神戸大学附属図書館のホームページが全面リニューアルされたことにともない、神戸大学経済経営研究所の「新聞記事文庫」の仕様も大幅に変更され、URLも変更された。
このブログでこれまで「新聞記事文庫」の記事内容や紙面の画像をいくつか紹介させていただいたが、残念なことにこれまでの記事の当該リンクがすべて切れてしまった。今後は徐々に過去記事のリンクを修正していく所存だが、その前に以前書いた記事(「神戸大学「新聞記事文庫」で古い記事の探し方と利用方法」)を、全面的に書き直すことにした。
このブログで、GHQが戦前戦中の書籍を数多く焚書処分したことを何度か書いてきたが、GHQは過去の新聞記事の切り抜きなどは全く手を付けなかった。おそらくGHQは、そのような資料が、将来インターネット上で広く国民に公開されることを想定していなかったからなのだろう。
他の図書館にも古い新聞の資料が存在するが、これだけ大規模な資料が収集され、かつデジタル化され、かつ文字起こしがされ、しかも無料でネット公開されている事例は他にはない。
文字起こしがされていることで、昔の新聞記事が読みやすくなっていることは言うまでもないが、記事全文がデータ化されていることで、いくつかのキーワードで記事をパソコンなどで検索することが可能となっており、記事を絞り込むことで興味深い記事を短時間にいくつも発見することができる。また、戦前戦中の記者や知識人が、当時の世界情勢などをどうとらえていたかなどが良く理解でき、さらに戦後封印されているような史実を数多く発見することも可能である。
今の新聞記事のレベルの低さは話にもならないが、戦前戦中には新聞各社が高いレベルの記者や識者を集めて内容を競い合っていて、「新聞記事文庫」では過去の報道や論評がGHQの検閲を受けることなく処分もされないまま、当時の文章のままに読むことが出来ることは本当にありがたいことである。読者の皆さんもリニューアルされた「新聞記事文庫」を、試しに利用されることをお勧めしたい。
神戸大学「新聞記事文庫」は現存する日本最大の新聞記事データベース
神戸大学「新聞記事」は、神戸大学経済経営研究所によって管理されている明治末から昭和45年までの新聞切抜資料で、利用するにあたり会員登録などは一切不要で、誰でも無料で利用ができる。
簡単にこのデータベースの歴史について紹介したい。
神戸大学の前身のひとつである「神戸高等商業学校」が、明治44年から商業経済関係の新聞の切り抜きを開始し、大正8年(1919年)に「商業研究所」が設置されると新聞切り抜き事業は大幅に拡大されていった。
戦後になって神戸大学が誕生し、新たに設けられた経済経営研究所にこの事業が継続されたが、新聞各社が縮刷版を出すようになったことから事業が縮小され、昭和45年に終焉したものの、明治末から昭和45年まで60年以上にわたって続けられた切抜帳はそのまま残された。その切抜帳は冊数にして約3200冊、記事数にすると約50万件という膨大な量になるという。これだけ大規模な切抜帳は現在ではこの神戸大学「新聞記事文庫」しか残されていないのだそうだ。(かつて満鉄調査部でも大量の新聞記事が収集されていたが、失われてしまった。)
この「新聞記事文庫」に収録された新聞の種類は大手紙だけでなく、経済紙や主要地方紙のほか、「台湾日日」「満州日日」「京城日報」等かつてわが国が統治した地域で発行された新聞などが幅広く採録されており、史料価値が高い。また同じ事件について、代表的な記事を一つ選ぶのではなく、複数の記事を採録していることもありがたいところで、当時の出来事について様々な視点からの論説などを読むことで、日本や世界の情勢や、当時の空気感が伝わってくる。
とは言え、当時の経済学・経営学研究者にとって興味深いと判断された記事が中心なので、戦争や大事件にかかわる写真付きの報道記事などが少ないのは止むをえない。しかしながら、経済・経営研究者の視点で選ばれた記事だけが残されているだけに、読み応えのあるものが少なくないのである。
神戸大学「新聞記事文庫」の利用方法および参謀本部に共産党スパイが潜入した記事など
次に、神戸大学「新聞記事文庫」の利用方法について簡単に説明したい。
① 神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ「新聞記事文庫」にアクセスし、検索ボックスにキーワードを入力(複数可)して検索ボタンを押す。
検索ボックスには、間にスペースを入れることで複数のキーワードの入力も可能。
例えば検索ボックスに「スパイ」「参謀本部」と入れると20件の記事がヒットする。「該当件数」の一覧には、タイトルや記事本文にキーワードを含む記事が表示されます。
ヒット件数が多い場合は、さらにキーワードを追加するか、左の「絞込項目」(著者名、新聞名、出版年名、言語名)で絞り込むことが可能。この「絞込項目」は今回追加された機能で結構便利である。
記事の並び順を新聞記事の日付順に並べたい場合は、「並び順」のプルダウンメニューの中から、出版日(昇順)を選べば日付順に変えることができる。従来は該当記事すべての並び替えは、200記事を超えると不可能であったが今回は件数が多くても即座に並べ替えが可能である。
② タイトルから判断して読みたい記事をクリックして読む
表示されたリストには、見出しや副見出しおよび記事本文に一度でも「スパイ」「参謀本部」が出て来るすべての記事がアップされているので、外国に関する記事なども少なからずある。日本の参謀本部がスパイに情報を抜かれていた記事を探すのであれば、タイトル(見出し)から判断して読みたい記事をクリックしていく。
読みたい記事の見出しをクリックすると上のような画面が表示される。中央が新聞切り抜きの画像。左にその記事の文字起こしデータが表示され、さらに下にはこの記事のID、タイトル、新聞名、出版日付などのデータが表示される。以前の画面よりも文字データが小さく表示されるようになったが、コントロールキーを押しながらマウスホイールを上に動かすことで文字を大きくすればよい。
面白い記事を探すのには記事を片っ端から読むしかないのだがが、長い記事の場合は、ctrlキーとFを同時に押し下げて検索ボックスを呼び出して、検索ボックスにキーワード(例えば「スパイ」)を入力すると、記事の中にその言葉がどこに用いられているか、何度用いられているかがわかる。その前後の文章を読んで、面白そうだと判断すれば記事のURLを控えておく。
「新聞記事文庫」を個人で利用する場合は問題ないのだが、二次利用の場合は事前申請が必要になることがある。記事の引用のみの場合は引用元をルール通りに明示すれば申請不要だが、画像を用いる場合は申請が必要。このブログでは包括的な許可を頂いたばかりである。
ちなみに上の記事は、わが国が第二次世界大戦に参戦する七年以上も前に、日本共産党のスパイが参謀本部に潜り込んでいたという記事だが、興味深い内容なので全文を紹介したい。
大胆! 女党員五名参謀本部内に潜入す : タイピストに化けて皇軍の枢機を狙い昨夜、一斉検挙さる
一九三五・六年の危機を控えて俄然活溌な暗躍を開始した国際スパイの動静や、最近特に頻発する軍需品工場内の赤化運動等に対して我が軍部当局が極度に神経を尖らしている折も折、国軍の枢機を司る参謀本部内に而も幾多機密書類を取扱うタイピストとして数名の共産党女党員が潜入していたと言う驚くべき怪事実が三十日午後警視庁特高課の共産党残党狩りの素線に触れて発覚した。警視庁よりの報告に接して驚愕した東京憲兵隊本部では未曾有の事件だけに極度に重大視し、特高課で検挙したタイピスト五名の身柄を麹町憲兵分隊に移して持永隊長、重藤特高課長以下係官が徹宵取調べを行ったが、事件は意想外に拡大する模様である
スパイの嫌疑濃厚 四谷のアヂトを襲い証拠多数を押収す
検挙の端緒は、リンチ共産党の捕われぬ巨頭袴田里美の検挙に躍起の努力を続けている警視庁特高課では、本月中旬頃より袴田が四谷区左門町附近に出没すると云う聞き込みを得て同所界隈を捜査中同町九六参謀本部タイピスト八谷なみ(三四)方に不審の人物が出入りする事実を知り更に内偵の結果、同家が党首脳部のアヂトに使われている適確な証拠を握ったので、三十日午後六時を期して庵谷警部、宮下警部補以下特高課員の一隊が同家を包囲
折柄前記なみを中心に何事か凝議しつつあったなみの妹てる(二七)同居人の参謀本部タイピスト相蘇みつ(二〇)同横山花子(二一)外二名の女を検挙四谷署に連行取調べを行ったが、いずれも参謀本部のタイピストで而も八谷方の家宅捜索を行った所、軍の機密書類多数が発見されたので係官も事の意外に驚き更に厳重追究の結果遂に共産党軍事部の参謀本部班なる事を自白したのである
中でもキャップの前記八谷なみは風間丈吉を委員長とする新生共産党当時からの党員で当時の軍事部長森田次郎の指導下に参謀本部内のタイピストを同志に獲得する一方機密書類を盗写して党に提出していたが、森田検挙後は同女が殆ど軍事部長格で妹てると相蘇みつの三人で前記左門町九六にアヂトを構え、最近逼迫した対露関係では特に活躍して我が軍部の北鉄買収価格に関する機密書類等をも盗写して党を通じてソヴィエト側に内通した嫌疑さえもある、なお東京憲兵隊では一日総動員で各アヂトの家宅捜索を行うことになった重要な機密はタイピストには任せぬ 参謀本部 磯山少佐の談
右につき参謀本部庶務課磯山少佐は語る
タイピストが検挙されたことは報告を受けて知っている、しかし、その報告によれば八谷なみの妹てるというのが共産党員と知りあっていてその夜も八谷の家でタイピスト同僚三人が麻雀をやりに遊びに行った際係り合って引っぱられた、というのだから参謀本部ではあまり大したことと思って居らん。参謀本部でタイピストを雇うときは憲兵調査によって思想性向をしらべてから雇うし、雇い入れた後も絶えず憲兵調査をつづけているのだから、赤い思想に感染するようなことがあれば直ちに判る筈である、共産党の触手が参謀本部に伸びるであろうことは覚悟の前で、当局としてはそれに対し万遺憾なき防衛策を講じているから、タイピストが単なる嫌疑で警察へ呼ばれても事実が判然しない限り処分するようなことはない、また参謀本部のタイピストは人員も僅か十人ばかりで、軍務に関係した重要な文書の仕事はさせず、そういう重要軍務の往復文書はすべて現役下士が携さわっているからたとえタイピストに共産党員が居たと仮定したところで、タイピスト如きに軍の機密がわかるような事は断じてないと楽観している
相蘇みつ 山形県酒田市天正寺町一六生れで郷里には母親よし(四〇)があり二年前同市の酒田女学校を卒業後直ちに上京し、現在の参謀本部のタイピストとして働いていたものである前代未聞の不祥事 今後厳重に取締る 東京憲兵隊 持永少将語る
持永東京憲兵隊長は語る
国民新聞 昭和9年7月2日 所蔵:神戸大学経済経営研究所新聞記事文庫
最近の思想悪化の状況では、ひとり軍部だけが赤魔の触手から依然として免れ得ているとは信じ切れぬ幾多疑問の節々があったのでかねて警戒中であったが遂に参謀本部の雇員から共産党員を出すというなど前代未聞の不祥事を惹起して甚だ遺憾な次第である、兎に角参謀本部だけでも軍人以外の小使、給仕、タイピスト等の雇員が約三百名もいるのでどんな人間が潜入しているかも解らない、それ等の身許調査を厳重にやる事も必要だが、憲兵隊としては今後陸軍省参謀本部、大臣官邸内に憲兵派遣所を設置して、制私服憲兵隊を配置し非国家思想的侵入を専門に取締る予定である。
参謀本部に共産党員が潜入していてスパイ行為を行っていたことを憲兵隊が深刻に受け止めているのに対し、参謀本部が随分楽観的なのが気になるところである。この事件がその後どうなったかについて、二日後の七月四日付の報知新聞の記事を読めば、八谷なみ以外は事件に関係がないとして釈放されたと伝えている。大騒ぎした割には大した事件ではなかったのか、軍から何らかの圧力がかかったのかのいずれかなのだが、どちらが正しいのかはよくわからない。
以前このブログで書いた通り、日露戦争前にロシア駐在公使の使用人から暗号が盗まれていて日本の機密情報がロシアに漏れていたという事件があった。使用人から重大情報が盗まれるはずがないという参謀本部少佐の考え自体が甘すぎるのだ。
レーニンは一九二八年(昭和三年)の第六回コミンテルン大会で「共産主義者はブルジョアの軍隊に反対すべきに非ずして進んで入隊し、これを内部から崩壊せしめることに努力しなければならない。」(三田村武夫『大東亜戦争とスターリンの謀略』p.40)と演説しており、それを受けてソ連共産党が直接わが関東軍に対して「宣伝を行い以て革命を勃発せしむるの方針を執るに決し」組織的な赤化宣伝活動を開始したことを報じる記事も、この「新聞記事文庫」に収録されている。
このような記事も、簡易記事検索で「軍隊」「赤化」とのキーワードを入力することにより容易に見つけることができる。この頃のわが国では少なからずの共産主義者が軍隊に入隊していて、彼らは戦争から内乱に導き革命を成功させることを本気で考えていたのである。その後軍全体に左傾化傾向が強まっていくのだが、前掲の昭和七年の参謀本部にスパイ潜入の事件において、「軍事部長森田次郎の指導下に参謀本部内のタイピストを同志に獲得する一方機密書類を盗写して党に提出していた」とあるように、この時点で参謀本部の要職にすでに森田次郎という共産主義者がいたのである。また森田が検挙された後も、彼の「同志」であった八谷なみという共産党員のタイピストを参謀本部が使い続けていたことにも違和感を覚えざるを得ない。
昭和七年時点で軍隊内に共産主義思想をもつ者が相当数いたことは、コミンテルンと日本共産党が兵士宛にパンフレットを製作していたことでもわかる。このことはこのブログで書いているので繰り返さないが、わが軍の左傾化問題についてはいずれこのブログでも書きたいと考えている。
神戸大学「新聞記事文庫」を引用するときのルール
記事の文章を引用する場合は、以下のルールを守っている限りは著作権法に抵触することはなく、利用申請は不要と考えて良い。
1.主従関係が明確であること(明確性)
2.引用部分が他とはっきりと区別されていること(明瞭区別性)
3.引用をする必要性があること(必要性)
4.出典元が明記されていること(出典)
5.改変しないこと
TOPCOURTより
なお、出典元の明記方法については、
△△新聞(XXXX年X月X日)所蔵:神戸大学経済経営研究所新聞記事文庫
で問題ない。
神戸大学「新聞記事文庫」を二次利用する場合の申請について
印刷物等への掲載、動画作成、展示等で画像の転載など、記事引用以外の二次利用については事前申請が必要になる資料とそうでない資料があるようだが、事前申請が必要かどうかは各画像等の下部に「権利情報」として記載されているが、ほとんどは事前申請が必要のようである。
事前申請は次のURLの「二次利用事前申請フォーム」から入力し送信することができる。何も問題がなければ、「一週間程度」で許諾証が指定したメールアドレスに届く。
一昔前なら、研究者が毎日のように大量の新聞記事の紙ファイルやマイクロフィルムと格闘して、何日もかけて興味のある記事を探し当てていたと思うのだが、神戸大学の「新聞記事文庫」では30分程度の時間があれば、誰でも簡単に、面白い記事をいくつでも探し当てることができる。こういうことが可能であるのは、膨大な記事の全文を検索できる文字データが存在し、このデータに誰でもアクセスすることが許されているからである。
このような素晴らしいデータベースを一般に公開しておられる神戸大学に感謝の意を表したい。
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コメント
神戸大学「新聞記事文庫」で古い記事の探し方と利用方法(改訂版)の記事助かりました。
ブックマークしていた記事がタイムアウトエラーで困っていました。
urlの変更は仕方ないとしても、http://www.lib.kobe-u.ac.jp/ の www. で弾かれるとは。
せめて新ホームページにリダイレクトくらいはしてほしかった。
記事のタブが全部「新聞記事文庫」なのは変わりませんね。
ブラウザ拡張・アドオンの Tab ReTitleでその都度修正しています。
記事本文中の共産党の潜入工作は今の防衛省や他省庁でもあるのでしょう。
防諜がゆるゆるなのは戦前の日本軍や外務省時代から変わっていないですね。
S_MIURAさん、コメントありがとうございます。昨日はアクセスが集中したのか、私も何度やってもアクセスできませんでしたが、本日(9/18)の午前中に通常に戻りました。ぜひチャレンジしてみてください。
私の大学同級生に何人か共産党員がいましたが、公務員になった者も何人かいます。採用時のチェックが甘ければいくらでも入ってしまいますね。
日本人は基本的に性善説をとりますから、スパイにとって情報を盗むのは容易でしょう。政治家も秘書にC国人を雇っている者がいるくらいですから、防諜意識がなさすぎますね。