「西洋」「欧米」「欧州」に関するGHQ焚書

テーマ別焚書リスト

戦前・戦中期の「第一次世界大戦」の呼称

 GHQ焚書のリストの中には、本のタイトルに国名ではなく「欧州(ヨーロッパ)」「欧米」「西洋」という言葉を用いて、ヨーロッパ全体や西洋全体の歴史や政治情勢などを俯瞰して論じている本が少なからず存在するが、そのうち約六割の本のタイトルに「戦」の文字がある。
 もちろん、大正から昭和期にかけて出版された欧洲あるいは西洋に関する本は多岐にわたっているのだが、「国立国会図書館デジタルコレクション」の詳細検索を用いて昭和二〇年までに出版された本を調べると、タイトルに「戦争」とか「戦」の文字を含む本は全体の二割程度にすぎない。GHQは、欧米の戦争をテーマにした本を重点的に焚書処分したことになるのだが、おそらくこれらの本の中には戦勝国にとって都合の悪い真実が書かれていた可能性が高いのだと思う。戦後になって学校や戦後マスコミなどから伝えられる欧米の戦争の歴史は、大半は戦勝国にとって都合よく書き換えられたものであり、このような綺麗ごとの歴史をいくら学んでも、真実にはたどり着かないのではないだろうか。

 今回作成したリストには「欧州大戦」とか「欧州戦争」とか「欧州動乱」という言葉がよく出て来るのだが、いずれも今でいう「第一次世界大戦」のことを意味している。当時「世界大戦」という言葉も使われていたようだが、第二次世界大戦が勃発する以前は、どちらかというと「欧州大戦」等と呼ぶ方が多かったようだ。
 また「第二次世界大戦」については、当初はヨーロッパ中心の大戦となることが予想されていて「第二次欧州大戦」という言葉が比較的よく用いられていたが、次第に世界規模となることが予想されるようになり昭和十四年頃から「第二次世界大戦」という言葉を用いることが多くなっていったようである。

戦争を繰り返した欧州

 学生時代に世界史を学んだ時にヨーロッパでは戦争が何度も繰り返されていた印象があるのだが、今回リストアップした本の中に陸軍少将の伊藤政之助が著した『戦争史』は、西洋古代篇、西洋中世篇、西洋近古篇、西洋近世篇、西洋最近篇、世界現代篇1~2、が刊行され世界現代篇2以外はすべてGHQによって焚書処分されている。

 『戦争史 西洋古代篇』の冒頭で、著者は次のように記している。

 人類世界は戦争の世界である。世人には平和が常であって戦争は例外だと思う物がるが、事実はその反対である。世界歴史始まって以来おおよそ三千五百年間に戦争のない年は僅々約三百年に過ぎぬ。されば丁度十一年間はどこかで戦争があり次の一年だけが平和、また次の十一年は戦争という状態を以て今日まで経過して来たのである。そしてこれら戦争のため、人間の殺戮された数は、毎世紀約四千万人にのぼり、今日までの総数はおおよそ十二億と言われている。
 元来人間の身体それ自身は、平和的なものであって闘争的のものではない。人間には攻撃具たるところのつのもなければ牙も爪もなく、また防御具たるところの甲羅もなければ刺針ししん毒腺どくせんもない。故に単にこの形態だけの人間を見るときは残虐な戦争などが起ころうとは思われぬ。しかるに、人間には競争本能があり、この競争本能が激化すると、闘争となり戦争となるのである。また団体となると、群集心理の作用からして、この競争力が一層強く激発されるのが普通である。かくのごとく人間が個人としても、団体人としても、競争的本能の強いものであるとすれば、開闢以来この世に戦争の絶えないのも無理のないことである。
伊藤政之助『戦争史 西洋古代篇』戦争史刊行会 昭和11年刊 p.1~2

 人類の発達により戦いの規模や方法や目的などが変化していくのだが、戦いというものは文明を獲得する為に行われるものではなく、「自国の権威を、同族の栄光を、自己の存在を、より善く、より高く、より強くせんがために生命を賭し国運を傾けて戦うのであって、その戦勝の結果文明なる者が報いられるまでである。ゆえに文明の余光に浴する国民はよろしくその祖先が建設に尽くした受難史を三省するの必要がある」「文明は決して呪詛すべきものではなく、ますますこれを助長し、向上し、長養して人類の幸福を増進していかなくてはならぬ」と述べているが、その通りだと思う。
 高度な文明を築いて豊かになった多くの国々が滅んでいった歴史がこの本で解説されているのだが、文明や伝統文化の恩恵を受けながら豊かで平和ボケしてしまった今のわが国は、もっと過去の歴史に学ぶべきではないだろうか。

ヴェルサイユ条約調印光景 Wikipediaより

 第一次世界大戦でヨーロッパが主戦場となり、戦闘員九百万人以上、非戦闘員七百万人以上が犠牲になったと言われている。終戦後ヴェルサイユ講和会議で講和条約締結されたのだが、平和な状態は長くは続かなかった。今回リストアップした『裏から見た欧洲の外交戦』には次のように解説されている。

 ヨーロッパにおける今日の危機は、当然こうなるべき十分な原因があったのである。これを人類社会進化の大局から言えば、アジアの四分の一ほどの土地に五億一千万人というしかも多くの異なった民族が二十余の国家を作っているのであるから、限られた土地の上に互いに発展しようとするのであるから、自ずから相争わねばならないことになるのである。即ち、各国、各民族の自己保存及び自己発展のやむにやまれぬ闘いである。

 また、これを外交問題として見れば、ヴェルサイユ講和が不合理不自然なものであった結果、それに不満不平を持つ各国の反感が、現状打破の形で爆発したのである。すなわち、ヴェルサイユ講和会議は、全く英仏の利益を中心に考えられ、講和条約はドイツをはじめ、同盟四ヶ国を戦敗国として、手も足も出ないように縛り付けて置くために作られ、国際連盟は、中小国を英仏の統制の下に置き、自分の立場を強固にするとともに、旧ドイツ植民地を委任統治という名目で、分割するための道具として設けられたのであった。…中略…

 そこで各国ともに英仏の実力を恐れてヴェルサイユ条約を承認したものの、勿論もちろん非常な不平不満を持ち、いつかの機会に、その不平不満をはらさんものと、常にその時期をねらっていたのである。
 その最も大きな不平不満を持っていたのは、勿論ドイツをはじめ、戦敗の同盟側四国であった。またドイツ、オーストリア、ポルトガルとの三国同盟を裏切って英仏の連合国側に投じたイタリーも、予期に反して戦勝の分け前の少ないのに非常な不平不満を持っていたのであった。

 この事情は、トルコがセーブル条約の改定を要求して、ギリシアとの戦争を起こしたのを始めとし、ドイツの賠償破棄、あるいは再軍備の実施となり、またイタリーでは有名なかの愛国詩人ダンヌチオのフューメ占領となって現れたのである。
 特に、世界大戦後の経済恐慌襲来は、各国をしてその克服のために、反動的国家主義の政策を採るのやむを得ない情勢となり、ムッソリーニ、ヒットラー等のファッショ的独裁者の出現となり、いよいよ各国の対立は紛糾し尖鋭化し、国際情勢は益々不安とならざるを得ないのである。
長谷川了著『裏から見た欧洲の外交戦』今日の問題社 昭和10年刊 p.5~7

 戦後の一般的な歴史叙述では、ヴェルサイユ条約の問題についてはほとんど触れることがなく、ドイツやイタリアは悪者扱いなのだが、そのような戦勝国にとって都合の良い歴史を鵜呑みしては、真実から遠ざかるばかりだと思う。

これまでブログで紹介させていただいたGHQ焚書

 これまでこのブログで、本のタイトルの中に「欧州」「欧米」「西洋」「ヨーロッパ」を含む書籍を何点か紹介させていただいた。

タイトルに「欧州」「欧米」「西洋」を含むGHQ焚書リスト

GHQ焚書リストかの中から、本のタイトルに「欧州」「ヨーロッパ」「欧米」「西洋」を含む本を抽出して、タイトルの五十音順に並べてみた。
分類欄で「〇」と表示されている書籍は、誰でもネットで読むことが可能。「△」と表示されている書籍は、「国立国会図書館デジタルコレクション」の送信サービス(無料)を申し込むことにより、ネットで読むことが可能となります。

タイトル 著者・編者 出版社 分類 国立国会図書館デジタルコレクションURL
〇:ネット公開 
△:送信サービス手続き要
×:国立国会図書館限定公開
出版年 備考
裏から見た欧州の外交戦 長谷川了 今日の問題社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1095362 昭和10  
欧洲広域圏の建設 東京かぶと新聞社編輯部 東京かぶと新聞社編輯部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1439279 昭和17  
欧洲広域国際法の基礎理念 安井郁  有斐閣 https://dl.ndl.go.jp/pid/1269826 昭和17 大東亜国際法叢書 ; 第1
欧洲情勢と支那事変 本多熊太郎  千倉書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1261509 昭和14  
欧州戦局の推移 欧亜通信社 編 欧亜通信社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1438859 昭和18 世界情報新輯. 3
欧州戦争をどうする 石丸藤太  国民新聞社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1684443 昭和14  
欧州戦争を繞りて
列国の態度並軍備比較
小山与四郎編 海軍有終会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1025252 昭和14  
欧州戦と青年 浜田常二良 潮文閣 https://dl.ndl.go.jp/pid/1460253 昭和18 青年文化全集
欧州戦乱の真相 原田瓊生 原田瓊生 https://dl.ndl.go.jp/pid/1684415 昭和15  
欧州大戦 上 仲小路彰 世界創造社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1256063 昭和13 世界興廃大戦史
西洋戦史36
欧州大戦史の研究 第一巻 石田保政 述 陸軍大学校 https://dl.ndl.go.jp/pid/1261414 昭和12  
欧州大戦史の研究 第二巻 石田保政 述 陸軍大学校 https://dl.ndl.go.jp/pid/1261420 昭和12  
欧州大戦に於ける
仏軍自動車の作戦輸送
大谷清磨 菊池屋書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1230287 昭和11  
欧州大戦に於ける独逸空軍の活躍 陸軍航空本部 軍事界社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1238015 昭和11  
欧洲大戦の見透し 渡辺翁記念文化協会 渡辺翁記念文化協会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1036265 昭和14 講演叢書第14篇
欧州大戦をめぐる列強戦備の全貌 篠原武英 人文閣 https://dl.ndl.go.jp/pid/1684441 昭和14  
欧州大動乱と東亜連盟 田中直吉  立命館出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1440446 昭和15  
欧州動乱読本 太平洋協会編 豊文書院 https://dl.ndl.go.jp/pid/1684438 昭和15  
欧州動乱と次に来るもの 三島康夫 今日の問題社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1684440 昭和14  
欧州動乱と貿易対策 大阪市産業部貿易課 大阪市産業部貿易課 https://dl.ndl.go.jp/pid/1684383 昭和14  
欧州に戦雲漲る
 : 世界大戦再び勃発か?
松下芳雄 小冊子書林 https://dl.ndl.go.jp/pid/1098479 昭和10 普及叢書 ; 第8輯
欧州の運命 重徳泗水、丸山政男 高山書院 https://dl.ndl.go.jp/pid/1041297 昭和19  
欧州の危機 アンドレ・ジーグフリード 香川書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1238016 昭和11  
欧州の現勢上巻 : 戦局の展望と地政学  金生喜造 古今書院 https://dl.ndl.go.jp/pid/1684428 昭和15  
欧洲の現勢と準戦時経済 武藤孝太郎  武藤孝太郎  https://dl.ndl.go.jp/pid/1440427 昭和12  
欧州の現勢と独英の将来 山本實彦 改造社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1882799 昭和15  
欧州の宣伝戦とは 戦争は戦争でない 山口勝治 編 厚生書院事業部   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和14  
欧洲はどう動く 朝日新聞社 編 朝日新聞社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1100322 昭和10 朝日時事解説 ; 第2輯
欧洲を繞る世界情勢 白鳥敏夫  ヨーロッパ問題研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1462801 昭和15 戦争文化叢書第26輯
欧米一見随感 古井喜実 良書普及会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1022624 昭和13  
欧米外交秘史 榎本秋村  日本書院出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1268550 昭和4  
欧米勢力の東洋進出 太平洋問題調査部 日本国際協会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1280854 昭和14 太平洋問題資料. 第3
欧州大戦と日本産業の将来 小島精一 千倉書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1266107 昭和14  
欧米の動きと支那事変 鶴見三三 岡倉書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1228142 昭和12  
欧米より祖国へ 三富秀夫 鉄道時報局 https://dl.ndl.go.jp/pid/1223496 昭和9  
危機に立つ欧州 星野辰男 編 朝日新聞社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1261454 昭和12 朝日時局読本第4巻
危機の欧洲 河相達夫 述 日本青年外交協会出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1100094 昭和14  
決戦迫る欧州戦局 甲斐静馬 甲斐静馬 https://dl.ndl.go.jp/pid/1042676 昭和17 朝日時局新輯
国民主義と欧米の動き 蜷川新  日本書院出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1172063 昭和6  
今日の欧州 加瀬俊一 東京日日新聞社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1268049 昭和14  
最近の欧米教育 星野華水  数学研究社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1075972 昭和8  
新欧羅巴の誕生 山本實彦 改造社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1047459 昭和15  
西洋戦史 欧州大戦 下ノ1 仲小路彰 戦争文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1256104 昭和15 世界興廃大戦史
西洋戦史41
西洋戦史 欧州大戦 下ノ2 仲小路彰  戦争文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1256117 昭和15 世界興廃大戦史
西洋戦史42
西洋文明の没落 : 東洋文明の勃興 福沢桃介  ダイヤモンド社出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1130737 昭和7 2022ダイレクト出版で復刻
戦時欧州飛脚記 斎藤祐蔵 清水書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1044301 昭和17  
戦争史. 西洋近古篇 伊藤政之助  戦争史刊行会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1686204 昭和14  
戦争史. 西洋近世篇 伊藤政之助  戦争史刊行会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1686206 昭和14  
戦争史. 西洋古代篇 伊藤政之助  戦争史刊行会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1686203 昭和11  
戦争史. 西洋中世篇 伊藤政之助  戦争史刊行会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1686205 昭和13  
戦争史. 西洋最近篇 伊藤政之助  戦争史刊行会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1221129 昭和15  
旋風裡の欧米 岡田忠彦 述 中央朝鮮協会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1099529 昭和11  
大東亜新経済と欧州新経済 桑原晋  ダイヤモンド社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1272730 昭和17  
第二次欧州戦争は何れが勝つか 関根郡平  健文社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1027787 昭和14 世界動向の展望. 第1冊
第二次欧州大戦史略 原田瓊生 明治書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1042674 昭和16  
第二次欧州大戦とドイツの経済力 エス・ヴィシネフ  博文館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1061350 昭和16  
第二次欧州大戦の経済的影響 勝田貞次 景気研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1686493 昭和14  
第二次欧州大戦の研究 清沢 冽 東洋経済出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/3440274 昭和15  
第二次欧州大戦とヒットラー総統 松山悦三 人生社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1256333 昭和14  
第二世界戦争の勝敗 
第一部欧州大戦の巻
石丸藤太 刀江書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1246050 昭和14  
独逸の戦争目的 : 欧州新秩序の輪郭 景山哲夫  大同印書館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1459237 昭和16  
動乱欧州を衝く
 独乙の欧洲新秩序建設
長谷部照俉  誠文堂新光社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1044294 昭和16  
ナチス経済と欧州の新秩序 小穴 毅 朝日新聞社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1686976 昭和15  
米欧印象 日本の何が世界一か 斎藤 敏 師士道社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1269456 昭和8  
訪欧所感第一次 加藤完治 地人書館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1044296 昭和17  
ヨーロッパの悲劇: 英国の戦争方法 フランツ・グローセ 
棟上田々夫 訳
日独出版協会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1689157 昭和15  
ヨーロッパ要塞戦 上野浩一 欧亜通信社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1042686 昭和19  
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