奈良斑鳩町近辺の古墳、古社・古刹を訪ねて 奈良旅行2

奈良

 前回は世界遺産の法隆寺・法起寺および中宮寺、法輪寺のことを書いたが、斑鳩町にはほかにも由緒ある著名な神社や寺、古墳が存在し、貴重な文化財が数多く残されている。

藤ノ木古墳

 法隆寺西側の集落を抜けたところに藤ノ木古墳(国史跡、斑鳩町法隆寺西2-1)がある。六世紀の後半に築造されたと推定されている古墳で、未盗掘の横穴式石室には石棺に成人二名が合葬されていて、金銅の馬具や装身具や刀剣などが多数出土した。
 被葬者については、Wikipediaによると、「前園実知雄(奈良芸術短期大学教授)や白石太一郎(奈良大学教授)は、2人の被葬者が『日本書紀』が記す587年6月の暗殺時期と一致することなどから、聖徳太子の叔父で蘇我馬子に暗殺された穴穂部皇子あなほべのみこと、宣化せんか天皇の皇子ともされる宅部皇子やかべのみこの可能性が高い」と書かれている。法隆寺に近いので、聖徳太子の叔父というとそうかもしれないと納得してしまうのだが、被葬者については斑鳩近隣の皇族であったかしわで氏、山部やまべ氏、額田部ぬかたべ氏や、中央豪族であった蘇我氏、物部氏らとする説など多くの説があり、特定するには至っていない。
 石室は普段は公開されていないが、毎年春と秋にそれぞれ二日間だけ公開されており、今年の秋は十一月九日(土)、十日(日)が公開日のようだ。公開日は「斑鳩文化財センター」のHPに公開されている。
 また今回は見学できなかったが、斑鳩文化財センター(斑鳩町法隆寺西1-11-14)では令和七年が藤ノ木古墳の第一次調査が行われて四十年の節目の年となることから、そのプレイベントとして今年の十月二十六日(土)から十二月十五日(日)まで藤ノ木古墳の第一次調査で見つかった出土品と、県内に所在する同時期の大型横穴式石室を有する古墳からの出土品が同センターの展示室で展示されるようだ。

龍田神社

 藤ノ木古墳から龍田神社(斑鳩町龍田1丁目5-3)に向かう。参拝者用駐車場は境内の西側に入口がある。

 社伝では、聖徳太子が法隆寺の寺地を探し求めていた際に白髪の老人に化身した龍田大明神に逢い、「斑鳩の里こそが仏法興隆の地である。私はその守護神となろう」と言われたので、その地に法隆寺を建立し、鎮守社として龍田大明神を祀る神社を創建したという。
 平安時代以降神仏習合により神宮寺が建てられ、この神社の神職は法隆寺僧が勤めて、神社の境内には仏堂などが建てられたのだそうだが、明治維新後の神仏分離により法隆寺から分離され、境内の仏教施設は破壊された。

 また十三世紀頃から法隆寺や龍田神社の境内には猿楽が盛んに演じられるようになり、この近辺の坂戸郷を本拠地とし法隆寺に所属して発展した坂戸座は、南北朝時代後期から室町時代初頭において「金剛座」と名乗るようになり能楽シテ方の流派として有名になった。この神社の境内には「金剛流発祥之地」の石碑が建てられている。

吉田きちでん

 次の目的地は吉田寺(斑鳩町小吉田1-1-23)。竜田郵便局を少し南に進むと寺の駐車場がある。

 寺伝によると天智天皇の勅願により創建されたとされ、境内には天皇の妹で孝徳天皇の皇后である間人はしひと皇女を葬ったと伝えられる古墳があるが、平安時代の永延元年(987年)に恵心僧都源信えしんそうずげんしんが開基したという説もあるという。
 俗に「ぽっくり寺」の名で親しまれ、本尊の木造阿弥陀如来坐像(平安時代後期、国重文)に祈れば、寝たきりにならず往生できるとして信仰を集めている。内部は撮影できなかったが、本尊の阿弥陀如来坐像は非常に美しい仏像であった。

 上の画像は寛政四年(1463年)に建立された多宝塔(室町時代、国重文)である。内部には秘仏の大日如来像が安置されているが、毎年九月一日~二日、十一月一日~三日に特別開扉されるのだそうだ。
 また毎年九月一日に寺の最大の行事である放生会ほうじょうえが行われる。放生会というのは仏教の殺生せっしょう戒(命を奪ってはならないという戒め)に基づき、生物の命を大切にし、感謝しようというもので、数百羽の鳩と数千匹の金魚に念仏を授けた後に、境内と池に放たれる行事である。

龍田大社

 次の目的地は龍田大社(三郷町立野南1-29-1)。この神社は斑鳩町の龍田神社の本宮にあたる。吉田寺から車で十分程度で到着する。

 龍田大社の創建は第十代崇神天皇の御代に凶作・疫病が流行している中で、天皇の夢の中で「吾が宮を朝日の日向かう処、夕日の日隠る処の龍田の立野の小野に定めまつりて云々」というご神託があり、その通りに御宮を造営すると疫病が退散し豊作になったと伝えられている。
 聖徳太子が法隆寺を建立するに際して、竣工安全を祈って日参をしたとつたわっているが、『日本書紀』にも天武天皇四年(675年)の条に「風神を龍田の立野に祭らせた」との記録があり、その頃から朝廷の祭祀を受けた格式の高い神社であったことが分かる。

 毎年四月四日の例大祭は「滝祭り」とよばれ、前日に大和側で梁を張ってとった川魚を神前に供えたのち大和側に放流するのだそうだ。また七月第一日曜日に行われる風鎮大祭は龍田神楽奉納や風神太鼓や花火など楽しめそうである。j-walk-navi-jpさんが十年前の風鎮大祭の動画をアップしておられるので参考にしていただきたい。

朝護孫子寺ちょうごそんしじ

境内案内 朝護孫子寺HPより

 信貴山は生駒山地南部にあり、標高は437mで、その山頂付近に朝護孫子寺ちょうごそんしじ(平群町信貴山2280-1)がある。

朝護孫子寺仁王門

 朝護孫子寺には大きな駐車場が二つあるが、いずれも仁王門と大寅・赤門の途中にあるので、仁王門や千体地蔵をを見るにはバス停方向に戻る必要がある。

朝護孫子寺 大寅

 奉納された多くの石灯篭が並ぶ参道を進むと、大きな張り子の「大寅」が目に入る。奥に見える建物は本堂である。
 この寺の創建時期は不詳だが、寺伝によると聖徳太子が物部守屋征討に向かう際に、この山に来て戦勝の祈願をすると、頭上に毘沙門天王が現れて必勝の秘法を授けたという。奇しくも、その日は寅年、寅の日でしかも寅の刻であったという。太子はその御加護で敵を滅ぼされたのち、自ら天王の尊像を彫まれ、伽藍を創建して、この山を「信貴山」と名付けたのがこの寺のおこりという。どこまで信じるかは人それぞれだと思うのだが、『今昔物語』や『宇治拾遺物語』などで信貴山に住む聖の命蓮みょうれんが、醍醐天皇(885~930年)の病を祈願によって治癒させたことから、「朝廟安穏、守護国土、子孫長久」の願文に由来する「朝護孫子寺」という名前を賜ったと伝えられており、この寺が古くから高い格式の寺であったことは間違いがない。
 その後この寺は外敵退散・悪魔降伏を祈る武人たちの信仰を集め、楠木正成はこの寺に祈願して生まれ、本尊の毘沙門天の別名である多聞天から、幼名を多聞丸と名付けられたと伝わっている。
 戦国時代に木沢長政によって山頂に信貴山城を築かれたが、天正五年(1577年)に同城の城主・松永久秀と織田信長との間で信貴山城の戦いが行われて久秀は滅亡し、信貴山城も朝護孫子寺の堂塔も全焼した。その後慶長七年(1602年)に豊臣秀頼が本堂を再建し、慶長十五年(1610年)には伽藍の再建が完成したという。 

朝護孫子寺 千手の公孫樹

 赤門を抜けて左に折れても直進してもいいのだが、左の道を選択した。石灯籠の奥の大木は樹齢五百年の「千手せんじゅ公孫樹いちょう」で、中国産の品種なのだそうだ。その品種は日本では宮崎県高千穂の岩戸神社に一本が確認されているだけなのだそうだ。この寺には参道などにいくつも鳥居があり、神仏習合の雰囲気を体験することが出来る。

朝護孫子寺 玉蔵院三重塔

 玉蔵院の三重塔。今度訪れる時は、この寺の紅葉の頃か新緑の時期を狙いたいものである。

朝護孫子寺 本堂の階段

 上の画像は本堂。昭和二十六年に焼失し、昭和三十三年に再建されて落慶法要が行われたのだそうだ。
 本堂の北隣(画像の左側)に霊宝館がありこの寺の寺宝が展示されているが、信貴山縁起絵巻(平安時代後期、国宝)や楠木正成が奉納した兜(国重文)などが見学できると寺のホームページには書かれているが、信貴山縁起絵巻は複製が展示されていたものと思われる。Wikipediaなどには「原本は奈良国立博物館に寄託されている」と書かれている。

朝護孫子寺本堂入口

 信貴山は毘沙門天王が日本で最初に出現した霊地とされ、朝護孫子寺には家内安全・商売繁盛・開運長久・心願成就を願う参拝者が絶えることがない。
 本堂の参拝を済ませてから、「戒壇巡り」をチャレンジして来た。本堂の地下に毘沙門天王から授かった「如意宝珠」が収められており、本堂の地下の真っ暗な回廊を進んで、「如意宝珠」が収められている錠前に触れると心願成就の御利益があるとのことでだが、真っ暗で何も見えない方形の長い回廊を壁伝いで歩くことは五感が研ぎ澄まされていくような感覚で、なんとか錠前に触れた時には単純に喜び、出口近くでわずかに光を感じてホッとした気分が何とも言えない。

 本堂は、清水寺のような懸造りで広い舞台があり、爽やかな秋の風に吹かれながら、舞台からの奈良方面の眺めは素晴らしかった。

 上の画像は宿泊した旅館の部屋から臨んだ朝護孫子寺の翌朝の風景。今回は参拝することをあきらめたが、信貴山の山頂付近に空鉢護法堂がある。かなり険しい山道を登ることになることはこの画像を見て見当がつくが、「一願成就」の霊験あらたかな守護神として古くから信仰されているお堂で、参道の途中には信貴城址や行者の篭堂があるという。次回訪問することがあればぜひチャレンジして、空鉢護法堂から奈良方面の眺めを楽しみたいものである。


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