1933年(昭和8年)2月の国際連盟臨時総会で、満州における日本軍の撤退などを求める勧告案が圧倒的多数で可決され、翌月にわが国は国際連盟脱退を通告したのだが、学生時代に学んだ時は、なぜわが国が国際連盟の脱退を決めたのが良くわからなかった。
当時の新聞の論調を調べると、連盟脱退に関しては概ね支持されていたことが分かる。新聞の論調を調べたい時は神戸大学附属図書館の「新聞記事文庫」の簡易検索を用いればよい。メインページの検索ボックスに「国際連盟脱退」と入力して検索実行すると249件の記事がリストアップされ、出版年順に並べ変えて、「見出し」を見ていけば、残留を支持する記事はなさそうである。
GHQ焚書リストの中から、タイトルに「国際連盟」「国連」「連盟」を含む書籍を探すと、17点が存在し、13点が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。
その中から野瀬秀彦 著『国難来る日本勝つか聯盟勝つか』という本の一節を紹介したい。
かように世界の最大富強国アメリカ合衆国を逸した国際連盟は、その後いよいよ発展を遂げて今日連盟参加国五十五、数字的には極めて賑やかではあるが、事実上国際連盟というも欧州連盟に過ぎないのである。
…連盟の力は南北アメリカ州には及ばず、更に欧州においても非連盟大国労農ロシアの宏大な領域には無力であるし、北大西洋においては全然除外せられ、その勢力の及ぶ範囲は、西欧及び近東の一部と英国の属領諸地方に過ぎないのであるから、欧州連盟と言われるのは最も至極な話である。
なお一層判然とさせるために、連盟が今日まで取り扱った国際間の主なる紛争事件を挙げてみれば、スウェーデン、フィンランド両国の紛争のアーランド問題。ポーランド、リトアニア国境の紛争のヴィルナ問題。ドイツ・ポーランド国境の上部シレジア問題。アルバニア、ユーゴスラヴィア両国問題。リトアニアとポーランド、ドイツ紛争。バルチック会沿岸の重要港メーメール問題。ギリシャ、イタリー間の領土紛争コルフ島問題。ギリシャ、ブルガリア国境紛争問題。イラク国のモスール問題などで、その他ほとんどすべてが欧州における紛争であって、フィンランド、ロシア間の紛争東カレリア問題の如きは、露国が連盟の介入を拒絶したために、連盟はこの問題に関与することが出来なかったのである。ただ僅かに南米に惹起したチャコ事件のみが、アメリカ州に連盟が関与介入した唯一の事件なのである。
このように、これまで東洋に対してもあいまいに看過して来た連盟が、俄然、このたびの日支事変に乗り出してきたことは、泣言上手、宣伝上手の支那が暗躍したのにもよるが、某国の東洋への野心的策動が、多分に働きかけているものと言われている。
ともあれ、この国際連盟すなわち欧州連盟を権威づけるためには、世界の最大強富国アメリカ合衆国のオブザーバーを列席せしめて、日本の強い頭をおさえつけようとやっているのである。
野瀬秀彦 著『国難来る日本勝つか聯盟勝つか』軍事教育社 昭和7年刊 p.435~437
国際連盟は、第一次世界大戦後のヴェルサイユ講和条約の規定によって1920年に設立されたされた国際平和維持機構だが、肝心のアメリカとソ連が不参加であったために、世界の紛争を調停する力は当初から乏しく、事実上は欧州連盟であった。たとえば中南米の諸国は大部分が国際連盟に加盟していたのだが、南北アメリカ大陸に関わる議題は「合衆国の利便とする時に於いてのみ連盟の介入が許され」、ソ連の国境に関わる問題は、ソ連はこれを内政として国連の介入を拒絶したため、国連は何もできなかったのである。
前掲書で野瀬氏が「某国の東洋への野心的策動」と書いているが、この「某国」は多分アメリカのことだと思われる。しかしわが国が満蒙に保有していた権益は、アメリカだけでなく、イギリス、フランス、ソ連も狙っていたし、中国も取り込もうとして動いたことは間違いがない。そして、それぞれの国が、国連という仕組みを活用して、軍事力を使わない方法で日本に圧力をかけていたというのが正しい見方ではないだろうか。
神戸大学の「新聞記事文庫」に、わが国が脱退したことに対する世界の反応が出ている。面白いのは中国の反応である。要するに、中国は日本に圧力をかけるための道具として国際連盟を利用したのだが、その背後には別の国も絡んでいたものと思われる。
最も興味あるは、連盟の武力干渉を頼みにして、事を構えた支那が、全く連盟の無力に呆れて、絶望の叫びを挙げて居る事である。
昭和八年四月六日国民新聞 神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫 外交(125-133)
大公報は云う「国際連盟に依嘱し得るとの事実は武力を以て失地回復を計る外なしとの議論を生じ其結果、現に九月十八日事件以来、失地回復を試みたる結果は却って期待に反し、失地の拡大を見た」と歎じて居る。更に益世報は論じて「支那は日本を抑圧せん為め連盟利用に全力を注ぎたるも、其得たる処は、実効なき報告書に止まり、又米露の利用に勉めたる結果は僅かに形式上の同情を贏(か)ち得たるに過ぎない。英仏に到っては複雑なる国際関係と自国の利害関係をのみ顧慮して、只管(ひたすら)、戦争の局限を期するのみ」と論じて居る。
今の教科書では、わが国の国際連盟脱退に関して、背後でどのような国が国連をどう利用しようとしたかについて触れることがないのだが、このような教科書をいくら読んでも、真実に近づくことができるとは思えないのだ。
この問題に限らず、GHQが戦後の日本人に読ませたくないと判断して処分した書物の中に、真実に近づくヒントが数多く含まれていると考えている。国際連盟の問題については、いずれ日を改めて書くつもりである。
【国際連盟に関するGHQ焚書リスト】
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ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。
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