北方領土に関する書籍の多くがGHQによって焚書にされている~~『北進日本人』『守れ!権益 北方の生命線』

国会図書館デジタルコレクション

 千島や樺太に関する書物を「国立国会図書館デジタルコレクション」で探していると、思った以上に多くの点数がヒットする。いくつかの本を拾って実際に読んでみると、戦後になってからはあまり語られてこなかったロシアの脅威が記されている本が少なからずあり、その多くがGHQによって焚書にされていることが判る。

 貴司山治 著『北進日本人』(GHQ焚書)という本は、昭和十七年に児童向けに書かれたものだが、ここにはこう記されている。

 徳川氏が政治を司っている三百年の間、日本は固く国を閉ざしてほとんど外国と交通をしなかった。日本歴史の上ではこの時代を鎖国時代と呼んでいる。徳川氏は日本の国民が国内に閉じこもって暮らしていくことが自分の司る封建制度(大名が国を分けて治めるやり方)をいつまでも保つ上に一番都合がいいと考えたのである。たしかに鎖国によって徳川氏は三百年間続いたし、その間、日本もたしかに平和であった。
 しかし日本が鎖国している三百年間に、世界は休むまもなく変化していた。ポルトガルとスペインは早くからインド洋を越えて東洋に出て来た。スペインなぞは今のフィリッピンの国を自分の領土にしてしまった。そのあとから東洋に侵入してきたオランダは南洋の島々を奪い、イギリスはインドやオーストラリアを取り、マレー半島を取ってシンガポールを建設し、支那にまでその力を及ぼしてきた。アメリカは太平洋をわがものにしてその捕鯨船は遠く支那へやってくるようになった

 一方北の方を見ると、ロシアはシベリアを占領して世界無比の大きな国となり、なおあき足らないで日本の近くにまで力を伸ばしてきた。すなわちカムチャッカ半島を足場として千島のエトロフ島や国後島にまでロシア人が乗り込んできた。樺太もロシアのものにしてしまった
 黒竜江沿岸はそのころ支那の領地であったのをだんだんロシアが攻め込んでいって、ついにその領土にしてしまった。こうなると日本の北端にある蝦夷(今の北海道)も今にロシアのために奪われてしまうかも知れないのである。南からも北からも、鎖国日本はだんだん危ない状態の中へおとしいれられてしまったのだが、徳川氏は少しもそれをさとらなかった。

 もちろん北方の防備などのできているわけがない。蝦夷や千島はもとから日本の領土であるのにかかわらず徳川氏はこれを守ろうとも、開発しようともしないで、うちすててしまってあった。鎖国主義を取っている徳川氏は、津軽海峡を渡って蝦夷に入ることを外国に行くことのように考えて、松前氏という大名に任せたきりにしておいた。松前氏は蝦夷の本州に面した辺りだけを治めて、奥地の方はどうなっているか、だれにもさっぱり様子がわからなかった。

 そうしてうちすてておいては千島や樺太はいうまでもなく、蝦夷の国も、今にロシアの領地にされてしまうことは火を見るよりもあきらかであった
 ロシアにそなえて北の方を守らなければならない。北の方がどうなっているかよくしらべなければならない、という考えが、はじめて日本人の間におこってきたのは、今から百四五十十年前の、明和年間のことである。
 工藤平助本田利明などは江戸時代のすぐれた地理学者であるが、こうした人たちがいち早く北方防備の急にめざめ、天明三年には工藤平助は『赤蝦夷風説考』という本を著して、日本に向かって南下してくるロシア人の様子を知らせ、蝦夷開発の大切なことを述べた。 

(貴司山治 著『北進日本人』春陽堂書店 昭和17年刊 p.3~6)

 その後、林子平が『三国通覧図説』を著し、間宮林蔵、松田伝十郎、近藤重蔵、最上徳内らが北方を探検し、多くの著作を残したことが詳しく記されているのだが、戦後はわが国の領土がロシアに奪われないように尽力した人々の話を知る機会がかなり少なくなっている。このことは、そのようなことを記した本の多くがGHQによって焚書にされたことと無関係ではないであろう。

 1905年、日露戦争の後で締結されたポーツマス条約でわが国は、ロシア領の沿岸地域における漁業権が承認され、1907年には日露漁業協約が締結されて、カムチャツカ半島の沿岸や沿海州の日本海沿岸での北洋漁業が拡大していったのだが、わが国が合法的に獲得した権益がその後ソ連に犯されていくこととなる。GHQ焚書の『守れ!権益 北方の生命線』の一節を紹介したい。

 見よ、ソ連の邦人漁業に加えた緊迫ぶりを!逐年、既得権益侵害行為は極めて露骨となり、かつその数も枚挙にいとまがない程多数にのぼり、最近では漁業権の行使さえ危ぶまれ、このままに放棄しておけば、北海漁場より邦人が駆逐される日も遠からぬという状態を示すにいたったのであるから、日ソ両国が、国家的尖鋭的に対立し、いまだかって見ざる最悪の瀬戸際に立つにいたった。
 その間の、実情を知るものは、口に隠忍といっても、よくここまで辛抱してきたものだと驚歎する外ないのである。

 漁区競売の際、個人の仮面をかぶった国営企業が、入札に参加してむやみに価格をつり上げ、不当落札を企図したこと、ないしは本邦船の査証拒否、漁業員の渡航禁止から始まって漁区の一方的閉鎖要求、漁場における交通禁止、搬魚の制限、食料品の補給禁止、薬品、医療器具の持ち込み制限等々、そのいずれもが圧迫のための圧迫であり、故意に目論んだ不都合極まることのみである。
 なかんずく、漁場現場におけるソ連取締官憲の不信行為は、言語に絶するものがある

 例えば、ウラジオの漁業庁より、漁場地区内に井戸を掘る許可を受けて作業を開始し、いよいよ堀りあがったので、これに給水装置を施さんとしたところ、現場官吏は、井戸を掘る権利は与えているが、給水装置の許可は漁業庁から届いていないと称して工事を妨害し、すったもんだの揚句には、改めて漁業庁に許可の申請を為すべしと強要し、或いは、作業上必要な地均しの許可は承知しているが、その地上の草を刈る許可は与えていないという。
 こういう調子で、全く稚気に類した非常識極まる苛め方をして、とやかくとわが方の作業を妨害し、また当業者は、各漁場ごとに日誌を備えて、記入することになっているが、現場管理が点検した際、隣接した二個の漁場日誌において同日、同時刻の風速記入に一、二メートルの差のあるのを発見し、これを日誌記入不正確として調書を作成し、さらに租借漁区の地域外に於いて三、四の足跡を発見したソ連官吏は、右は無断地区外に出たものとして調書を作成した。
 さらにまた、ラジオ受信の事であるが、ラジオの受信機はソ連の漁業用無税品中にちゃんと記載され、輸入は許されるが、それを使用する場合には、通信人民委員部の許可が必要であるとし、実際問題としては未だに設置できず、そのため日本からの気象通報の聴取は不可能となり、カムチャッカ方面で頻々と起こる時化(しけ)から、生命財産の危険を救うことができないという現状にある。
 かかるソ連の暴状を何と見る。
 かかる無法な圧迫と抗争しつつ、なおかく荒浪狂う北洋で漁業に従事し、もって国力増進に精進するわが営業者の意気、実に壮たりと雖も、何が故に、今日まで、赤裡々に国民の前に、ソ連の暴状を暴露し、国民と共にこれが排撃、政争の聖志を披歴しなかったか不思議と言わざるを得ない。
 いわんや、かかるソ連の不法行為が白日の下に曝された今日、この禍根を芟除せずして何として紛争の解決を企図する事が出来よう。

(大靖協会 編『守れ!権益北方の生命線』大靖協会 昭和14年刊 p.8~11)

 戦後GHQは日本漁船の遠洋操業を禁止したが、日本が独立を回復した1952年に北方漁業の再開が決定され、1956年に日ソ漁業協定が調印され、日ソの国交も回復し、1957年から旧北洋漁業海域での操業が再開されている。しかし、北洋漁業は厳しい漁獲割当量に悩まされ、ソ連の国境警備隊やアメリカの沿岸警備隊による拿捕事件が相次ぎ、日本の北洋漁業は急速に衰退していく。

 また尖閣諸島周辺では、わが国の領海に中国船が侵入するようになって久しいのだが、北洋漁業の問題にせよ尖閣の問題にせよ、わが国のマスコミは国境の危機をどれだけ報じて来たであろうか。マスコミがこれらの問題をきちんと報じていれば、国民の国防意識がたかまり、憲法改正の世論も盛り上がっていたであろうが、今のマスコミは憲法改正につながるような事件はほとんど報じようとしない。
 一昔前のマスコミは中国よりもソ連・ロシアを忖度していた印象があるが、幕末以降何度もわが国に迫ってきたこの国に対する恐怖心はマスコミによって弱められてしまったと言っても過言ではない。北方領土問題がいつまでたっても良い方向に進まないのは、マスコミが逆方向に誘導していたからではないのか。。

 下のリストは、「国立国会図書館デジタルコレクション」で樺太(カラフト、サガレン)、千島、北洋、北方に関してネット公開されている書籍の一部である。タイトルが太字で*が付されている本はGHQ焚書で、著者欄が太字になっているのは、著作の内に一冊でもGHQ焚書が存在することを意味している

タイトル著者・編者出版社国立国会図書館デジタルコレクションURL出版年
樺太岡田耕平 著樺太通信社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/972113大正13
樺太アイヌ叢話千徳太郎治 著市光堂市川商店https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1464093昭和4
樺太写真帖樺太庁 編樺太庁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1908329昭和11
樺太殖民の沿革樺太庁農林部樺太庁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1272840昭和4
樺太事情相沢熈 著金港堂https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/767185明治38
樺太探検記松川木公 著博文館https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/767187明治42
樺太地誌東京地学協会 編大日本図書https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/993818明治41
樺太とはどんな処か福家勇 著樺太日日新聞社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1209080昭和8
樺太の話中目覚 著三省堂https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/951598大正6
樺太要覧. 昭和16年樺太庁 著樺太庁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1069999昭和17
北蝦夷秘聞 : 樺太アイヌの足跡能仲文夫 著北進堂書店https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1464186昭和8
北樺太利権を護れ!
 : 危機線上の我が北方権益
茂森唯士 著日蘇通信社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1437381昭和13
極北の別天地樺太案内青山東園 編広友社出版部https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/959145大正8
膠州湾ノ占領ト樺太ノ占領蜷川新 著清水書店https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/980408大正3
皇太子殿下樺太行啓記樺太庁 [編]樺太庁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1209580昭和5
近藤重蔵長田権二郎裳華書房https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/781370明治29
近藤重蔵・間宮林蔵
 : 樺太占領紀念
長田偶得 著裳華書房https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/781372明治38
サガレン案内 : 従軍中の視察記
 附・尼港の悲惨事
太田篠吉 著豊文堂出版部https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/971960大正12
サガレン紀行チエーホフ 著大日本文明協会事務所https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/962843大正14
サガレンの植民史アー・アー・パノフ 著拓務省拓北局https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1061513昭和17
薩哈嗹の旅 : 薩哈嗹案内河合裸石 著いろは堂書店https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/964913大正10
薩哈嗹島占領経営論内山吉太,
明石喜一  著
東海堂https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/784457明治38
千島樺太侵略史中村善太郎 著文友館https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/992841明治37
千島アイヌ鳥居竜蔵 著吉川弘文館https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/992519明治36
千島アイヌ論高橋房次 著高橋房次https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1465753昭和8
千島艦事件福良虎雄 編報知社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/904133明治26
千島写真帖北海道庁 編北海道庁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1688525昭和9
千島探検録白瀬矗 著東京図書出版https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/763054明治30
千島調査概要北海道庁北海道庁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1043697昭和17
千島と北洋
: 北方富源開発策
北海道協会北海道協会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1035523昭和6
東亜の北辺安藤英夫 著科学主義工業社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267137昭和17
東韃紀行南満洲鉄道株式会社編満洲日日新聞社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1877865昭和17
東韃紀行間宮林蔵 著満鉄総裁室庶務課https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1115232昭和13
日魯交渉北海道史稿岡本柳之助 編風月書店https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991612明治31
根室千島両国の地名に就いて長尾又六 著長尾又六 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1094255昭和9
*北進図南安達謙蔵 著春潮社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268417昭和15
*北進日本人
日本科学英雄伝 ; 2
貴司山治 著春陽堂書店https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1718710昭和17
北辺・開拓・アイヌ高倉新一郎 著竹村書房https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267111昭和17
北辺行 : 樺太北海道めぐり越川弥栄 著地理歴史研究会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1236077昭和8
北洋漁業合同問題に就いて
: 権益の重要性と国家経済の
統制策
日露相扶会日露相扶会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1096963昭和7
*北洋物語 : 漁業日本竹村浩吉 著三省堂https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1720295昭和19
*北方経済論平竹伝三 著大阪屋号書店https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1281525昭和17
間宮林蔵 : 北海の先駆者佐佐木千之 著三省堂https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1718551昭和17
*守れ!権益北方の生命線大靖協会 編大靖協会https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1097483昭和14
満洲及樺太小川運平 著博文館https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/767142明治43
最上徳内を語る大政翼賛会山形県支部大政翼賛会山形県支部https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1057851昭和18
最上徳内 : 修養訓話加藤隆瑞 著金港堂https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/782074明治40
露領樺太覗記入江貫一 著東方時論社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/962160大正9
*我らの北方 : 北進日本史寺島柾史 著霞ケ関書房https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1041721昭和17
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