徳富蘇峰(猪一郎)は明治から昭和にかけて活躍したジャーナリスト、思想家、歴史家、評論家で、全百巻の大著『近世日本国民史』を著したほか、多くの著書を残しており、そのうち15点がGHQに焚書処分され、戦後の日本人が読めないようにされてしまった。今回はその中から『必勝国民読本』という本の一部を紹介したい。本のタイトルからして、戦意を高揚させるための本ではないかと思う人が多いかもしれないが、決してそんな薄っぺらな内容の本ではない。
それ(神経戦)よりもさらに深く、広く、長く、かつ効果的であるのは思想戦である。彼らは…一世紀に近き間、日本がほとんど思想的にアングロ・サクソンの植民地となっていたことを熟知している。今日彼らと交戦しつつあるも、日本の思想界にはなおアングロ・サクソン崇拝の思想が残存する英米思想に火を点ずれば、たちまちこれが一般に燃え上がるものと彼らが妄信するも、彼らとしては無理ではない。ここにおいてか彼らは正面においては堂々戦艦、巡洋艦、航空母艦、駆逐艦、それに配するに千万の飛行機、幾多の魚雷、あらゆる有形的反撃を企てかつ行いつつあるも、それよりもより深刻に、より効果的の方面をその思想戦の分野に見出している。今この思想戦が如何なる方面に動き、如何なる手段、方法を採りて行われつつあるかということについては、我らは今ここにこれを語る自由を有しない。しかもこれは我が国にとってはコレラの如く、ペストの如く、実に恐るべきものであって、我らは銘々この思想戦に対して十二分の防御を以て満足するばかりではなく、我より進んで彼を撃破するの手段、方法を講ぜねばならぬ。
如何にアングロ・サクソン人が宣伝を以て戦争の前衛となすかは何人も知るところ。しかもその実は前衛どころではない。思想戦そのものが戦闘そのものである。少なくとも戦闘の主力である。著者はかつて英国の新聞王と称せられたる子爵ノースクリフのわが国に来遊するや、軍全面階の機を得たるに、彼は著者に向かって如何に第一次世界大戦争において思想戦が主要なる働きをなしたるかを語り、揚々として得色があった。これは実に間違いなき事実である。彼は思想戦によって戦争の終結を六か月早めたと言い、また思想戦によって戦争の大団円を告げたと言っている。こといささか誇大に似たるも事実は全くその通りである。ドイツ人パウル・ロールバッハは曰く「ノースクリフは全く道義的良心無き漢(おとこ)である。彼の日常の道具は嘘を言うこと、粗獰なること及び冷血なることである。然も彼はコレラの道具を使用するにおいては最も長技を有していた」と。すなわち彼は一例を挙げれば、ドイツ人は脂肪が欠乏したるがために、彼の死体を煎じてその脂(あぶら)を使用したなどというとてつもない虚偽を製造し、ドイツの如何に野蛮かつ非人道であるかを世界に流布せしめた。されば戦争の終わるや、当時の英国首相ロイド・ジョージはノースクリフの向かって斯く感謝状を申し送った。「予は貴君の無上なる働きの成功、而してそれによってオーストリア及びドイツの敵勢をして劇的の壊崩に陥らしめたることにあずかって最も有力であったことの、多大の直接証拠を持つものである」と。要するにノースクリフの成功は、敵も味方も同様にこれを認めている。しかもこれは即ち宣伝戦の成功である。而して宣伝戦は即ち思想戦である。…中略…
世の中に宣伝に不器用なるものは、言わば日本国民である。これが一面においては、不言実行となって、日本国民に特色づけることもあるが、その自から不器用なると同時に、ややもすれば敵の宣伝に乗り易きことも、日本人の一短所と言わねばならぬ。我らは何事にも主観的であって、己を以て他を量ることを知って、他を以て己を量ることを知らない。その為に我が国における智勇弁力の士も、ややもすればとんでもない間違いを来たすことがある。即ち孫子の「彼を知り己をしれば百戦殆(あやう)からず」と言うた訓言をここに改めて見直さねばならぬ。
(徳富蘇峰著『必勝国民読本』毎日新聞社 昭和19年刊 p.165~169)
第一次大戦時に英国から流された虚偽の情報によりドイツは敵性国家に仕立て上げられたことが書かれているが、第二次世界大戦においてはわが国が宣伝戦を仕掛けられて戦争に巻き込まれた。しかしながらGHQは、宣伝戦や情報戦にかかわる書物の多くを焚書にし、わが国が悪い国だったという歴史観を押し付けた。そのためにわが国は、某国から歴史戦を仕掛けられては何度も国富を奪われてきたのである。いいかげんにわが国は薄っぺらな自虐史観を脱して、世界の宣伝戦・情報戦に戦えるようにならなければ、これからも国富を失い続けることになってしまう。
GHQが焚書処分した徳富蘇峰の著書の一部は復刊されて入手しやすくなっている。紙書籍だけではなくKindle版もある。
以下のリストは、GHQ焚書処分された徳富蘇峰の全書籍で、全部で15点ある。そのうち8点が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。
タイトル | 著者 | 出版社 | 国会図書館デジタルコレクションURL | 出版年 |
The Inperial Rescript declaring War on United States and British Empire | 徳富猪一郎 | 毎日新聞社 | ||
危機線上の日支 | 徳富蘇峰、 中野正剛、 田中花信量 | 東京日日新聞社 | ||
現代日本と世界の動き | 徳富猪一郎 | 民友社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268736 | 昭和6 |
興亜の大義 | 徳富猪一郎 | 明治書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1270071 | 昭和17 |
皇国必勝論 | 徳富猪一郎 | 明治書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267270 | 昭和19 |
皇道日本の世界化 | 徳富猪一郎 | 民友社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267993 | 昭和13 |
国民小訓 | 徳富猪一郎 | 民友社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1188529 | 昭和8 |
宣戦の大詔 | 徳富猪一郎 | 東京日日新聞社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460201 | 昭和17 |
宣戦の大詔謹解 | 徳富猪一郎 | 毎日新聞社 | ||
日本精神と新島精神 附新島襄小伝 | 徳富猪一郎 | 関屋書店 | ||
日本帝国の一転機 | 徳富猪一郎 | 民友社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1272265 | 昭和4 |
必勝国民読本 | 徳富猪一郎 | 毎日新聞社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460249 | 昭和19 |
奉公 小訓 | 徳富猪一郎 | 民友社 | ||
明治天皇の御盛徳 | 徳富猪一郎 | 民友社 | ||
吾が同胞に訴ふ | 徳富蘇峰、 大谷光瑞、 岡部宗城 | 近代社 |
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