「文化」「文明」に関するGHQ焚書 『日本文化の支那への影響』

テーマ別焚書リスト

『日本文化の支那への影響』

 GHQ焚書のリストの本のタイトル・副題を「文化」「文明」というキーワードで絞り込むと、73点の図書が引っかかったのだが、タイトルがユニークであったので『日本文化の支那への影響』という本の冒頭を読み始めて驚いた。あれだけ排日のスタンスを貫いたあの国が、学芸や文化方面では真逆であったことが記されている。

実藤恵秀 著『日本文化の支那への影響』蛍雪書院 昭和15年刊

 著者の実藤恵秀さねとうけいしゅうは早稲田大学で教鞭をとった中国研究者で、戦前から戦後にかけて多くの著書や翻訳書を残しているのだが、GHQによって焚書処分されているのはこの本だけである。
 この本の冒頭の部分を紹介させていただく。

 今回の支那事変は申すに及ばず、中華民国の初年以来、日支両国は、政治経済的にはしばしば摩擦が繰り返された。換言すれば政治的経済的には憎悪せられ反対せられ、「打倒」せられ、侮辱さえもされている
 しかし、私の観るところでは、これは近代日支関係における半面だけの事実である。他の半面、文化の方面に於いては、両国は固く握手している。これを正確に言えば、文化の方面に於いては、日本は中国をリードし、指導しており、中国は日本を尊敬し、模倣している。それのみか、盲従している部分すらもある。日本は今や文化の輸出国であり、中国は文化の輸入国である。

 過去久しきに亘り、日本は中国文化の影響を受けて来た。それが、日清戦争以来、その地位を転倒してしまった。日清戦争以後の中国は、日本のあらゆる文化を崇拝欣慕し、ある程度まで妄信して、模倣これ努めていると言ってもよかろう。
 外交的には排日・抗日・侮日と変わって来た中国も、文化の方面では終始「拝日」であったと申してよかろう。

 両国の政治経済的関係と、両国の文化的関係とはかくも対蹠的であるのは、一見矛盾せるが如くであるが、その実矛盾してはいない。政治的経済的関係は物質的数学的関係である。これに反し文化的関係は、精神的非数学的関係であるからである。政治的経済的関係は、一方の利益はそれだけ他方の損失、一方の進出はそれだけ他方の退却である場合が多い。しかるに文化は無限的で…中略…しかもその原来の持ち主から少しも減少することがないという本質を具えている。一国の文化は全世界の文化となりうる。かかる理由があればこそ、中国は一面日本を排撃しつつも、一面日本文化を排撃しつつも、一面文化を吸収するに日もこれ足らぬ有様なのである。

 しからば、中国は日本文化の如何なる方向に於いて、これを崇拝し、模倣し、盲信すらもしているのであるかといえば、あらゆる方面に於いてというに躊躇しない。日本文化を輸入していったのは誰であるかといえば、明治二十九年以来日本に来た留学生である

 中国の日本化の根幹は、日本人の著作の翻訳である。
 日本の本が中国に翻訳せらたのは、遠く明治十六年に遡ることが出来るが、日清戦争の前には、当時両国間の低気圧があったため、日本事情を識るというための時局問題のためのもの以外にはなく、学術上の意味でおこなわれたものは未だなかった。真に日本の学術を尊敬して、これを翻訳することは日清戦争後に於いて始まる。
実藤恵秀 著『日本文化の支那への影響』蛍雪書院 昭和15年刊 p.3~5

 日清戦争後に中国はわが国に多くの留学生を送り込み、日本人が漢文で著したいくつかの本を読んだり、日本語の本を漢訳してもらって読んでいたが、明治三十四年には初期留学生は自分で翻訳できるようになり、多くの本が漢訳されて中国で出版されたという。

同上書

 当初漢訳された本は教員関係のものや日本の教科書、法律関係のものが多かったが、中華民国の時代になるとおこり漢文体を否定して口語で自由に書くべしという新文学運動がおこり、そのころから日本文学や社会科学の本などが多数翻訳されたという。

 かかるところに、満州事変、上海事変が突発。この間でも日本からの翻訳は、排日記事にならんでも掲載されるという奇現象を示した。たとえば昭和六年十月十日付「文芸新聞」には全段抜きの大活字で「日本占領東三省〇〇中国民衆!」という大見出しがあるのに、その欄外の広告欄には、生田長江・野上臼川・森田宗平・昇曙夢・共著の『現代文学十二講』の訳本の広告が出ていて、その書の四大特色として「段落分明、材料新穎、範囲広大、篇幅宏鉅」とあるが如きがそれだ。

 満州事変後は、中国人の考えが、空疎なことよりも、着実なことに向かい、自然科学、その他の化学が本気で研究されるようになり、したがって日本からの翻訳も、科学的な著述、しかも最高レベルの巨大な本が翻刻せられるようになり、商務印書館からは毎週幾冊か、日本の学術書の出版せられないことはないという盛況であった。
 この頃中国では、日本を知ろうという意が強く、日本研究の叢書類が多数出版された。その中には、彼ら自身で研究したものもあるが、多くは日本人の日本に関する著述を全訳したものであった。
同上書 p.7~8

 彼らは自然科学など西洋の学問の輸入も日本経由で多くを学んだのだが、それは日本人が西洋の学問重要な概念について適切な訳語をいち早く漢字を用いて造語していたからであろう。わが国は幕末から明治にかけて西洋の自然科学を学び、「物理」や「化学」「分子」「真空」「加速」「求心力」など多くの訳語を考案しており、中国人からすれば西洋の学問はいきなり原語で学ぶよりも日本語の学術書で学ぶ方が理解しやすかったと思う。
 以前このブログで、戦前に日本に留学していた中国人たちの手記をまとめた『支那の少年は語る』(大日本雄弁会講談社 昭和16年刊)というGHQ焚書を紹介させていただいたが、この当時にかなり多くの中国人が日本に来て学んでいたという史実が、何故か戦後の日本人に知られないようにされている。こういうことが日本人の知られると、中国の排日運動が英米によって仕組まれたことが日本人に悟られてしまうことを怖れているからであろうか。
 今のわが国にも多くの中国人留学生が有名大学などで学んでいるようだが、彼らの多くは必ずしも反日ではないのかもしれない。しかし、本来なら本人父兄が払うべき授業料や生活費を、日本人の払う血税で支援するようなバカなことは即刻やめてほしいものである。

これまで紹介させていただいた「文化」「文明」に関するGHQ焚書

 これまでこのブログで「文化」「文明」に関するGHQ焚書を1冊だけ紹介させていただいている。
 著者の福沢桃介は福沢諭吉の婿養子で「電力王」と呼ばれた人物である。彼の本が焚書処分された理由は、西洋の奴隷制の事を書いたからであろう。奴隷制も戦後の日本人に多くの史実が伏せられているといって良い。

「文化」「文明」に関するGHQ焚書リスト

 GHQ焚書リストかの中から、本のタイトルに「文化」あるいは「文明」を含む本を抽出して、タイトルの五十音順に並べてみた。
 分類欄で「〇」と表示されている書籍は、誰でもネットで読むことが可能。「△」と表示されている書籍は、「国立国会図書館デジタルコレクション」の送信サービス(無料)を申し込むことにより、ネットで読むことが可能となる。

タイトル 著者・編者 出版社 分類 国立国会図書館デジタルコレクションURL
〇:ネット公開 
△:送信サービス手続き要
×:国立国会図書館限定公開
出版年 備考
アジア文化 精神科学会 目黒書店   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和14  
アジア文化の基調 高楠順次郎  万里閣 https://dl.ndl.go.jp/pid/1914543 昭和18 Kindle版あり
イタリヤの文化政策 東又清  文松堂 https://dl.ndl.go.jp/pid/1438878 昭和18  
勤労青少年の文化と教育 鈴木舜一 西村書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1682861 昭和16  
勤労文化 鈴木舜一 東洋書館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1062238 昭和17 労務管理全書 ; 第9巻
決戦の文化 岡村二一 文松堂書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1123438 昭和19  
皇室と文化 及川儀右衛門 中文館書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1241023 昭和5  
皇道文化の世界指導 大亜細亜社 編 大亜細亜社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1041372 昭和16  
国学と近世文化 河野省三  日本文化協会   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和10  
国民精神文化研究 
蓮華王座
紀平正美 国民精神文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1117927 昭和11 第三年第一冊
国民精神文化研究.
國家觀
国民精神文化研究所 編 国民精神文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1122045 昭和11 第三年第四冊
国民精神文化研究. 
法治主義の問題
国民精神文化研究所 編 国民精神文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1122049 昭和11 第三年第五冊
国民精神文化研究
地理辯證法のデザイン
国民精神文化研究所 国民精神文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1122056 昭和11 第三年第六冊
国民精神文化講演集 第一冊 国民精神文化研究所 編 国民精神文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1120015 昭和10  
国民精神文化講演集 第二冊 国民精神文化研究所 編 国民精神文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1120018 昭和10  
国民精神文化講演集 第三冊 国民精神文化研究所 編 国民精神文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1118069 昭和13  
国民精神文化講演集 第五冊 国民精神文化研究所  国民精神文化研究所  https://dl.ndl.go.jp/pid/1091648 昭和13  
国民精神文化講演集 第六冊 国民精神文化研究所 国民精神文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1118090 昭和13  
国家と文化 大日本原論報国会 同盟通信社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1044640 昭和18 日本思想戦叢書 ; 第3輯
シベリヤの自然と文化 尾瀬敬止  山雅房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1044282 昭和19  
少国民文化論 年刊一 日本少国民文化協会編 国民図書刊行会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1069309 昭和20  
神社文化史 中村直勝 四條書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1040143 昭和19  
人生 文化 戦争 座間勝平 精華書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1037758 昭和17  
新体制日本の政治、経済、文化 大谷竹雄 天元社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1278074 昭和15  
西洋文明の没落 : 東洋文明の勃興 福沢桃介  ダイヤモンド社出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1130737 昭和7 2022ダイレクト出版で復刻
世界に於ける民族闘争と文化戦 野一色利衛 訳 第一公論社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1062844 昭和17  
戦時文化政策論 松本潤一郎  文松堂出版 https://dl.ndl.go.jp/pid/1273592 昭和20  
戦争文化 八月号 今藤茂樹 編 戦争文化研究所   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和14  
泰国と日本文化 柳沢健  不二書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1123979 昭和18  
大東亜海の文化 高楠順次郎  中山文化研究所 https://dl.ndl.go.jp/pid/1918753 昭和17 Kindle版あり
大東亜共栄圏文化体制論 国策研究会 日本評論社   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和19  
大東亜古代文化研究 石井周作 建設社 https://dl.ndl.go.jp/pid/3440187 昭和17  
第二ドイツ戦争心理学
 : 将校の資質と其の文化業績
望月衛 訳 中川書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1062857 昭和17  
太陽の文化 磯部 保 文松堂書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1267203 昭和19  
大陸日本の文化構想 近藤春雄  敞文館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1267207 昭和18  
大陸文化研究 続 京都帝大大陸文化研究会 岩波書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1872093 昭和18  
拓殖文化 第21巻第79号 豊田悌助 編 拓殖大学報国会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1545967 昭和16  
戦ふ文化 日比野士朗 豊国社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1129880 昭和19  
中日文化交流の回顧と展望 高倉克己 訳 立命館出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1918831 昭和15  
長江の自然と文化 齊 伯守 大日本雄弁会講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1877984 昭和17  
ドイツの文化政策 勤労者教育中央会 編 目黒書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1265540 昭和16 新国民文化叢書. 10
東南アジア文化圏史 舟越康壽 三省堂 https://dl.ndl.go.jp/pid/1042495 昭和18  
東洋に於ける素朴主義の民族と
文明主義の社会
宮崎市定 富山房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1918128 昭和15 支那歴史地理叢書 ; 第4
ナチスドイツの文化統制 齊藤秀夫 日本評論社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1044594 昭和16  
南方亜細亜の文化 満鉄東亜経済調査局 大和書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/3438270 昭和17 新亜細亜叢書 ; 4
南方圏文化史講話 板沢武雄  盛林堂書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1918433 昭和17  
南方地域文化と資源 谷山整三 厚生閣 https://dl.ndl.go.jp/pid/1065772 昭和18  
南方文化施設の接収 田中館秀三  時代社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1267166 昭和19  
南方文化圏と植民教育 舟越康壽 第一出版協会   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和18  
南方文化論 坂本徳松  大阪屋号書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1270051 昭和17  
南洋の文化と土俗 : 東印度民族誌 宮武正道  天理時報社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1460063 昭和17  
新潟県国民精神文化講習所々報第1号 新潟県国民精神文化講習所 不明 https://dl.ndl.go.jp/pid/1145266 昭和10  
日伊文化協定 国際文化振興会 編 国際文化振興会   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和14  
日本神代文化研究 総論 田多井四郎治 不明 https://dl.ndl.go.jp/pid/1030966 昭和12  
日本精神文化史. 第2講
(神代篇 上巻)
一貫会  一貫会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1102242 昭和13  
日本の新文化建設 田村徳治 同文館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1044724 昭和18 リストは19年三省堂版
日本文化私観 坂口安吾 文体社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1130375 昭和18 岩波文庫版、Kindle版あり
日本文化史要 中村孝也 大日本教化図書 https://dl.ndl.go.jp/pid/1041511 昭和17  
日本文化団体年鑑. 昭和14年版 日本文化中央聯盟 編 日本文化中央聯盟 https://dl.ndl.go.jp/pid/1116034 昭和14  
日本文化と仏教の使命 伊藤円定  日本禅書刊行会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1021589 大正14  
日本文化の研究 上巻 浅賀辰次郎 宝文館   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和3  
日本文化の再建 沢田牛麿 日東書院 https://dl.ndl.go.jp/pid/1213402 昭和7  
日本文化の支那への影響 実藤恵秀 蛍雪書院 https://dl.ndl.go.jp/pid/1878595 昭和15  
日本文化の諸問題 斎藤 晌 朝倉書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1683693 昭和16  
日本文化の特質 テイ・モン 日本タイムス社   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和19  
船と文化 松田雪堂 文松堂書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1059946 昭和18  
文化政策と文化運動 新野敏一  扶桑閣 https://dl.ndl.go.jp/pid/1275917 昭和17 大東亜文化新書
文化の転換 本庄可宗 良国民社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1123306 昭和17  
文化翼賛 黒田静男  錦城出版社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1275893 昭和18  
文明一新論 保田与重郎 第一公論社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1069554 昭和18  
満州文化史点描 千田萬三 大阪屋号書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/3439493 昭和18  
明治、大正、昭和 絵巻文化の足跡 前川伝二 前川書房   国立国会図書館に蔵書なし
あるいはデジタル化未済
昭和16  
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