アメリカが対支貿易額で日本を追い抜いた 支那排日7

支那排日

国際経済戦の中で行われた支那排日

 前回の「歴史ノート」で、昭和七年一月に第一次上海事変が起きるまでの支那の排日運動の状況について書いたが、この事変が起きたことで再び排日運動が活発化することになる。
 戦後の歴史叙述では支那排日が英米の動きと並行して論じられることは皆無に近いが、戦前の新聞や書籍には英米の支那市場戦略の中で支那排日が論じられていることが少なくない。

「神戸大学新聞記事文庫」中国12-98

 昭和七年二月六日~七日付の東京日日新聞は、「砲火の蔭にうごく国際経済戦」という見出しで連載記事を載せている。記事では、かつて対支貿易額で圧倒的首位であったイギリスは第一次世界大戦中にわが国にその地位を奪われてしまっていた。満州事変以降に再び支那の執拗な日貨排斥運動が始まったのだが、その背景について記事にはこう書かれている。

 彼等はこれを以て一面には日本の対支外交を牽制して他面には国産愛用を以て自国産業の振興に資せんとしたのであるが更に、その裏面をのぞくとそこに英国は失われたる商権を回復せんとし米国は隆々たるわが商権を奪わんとする焦慮のあることを見逃すことは出来ないであろう。
 世界を襲った経済恐慌と銀の暴落は支那の購買力をいやが上に減退せしめ、わが対支貿易をして恐るべき悲境に陥れた。
「神戸大学新聞記事文庫」中国12-98

 そしてこの運動が続いたことで、取引にどの程度の影響が出たのかが記されている。

 これにつき上海のわが邦商が組織する金曜会の調査について概要を窺って見よう。
 郵船一社扱の貨物最近六ケ年平均は四、五十万トンであるが昨年は三十四万トンに下り平年月額約三万トンだったのが排貨の激化した十月以後は一万二千トンに下り日清汽船の如きも殆ど貨物皆無である。対支輸出を見ると(単位百万円)

      四年  五年  六年
満 洲   六四  三五   二
北 支   八五  七八  五一
中 支  一八八 一五九  八八
南 支    三   六   三
関東州  一二四  八四  六五
不 詳    三   −   −

合 計  四六三 三四二 二一八

表の如くで昭和五年の半額に減じている。排日排貨の激化した十月、十一月における列国の対支輸出を見ると左の如し(単位千海関両)

       十月      十一月
米国  二五、一一三   二九、一五〇
英国  一〇、五八二    九、一七三
仏    一、四四五    一、九〇一
独    七、六七一    七、三七二
日   一七、九〇六   一〇、九二九

 即ちわが国は十一月激減を示したが米、仏の如きはかえって増加を見て、優位を誇ったわが対支貿易の地位は将に危機に瀕しているかに見える。
 更にこれ等の統計に現れない打撃も見逃せない。既約商品の多くが解約され一時は支那各地に滞貨の山を築き金利、倉敷料でせめたてられた額は少なくとも一億円以上といわれ、投資約一億五千万円に上るといわれる紡績事業は半休状態を続け現在では全く運転していない
「神戸大学新聞記事文庫」中国12-98

 このように日本品を排斥したのだが、その代わりに同等品を仕入れなければ経済が回らないことは言うまでもない。然しそれがなかなかうまくいかなかったようだ。

 日貨排斥は支那側の思う通りに運んだが他面かれ等の予想しなかった悪結果も現れた。割安の本邦品を斥ければ勢い他の高いものを輸入しなければならないのは当然である。そこに大衆の負担加重がある。輸入の減少は海関収入の激減となって中央政府の財政難を捲き起し、公債元利払にモラトリアム案を持ち出さざるを得なくなったなど全く身から出た錆。かくて日本商権の圧迫策は支那自からを苦しめて来た。
「神戸大学新聞記事文庫」中国12-98

 欧米品に乗り換えようとしても、欧米の商品は輸送費が高くつくので日本品よりも割高にならざるを得ない。支那商人は高い欧米の商品は日本品のようには売れないので仕入を絞らざるを得なくなり、輸入量が大幅に減少した。そのために支那政府の海関収入が激減し、中央政府も財政難となったという。排日貨運動で政府も商人も大衆も苦しんでいたことは戦前の本や新聞を読まなければわからない。

第一次上海事変は大阪の実業家と浙江財閥との戦い?

「神戸大学新聞記事文庫」日中貿易5-136

 排日貨運動が徹底されると支那政府も商人も大衆も困っていたというのだが、それにもかかわらずなぜ蒋介石は日貨排斥を推進したのであろうか。その理由については二月二十八日の大阪毎日新聞にヒントが書かれている。本文では「●介石」と書かれている人物は、「蒋介石」以外はあり得ない。

 日本対支貿易の支配権を掌握しているのは大阪の実業家である。従来大阪の商人は政治外交には殆ど無関心に近い態度をとっていた。この超政治的大阪実業家が、今後の対支問題に関しては驚くべき熱と力とをもって、軍部を支持し、強硬外交を主張している。即ち彼等はこの生命線確保のためには、相当の犠牲も止むを得ずとして決心の臍をかため、この全滅に近い対支貿易の惨状にも忍従しているのである。この大阪実業家の悲壮な決意が支那事変に対する我国民の総意決定に重大なるファクターとなっていないと誰が保証し得る。

 一方支那の排日の後には●介石の統率する抗日会があり、●介石の背後に排外貨によって、さらには国貨愛用運動によって、支那工業の勃興をはかる浙江財閥が糸を引いていることは周知の事実である

 春秋の筆法をもってすれば今次の上海事変は大阪財人と浙江財閥の財的闘争の激化した姿にほかならぬのだ。かくのごとく、双方の背後に根強い財力が対立している以上、よし軍部の献身的努力によって抗日会は一時解散し得るとしても、これによって排日貨運動が根本的に廃絶され得るかどうかは頗る疑問である。殊に武力的被圧迫に対する敵慨心が手伝うにおいてをや。
 しかし支那人は古来ジュウ*的国民性を有し利益の希求のためにはあらゆる愛憎の念を超越し得る便利な性質を有している。
*ジュウ:ユダヤ人(Jew)
「神戸大学新聞記事文庫」日中貿易5-136

 上海を中心とする支那の中南部には紡績業など大阪の企業が数多く進出し、工場建設に巨額の投資をしていた。貿易だけなら設備投資は少額ですむが、工場を建てた企業にとっては支那の排日運動は死活問題であった。彼らは生ぬるい政府の対応に我慢が出来ず、軍部を支持し、政府には強硬外交を強く望んでいたのである。
 浙江せっこう財閥は上海を本拠とする民族資本家の企業集団で、創始者は宋嘉澍そうかじゅであり、その三女・宋美齢そうびれいは蒋介石夫人である。浙江財閥は国民党と蒋介石に癒着して上海を中心に強い勢力を持ち、阿片の密売で莫大な富を築いたユダヤのサスーン財閥とも友好な関係にあった。サスーン家は東洋のロスチャイルド家とも言われているが、英国の支那における利権を守るために蒋介石及び南京政府を支援し、支那事変においては蒋介石軍に対して大量の兵器、装備等を支援したと言われている。
 前回のブログ記事で触れた昭和七年一月二十八日から始まった第一次上海事変について、上記の大阪毎日新聞記事では「大阪財人と浙江財閥の財的闘争の激化した姿」と書かれているのだが、図星だと思う。
 要するに蒋介石らは、日本商品に代わる商品を支那で生産し販売していくことを狙っていた。彼らは抗日会で排日貨運動を起こしただけでなく、欧米から生産設備を取り寄せて国産品の製造を開始し、「国貨愛用運動」を起こすことを準備していたのである。

軽工業からの国産化推進

 第一次上海事件後の日貨排斥は、わが国では、これまでと同様にいずれ下火になるだろうと期待されていたのだが、今回はそうではなかった。三月十日の大阪時事新報には次のように記されている。

「神戸大学新聞記事文庫」外交112-183

 満州事変以来南洋方面に於ける華僑の頑強なるボイコットも、金輸出再禁止による為替好転から多少緩和されるだろうとの一般の予想は全く裏切られ、本年一月の上海事件以後、南支那を始めヒリッピン、蘭領インド、マレー半島、ジャバ、スマトラその他南洋一帯に分布する華僑問屋の排日貨は却って硬化している。而して先物契約はもとより既約品の註文も取消し、為替銀行は輸出手形の割引を停止して警戒。支那銀行は荘票及び支票による我が銀行との取引を中止するという実状であり、これがため大阪の川口や神戸在留の華僑は圧迫を受け、邦商との決済は自然円滑をを欠き、売掛代金の回収に没頭するも手形の延期または書換をするにすぎず、資金の回転頗る不活溌で四苦八苦の態である
「神戸大学新聞記事文庫」外交112-183

 毛布や魔法瓶や鏡や帽子などの対支輸出が激減したため、日本商人は満州やタイなどに販路を拡大しようと動いていたことが報じられているのだが、満州では張学良が排除され、三月一日に満州国が成立したことから日本品の進出が目覚ましく伸びて、英米からクレームが来たことが十月十九日の東京日日新聞に報じられている。

「神戸大学新聞記事文庫」アジア諸国(5-58)

 この記事では、米商人が「満洲国の門戸開放機会均等は嘘だ。利益はすべて日本人に壟断されている」との声をあげ、英国奉天領事からもクレームが来たが、日本が堂々と反論したことを伝えている。

支那反日の震源は?

 戦前の新聞には、支那の反日の背後には英米がいて、わが国が開拓してきた支那市場を奪取することを狙っていたことが多くの新聞で明確に書かれており、おそらく当時の日本人もそのような認識があったものと思われる。現在のわが国の新聞は話にならないが、当時の新聞は外国からの圧力で記事内容が歪められるようなことは現在とは較べものにならなかったようである。
 次に紹介したいのは三月十八日付の大阪時事新報だが、第一次上海事変に続く排日貨運動は、英米の背後にさらにユダヤ人がいることを示唆している。

「神戸大学新聞記事文庫」中国12-108

 外電の報ずるところによれば天津方面の米国向輸出貿易業者の一部には対日経済封鎖の策謀ありと。従来同地より米国へ向って貨物を輸送せる船舶はその大部分が邦船であったから、その策謀の成行には可なりな注目を払わねばならないであろうが、之を単に米国側の一、二貿易業者の策謀として簡単に片付けるにはその背景に余りにも人心を打つものがあると考え得られる。

 天津に於ける対米輸出品取扱い者はユダヤ系の外人七割に華商三割であると云われている。是に依って今度の策謀をユダヤ系のそれと俄かに断定することは早計であろうけれど吾々は是迄に常にかかる早計を裏書するような多くの事件を想い起すことが出来る。

 一部の人々の説く処によれば、今日世界の各方面即ち経済思想等々に於いて第一人者としての地位は勿論、実力ある地位は完全に彼等が掌握している。従って世界はユダヤ網によって包まれていると。左すれば祖国を持ち得ない彼等は又その半面に全世界を自分達の祖国としているわけである。彼等がかく全世界を掌握(?)するに至った経路こそ常に姿を現わしては消えたるところのユダヤ禍、即ち彼等独特の陰謀が潜んでいたのである。…中略…

 動乱の影には必ず彼等の策動があり、又必ず自己の勢力伸張に成功している。満蒙上海事件を因とせる今度の排日貨運動或は日支問題の粉糾による米国其他が対日経済封鎖を唱道して人心を激化せしめつつある今日、此機に乗しての今度の経済封鎖の策動が万一にも彼等の陰謀とするならば、ことは簡単どころかかなりな重大性が潜むものと警戒しなければなるまい。
 既に時効にかかったようなユダヤ禍が今又新に問題となる所以である
「神戸大学新聞記事文庫」中国12-108

 彼らの陰謀を信じられない人も少なからずいるとは思うのだが、八月十六日付の大阪毎日新聞には、前年の支那対外貿易に於いてとうとうアメリカがわが国を追い抜いて一位になったことが報じられている。

「神戸大学新聞記事文庫」国際貿易36-118

 支那海関の発表によると、昨年中の支那対外貿易は輸出九億九百四十七万両(前年比、六百十万両増)、輸入十四億三千三百四十万両(前年比、一億二千三百七十二万両増)、差引入超五億二千四百万両(前年比、四千九十万両増)であった。うちアメリカよりの輸入は三億二千万両(前年比八千八百万両増)で、アメリカは一昨年首位をしめた日本をしのぎ第一位となり、日本は第二位で三億両(前年比三千六百万両減)であった
「神戸大学新聞記事文庫」国際貿易36-118

 支那の排日運動が起こっていなければアメリカが日本を抜いて対支貿易額が首位になることははあり得なかったことは明らかで、戦前の日本人はアメリカがとんでもないやり方で日本の市場を奪い、支那市場に巨額の投資をした企業経営者を奈落の底に突き落としたことを理解していたと思われる。戦後になって日本人に広められている歴史のかなりの部分はアメリカなどの戦勝国によって都合よく書き換えられたものであり、真実とは程遠いものであることを知るべきである。

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