丹波市古刹の桜を楽しむ…圓通寺、百毫寺、常勝寺

兵庫

 桜の季節は人が多すぎるところはなるべく避けて、静かに楽しめる寺や神社に行くようにしているのだが、一昨年も、昨年も桜の季節は病院の中で過ごしたので、今年はあまり無理せずに、自宅からそれほど遠くはない兵庫県丹波市と丹波篠山市を巡ることにした。いずれの市も「桜の名所」として有名な寺社はあまりないのだが、市内を流れる川の両岸に植えられた桜並木がよく知られていて、丹波市では氷上町の加古川沿い、春日町の黒井川沿い及び竹田川沿い、柏原(かいばら)町の柏原川沿いなど、丹波篠山市では篠山川沿い、宮田川沿いなどに見ごたえのある桜並木が存在し、桜の季節になるとあちこちドライブしながら結構桜を楽しむことができる地域である。

圓通寺

 最初に訪れたのは曹洞宗の古刹、圓通寺(えんつうじ:丹波市氷上町御油983)。
 寺のパンフレットによると、この寺は南北朝時代の永徳二年(1382年)に足利義満が後円融天皇の勅命により創建し、室町時代から江戸末期まで二百余の末寺があり、一千石を超える寺領を有する大寺院であったという。
 天正時代に織田信長の命を受けた明智光秀の丹波攻めでは、当地方の寺社仏閣がことごとく焼かれたのだが、この寺は豪士荻野喜右衛門が光秀の本陣にに赴き説得の結果兵火を免れたと伝わっている。

 江戸時代には一度火災に遭い天保年間に再建されたが、明治に入って廃仏毀釈で収入源が断たれてこの寺も荒廃してしまう。そこで当時の第四十世「日置黙仙禅師」は東奔西走し「円通寺営繕永続講会」の設立を成し遂げ、その結果十六年の歳月をかけ、圓通寺は見事に復興を果たしたという。この「日置黙仙禅師」は、後に大本山永平寺にて曹洞宗管長として活躍した人物なのだそうだ。

 この寺の秋の紅葉は有名で、高源寺(こうげんじ)、石龕寺(せきがんじ)とともに「丹波紅葉三山」の一つとして知られているのだが、桜もなかなかいい。上の画像は江戸末期に再建された本堂である。

 本堂の柱と柱の間には様々な霊獣が彫刻されている。上の画像は本堂外部正面の龍だが、麒麟や鳳凰などの彫刻もある。これらの彫刻はこのブログで何度か紹介させていただいた中井権次一統の六代目橘正貞の作品である。
 Wikipediaによると、中井権次一統は丹波柏原藩の宮大工の中井道源を初代とし、四代目の言次君音以後九代目の貞胤まで神社仏閣の彫物師として活躍した中井家の一統で、六代目権次正忠より権次を名乗ったことから中井権次一統と称するようになったという。龍や麒麟、唐獅子などの霊獣を彫刻した作品は、北近畿(旧丹波国、丹後・但馬)を中心に旧播磨・摂津を含め三百ヶ所程度現存しており、この地域の寺社巡りの楽しみの一つである。

 本堂の裏には丹波市指定天然記念物の糸ざくら(樹齢二百年)とたぶの木(樹齢三百年)がある。上の画像は糸ざくらだが、四月五日時点で五分咲き程度だった。

白毫寺

 次に訪れたのは天台宗の古刹、白毫寺(びゃくごうじ:兵庫県丹波市市島町白豪寺709)。

 寺伝によると、慶雲二年(705年)法道仙人の開基とされ、奈良時代には七堂伽藍が立ち並び、南北朝時代には九十三坊を擁する丹波屈指の名刹として隆盛をきわめたそうなのだが、天正年間の織田信長による丹波攻略で明智光秀の率いる兵火で焼失してしまった。
 その後再建され、寛文十二年(1672年)の記録によると、総門のほかに四十八もの坊・院が立ち並んでいたというが、今では薬師堂と本堂と熊野権現社が境内に残されているだけだ。

 この寺の木々や花々は四季を通じて美しく、とりわけ五月の藤は全長百二十メートルの藤棚に咲く「九尺藤」と秋の紅葉がネットでよく紹介されており観光客も多いようだが、桜の時期は訪れる観光客は少なく、じっくりと桜を楽しむことが出来る。

常勝寺

 次の訪問地は常勝寺(じょうしょうじ:兵庫県丹波市山南町谷川2630)。
 この寺は大化年間に法道仙人が創建したと伝わるが、永保年間(1080~1084年)に全山が焼失してしまい、その後再建されて、最盛時には百二十余の堂宇が建てられたそうだが、天正三年(1575年)の丹波攻めで再び全山が焼失してしまったという。江戸時代に入って少しずつ堂宇が再建されていったが、本堂が修復されたのは元禄十年(1697年)のことだという。

 上の画像は仁王門で、正面から撮ると逆光でうまく撮影できなかったが、付近には多くの桜の木が花を咲かせていた。

 四年前の話だが、この仁王門の左に安置されていた吽形(うんぎょう)像の顔面にキイロスズメバチが巣作りをして話題になったことがあった。地元の丹波新聞が当時の異形の吽形像を伝えているが、今ではきれいに修復されている。

常照寺の本堂に行くには三百六十余の階段を一直線に上らなければならないのだが、長い入院生活で足腰が弱っているようで結構きつかった。上の写真は仁王像付近の桜を撮影したものだが、参道の階段はこの数倍は続いている。

 桜が多いのは参道の半ばぐらいまでで、本堂近辺には桜はない。ご本尊の千手観世音菩薩立像は藤原時代から鎌倉時代初期の作とされ国指定重要文化財なのだが秘仏のため三十三年毎に公開されるのだそうだ。写真を撮らなかったが、薬師堂に安置されている木造薬師如来坐像も国指定重要文化財である。

 この寺も本堂の向拝などに見事な彫刻を観ることが出来る。これも中井権次一統の作品だと思われるが、銘文を見落としたので何代目の作品かはよくわからない。

 このような装飾彫刻が単独で文化財などに指定されている事例は今のところはおそらく存在しないと思うのだが、将来的にはこのような彫刻物が文化財指定される時代が来るかもしれない。残念ながら中井権次一統が宮大工の彫物師として活動していたのは戦前までで、十代以降は誰も中井権次の名前を継いでいないという。いつかは修理することが必要になるのだろうが、このような技術が継承されていかないと、後世に良いものを残すことは難しくなるばかりではないか。

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