GHQ焚書点数が2番目に多い仲小路彰の歴史書には何が書かれているのか~~『米英の罪悪史』『太平洋侵略史』

欧米の植民地統治

 GHQが戦後の日本人に読めないようにした書籍を著者別に並べると、一番多いのが野依秀市のもので二十四点、二番目が仲小路彰で二十三点、三番目が長野朗で十八点となる。長野朗の著作は前回紹介したので、今回は仲小路彰の著作の一節を紹介したい。

 仲小路彰は歴史哲学者で、西洋、東洋、日本の戦史を中心に百冊近い著作があるようだが、「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されているのは『米英の罪悪史』の一冊だけである。そこで仲小路は、従来の世界史学者の歴史研究スタンスをこう批判している。

 従来、世界史とは、全くヨーロッパ中心の歴史であり、しかもこのヨーロッパ中心主義をもつてのみ世界史が構成せられるものと一般の学会は信じ来たったのであります。そして彼等はなおその誤れる迷妄、観念より脱し得ぬ者が殆んどでありますが、漸くにして幾分なりと反省せるものは、近代ヨーロッパの衰退と地域の限定を認め、これより今やアジアの歴史が世界史の中に入り来たれるものとなし、漸く世界の世界史が初めて展開せんとする考えであります。しかしこれとても全く認識不足のものであり、彼らは世界史の発展はナイル河、チグリス・ユーフラテス河辺より始まり、地中海地域、ヨーロッパ全土、次に大西洋岸に発展し、今や漸く太平洋時代に入らんとするものであります。そして日本はこの大東亜戦争を契機として、始めて世界史の舞台の上に登場したとするものですが、これまた世界史の真の本質を把捉せぬ、ヨーロッパ的見界の亜流に外なりません。

 またそれと共に、世界史が幾個もあるとする考えであり、それは一国あるいは一民族が、世界の全体的発展といかに関連するものかを明らかにせるもので、数個の世界史の存亡を認めんとするのでありますが、これはむしろ世界史の一部であって、決して世界史そのものということは出来ないのであります。

 しかしこれらの見解と全く異なる、唯一にして最も正しき世界史の成立が可能となるを私は堅く信じるものであります。それこそ実に日本を中心とし、その日本史の発展の中に、真の世界史の展開が示されるものであり、ここに世界史の真実の本質が、始めて把捉されるのであります。…日本が長き間、世界の片隅にあって、何等他国から認識されなかったとすることは、全く日本史の真の認識研究の不足を示すものであり、また日本史が世界史を決定する根軸たり得ぬとするのは、まさに欧米的なる、或いはまた支那の中華的なる見地によるものであります。むしろ真の世界史は、日本の大いなる史的存在を基礎的なる本質において認めることによって始めて最も正しい世界認識が獲得されるのであります。

(仲小路彰 著『米英の罪悪史』世界創造社 昭和17 p.5~6)

 仲小路は、従来の世界史はヨーロッパ中心史観で描かれており、世界史の真の本質を掴んでいないと批判している。イギリスがスペインの無敵艦隊を破って、後年世界制覇を成すべき基礎を築いたのは1588年だが、その頃の日本は東南アジアに築いた日本町を拠点とした海外貿易が盛んに行われていた。文中の「八幡船」は、戦後の教科書では「倭寇」と書かれて「海賊集団」のように描かれていることが多いのだが、彼らは主に貿易に従事しており鉄砲で武装していたことから、スペイン・ポルトガルは「八幡船」を掃討することが出来なかったし、イギリスの海賊も同様であった。いわば、日本の八幡船が東南アジアの海域を支配していたと言って良い。

 吉野朝時代以降、堂々たる八幡船隊は盛んに南海に雄飛し、…マレー半島、フィリピン群島、蘭領インド諸島より、遠くインドに及ぶ地域は、悉く八幡船隊の勢力下に帰していたのでありました。

 これらの日本海軍力の発展は、当然に西欧の東洋、太平洋侵略と全面的に衝突し、容易に彼らの植民地化を許さなかったのであります。さすがに凶暴なるイギリスの海賊も、日本の八幡船隊のために制圧せられ、本国に対し援軍を求めるに汲々たるものがありました。かくて日本の南方進出が盛んなる時代には、西欧のアジア侵略は未だ殆んど微々たるものであり、ここにイギリスは新教国のオランダと共同して日本を巧みに抑制するための謀略を企て、外交政策により日本を欺き、鎖国せしめるに至った…

(同上書 p.14~15)

 イギリスやオランダが東南アジアを植民地化していくのは、日本が鎖国して、日本人の往来が途絶えてからの話なのである。仲小路はヨーロッパ中心史観を批判したが、戦後はさらにひどくなり、日本史に関しては古来より鎖国が続いていたかのようである。

 仲小路彰は世界全体で起こっている地球規模の動きのなかで日本の歴史を捉えており、その歴史洞察の深さは、戦後の多くの著作とはレベルが異なる。西尾幹二氏が『GHQ焚書開封 2』で解説しておられるが、仲小路の著書の目次を読むだけで、スケールの大きい歴史を描いていることがわかる。仲小路氏の『太平洋侵略史』など数冊は国書刊行会から復刊されている。

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『太平洋侵略史』全六巻の内容については西尾幹二氏が4回にわたり解説しておられる動画がある。興味のある方は、覗いていただければありがたい。

GHQ焚書図書開封 第53回
GHQ焚書図書開封 第53回 ※「GHQ焚書図書開封」は、過去放映分を隔週水曜日に公開していきます。占領下、大東亜戦争を戦っ...
GHQ焚書図書開封 第54回
GHQ焚書図書開封 第54回 ※「GHQ焚書図書開封」は、過去放映分を隔週水曜日に公開していきます。占領下、大東亜戦争を戦っ...
GHQ焚書図書開封 第55回
GHQ焚書図書開封 第55回 ※「GHQ焚書図書開封」は、過去放映分を隔週水曜日に公開していきます。占領下、大東亜戦争を戦っ...
GHQ焚書図書開封 第56回
GHQ焚書図書開封 第56回 ※「GHQ焚書図書開封」は、過去放映分を隔週水曜日に公開していきます。占領下、大東亜戦争を戦っ...

【GHQが焚書処分した仲小路彰の著書リスト】

タイトル著者出版社国会図書館デジタルコレクションURL出版年備考(復刊情報など)
欧州大戦 上仲小路彰世界創造社   
上代太平洋圏仲小路彰戦争文化研究所   
西洋戦史 欧州大戦 
下ノ1
仲小路彰戦争文化研究所   
西洋戦史 欧州大戦 
下ノ2
仲小路彰 戦争文化研究所   
世界維新大綱仲小路彰 大日本雄弁会講談社   
世界興廃戦史 
一九三七年
仲小路彰 戦争文化研究所  2011国書刊行会より復刊
世界戦争論仲小路彰 日本問題研究所  2011国書刊行会より復刊
大皇国 上仲小路彰日本問題研究所   
大皇国 中仲小路彰日本問題研究所   
大皇国 下仲小路彰日本問題研究所   
太平洋近代史仲小路彰戦争文化研究所   
太平洋防衛史仲小路彰戦争文化研究所  2015国書刊行会より復刊
太平洋侵略史1仲小路彰戦争文化研究所  2010国書刊行会より復刊
太平洋侵略史2仲小路彰戦争文化研究所  2010国書刊行会より復刊
太平洋侵略史3仲小路彰戦争文化研究所  2010国書刊行会より復刊
太平洋侵略史4仲小路彰戦争文化研究所  2010国書刊行会より復刊
太平洋侵略史5仲小路彰戦争文化研究所  2010国書刊行会より復刊
太平洋侵略史6仲小路彰戦争文化研究所  2010国書刊行会より復刊
太平洋防衛史1仲小路彰戦争文化研究所  2015国書刊行会より復刊
肇国世界興廃大戦史 
日本戦史第一巻
仲小路彰戦争文化研究所  2011国書刊行会より復刊
南洋白人搾取史仲小路彰戦争文化研究所  2015国書刊行会より復刊
日本精神論仲小路彰日本問題研究所   
米英の罪悪史仲小路彰 世界創造社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1276429昭和17 
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 前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年の4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
 通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
 読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。

無名の著者ゆえ一般の書店で店頭にはあまり置かれていませんが、紀伊国屋書店の下記10店舗に令和三年の二月末まで、各1冊だけですが常備陳列されることになっています。
川越店、流山おおたかの森店、梅田本店、グランフロント大阪店、川西店、クレド岡山店、広島店、久留米店、熊本光の森店、アミュプラザおおいた店
お取り寄せは上記店舗だけでなく、全国どこの書店でも可能です。もちろんネットでも購入ができます。
令和二年三月末より電子書籍もKindle、楽天Koboより販売を開始しました。

Kindle Unlimited会員の方は、読み放題(無料)で読むことが可能です。

内容の詳細や書評などは次の記事をご参照ください。

コメント

  1. ラングドック・ラングドシャ より:

    昭和二十年に完成した、海軍省が作った「海の神兵」という映画は現在もソフトが売られています。当時の大人が、どのように戦争を捉えていたのか判る気がします。北米向けのバージョンのあるようなので、そちらも見てみたいのもです(北米からの感想に、反帝国主義的な雰囲気の映画だった」というのがありました)。

    https://www.amazon.co.jp/%E3%81%82%E3%81%AE%E9%A0%83%E6%98%A0%E7%94%BB%E6%9D%BE%E7%AB%B9DVD%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E6%A1%83%E5%A4%AA%E9%83%8E-%E6%B5%B7%E3%81%AE%E7%A5%9E%E5%85%B5-%E3%81%8F%E3%82%82%E3%81%A8%E3%81%A1%E3%82%85%E3%81%86%E3%82%8A%E3%81%A3%E3%81%B7-%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E4%BF%AE%E5%BE%A9%E7%89%88/dp/B01ENGE3DG/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E6%A1%83%E5%A4%AA%E9%83%8E+%E6%B5%B7%E3%81%AE%E7%A5%9E%E5%85%B5&qid=1608268069&sr=8-1

    • しばやん より:

      ラングドック・ラングドシャさん、コメントありがとうございます。
      戦中に作られたということで興味を覚えたので、取り寄せることにしました。自分の親の世代が、戦争をどうとらえ、子供たちにどう伝えようとしたのか、非常に興味があります。情報に感謝です。

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