昭和17 |
兵器考 近代篇 | 有坂鉊蔵 | 雄山閣 | ||
禊祓と現代生活 | 溝口駒造 | 錦正社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040192 | 昭和19 |
室伏高信全集. 第10巻 (結婚の書・女性の書・ 現代文明講話) | 室伏高信 | 青年書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1232009 | 昭和12 |
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ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。
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