前回に引き続き、『支那新聞排日ぶり』の内容の一部を紹介しよう。
満州事変直後、ソ連もアメリカも出兵したと報じた中国
今もお隣の国の報道をそのまま信用することは危険だが、その点については昔も同様で、この国の新聞は平気で世界に嘘情報をまき散らす。満州事変が勃発したのは昭和六年九月十八日の夜だが、その直後に支那の新聞が報じていた内容は興味深いものがある。
支那側が、事件発生するや早くも、世界各国にまことしやかなデマを飛ばし、自国側を有利な立場に導いたことは前に記したところであるが、その後各国が如何に暴日に憤慨し、支那に同情を与えたかを記し、一は益々外国をして日本を牽制せしめ、一は国内に向かって政府の正義、悪逆日本を宣伝し、排日の気勢を煽ることにつとめた。遂には米国、露国の出兵記事とまでなって表れるに至った。
(九月二十一日民国日報)
◇ソヴィエトロシア出兵。鉄道守備の準備を開始す。
(天津発電) マンチュリ来電、ハルピン消息に拠れば、×××のソヴィエトロシア軍隊は既に行動を開始し、辺防を一層固めんとすと。
(ハルピン発電) 十八日より電信普通。十九日五時、長春の日本軍攻寛駅を攻め、ソヴィエト国旗を下ろし、日旗に換えたりと。ロシア出兵の噂あり。
(九月二十二日民国日報)
◇ソヴィエト日本に不満を表示す。
出兵し、極東鉄道の守備に当たらん。
(ロイター東京発電) 北満方面よりの消息に拠れば、ソヴィエトロシアは、日本の今回の暴挙に反対し、長春、ハルピンよりの通信に由れば、ソヴィエト官民、日本の不理なる戦闘開始を怨める由。日本各新聞、更にこのことを載せず。
(本社北平発電) 露国領事は我が当局に対し、出兵を決定せる旨通告ありたり。(九月二十三日民国日報)
◇日軍の鉄蹄、ハルピンに迫る。
ロシア政府この上は傍観するに忍びずと通告す。
戦事委員長、すでに極東に向けて出発。…中略…などと言って、支那側が朝鮮銀行、日日新聞社、総領事館などに爆弾を投じ、不安に陥れたるを全然黙し、日本軍が故なくして侵略を恣(ほしいまま)にするかの如く論じている。
日露干戈*(かんか)を交えつつあり
大泉忠敬『支那新聞排日ぶり』先進社 昭和6年刊
(同日民国日報)
◇ソヴィエトロシア極東鉄道に向かって動員す。
日本軍の権利奪取を防ぐためなりと声明す。
(天津発電) 二十二日ハルピンよりの電報に依れば、ロシアは日本軍が連日東三省(とうさんしょう)*の各地を占領するは、ソヴィエトロシアの東北における権利奪取の意図あること明らかなるを以て、兵員十万を出兵し、日本に対して宣戦することに決定せりと。
(天津発電) ハルピンよりの通信に依れば、ロシア軍の先発隊は八里罕(バリハン:内蒙古の地名)に於いて日本軍と干戈を交え**つつありと。
*東三省:満州と同義。三省とは遼寧省・吉林省・黒竜江省のこと。
**干戈を交える:戦う
ソ連だけではない。欧米世論も日本の行動を許さず、アメリカも出兵を決定したと報じている。
(九月二十二日民国日報)
◇欧米の世論、日本に対して一大鉄槌を下す。
米政府特に注目す。
(本社南京発電) 外交部は二十一日米政府よりの通電に接した。米政府は、米当局に於いては東三省の事態に特に注意を払い、日支両国が軍事行動を避けて、争端を解決せられんことを希望すると言っている。外交部はこれに対し早速返電して、ワシントン会議以後日本は信義を破り、再三暴挙に出でたが、中華民国はあくまで平和を尊重して、さらに抵抗を加えない。公道を主持せられんことを希望すと。またワシントンおよび各地の論説に、日本が平素東亜大陸の侵略を謀り、…南満を占領せり。世界各国はこれによろしく制裁を加うべきだと述べている。
(ロイターロンドン発電) …中略…
各国駐上海軍隊は出動準備をなし、上海の空気、最近頓に緊張し、各国在支軍隊は出動準備に忙殺されている。…中略…米国出兵に決定。
同上書 p.63~65
あるいは暴日を膺懲の挙に出でん
◇米国、陸戦隊を支那に派遣す。
上海居留米人の談によれば、日本は数十年來満蒙奪取を目論んでいたことは世界各国のはやくより悉知するところである。然るに、最近に至って列強は自国経済問題に忙殺されて、日支一切の衝突に対し参加することを希望しなかったが、今回日本が一切を顧慮しないで東三省に出兵したことは、世界各国の等しく驚駭するところである。わが(米国)国側に於いて、余が今日得たる消息によれば、既に大艦隊及び陸戦隊を遣支と決定。かくて在支米人の保護に任ずる準備をおわった。また必要あらば、暴力者にも干渉せんと。記者はこれを聴いて、わが国の為に快哉を叫んだのであった。
もちろん満州事変の直後にアメリカやソ連が出兵した事実はない。こんな報道ばかり読まされていた支那の民衆は、日本が自国の領土を侵略しようとしていて、世界の国々が日本を懲らしめようと動きだしていると理解して当然であろう。世界も支那から発信される情報に振り回されたのだが、国内では一気に排日世論が高まっていくことになる。
満州事変勃発後に澎湃として起こった抗日世論の声
満州事変後に支那で抗日世論が広がっていったことについて、大泉はこう記している。
日本軍奉天占領の報道に、中央はじめ各地党部は一斉に起ち上って抗日救国会を開催。激越なる口調を以て全国民衆に帝国主義日本の暴挙を告げ、あらゆるデマ、あらゆるスローガンを、およそ人目に触れると思われる所には残さず掲げて抗日救国の声を上げた。ここに端を発して、全国の学生は蹶起し、各都市地方一般民衆の抗日救国大会起こり、討日永遠の経済絶交、対日宣戦の要求となり、遂には、南京付近大学生は首都に退去集合して、対日武装を要求。激昂のあまり、王正廷殴打事件まで惹起するに至った。
まず第一発、うち出された抗日スローガンは二十日の新聞紙の第一面の半頁を占めている。しかし、その文字たるや、次の如く極めて簡単なるものである。(九月二十日民国日報)
同胞よ、
日本はすでに瀋陽を占領せり。
団結して起ち上れ。
一致して外敵に対(むか)え。
中国国民党 上海特別市執行委員会続いて、翌二十一日の紙上には、各地軍校、反日会、国民党部の中央政府に厳重なる交渉を要求すとの電報が殺到したと報じている。
大泉忠敬『支那新聞排日ぶり』先進社 昭和6年刊 p.74~75
どこの国も新聞などを使って大なり小なり世論誘導を行うものだと思うのだが、お隣の国では新聞の第一面の半分が、国民に蹶起を促すアジビラのような内容であった。そしてそれに呼応して中国国民党は日本と戦う宣言を各地で出している。例えば上海特別市第五区執行委員会は九月二十二日に「民衆に告げるの書」を発表している。その後半の部分を紹介させていただく。
ここにおいて日本軍人は大いに対華強硬論を唱え、武力を用いて満蒙一切の問題解決を計り、在野の政友会これに一層輪をかけて宣伝、大いに満蒙を併呑し、独り東亜に覇を唱えんとする形勢があった。上海の日本人新聞及び東北満州の日本浪人どもはさらに事を広げるための証人等を作りあげて、以て我が東北を征服せんとする目的を達した。吾人この報を聞き、最初日本浪人の為せる流言と思っていたが事実は如何、日軍は昨朝突如武装して奉天を強占し、我が軍無抵抗のうちに、・・・我が奉天は日人の手中に落ちたのだ。同胞は惨殺された。嗚呼、国亡びるの日近し、民に生気なし。吾々は如何にしてこれを救おうか。自救の道は、民族精神を喚起し、民族の力を団結せしめ全国民衆の力を以て一致対日永遠の経済絶交をなすのみ。同時に政府に、革命的外交を以て、賠償の目的を達せられん事を請うものである。
同上書 p.83
日本軍と戦うためには徴兵しなければならない。そのためには「生気のない」国民の「民族精神を喚起し、民族の力を団結」せしめる必要があったのだろうが、真実を捻じ曲げて国民を煽動することはこの国では今もよくあることである。その後各地であらゆる階層の抗日組織が結成され、義勇軍も集められていった。二十四日には国民政府が「全国国民に告ぐるの書」を発表している。曰く、
…今日は国内の紛糾が忽ち影を没すべき時である。全国同胞は悉く私憤、私情を棄て一致団結し国民政府の下に馳せ参じて、国家のために安全を謀り、民族の為に独立を求めよ。我が全国の同胞は、特に国家の統一を擁護するにあらざれば、到底外敵に当たり得ざることを確認せよ。断じて、中央の決定する方策を動揺さすことを許さない。而して一致救国の決心を為すべし。…中略…およそ我が同胞たる者は政府を信任し、整然たる歩調を揃えて外敵に対し、一致して中央党部の指導に従い、死を誓い、国を救い、以てわが民族の精神を発揚し、我が恥辱を雪げよ。此処に同胞と共に相警告するものである。
同上書 p.101~102
内容的には新聞記事を根拠に国民の蹶起を促すアジビラのようなものである。
小学生の投書
真実を知らされていない民衆を洗脳することは、何時の時代でもどこの国でも容易なことである。同書に、小学五年生の少年が「中国日報」に投書した文章が掲載されている。
△小学生もまたこの熱血あり!
学生の痛語 小学五年生某家へ帰る途中、陳英上塔の傍を通ると、上海法制学院の学生抗日会の演説会をしているのに遭った。そこでは日本人の獰悪を民衆に語っていた。熱血に駆られて思わず駆け寄って、聴衆の一人となった。
「親愛なる同胞よ。我々の死ぬべき日は来た。我々は、今や、生を貪っている余地はない。諸君、見よ。凶暴、極悪にも、日本帝国主義は、わが東三省を占領し、人道を捨てて、我が民衆を殺戮した。我々は、どうして眠ってみていられようか。」演説を聞いていると、日本兵の刀が頭に下されたかのように感じられた。だが私は、彼の語るのを、日本の極悪を、すっかり聴かなければならない。そこでさらに耳を傾けた。聴けば聴くほど、涙が滴々と流れた。この時先生が私らに語った言葉を思い出した。
「我々は、今は泣くことも、笑うことも出来ない。ただ怒りを忍んで、涙を呑んで、団結して日本に対抗することを計らねばならない。」
私は涙を呑んで家へ帰った。しかし心の中では、最後の言葉を繰り返した。
同上書 p.167~168
「戦場の鬼(死者)となるも、亡国の奴となるなかれ」と。
お隣の国が発信する情報の多くが信用するに値しないことについては多くの日本人が認識していると思うのだが、なぜあの国が声高に主張する歴史を正しいものと信じている日本人が多いのだろうか。前回も書いたように、あの国が声高に主張する歴史は、疑ってかかった方が良いのではないだろうか。彼らは、敵対国を孤立化させるために、あるいは国民を徴兵に駆り立てるために平気で嘘をつくことが多いことを知るべきである。
戦後のわが国の教科書などでは、この国に忖度してか、この国が声高に主張する歴史叙述が教科書などに書かれていることが少なからずあるのだが、その内容が正しいかどうかについては、戦前の書物などを参考にして自分で納得いくまで調べた方が良いと思う。
「満州事変」を本のタイトルに含むGHQ焚書
以下のリストは、GHQ焚書の全リストの中から、本のタイトルに「満州事変」を含む著作を抽出したものである。
「〇△」欄の「〇」は、「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている本で、「△」は「個人向けデジタル化資料送信サービス」の手続きをすることによって、ネットで読める本である。
全部が「△」なのだが、このような古い本が著作権の保護期間に当たるはずがない。今年の五月に「個人向けデジタル化資料送信サービス」が開始されるまでは、満州事変に関する真実が一般国民に封印されていたと理解するしかないのだ。
上の画像は『満洲事変写真帖 』に出ているが、戦前においてはわが国においても、世界においても、満州事変の発端となった柳条溝事件は、支那側が仕掛けたと認識されていたことを知るべきである。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 〇△ | 国立国会図書館デジタルコレクションURL | 出版年 |
活機戦 第1部満州事変 | 佐藤庸也 | 日本軍用図書 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1920514 | 昭和18 |
極東新時局 満州事変の展望 | 三浦悦郎 | 日本書院 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1171130 | 昭和16 |
戦争秘話(満州事変)第二輯 | 偕行社編 | 偕行社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1232588 | 昭和10 |
眼のあたり見た満州事変 | 三島泰雄 | 時事新報社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1146596 | 昭和7 |
満州事変衛生勤務記念写真帖 | 青木袈裟美 編 | 陸軍省医務局内陸軍軍医団 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1688786 | 昭和9 |
満州事変国防献品記念録 | 陸軍省 | 陸軍省 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1688792 | 昭和7 |
満州事変写真帖 | 佐野佑一 編 | 大日本軍事教育会 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1688773 | 昭和6 |
満州事変写真集 | 樋山光四郎 編 | 偕行社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1217158 | 昭和9 |
満州事変と朕が密偵 | 浦路耕之助 | 赤爐閣書房 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1178535 | 昭和16 |
満州事変の後に来るもの | 中山四郎 | 戸張書店 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1178500 | 昭和7 |
満州事変の経過 | 仲間照久 | 新光社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1214241 | 昭和7 |
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