伊勢国一之宮・椿大神社から亀山城址、関宿を訪ねて

三重

 新緑の季節に伊勢志摩の宿がとれたので、三重方面の観光地を巡ることにした。伊勢神宮はもう何度も訪れたのでカットして、鈴鹿市や亀山市を経由して伊勢志摩に向かい、翌日は松坂市を探索するルートである。

椿大神社

 最初に訪れたのは伊勢国第一宮の椿大神社つばきおおかみやしろ(鈴鹿市山本町1871)。猿田彦さるたひこ大神をご祭神とする神社は全国に約二千社存在するのだそうだが、昭和十年の内務省神社局の調査によりこの神社が「地祇猿田彦大本宮」とされたという。
 猿田彦は日本神話に登場する「みちひらきの大神」で、天孫降臨の際に瓊瓊杵尊ににぎのみことを道案内したことで知られ、物事を良き方向に導く神として、交通安全や事業海運の御利益があるとされている。
 社伝によると、垂仁天皇二十七年に倭姫命やまとひめのみことに下った神託により、猿田彦大神の墳墓の近くに「道別大神の社」として社殿が造営されたのを創始とする。史料における初見は、天平二十年(748年)の『大安寺伽藍縁起並流記資財帳』に登場し、仁和年間(885-889年)には伊勢国一之宮となり、醍醐天皇治世下(597-930年)には『延喜式』式内社に列し、『日本三代実録』の貞観七年(865年)には正五位下を授けられたとの記録があり、また中世はこの神社が修験神道の中心地であったという。
 椿大神社には聖武天皇の頃に盛んになったという獅子神楽(三重県民俗文化財)が伝えられており、丑、辰、未、戌年の三年に一度、二月十一日の舞い初めから四月十二日の舞い納めまで、土日祝日に各地を巡舞するのだそうだ。社宝に吉備真備の奉納と伝わる獅子頭があるというが、公開はされていない。

椿大神社 鳥居

 境内は厳かな森に囲まれており、参道の周囲には樹齢数百年の巨木が林立して凛とした空気が漲っていて、重厚な歴史と神聖さを感じながら参道を進む。

椿大神社 狛犬

 鳥居の前の狛犬が素晴らしいので思わず撮ってしまった。この大きさの狛犬は他の神社では滅多に見ることがない。

椿大神社本殿

 椿大神社の本殿。建築年代はわからないが、かなり立派な建物である。

椿岸神社

 境内の中にいくつかの別宮や末社が鎮座しているが、上の画像は椿岸神社。猿田彦の妻であり芸の神様である天之鈿女命あめのうずめが祀られている。社伝によるとこの別宮を猿田彦大神を祀る本社「上椿社」に対し「下椿社」と称し、垂仁天皇二十七年本社創建と共に奉斎されたという。また秋の例大祭では本社より神輿(猿田彦大神)の渡御(神幸祭)がありこの神社に御旅をなされ、翌日には還御(還幸祭)が行われるのだそうだ。拝殿の近くには願いをかなえてくれる滝として知られる「かなえ滝」があり、多くの参拝者が訪れている。

亀山城跡

 椿大神社の次に向かったのは亀山城跡(亀山市本丸町572-2)。

亀山神社

 上の画像は亀山城の西出丸跡に鎮座する亀山神社。かつては真澂ますみ神社と呼ばれていた。明治四十一年三月に大字西町字西町にあった亀山皇太神社と境内にあった稲荷社・幸神社・天神地祇社を合祀して亀山神社と呼ぶようになったという。

亀山城 多聞櫓

 亀山城は丘陵状の地形を利用して天正十八年(1590年)に岡本良勝よしかつが築造し、その後は頻繁に城主が変わり、延享元年(1744年)に備中松山から石川総慶ふさよしが城主になって以降は明治維新まで石川家十一代が統治した。
 明治六年の廃城令により、亀山城のほとんどの建造物が取り壊され、現在は多聞櫓と石垣、土塁、兵の一部が残されているだけだ。多聞櫓は、三重県下で原位置のまま残されている唯一の城郭建築として、三重県の文化財に指定されている。訪問した日は平日だったので中に入ることは出来なかったが、土日は午前十時から午後四時まで櫓内部を公開しているようだ。

関宿

 亀山城跡から関宿せきじゅくに向かう。関は、古代から交通の要衝で、壬申の乱の頃に「伊勢鈴鹿の関」が置かれた歴史がある。鈴鹿の関は古代において逢坂の関、不破の関とともに古代三大関の一つとされていたが、中世以降は「関地蔵宿」と呼ばれて宿場町として栄えるようになった。
 現在に続く関宿の町並みは、天正年間(十六世紀末)に伊勢国領主で戦国武将であった関盛信が、領内の道路を改修したことに始まり、慶長六年(1601年)に徳川家康が行った宿駅制度によって、東海道四十七番目の宿場となってから本格的に整備されたという。現在では東の追分から西の追分に至る街道に沿った1.8kmとその北側に接する寺社を含む地域が「関町関宿伝統的建造物群保存地区」とされ、伝統的木造建造物が建ち並ぶ美しい町並みが残されており、「日本の道100選」に選定されている。

関地蔵院 本堂

 関宿の観光駐車場から旧東海道に向かうと、古くから「関の地蔵」として親しまれてきて、関宿伝統的建造物保存地区の中心的存在である地蔵院がある。天平十三年(741年)に行基菩薩の開創と伝えられ、元禄十三年(1700年)に建立された本堂は国指定重要文化財である。

関地蔵院 鐘楼 愛染堂

 本堂に向かって左にはかつて本堂であった愛染堂があり、その前に鐘楼がある。いずれも国指定重要文化財だ。

『日本名所図会全集 11』名著普及会 1975刊 p.155

 寛政九年(1797年) に刊行された『伊勢参宮名所図会』巻之二に関地蔵堂の絵が描かれているが、昔の景観のままに残されていることがよくわかる。

関宿伝統的建造物保存地区

 関宿伝統的建造物保存地区には一部現代的な建物や空地が存在するが、江戸・明治期に建築された建物が半分近く残されており、全体の約七割は伝統的な木造建築である。鉄道が開通して以降関町の宿駅としての機能は失われてしまったのだが、このレトロな街並みが今も1.8kmにわたり残されていることは凄い事である。

関宿高札場

 上の画像は関宿高札場で、この場所で幕府の法度や掟書、宿場の決まりなどが掲示された。かつては関宿中町の北側(現関郵便局)にあったのだが、明治に入って各地の高札場は撤去され、関宿の高札場も明治十年に撤去されたという。この高札場は平成十六年に復元されたものである。

関宿旅籠玉屋歴史資料館

 高札場のすぐ近くに関宿旅籠はたご玉屋歴史資料館がある。「旅籠」というのは一般の武士や庶民を宿泊させた食事付の宿屋を言い、参勤交代の大名や公家など身分の高い者が泊まる格式の高い宿を「本陣」、大名などの宿泊が重なった場合に本陣を補佐した宿を「脇本陣」と呼んでいた。

関宿旅籠玉屋歴史資料館

 かつて関宿には大小の旅籠が四十二軒存在し、「関で泊まるなら鶴屋か玉屋、まだも泊まるなら会津屋か」と謡われていたらしく、玉屋は関宿の旅籠の中でも規模が大きく有名であったようだ。資料館には旅籠で用いられていた道具類や浮世絵、掛け軸などが展示されている。

関まちなみ資料館

 次に「関まちなみ資料館」に向かう。ここでは江戸末期の町屋で用いられていた道具類や関宿に関する歴史資料やパネルが展示されていて、町並み保存事業による関宿の移り変わりなどを知ることが出来る。

関まちなみ資料館

 関宿を訪れる観光客は古い街並みを見て懐かしく思い、「この景観を末永く残してほしい」と願うのだが、この伝統的な街並みを残すために地元の人々に大変な苦労があったことは想像に難くない。歴史的景観や環境を守ることばかり優先すれば、地域の人々の生活の向上や町の活性化の阻害要因となることが少なからずあり、景観保存の方向で地権者の意見をまとめることは容易ではないという話をこれまで何度か聞いたことがある。
 関宿保存会などの住民団体が主体となって、歴史的景観や特性を生かした新しいまちづくりの取り組みが評価され、平成十七年に亀山市は「手作り郷土大賞」を受賞しているので、他の地域よりはうまくいっている方なのだろう。しかしながらここでも少子高齢化が進んでおり、若い世代が地元に定住してくれないことには、景観を維持することの難易度は上がって行くばかりである。

関の山車会館

 次に「関の山車やま会館」に向かう。この会館は毎年七月に執り行われる「関宿祇園夏祭り」の山車が展示されている。この祭りは江戸時代の元禄期から続く伝統の祭りで、江戸後期には十六基の山車があったというが、今は四基がだけで、それらすべてが亀山市の有形文化財に指定されており、うち二基がこの会館で展示されているほか、関神社でかつて用いられていた神輿等が展示されている。
 山車の高さは六メートル近く、横幅は約二.五メートルで、重さは六トンを超えるものがあるという。旧東海道の道路幅は約三メートルで、祭りの日には山車がギリギリいっぱいで狭い街道を通り抜けるのだが、これで限度いっぱいだという意味で用いられる「関の山」という言葉は、この祭りの山車から生まれたと言われている。

笛の音を響かせながら街道を進む山車=亀山市関町中町で (中日新聞より)

 上の画像は二〇二二年の夏祭りのものだが、伝統的建築物の建ち並ぶ旧東海道筋を山車が巡行するところは一度見てみたいと思う。あいにくこの年は雨が降っていたようで、観光客がさす傘のためにさらに道幅がさらに狭まって、曳き手はかなり苦労されたのではないだろうか。
 今年の関宿祇園夏まつりはWalker Plusの情報によると七月十八日(土)・十九日(日)に開催される予定だそうだが、当日が雨天の場合は巡行が中止となる可能性もあるようなので、祭りを観に旅行を計画され天候が怪しい時は、亀山市観光協会などに事前に確認しておいた方がいいと思われる。

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