戦前・戦中に出版された時代別日本史シリーズ等

徳富猪一郎『近世日本国民史』シリーズ

　戦前には日本史に関して多くのシリーズ本が出版されているようなので、どんな本が出ているかリストを作成しようと思い、国立国会図書館デジタルコレクションの検索機能を利用してネット公開されている本を拾い集めてみると、思いのほか多くの本が見つかった。
　徳富猪一郎(蘇峰)の『近世日本国民史』は膨大な史料を駆使して安土桃山時代以降の歴史を綴った百巻のシリーズだが、こんなすごい本は今後二度と出てこないのではないだろうか。もしこれだけのことを研究して書ける人物が現れたとしても、こんな本を出せる出版社が出てこないと思うのだ。なぜなら、何かを調べる時に昔だったら図書館に行って関係のありそうな本を漁ってみるしか方法がなかったことが、今では自室でネット検索することにより膨大な情報収集が可能になっている。そのため、詳しく丹念に調べ上げられた分厚い本のニーズは低下していくばかりで、出版社としても本を世に出しても販売冊数は少なく、採算をとることが難しくなるばかりなのだ。

　特に歴史分野に関しては、国立国会図書館デジタルコレクションで戦前・戦中に出版された本格的な研究書が数多くネット公開されていることは、非常にありがたいことである。旧字旧かなで読みにくい本が多いのはある程度仕方がないが、戦前・戦中の歴史書は詳しく書かれている本が多いだけでなく、戦後のわが国における言語空間では封印されているような史実が満載の本を、探せば結構見つかることが最大の魅力なのである。

　例えば『近世日本国民史　第六巻　豊臣氏時代　乙編』には、今の教科書には絶対に書かれていない重要なことが典拠とともに記されている。以下の文章はパゼー「日本キリスト教史」という本の付録に採録されているもので、スペイン首都のマドリッドにある歴史学士院の文庫に残されているものだという。

　葡萄牙(ポルトガル)の商人は勿論、其の水夫、厨奴（ちゅうど）等の賤しき者迄も、日本人を奴隷として買収し、携へ去つた。而（しか）して其の奴隷の多くは、船中にて死した。 そは彼等を無闇に積み重ね、極めて混濁なる裡（うち）に篭居せしめ、而して其の持主等が、一たび病に罹るや――持主の中には、葡萄牙（ポルトガル）人に使役せらるる黒奴も少なくなかつた――此等の奴隷には、一切頓着なく、口を糊する食料さへも、與へざることがしばしばあつた爲である。此の水夫等は、彼らが買収したる日本の少女と、放蕩の生活をなし、人前にて其の醜悪の行ひを逞しうして、敢て憚かる所なく、其の澳門（マカオ）歸航（帰航）の船中には、少女等を自個の船室に連れ込む者さへあつた。

(『近世日本国民史　第六巻　豊臣氏時代　乙編』p.384～385)

　なんと、日本人が奴隷として売られていたというのだが、一部はポルトガル人の奴隷の水夫らが性奴隷として日本少女を買っていたというのだから、よほど安く売られていたと考えて良いだろう。
　徳富蘇峰は、日本側の記録も読者に案内している。秀吉の祐筆であった大村由己(おおむらゆうこ)という人物が、秀吉の九州平定の時に同行して「九州御動座記」という記録を残している。そこには秀吉が伴天連追放令を出した経緯がこう記されている。

　今度伴天連等能き時分と思候て、種々様々宝物を山と積(つみ)、いよいよ一宗繁盛の計略を廻らして、すでに後戸(五島)、平戸、長崎などにて、南蛮舟つきごとに完備して、その国の国主を傾け、諸宗をわが邪法に引き入れ、それのみならず日本人を数百男女によらず、黒船へ買取、手足に鎖を付け、船底へ追入れ、地獄の呵責にもすぐれ、その上牛馬を買い取り、生きながら皮をはぎ、坊主も弟子も手づから食し、親子兄弟も礼儀なく、ただ今世より畜生道の有様、目前之様に相聞候。見るを見まねに、その近所の日本人、いずれもその姿を学び、子を売り親を売り妻女を売り候よし、つくづく聞しめし及ばれ、右之一宗御許容あらば、忽日本外道之法に成る可き事、案の中に候。然らば仏法も王法も、相捨つる可き事を歎思召され、忝も大慈、大悲の御思慮を廻らされて候て、即伴天連の坊主、本朝追払之由仰出候。

(『近世日本国民史　第六巻　豊臣氏時代　乙編』p.386～387)

　手足に鎖を付け、船底に追い入れるような奴隷の扱い方は、黒人奴隷の場合と全く同じである。秀吉はこのまま彼らにキリスト教布教を許容していたら、わが国が「外道の法」に陥れることを歎き、伴天連を追放することを決断したと大村由己が書いているのだが、このような史料が戦後出版されたほとんどの歴史書では無視されているのである。

　日本人奴隷の規模や行先、彼らが売られた背景などは私の著書にまとめているので繰り返さないが、興味のある方は読んで頂ければありがたい。アマゾンプライム会員の方は、電子書籍版なら読み放題で無料で読むことが可能である。

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歴史に関する戦前戦中の著作に今も読む価値があるものが存在する

　話を国立国会図書館デジタルコレクションの話に戻すが、戦前・戦中の本には、戦後に発見された史料などの研究成果が反映されておらず古い内容であることは否めないが、それを差し引いても読む価値のある本がかなりある。少なくとも歴史や世界情勢の分析などは、今読んでも、なるほどと思わせる本が少なくないのである。
　最近になってようやく第二次世界大戦におけるコミンテルンの工作に注目する研究がなされるようになってきたが、そのような世界情勢分析は戦前から多くの研究者によってなされていて多くの本が出版されていた。国立国会図書館デジタルコレクションで、「コミンテルン」「第三インター」「国際共産主義」といったキーワードで検索すると、二百点以上の本がネットで読むことが可能になっている。もちろん読む価値のない本も少なくないが、中には今でも通用する分析を行っている本もある。その点についてはいずれこのブログで書くことにしたい。

　戦前・戦中の歴史書と、戦後の一般的な歴史書を読み比べるとすぐにわかるのだが、わが国が外国と対立した時代については戦後になって書き換えられている。例えば元寇や倭寇、秀吉については、今の教科書とは異なるニュアンスで書かれている本が多い。どちらが正しいかは、両方を読んでどちらに説得力があるかを自分で判断するしかないだと思う。
　このブログで何度も書いているように、いつの時代もどこの国でも、勝者が勝者にとって都合の良い歴史を描き、世界に広めようとする。戦後になってわが国の歴史は、多くが戦勝国によって書き換えられたままなのである。

ネットで読める日本史時代別シリーズ本など

　以下のリストは、「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている日本史時代別シリーズ本などである。本のタイトルが太字になっていて*印がある者はGHQ焚書である。また著者名が太字になっているのは、歴史分野に限らず、著書がGHQにより1冊以上焚書処分を受けたことを意味している。GHQがどのような著者の本を嫌い、どのような時代の本を没収・廃棄したかを確認していただければありがたい。

　また、前回の「デジタル図書館」で記したが、著作権保護期間満了でネット公開された書籍が、急にネット公開停止になることがある。『近世日本国民史』シリーズに関して言うと、第1巻、第9巻、第10巻、第22巻は以前は読む事が出来たのだが、今は何故か公開停止になっている。徳富蘇峰が生前に出版した76冊については著作権保護期間が満了しているはずなのだが、こういうケースは他にもよくある話で、酷い場合には、一部のページにアクセスできないようにされていたり、一部のページが抜き取られていることもたまに存在する。文化庁の中に、国会図書館の公開基準を無視して、一部の内容の公開を封じようとしている勢力が存在しているとしか考えられないのである。

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　前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年の4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しました。

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