民族戦は今も続いている 長野朗『民族戦』(GHQ焚書)を読む6

長野朗中国関連

抗日統一戦線と遊撃隊

 長野は昭和十年(1935年)の年末に北京の大学生により抗日の火が燃え上がり、それが忽ち上海の学生に飛び火し、全国に蔓延して共産系の指導の下に全国的な抗日宣伝が行われたことを書いている。

「神戸大学新聞記事文庫」外交141-2

 当時の新聞記事を探していると、昭和十一年二月十七日の国民新聞に詳しく書かれている。この記事には「北平学生軍」が一九三五年十二月九日に反日デモの火ぶたを切り、その後天津、上海、漢口、済南、広東など全国の大学の男女学生が一斉に、「打倒日本帝国主義」「自治反対」「防共反対」等のスローガンを掲げて蜂起に波及したことが報じられているが、「北平」というのは北京のことである。北京は一九一二年から中華民国の首都であったが、一九二八年に蒋介石率いる国民革命軍が占領後「北平」と呼ばれるようになり、一九三七年に支那事変で日本軍が占領されたのちは「北京」に改称されたようだ。

西安事件を報じる「満州日日新聞」1936.12.14夕刊(共産党の動きは戦後の歴史叙述では伏されている)

 一九三五年に学生による反日デモが各地に広がったのち、共産党は八・一宣言を発し国共内戦の停止と抗日民族統一戦線を呼びかけたのだが、反共の蒋介石はこれを無視していた。ところが、一九三六年十二月に抗日的な張学良が蒋介石を監禁し(西安事件)、蒋介石は張学良が提示した共産党の討伐禁止、政治犯の釈放などを承諾して解放されたのだが、その後も共産党討伐を優先する姿勢を続けていたようだ。

盧溝橋事件を報じる「満州日日新聞」1937.7.9夕刊

 その後一九三七年七月に盧溝橋事件が起こり、八月から始まった第二次上海事変で日本軍の強さを知った蒋介石は第二次国共合作に応じて、抗日民族統一戦線が成立した流れである。

 日本軍と戦うには、正規軍の力だけでは難しく民衆の戦争参加が不可欠だと考えて、支那事変を支那民族全体の戦いにするために、国民党の正規軍と共産党率いる民衆からなる別動隊(遊撃隊)とが連携するようになった。長野は次のように解説している。

 彼等は正規軍の力だけでは、 日本軍に抗し得ないことを知っている。そこで民衆動員を企て、日本軍の背後にも一つの戦線を造ろうとした。これが遊撃隊である。
 かくて従来の戦争に見られない現象が起った。 即ち戦線が前方と後方には民衆軍である。正規軍が二百万、これと同じ位の数の遊撃隊がいる。この遊撃隊の組織に当ったのは主として共産軍である。

 この民衆軍の組織に当っては、その核心となるものがなくては、 民衆だけでは成立たない。 そこで共產軍はその全力を挙げて遊撃区に入り、中央軍、雑軍もまた加わった。この正規軍を核心として、 その周囲に遊擊隊が編成されていった。 多いのは一万くらいの師団の周囲に、 十万位の遊擊隊がこれを繞って存在した。 次には遊擊隊の基幹となる者を養成するための訓練機関がこの核心となる正規軍に付属され、 こうして養成された幹部は各々自分の郷土で遊撃隊を造った。共産軍の主なる仕事は、民衆を組織することと、民衆を訓練することであった。

 この後方戦線の仕事は、また従来の不正規戦やゲリラ戦とも異っている。従来の遊撃戦が主として相手方の後方撹乱であったのと異って、後方撹乱は寧ろ従であり、 その主任務は政治・経済・思想工作であった

 政治工作として彼等は日本軍の被占領区域に入り込んで、自分達の係長を任命し、地方政府を造り、課税し、学校を設け、紙幣を發行し、 新聞を発行し、 郵便局までも設けた経済方面では日本側が必要とする物を一切供給せず、皆日本から持って来させるようにし、日本の国力減耗を計り、また日本品を購買しないようにした。彼等は農村に拠り、日本軍の占拠する都市と対立した。 経済絶交のために農村は自給自足の狀態に帰り原料生産から食糧生産に転じ、ために綿花の生産等は大に減じた。また農村に手工業を興して、 工業品の自給を企てた。

 思想戦に於ては二つの目標を設けた。 民衆を日支いずれが獲得するかは重大な問題である。民衆の獲得には民心を獲得すべきであり、民心を得るには民衆生活を安全にせねばならぬ。 そのため民衆の生活問題について種々とやった。 一つは抗日思想の涵養である。 日本側の和平運動に対し、 長期抗戦のためには、 民衆の間に抗日思想をうんと注ぎ込む必要があるので、 民衆組織を通じて抗日宣伝に努めた。 かくて抗日思想はこの機会に更に大衆の間に深刻に這入って行った。
長野朗『民族戦』柴山教育出版社 昭和16年刊 p.270-272

 このように遊撃隊は撹乱行為も行ったが主たる任務は政治・経済・思想工作であり、日本軍や日本の国力を弱める為に様々な工作が行われたのである。

支那の民族戦はまだまだ続く

 長野は、今後支那の「民族戦」がどうなるかについて述べている。長野の言う通りであれば、「民族戦」は支那事変が終わって終了するわけではなく、今も続いているということになる。

 今回の事変がどう終結するか分らないが、 この事変の処置を考える場合、単に皮相の観察を下すことなく、 能く事変の本質を明かにし、 これに対する処置を誤ってはならぬ。事変の根底に流れるものは民族意識である。数千年来の伝統たる漢民族の発展の一過程である彼等の民族的侵略の本能は、 他民族との共存を考えず、 ろうを得てしょくを望むやり口から見て、 日本の譲歩によって解決するものでなく、 彼等は何処までも伸びようとする

 排日団体のある宣言文の中に示してある「吾人と日本とは両立すべからざるものであり、吾人は満州を奪還し、朝鮮を收め、台湾・琉球を取り、日本を吾人の楽園とするまで止めないであろう」といふ一句は、決して宜い加減な言葉でなく、彼等漢民族の心の奧深く蔵されている民族本能の現われである。 殊に国民党のやり口は、 支那歴代の漢民族政府のやり方に比して更に深刻である。 彼等が一つの民族と事を構えるや、長きは数百年を要している。

 今度の事変もその起りは日清戦争からである。 しかも日露戦争後には支那人の大々的満州移住を企てることによって既に日露に対する民族戦を開始している。 ただ日本人が気付かなかっただけである。 かくて日清戦争から見ても既に四十五年を経ているし、この事変を表面的に一時解決しても、深く民族問題に触れない限り民族戦は種々の形に於て依然として続けられるであらう
同上書 p.272-273

 「隴を得て蜀を望む」は後漢の光武帝が隴の地(甘粛省)を平定した後、さらに蜀の地(四川省)をも欲した故事に基づく故事成語で、人の欲望には際限がないことを意味している。漢人は、満州人の故地満州に大量の漢人を移住させて取り込んだだけでは終わらず、その後チベット、ウィグルを飲み込み、さらに台湾を狙い、最後にわが国をも狙っているのではないだろうか。
 「吾人は満州を奪還し、朝鮮を收め、台湾・琉球を取り、日本を吾人の楽園とするまで止めないであろう」は支那事変時だけの言葉ではなく、今の中国共産党も恐らく同じ考えを持っているのではないだろうか。なぜなら政治家、官僚、財界、司法、マスコミにはすでにかなり中国の工作がかかっており、また中国内の学校教育では強烈な反日思想が吹き込まれており、日本に大量移民を送り込むことが日本弱体化の強力な武器になることは確実な状況にある。
 ところがわが国は、国や思想や宗教も問うこともなく外国人移民を歓迎する姿勢が強いのだが、移民を侵略の手段として考えている国に対してどのように国を守るつもりなのか。たとえば、もし中国で内乱が起きたり経済破綻などで「避難民」と称して大量の移民が流入する場合に、受け入れ人数を絞り込む対策は考慮されているのか。満州族の故地である満州に漢人が大量に移住したのは支那の内乱期であったことは忘れるべきではない。

支那の民族戦の根本的な誤り

 長野は、世界の大民族であるロシア、アメリカ、支那の三民族が「東亜」の地に合流し、渦巻いていのが第二次世界大戦で、それぞれの民族の侵略方法は決定的に異なっていることを述べたあと、支那の侵略方法については根本的な誤りがあると指摘しているのだが、次の文章を読んで今の中国も同じだと思う読者が少なくないのではないか。

 アメリカの資本侵略、ロシアの領土侵略に対し、支那民族の発展方式は民族侵略である。表面の統治や経営権等に関係なく、民族の膨脹拡大により、海の満潮の如くに押寄せて来る。満州に南洋に、その発展の方式は既に説明した通りであるが、支那の民族発展には次のような根本的な錯誤が含まれている

 第一には支那の民族発展に排他的独占的であって、 民族帝国主義ともいうべきものであり、孫文もその三民主義の中で示しているように、自国を中華とし、支那民族を以て世界を征服せんとするから、他民族との共存を考えず、其周囲の各民族に対し、四千年間侵略と同化とを続けて来た。この伝統的な漢民族の大方針は、一貫して変わることなく、殊に国民党は最も露骨にそれを現わしている。今日の事変に際しても、この支那民族の心理は到る所に現われ、支那人はこれを民族戦と呼んでいる。親日派も反日派も、南方人も北方人も、この漢民族意識に立つ時、彼等はすべて同じものであり、百パーセント支那人である。これを別物と見るのは日本人の錯覚に過ぎない。

 第二は支那人の利己的観念である。 支那人の唱える不平等条約の撤廃も、表面の言葉に眩惑されてはならない。この中には二つの意味が含まれている。一つは支那の国家主権の独立であって、この回收は当然のことであるが、もう一つは利権回收の運動であり、 これは支那人の利己的観念から出たもので他国民と共存するのでなく、 すべての利益を漢民族の手に独占せんとするものである。その最も著しい例は之を満州に求めることが出来る。満州事変前の満州に於て、 張学良一派は、 日本側の有するすべての利権や企業に執拗なる圧迫を加え、これを奪取して満州のすべての利益を自己の手に独占せんとし、 また満州の土地を日本側に開放することを拒み、これを漢人の専有とせんとした。こうした習性は到る所に現われている。 …中略…

 第三には支那民族の進出が搾取的なことである。 満蒙に於ても南洋に於ても、支那民族の発展は他民族の搾取の上に行われ、他民族の生存を冒し、これを滅亡せしめるに至るものである。 満蒙に於て之を見るに、 蒙古人生活根拠たる牧場を奪ってこれをして生存の余地なからしめ、 また商人として満蒙人に物を高く売り、 蒙満人の生産品を安く買い、 大なる不当利得を貪る。 また朝鮮人小作人から法外なる小作料を取立て、 あるいは朝鮮人に開墾させ、 土地の熟するやこれを奪い取り、また鮮滿蒙人に金を貸し極めて高利を貪る。…中略…
 支那人は国内に於ても支那人間でこうした搾取をやり、他人の危急を見ても之を機会に搾取する。 即ち本質的に徹底した搾取民族である従って支那人と他民族とが混住した場合、 他民族は必ず支那人に喰はれるから、 清朝時代でも、満蒙では支那人と満蒙人との居住地域を分別して混住せしめなかった

 第四には支那民族の移住により廃頽氣分を持ち込む。支那人の往く所、影の形に添ふ如く付き纏っているのは阿片と賭博と秘密結社の三つである。阿片は実に民族を毒すること大なるもので、 阿片中毒者がその財產を失ひ、体を損なって一生働けないだけでなく、阿片中毒者は子孫が出来ない。賭博は支那人の常習で支那人のある所必ず賭博があり、 支那人は其の日常生活までも賭博化する。秘密結社には南洋の各統治官憲も大分困ったようで…中略…殺人、强奪、賭博阿片密売等すべて彼等の手に行われる。

 以上のように、支那民族の発展が非共存的であり、搾取的である限り、之との協調は不可能で、支那民族の発展方式は全く修正されるべきである。
同上書 p.280

「民族の発展が非共存的であり、搾取的である」というのは、中国だけでなく、アメリカもロシアもイスラエルなども同類なのだが、このようなやり方で領土を拡大したり利権を獲得することが出来たとしても、長続きするとは思えない。いや、長続きさせては世界の多くの人々が不幸に陥ることになるだけだ。

長野朗

 本書の最後に長野はこう述べている。 

 東亜に於ける二大民族は日本民族と支那民族とであるが、支那民族は今日既に四億の人口を有し、東に南に大々的発展を遂げつつある。しかるにすべて人類の進步発達は、 二つのものが相硏抵磨することによって起るものである。物に左右があり、陰陽あるが如くである。獨一は驕逸に走り墮落不進歩の因である。 幸い東亜には大陸国支那と海洋国日本とあり、 この二つのものは全く相異なる特質を有している。しかるに支那は大なる国土と資源と人口とを有しているから、之と提携共存するためには、今日の日本民族は、その人口の上からも、人民生活の資源の上からも、余りに小に過ぎる。ここに東亞の真の平和と発展の上から、日本民族の大なる発展が必要となり、漢民族の利己的発展は調制を加えられねばならぬ

 日本民族が発展するには、そこに日本民族の独自の文化がなければ意義をなさない。各民族は各々自己の文化により世界人類の進歩に寄与するものである。したがって一つの民族が発展するには、その民族の文化を伴うべきものである。独自の文化なき民族は民族としての性質を具備していない。殊に今日世界は文化の交代期にある。 現在の世界戦は明かに文化戦である。欧州旧文明の崩壊過程より起った現象であるが故に、ここに新しい世界文化が起こるに非ざれば、この戦争が大団円を告げ、真の世界新秩序と平和とは来ないのである。日本民族は正に斯の如き大使命を負うものである。
同上書 p.287-288

 長野は、当時の世界は文化の交代期であるとし、第二次世界大戦は欧州文明の崩壊過程の中で起こった大戦で、終戦しても新しい世界文化が起こらなければ新しい世界秩序と平和は訪れないと記している。世界が丸く治まるためには新しい文化の力が不可欠であり、日本民族の大使命がその点にあることを真珠湾攻撃が行われる九ヶ月前に書いているのだ。
 しかしながら、第二次世界大戦後に新しい世界文化は起こっておらず、結局欧米を中心とする世界秩序が継続され、その後ソ連が崩壊し、中国が成長して欧州は衰退し、その中国も今はバブルが崩壊して今後の復活は厳しいと思われる。今の世界は文化の交代期にあり、AIなどの新技術の普及によって世界が大きく変わる可能性を感じるのだが、強国が弱小国を支配し搾取する構造、あるいは一部の富裕層が世界を支配する構造のままでは、いつまでたっても世界の秩序は安定化せず、平和は訪れないだろう。
 排他的な一神教や排他的な思想、あるいはおカネの力で優位に立てる仕組みでは今までと変わらない世界が続くだけではないか。戦って勝利することで他国よりも優位に立つのではなく、他国の伝統や文化を尊重し、パートナーとして互いに協力しながら共存共栄できる道を探ることを目指す国が増えていくことが理想なのだが、いつの日か世界が家族のようにまとまる平和な時代が訪れることを祈りたい。

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