ソ連・コミンテルンによる中国の赤化工作を知る~~「戦争文化叢書」を読む6

戦争文化叢書

 前回に引き続き満田巌著『日本世界戦争』の文章を紹介したい。戦後に書かれた著作では、中国で民族運動が昂揚した背景にどこの国が関与していたかについて触れることは皆無に近いのだが、この書物には詳しく記されている。

ソ連・コミンテルンによる中国の赤化工作は1919年から本格化した

  『日本世界戦争』の第三章は「支那事変の敵」なのだが、単純に英国だけがわが国の敵であったわけではなく、ソ連の関与を看過してはいけないのだと思う。

 1917年、十月革命を成し遂げたソヴィエトは、その余勢を駆って、大戦直後混乱の中に置かれた欧州諸国を一挙に赤化せんと企て、まずポーランドを衝いたが力及ばず、続く欧州諸国の赤化企図も意の如く捗らず、遂に西欧資本主義諸国に対する直接革命工作をひとまず断念せねばならなかった。ここに世界赤化工作の東方への転換となって、かの有名な「革命は東方に於いて決す」のテーゼが樹立されるに至った。脆しと見た西欧資本主義諸国が案外に強固なので、彼ら西欧の経済的母胎たる植民地、半植民地を赤化することによって、西欧の拠点の覆滅と同時に本国の弱退崩壊をはかった。その第一の対象となったのが支那である

 当時の支那は1911年の辛亥革命後内乱相次ぎ、都市農村の疲弊甚だしく、加えて急進ブルジョワジーを代弁する国民の抬頭あり、1918年春には、早くも急進左翼学生を中心とする「マルクス主義研究会」も結成され、経済的、社会的に赤色革命宣伝にとって好個の地盤たるを失わなかった。
 越えて19年5月にはこれら急進左翼分子による親日派曹汝霖邸焼打事件有、ソヴィエト革命に刺激された支那インテリ群はソヴィエトを自己の祖国とも仰ぐ状態であった。

 ここにいち早く目をつけたソヴィエトは、同年7月25日にカラハンをして、対支不平等条約の撤廃と旧帝政時代の権益抛棄を声明せしめて、支那のソヴィエト熱をさらに煽った。
 それより先同年3月にはコミンテルン、即ち第三インターナショナルの創立宣言がモスクワに於いてなされた。その後の対支活動は、そのままコミンテルン中国暗躍史である

戦争文化叢書 ; 第12輯 満田巌 著『日本世界戦争』世界創造社 昭和14年刊 p.51~52

「赤化」とは共産主義国化を意味するが、ソ連は欧州の赤化に取組むも途中で断念し、東方赤化に方針を転換したのである。
「革命は東方に於いて決す」とはレーニンが生前に語った予言だが、この言葉を奉じて巧妙な極東政策が推進されていく。文中の「コミンテルン(第三インターナショナル)」とは、世界共産主義革命の実現を目指すため各国の革命運動を支援する組織である。

 1920年にモスクワ・コミンテルン本部はすかさずコミンテルン極東部長ヴォイテンスキーを北京に入らせた。彼は直ちに、当時北京大学教授で左翼学生の絶対支持下にあった李大釗、および先に北京大学を辞して上海にいた陳独秀の二人に会い、中国共産党結成につき種々協議を重ねた結果、遂に中国共産党の成立となって現れ、ここにソヴィエトは対支赤化の第一歩を印した

 当時国民党は支那統一の野望を抱いて辛亥革命熱に燃え、民心収攬を「民族革命」なるスローガンに求めていた。ここに着目したコミンテルンは中国共産党をして国民党と共同戦線を張らしめんがために、マーリンを使者として広西省桂林に孫文を訪ねしめた。時に1921年11月、明けて22年の中国共産党大会は、俄然、国共合作、民主主義連合戦線結成を叫び、同8月に開かれた国民党中央委員全体会議をして共産党員の国民党加入を可決せしめ、李大釗、陳独秀の二人が共産党代表として国民党に入党した。23年1月には国民党は共産党との連携を認めて、中国共産党政綱を加味した国民党政綱を発表し、孫文ヨッフェの共同宣言となり、国民党参軍長蒋介石をモスクワに派遣、同年末からはボロディンが国民党最高顧問として着任した。

同上書 p.52~53
ミハイル・ボロディン

労働者を左傾化させ、中国に莫大な投資をしてきた日英米仏の弱体化を図ろうとした

 中国共産党が成立後、労働活動は一段と熾烈化していったのだが、その結果これまで中国に投資してきた諸国はどのような影響を受けたのか。

 中国共産党成立前までに北京には、左翼学生の率いる中国労働組合書記部があり、広東にはマルクス主義研究機関たる互助社がうったが、共産党成立後彼等の活動は一段と熾烈化した。1922年12月の開濼炭鉱争議、1923年2月の京津鉄道罷業は、ともに共産党に使嗾された前記労働組合書記部の指導によるものであり、1922年1月、互助社は香港海員総罷業を決行した。5月1日のメーデーは全支各地に華々しい労働祭が催され、中国共産党の労働者獲得運動は着々奏功していった。25年には遂に前記組合その他左翼労働者を打って一丸とする中華全国総工会が生まれ、同年5月30日を期して未曽有の大罷業を上海に起こさしめた。いわゆる五・三〇事件として知られるもので、参加人員実に二百万を超え、日英米仏帝国主義反対をスローガンとして人民解放を叫んだ。これは忽ち広東に飛び火し、対英経済封鎖が敢行された。7月、広東共産派の梟雄にして先にカラハンと会した廖仲愷が暗殺されるや、蒋介石は非共産派胡漢民を逮捕してそれに報い、親英派は日に頽れ、共産勢力は日を追ってその勢いを増し、広東の対英封鎖は益々強固となった。翌26年9月、英兵が広東碼頭を占領するや、激怒した左翼国民軍側はおりから碇泊中の英艦を乱撃し、三将校を即死せしめた。この頃は宛も労働運動の全盛時代で、叙上中華全国総工会の会員は三百万に達した。

1924年国共合作が決定して、中国共産党が合法政党として認められるや、中共(中国共産党の略称)は直ちに農民部を組織して、農民運動講習所長に毛沢東を据えた。爾後、支那四億の人口中八割を占める農民層に、コミンテルンに導かれた中共の触手は侵々乎として喰い込んでいった。1925年には二十万にすぎなかった農民協会員は、二ヶ年の中に九十万に増大し、この成り行きに味を占めた中共は、対農民工作に主力を注ぎ、一方、辛亥革命以来の相次ぐ内乱と諸軍閥の苛斂誅求に生死のドン底に喘いでいた農民は、豪村滅討、土地収奪という中共のスローガンに訳もなく追従した結果は、遂に共産革命即農民革命の如き外観を呈し、各地に有力なる農民による暴力団が結成され、後の共産軍及びソヴィエト区を胚胎した。・・・中略・・・

 1924年、25年、26年の三年間は、第一次国共合作というべく、中共の活動は各所に至らざるなくコミンテルン当初の大望たる支那赤化は今にも実現されるかの如き観を呈した。この間の国共を結ぶ楔(くさび)となったものは、両党の均しく掲げる民族革命のスローガンであり、従ってまた日英米仏を含めての全面的反帝国主義運動であった。

同上書 p.54~57

英国の工作による国共分裂の後コミンテルンはどう動いたか

 1927年1月には国民政府は漢口英国租界を占領し、一時は各国の租界返還問題も起きたのだが。反帝国主義運動の対象とされた日英米仏も反撃している。特にイギリスはお得意の「分断工作」をはかり、国・共の両党の離反を導くことに成功し、共産党は国民党左派と結んで武漢政権を樹立し、蒋介石は南京政権を樹立したのだが、蒋は共産党の大弾圧を強行し、武漢政府は壊滅した。ここでコミンテルンは方針を変更する。

 武漢政府壊滅の最大原因となったものは、先に一寸触れた日英米仏の共同反撃である。国共分裂の九年後に再び国共合作が成った時、先例に徴したコミンテルンは反帝の矛先を一国即ち日本にのみ集中して、他の英米仏とはむしろ共同戦線を張ることを忘れなかった

 要するに第一次国共合作は、当時支那に澎湃たる国民革命に結び付けた民族解放、全面的反帝国主義(日英米仏を含めて)をその武器としたが、それが同時に命取りともなった

同上書 p.59~60

 中共はコミンテルンの指示により独自の軍隊の組織化を急いだが、農民を中心とする共産軍は蒋介石の率いる国民党軍に勝てず敗走を続けたのである。劣勢を打開させ、中共と国民党を再び接近させたのは、コミンテルンであった。

 退却した共産軍は地の利を得て本国ソ連の輸血を受けつつ、圧倒的な国民政府の勢威を外に秘かに方策を練っていたのである。コミンテルンから特派されたリトロフ少将およびロミナーツはその智謀となった

 支那を中心とする内外情勢の判断から中共が得た唯一の帰結は、対外殊に対日問題の利用であった。ここに図らずも情勢の打開点が国民政府側と合致した。即ち共産側は救国抗日を唱えて頽勢の挽回策とし、国府側は救国統一を標榜して全支平定の促進策とした。31年秋、中共は早くも抗日声明を発し南京側との休戦を提議した。抗日救国というスローガンは、国府側の急強な攻撃の鋭鋒を外らすの便を共産派に与え、国府側は救国統一を民心の対外的集一策に利用した。日本の対支進出の国内的利用如何がそのまま両派の勢力の優劣を決した
 しかし大勢は、野にあって、奔放自在に頽勢の挽回に狂奔する共産派に有利に展開していった。日本の進出を盾にとり国府側の急追を遮けようと試みた中共側は、先轍にかんがみ、周到な国府接近を意企した。即ち第一に彼らの頭に泛(うか)んだのは、諸帝国主義の利害の輻輳する支那に於いて、そのすべてに反帝の名の下に敵対するは策の上たるものにあらず、各個撃破すなわち特定の一国を敵に持ち、他の諸国は暫らく味方ないしは中立の立場に導かんことを考えたのである。これが抗日となって現れ、他方英米仏との妥協を生んだ

同上書 p.63~64
第二次国共合作 祝杯をあげる蔣介石と毛沢東

 蒋介石は当初はこの中共の提案に応じなかったのだが、共産派は適宜ゲリラ戦術に出て国府に迫っている。おりしも1935年7月にモスクワで開かれた第七次コミンテルン大会で人民戦線結成が宣言されて、中共の抗日対英米仏妥協政策が明確となり、8月1日に八・一宣言(救国抗日宣言)が出されている
 一方、同年に英国はソ連と接近し、ソ連の了解を得て占領されていた漢口租界をとり戻している。その後1937年7月に盧溝橋事件が勃発し支那事変が始まり、英国、ソ連、中共、国府が「抗日」で繫がり第二次国共合作が成立する流れである。

 そのような経緯から中国大陸で抗日運動が拡大していったのだが、その原因はコミンテルンが発案した国民党分断と敵対勢力の分断工作にルーツがあることになる。
 戦後の歴史叙述では、このようなコミンテルンの動きについては一切封印されているのだが、この点を書かないと、なぜ中国が英米を敵対視せずにわが国だけを悪者にしたことについて理解することは困難である。もし、この点をしっかり記述したら、戦後のわが国に第二次大戦に対する責任を押し付けられた「日本が悪かった」とする歴史観は成立しなくなり、「コミンテルンが悪かった」「共産主義が悪かった」という歴史に書き換えられることになるのだろう。
 共産主義を奉ずる国内外の勢力が、戦後わが国に押し付けた自虐史観を守ろうとする理由はそのあたりにあるのではないだろうか。

共産主義関連のGHQ焚書

 「コミンテルン(第三インターナショナル)」をタイトルに含むGHQ焚書は見当たらなかったが、今回は「ソ連」や「共産党」を意味する文字をタイトルに含むGHQ焚書をリストアップしてみた。

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反共十字軍
独ソ戦の真相とその経過
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ソビエイト連邦権利
満州国への譲渡関係約定
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国境
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室伏高信全集. 第11巻
 (社会主義批判・共産主義批判)
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ソか英米赤尾 建国デジタル化されているがネット非公開昭和15
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