GHQ焚書の全リストを掲載した本が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている

GHQ焚書

 「国立国会図書館デジタルコレクション」を利用するようになって十一年になるのだが、先日偶然にGHQ焚書の全リストを掲載した本がネット公開されていることを発見した。

この本が編集発行された理由など

 昭和24年(1949年)に文部省社会教育局が編纂した『連合国軍総司令部から没収を命ぜられた宣伝用刊行物総目録 : 五十音順』がその書籍だが、当時は「焚書」などと呼称されることはなく、GHQが名付けた「宣伝用刊行物」という言葉が使われていた。この本の前書きには、この本が編集発行された理由および、没収実務をどこが所管していたかが記されている。

「宣伝用刊行物の没収」とは、昭和二十一年三月十七日付け連合軍司令官の覚書によって指令されたもので、爾後、追加覚書は四十六回に及び七千七百余の戦前および戦時中の刊行物が没収を指令されている

 いま、この七千七百余種の刊行物を速やかに没収するための便を計って本書を編集発行した次第である

 現在本覚書の執行は各都道府県教育委員会にお願いして、その管下の教育関係公吏員中から「没収事務担当者」を決めて実務に当たってもらっていることは後出の「文部次官」通達の通りである。

 本事務は、日本の民主化促進のために極めて意義深きものであるから、当事者は慎重に本計画の執行に当たっていただきたい

 本事務は「連合国軍総司令部並びに極東軍司令部、軍事諜報部参謀部民間検閲支隊」の所管である。
 日本政府においては現在「文部省社会教育局文化課」が所管している。

文部省社会教育局編『連合国軍総司令部から没収を命ぜられた宣伝用刊行物総目録 : 五十音順』,文部省社会教育局,[1949] p.1

 GHQは昭和二十一年三月十七日の覚書で十点の刊行物の没収を指令したあと、二十七日には追加覚書第一号で没収指示出版物を六点追加して以降、昭和二十三年四月十五日まで四十六回にもわたり追加覚書を出し続け、没収指令の出た出版物の点数は最終で七千七百点を超えるのだが、追加覚書には重複がかなり存在し、実際の点数は七千百点程度である。最初は警察が本の没収の実務にかかわったのだが、二十三年三月にこの業務が文部省社会教育局に移管されることとなる。
 しかしながら、大量の覚書、追加覚書を持参して、書店や出版社などから没収指示出版物を探すことはかなり効率が悪い作業とならざるをえない。そこで、担当者の作業利便性をはかるために、文部省社会教育局文化課がすべての覚書・追加覚書のリストを五十音順に整理したものが本書で、この書籍は一般用に販売されたものではないと思われる。

 私は数年前にネットで結構な価格の復刻本を購入してしまったのだが、購入しなくてもネット環境があれば誰でも、七千点以上あるGHQ焚書のリストを確認できるという情報を読者の皆さんにお伝えしたい。「国立国会図書館デジタルコレクション」の「公開範囲」欄には、「インターネット公開(保護期間満了)」とあるので、刊行後七十年以上経過したことから文部科学省が令和元年にネット公開したものと考えられる。

覚書や文部次官通達に書かれていること

 各都道府県の没収事務担当者の業務執行のために編集された本であるので、没収の根拠となる覚書や文部次官の通達の全文も掲載されている。当時の日本政府がGHQからどのような指令を受けていたかが、覚書を読めば見当がつく。

宣伝用刊行物の没収に関する覚書

1.日本政府は次の如き宣伝用刊行物を多量に保有する倉庫、書店、書籍取扱業者、出版社、配給会社及びすべての商業施設又は日本政府諸官庁等一切の個人以外の筋から次の出版物を蒐集すべく指示される。

2.右の出版物は中央倉庫に蒐集保管し、蒐集したその出版物をパルプに再製するための措置については将来本司令部から指示せられる

3.本司令部に提出すべき蒐集状況についての定期報告は毎月15日及び月末とし、その開始時期は3月31日として、報告の内容には次の各項を含むものとする。
(イ) 当該期間に蒐集した出版物の名称及び数量。
(ロ) 蒐集場所及び各出所毎に蒐集された出版物の名称及び数量。
(ハ) 蒐集した出版物の相数量。
(ニ) 全重量。
(ホ) 特定の保管場所。

4.一般民家或は図書館に於ける個々の出版物は本司令の措置から除外する

文部省社会教育局 編『連合国軍総司令部から没収を命ぜられた宣伝用刊行物総目録 : 五十音順』,文部省社会教育局,[1949] p.2

 このように、没収指令の出たすべての書籍を回収せよというわけではなく、個人や図書館が所蔵している本は蒐集の対象ではなかったことが明記されている。そのおかげで、いまも図書館や古本屋などでGHQ焚書にお目にかかることが可能になっている。

 ところで、なぜGHQは個人や図書館の蔵書を対象にしなかったのであろうか。昭和二十三年六月二十二日付の文部次官通達には「本件事務は直接関係のない第三者に知らせてはならない」と明記されており、別紙に記載されている第一号書式(没収事務担当者であることの証明書)の裏面には、「本事務の施行されていることを当事者以外に知らせてはならない」と印刷されている。要するにGHQはこの没収作業を一般の国民には分からないように進めようとして、図書館と個人の蔵書を没収の対象外とした。その結果として国立国会図書館には六千三百余点のGHQ焚書が残されることとなり、今ではその大半を自宅などで読むことが可能になっていることは喜ばしいことである。

実際のリスト

 しかしながら四十六回も出された追加覚書の没収刊行物のリストは、過去の覚書との整合性が充分にチェックがなされていなかったために、五十音に並べて作成されたこの本には多くの重複があることが誰でもわかる。

文部省社会教育局 編『連合国軍総司令部から没収を命ぜられた宣伝用刊行物総目録 : 五十音順』,文部省社会教育局,[1949]p.228~229

 例えば、上の画像は228~229ページでであるが、同じ色で囲んだ本はいずれも同じ本である。
 このページの山岡荘八著「空の艦長」をどんな本か見てみたいと思ったら、「国立国会図書館デジタルコレクション」のサイトに進み、検索ボックスに「空の艦長」と入力すると、検索結果の一番上にその本が出てきて、「個人向けデジタル化資料送信サービス」を利用できる人はすぐに読むことが可能となる。

 GHQ焚書のリストの重複を省くと焚書処分された点数は私の計算で7,116点。
 その内、ネット公開されているのが2,368点(33.3%)、「個人向けデジタル化資料送信サービス」に加入していれば読めるのが3,921点(55.1%)なので、「個人向けデジタル化資料送信サービス」に登録しておけば、GHQ焚書の88.4%の書籍を無料で読むことが可能になっている。

 中には旧字旧かなで読みづらいものもあるが、小説や詩集などのほか、出征兵士の体験記、青少年向きに解説された本など読みやすい本が少なくない。なかには写真や挿絵がふんだんに使われているものや、子供向けの絵本などもある。タイトルや著者の名前で読んでみたい本があれば、思い切って覗いて見て欲しい。戦後の日本人には封印されてきた史実が書かれた本など、興味深いものが少なくない。

 退院したら、GHQ焚書のうち「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている本と、「個人向けデジタル化資料送信サービス」で読める本の全URLを公開していく予定です。ご期待ください。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。よろしければ、この応援ボタンをクリックしていただくと、ランキングに反映されて大変励みになります。お手数をかけて申し訳ありません。
   ↓ ↓

にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ

【ブログ内検索】
大手の検索サイトでは、このブログの記事の多くは検索順位が上がらないようにされているようです。過去記事を探す場合は、この検索ボックスにキーワードを入れて検索ください。

 前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年の4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しました。長い間在庫を切らして皆様にご迷惑をおかけしましたが、このたび増刷が完了しました。

全国どこの書店でもお取り寄せが可能ですし、ネットでも購入ができます(\1,650)。
電子書籍はKindle、楽天Koboより購入が可能です(\1,155)。
またKindle Unlimited会員の方は、読み放題(無料)で読むことができます。

内容の詳細や書評などは次の記事をご参照ください。

コメント

  1. 井頭山人 より:

    先ず、戦後消された重要な著作を紹介いただき感謝いたします。
    そして間もなく戦後78年が過ぎようとして居ります。
    この間、日本人は真の知識の外に置かれて居ました。
    虚妄の歴史を生きて来た訳です。日本人ほど公正で信義をもつ民族はいない。
    コロナに端を発して図らずも露に成った事は、政治も官庁もメディアも
    全てが出鱈目で、或る勢力に操作されて在るという事に尽きます。
    此の侭では日本人のみならず日本国自体がその本来の精神を腐食させられ
    て仕舞うでしょう。救いの道は有るか?既に第三次大戦は始まって居るのでは
    無いでしょうか。

    • しばやん より:

      井頭さん、コメントありがとうございます。
      学生時代に渡部昇一氏の本を読んで、歴史の叙述については嘘が多いことを認識していましたが、どれだけひどい状態になっているかについて認識できたのは、私がブログを書き始めた十四年前ほど前のことになります。
      ユダヤの問題は、そういう説があることは知っていましたが、具体的な名前や史実が書かれた本との出会いがなかったために、当時は都市伝説のように考えていました。最近になって林千勝さんや馬渕睦夫さんらの研究によっていろんなことがわかるようになってきましたが、ご指摘のようにいつの間にか政治家も官僚もメディアもとんでもなく腐敗してしまって、今の内閣が数年も続けば日本という国がどこかの勢力によって撹乱されて、伝統や文化が失われてしまうことになりそうです。
      戦争は武力戦ばかりだとは限りません。情報戦や弱体化工作は既にわが国に仕掛けられているという意味においては、第三次世界大戦は始まっているのかもしれませんね。わが国はこの戦いで国を失うことになるかも知れません。国を失ってしまっては言語も文化も失ってしまうことになるかも知れないのですが、その恐ろしさを日本人の殆どが理解していないことが心配です。
      素晴らしい国を子や孫の世代に残すために、日本人は政治に覚醒する必要があります。政治を職業政治家に任せるのではなく、マスコミに政権のチェックを任せるのではなく、有権者が政治に参加して、政治家やマスコミにものを言わなければなりません。今年あたりに多くの国民が、世界や日本を牛耳っている勢力の存在に気が付いてほしいものです。

タグ

GHQ検閲・GHQ焚書209対外関係史81地方史62中国・支那57ロシア・ソ連57神戸大学 新聞記事文庫44反日・排日43イギリス41共産主義38神社仏閣庭園旧跡巡り36アメリカ33ユダヤ人33日露戦争33軍事31欧米の植民地統治31著者別31神仏分離31政治史29京都府28廃仏毀釈27朝鮮半島26コミンテルン・第三インターナショナル26情報戦・宣伝戦25外交史25テロ・暗殺24対外戦争22キリスト教関係史21支那事変20西尾幹二動画20菊池寛19一揆・暴動・内乱17豊臣秀吉17満州16ハリー・パークス16ドイツ14紅葉13海軍13ナチス13西郷隆盛12東南アジア12神仏習合12陸軍11ルイス・フロイス11倭寇・八幡船11アーネスト・サトウ11情報収集11人種問題10スパイ・防諜10分割統治・分断工作10奴隷10大阪府10徳川慶喜10不平士族10インド10戦争文化叢書10ペリー9奈良県9和歌山県9イエズス会9神社合祀9岩倉具視9フランス9寺社破壊9伊藤痴遊9欧米の侵略8伊藤博文8文化史8A級戦犯8関東大震災8木戸孝允8韓国併合8自然災害史8ロシア革命8オランダ8小村寿太郎7ジョン・ラッセル7飢饉・食糧問題7修験7大久保利通7徳川斉昭7ナチス叢書7ジェイコブ・シフ6兵庫開港6奇兵隊6永松浅造6ロッシュ6大東亜戦争6紀州攻め5高須芳次郎5児玉源太郎5満州事変5大隈重信5滋賀県5ウィッテ5ジョン・ニール5武藤貞一5金子堅太郎5長野朗5日清戦争5兵庫県5隠れキリシタン5アヘン5財政・経済5国際連盟5山縣有朋5東京奠都4大火災4日本人町4津波4福井県4旧会津藩士4東郷平八郎4井上馨4阿部正弘4小西行長4山県信教4平田東助4堀田正睦4石川県4南方熊楠4高山右近4乃木希典4中井権次一統4三国干渉4フランシスコ・ザビエル4水戸藩4日独伊三国同盟4フィリピン4台湾4孝明天皇4スペイン4井伊直弼4西南戦争4明石元二郎3和宮降嫁3火野葦平3満洲3桜井忠温3張作霖3プチャーチン3生麦事件3徳川家臣団3藤木久志3督戦隊3関東軍3竹崎季長3川路聖謨3鹿児島県3士族の没落3勝海舟33ファシズム3日米和親条約3平田篤胤3王直3明治六年政変3ガスパル・コエリョ3薩英戦争3福永恭助3フビライ3山田長政3シュペーラー極小期3前原一誠3菅原道真33安政五カ国条約33朱印船貿易3北海道開拓3下関戦争3イザベラ・バード3タウンゼント・ハリス3高橋是清3レーニン3薩摩藩3柴五郎3静岡県3プレス・コード3伴天連追放令3松岡洋右3廃藩置県3義和団の乱3文禄・慶長の役3織田信長3ラス・ビハリ・ボース2大政奉還2野依秀市2大村益次郎2福沢諭吉2ハリマン2坂本龍馬2伊勢神宮2富山県2徴兵制2足利義満2熊本県2高知県2王政復古の大号令2三重県2版籍奉還2仲小路彰2南朝2尾崎秀實2文明開化2大江卓2山本権兵衛2沖縄2南京大虐殺?2文永の役2神道2淡路島2北条時宗2徳島県2懐良親王2地政学2土一揆2第二次世界大戦2大東亜2弘安の役2吉田松陰2オールコック2領土問題2豊臣秀次2板垣退助2島津貴久2島根県2下剋上2武田信玄2丹波佐吉2大川周明2GHQ焚書テーマ別リスト2島津久光2日光東照宮2鳥取県2足利義政2国際秘密力研究叢書2大友宗麟2安政の大獄2応仁の乱2徳富蘇峰2水野正次2オレンジ計画2オルガンティノ2安藤信正2水戸学2越前護法大一揆2江藤新平2便衣兵1広島県1足利義持1シーボルト1フェロノサ1福岡県1陸奥宗光1穴太衆1宮崎県1重野安繹1山中峯太郎1鎖国1藤原鎌足1加藤清正1転向1岐阜県1宮武外骨1科学・技術1五箇条の御誓文1愛知県11伊藤若冲1ハワイ1武藤山治1上杉謙信1一進会1大倉喜八郎1北条氏康1尾崎行雄1スターリン1桜田門外の変1徳川家光1浜田弥兵衛1徳川家康1長崎県1日野富子1北条早雲1蔣介石1大村純忠1徳川昭武1今井信郎1廣澤眞臣1鉄砲伝来1イタリア1岩倉遣外使節団1スポーツ1山口県1あじさい1グラバー1徳川光圀1香川県1佐賀県1士族授産1横井小楠1後藤象二郎1神奈川県1東京1大内義隆1財政・経済史1