戦前・戦中の知識人が若い世代に伝えたかった中国のことなど～～児童向け、青少年向けのシリーズ本を読む

　戦前、戦中に出版された本は、児童書や青少年向けに著されたものでも結構レベルの高い本が多い。以前このブログで歴史シリーズや偉人伝シリーズを紹介したが、今回はそれ以外のジャンルで、児童向け青少年向けに出版されたシリーズ本などを集めてみた。

　今回紹介したいのは新潮社の「新日本少年少女文庫」シリーズの一冊である『国の護り』という本の一節だが、著者の福永恭助は海軍少佐で退役し、少年向き海洋小説や戦記小説、評論など数多くの著作を残していて、内12点がGHQによって焚書処分されている。
　『国の護り』はGHQ焚書ではないが、中学一年生の少年に、軍隊や国防についてわかりやすく話しかけるスタイルで記されており、誰でも読める本である。この本には、日本人が苦手とする宣伝戦についてこんな会話が記されているのだが。文中の「事変」というのは「支那事変(日中戦争)」を意味している。

「宣伝上手の支那ですからね」
　星野先生は、万事呑み込んだようにいった。僕はきいてみた。
「支那って、そんなに宣伝が上手なんですか？」
「えゝ、勝彦さん。支那人というのは、生まれつき宣伝上手に出来ているんですよ。」と前置きして、後備の軍医殿がいった。「例えば、ここに支那人同士の喧嘩があったとしますよ。すると、日本人ならすぐに拳骨が飛んで行くところを、先生たちは一向撲(なぐ)り合いをしない。撲り合いをしないで、その代わりに、見物人に向かってしきりに訴えるんです。」
「何を訴えるんです？」
「私の方はちっとも悪くない。ところが相手はこれこれしかじかの悪いことをしたといって訴えるんです。つまり宣伝戦です。」
「そんなことを言ってる暇があったら、早い事グワーンと横っ面を張り倒しちゃえばいいのに。」
「それが日本流なんですよ。こんどの事変だって、日本はその流儀でやっています。ところが相手の支那ときたら、撲るのは後回しにして『私の方は悪くない。ところが日本はこんな悪いことをした。』ということを第三国に向かって頻りに訴えている。そしてそれが大いにモノを言っているのです。例えば、アメリカで日本の評判がバカに悪いのなぞも、この支那の宣伝が幅を利かしているからです。」

「それについてはこんな話があります。」と、海野おじさんも側からいった。「上海戦のときに、アメリカの新聞に『日本軍は野蛮だ、復旦大学や、持志大学や、愛国女塾といったような、学問に関係のある建物を選(よ)りに選って爆撃する。』という記事が出ていたそうです。無論支那人の投書かなんかでしょうが、それを読んだアメリカ人は大いに憤慨したということです。というのは弱い方に同情するのは人情であるということの外に、そうした支那の立派な学校はたいていロックフェラー財団といったようなものが建てたので、つまりアメリカのお金で建てたものだからです。ところがこの事柄をもう一皮めくって調べてみると、日本が選りに選って学校を攻撃したのは、そうした学校を選んで支那軍が立て籠っていたからなのです。それならなぜ支那軍がそんなところに立て籠っていたかというと、こうした建物の方がほかの家よりも頑丈に出来ているのと、それからいろんな設備もいいし、また多勢(おおぜい)入れる。そんなわけで、もとはなるほど学問に関係のある建物だったかも知れないが、日本軍がいったときには立派な敵の陣地になっていたというわけです。敵の陣地ならこりゃ当然攻撃しなければならない。が、そんなことはアメリカ人は御存知ないから、ただもう『日本軍は怪しからん。日本人は野蛮だ。』と決め込んでしまうのです。その外インチキ写真やインチキ映画をこしらえて、日本軍を陥れたのはいくらでもあります。」

「アメリカにいる日本の大使館員や領事官員、それから在留日本人と言ったような連中は、いったい何をしていたんでしょうね。」
　そういって、星野のお父さんは歯ぎしりしている。
「とにかく宣伝戦では、日本は支那に先手を打たれてばっかしです。がよく考えると日本人の宣伝下手は、日本人の性質からきてるんじゃないでしょうか？　日本人には、自分のことを宣伝するのは潔しとしないといった風なところがありますからね。」
「そこなんですよ。私が初めに、支那人というものは、生まれつき宣伝上手に出来ていると申したのは。」

　星野さんも海野おじさんも、どうやら日本人を生まれつき宣伝の下手な人種と決めてしまったようだった。が僕はこの意見には不服だった。日本にだって、薬屋なんかに、なかなか宣伝上手なのもある。そんなことは一概にいえたもんじゃない……と思ったが、大人同士の話だから黙って聴いていた。

(福永恭助 著『国の護り』新潮社 昭和14年刊　p.176～179)

　　日本人は、「嘘つきは泥棒の始まり」「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれる」という諺があるとおり、嘘はついてはいけないものだということが子供のころから染みついているのだが、こういう考え方は「嘘も百回つけば真実になる」「騙された方が悪い」と考える国を相手には全く通用しない。著者の福永恭助は、若い世代の人達に、これまで何度もこの国に騙され続けたことを伝えて、同じ過ちをして欲しくないという思いを伝えたかったのだろうが、戦後はこのような事実は忘れ去られてしまい、直ぐに反論すべき嘘話に何の反論もしない政治家を何人見て来たかわからない。嘘に対しては然るべき立場の政治家がすぐに反論しておかなければ、嘘の主張の方が正しいというメッセージを世界に発信していることになることが判っていないのが情けない。

　また、アルス社の「日本児童文庫」シリーズの一冊に鶴見祐輔 著『日本と世界』という本がある。支那の軍閥政治について書かれた第六章も面白いが、第七章の「軍隊と土匪」の一節を紹介したい。

　どうして兵隊をこしらえるかというと、そこは至極簡便なもので、たいていは農村でやるのですが、前もって資格と給料と検査日を書いた貼り紙を、方々にはっておきます。そしていよいよその日に、掛り官がやってきて…どんどんつれて行くのです。
　それはまだいい方で、戦争時になりますと、農村だけでは間に合わないから、大都会にごろごろしている連中を狩り集めて、兵隊の粗製乱造をやります。

『新兵募集』
なんて旗をおしたてて、そういう遊び人の集まっている辻などを練りまわすと、真面目に働くことの嫌な、なまけ者連中が、そのあとから、ぞろぞろついてまいります。これに服を着せ鉄砲を持たせると、一晩でとにかく形だけの兵隊ができ上るわけで、…それよりもっと手っ取り早く兵隊をつくる方法は、土匪(どひ)をそのまま軍隊に編入する方法であります。そのため四川省などでは、軍隊の半分以上は土匪上がりであったことなどもあります。

　ですから支那の兵隊には、もちろん、国民の義務なんて気の利いたものは薬にしたくもありません。むしろ一種の職業です。まあ、真面目な骨の折れる仕事の嫌いな、横着者の求める遊び人の仕事です。ところがその給料というのがだいたい月五元で、しかも食料は賃金の中から引き去られるというのですから、労働者としても、ずっと下等の労働者なみであります。

　そんな安い給料で、よく自ら進んで兵隊になるものがあるもんですね。……ところが兵隊になると、また他の商売ではえられぬ、役得があるのです。
　第一は鉄道のただ乗りです。それから無銭飲食です。まさかそれを公に許しているわけではありませんが、それを喧しく言うと、乱暴をしますから、たいていは泣き寝入りになってしまうのです。戦争のときなんか、間違っても代金を払うものではない。それが嵩じるとその次は掠奪であります。夜なかに民家を襲うのはまだしも、時には白昼堂々やることもあります。
　ところが兵隊にこんな乱暴をやられても、上官はそれを罰することができないのですから、いよいよもって厄介です。というのは、兵隊にきちきち給料を渡していないからです。政府からは一個師団に月約十万元ぐらい渡すことになっているのですが、大部分は師団長が失敬してしまい、それから順次旅団長、連隊長、大隊長というわけで、頭をはねていくうちに、いつしか兵隊にやる分は消えてなくなるわけです。そして兵隊に向かっては、
「どうも政府は軍費を渡さなくて困っちまう」
なんて、弁解するような始末です。ですから兵隊の方も、自分で勝手に金を取る工夫をして、あるいは悪い役人と腹を合わせて、じかに村々を押し回しては、税金と称して金を取ってくる。大きな店などで強請(ゆす)りをする。そしてアヘンの密売をするという訳であります。

　そこでいよいよ戦争ですが、どうせそうした根性の連中ですから、戦争に出て潔く名誉の戦死を遂げようなどと覚悟するはずがありません。
『激戦数日に亙って、ついに堅塁を抜いた』
なんて新聞に出ているときでも、死傷者はほんの数えるぐらい、それも逃げるときあわてて溝の中に落っこちたとか、馬に蹴られて骨を折った、何てのが多いので、最初の頃の戦争と来たら、戦争に出るというのに傘を差し、水たばこの大きなたばこを頸からぶら下げて三角形の旗指し物をかついで出かけたものです。そして朝も遅くなってから戦をはじめ、昼頃になると休んで、ゆっくり飯をたべてから二時ごろまで昼寝をして、それからまたぼつぼつ始めます。日が暮れれば、さっそくやめて寝てしまいます。そして翌日になってから、昨日のつづきをやりなおすというわけで、もちろん、夜襲なんていう乱暴なことは、決してやりませんでした。雨の降る日は、いうまでもなく休業です。
　もっとも敵も味方もこれですから、やっていけたものです。

　ところが近頃になると、大分様子が違ってきました。双方ともに夜襲もやれば突撃もします。山海関の戦いでは、両軍ともに三四万の兵が、一箇月以上も睨み合った末、一万あまりの死傷者をだして、支那戦争の記録を破ったものです。
　考えて見ると、死んだ兵隊こそいい迷惑で、おりから大洪水のあとで、失業しているところにもって来て、さぁ戦争だというから、やっといい仕事にありついたつもりで、兵隊に志願をし、いつもの戦争のつもりで出掛けて見ると、盛んに大砲の弾丸が飛んでくる。
「おや、こんなはずはなかったが」
と、さっそく逃げ腰であとを振り返って見ると、散兵線の後ろには、機関銃が据え付けて合って、うっかり逃げようものなら、ばらばらとやられます。進めば敵の弾丸が飛んで来る。いまさら後悔しても追っつかない。どうせ死ぬんなら、進んだ方がましだというので、双方已むを得ず奮戦したわけですが、支那の将軍連もなかなかうまい方法を考え付いたものです。

　ところで戦争に負けた連中、それから初めから兵隊にならなかった遊び人は何をするかというと、土匪になります。土匪も支那名物の一つで、今日支那全体では、百万もいるということであります。最も盛んな山東省辺りでは、土匪に捕まった人質の身代金だけでも、年々一千万元を超えるというから、怖ろしいことです。
　土匪というのは、満州でいう馬賊であります。その中には、三人五人と組を組んで、押し入り強盗をやっているけちなものもありますが、大きいのになると、一万人もの大きな団体で、まるで大軍隊のように行動するのもあるそうです。掠奪もやりますが、金持ちの主人や娘を捉えて、身代金を要求するというような方法もあります。
　なかにはまた、土匪のくせに、人民から税金を取り立てて生活ししているのもあります。揚子江の上流、四川省あたりでは、河を通行する民船から通行税をとります。こういう土匪は、その税金だけでやっているので、たとえ一万人もの団体をなしていても、決して旅客の荷物などには手を触れません。その代り、もしその通行税を払わないと、ひどい目に会います。
　また北支那の一部には、土匪が、その地の田地の持ち高によって、地租を申しつけるところもありました。それには、金高や納付の場所、期日などが書いてあって、これに応じないとすぐに掠奪にあうというわけです。

(鶴見祐輔 著『日本と世界』アルス社 昭和4年刊 p.54～60)

　少し前にこのブログで支那事変の際に支那軍の後方に督戦隊を置いて、逃亡しようとする兵士に銃を放って戦わざるを得ないように仕向けたことを書いたが、このような戦法が採用されたのは1920年代の後半の頃からのようである。

GHQ焚書に描かれた、支那事変(日中戦争)における支那軍の戦い方

当時の支那軍の兵力は世界最大規模であった 　小学生であった頃に実家の寺の世話方さんから少しだけ戦争の話を聞いたことがある。5分程度の短い話だったと思うが、実際に支那事変に行かれた方で「南京大虐殺なんかなかった。新聞は嘘を書いている」「支那兵...

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2021.05.15

　このような具体的に書かれた記録を読まないと、日中戦争がどのような戦争であったかを理解することは難しいと思う。

　戦前・戦中に児童や青少年向けに多くのシリーズ本が出版されているので、「国立国会図書館デジタルコレクション」で公開されている本を集めてリスト化してみた。
　タイトルに*印があり太字となっているのがGHQ焚書で、著者名が太字になっているのは、著作のうち一冊でもGHQ焚書に指定されていることを意味している。

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　前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年の4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しました。

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『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』の感想文紹介

【Sさんの感想文】…私の元上司Ｉさんに届いたメール 『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を読んで「まず、序章でびっくりさせられます。目から鱗とはこのことで、日本人が奴隷として売買されていたなど全く知りませんでしたし、...

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2020.04.17

「毎日新聞」の京都版に『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』の書評が載りました

いつもこのブログにアクセスいただきありがとうございます。 　拙著『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』が発売されて1年10か月が過ぎましたが、今年の1月24日の「毎日新聞」京都版に、書評が出ていたとの情報を読者から頂き...

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2021.03.06