外務省情報局が小学生のために書いた『日本の外交』(GHQ焚書)を読む1

著者別焚書リスト

 GHQが焚書処分した書籍リストの中に、わが国の外務省が著したものが十四点存在している。いずれも、当時のわが国が世界の情勢をどのように把握していたかを知るのに参考になるのだが、大人向けの本は読みづらい本が多いので、今回は小学生向けに書かれている『日本の外交』を紹介させていただくことにしたい。この本の各章の主人公は小学生で、それぞれが学校の先生や父母兄弟や親せきなどから外交に関する様々な知識を吸収していくスタイルで記されており、非常に読みやすく、小学生用の本といっても結構レベルは高い。

ヴェルサイユ体制

 第一章の「世界は動いている」では、小学生の富士夫君の家を訪ねに来た外交官である鎌倉の伯父さんが、小学生にでもわかるように、第一次世界大戦後の世界情勢について語っている。一部を紹介させていただく。

伯父「…ヨーロツパの大戦争がすんで、戦争をした国々が、フランスのパリーで講和会議を開き、ヴエルサイユ官殿で講和条約を作ったことは知っているだろう。その会議で平和のためというので、世界中の地図をかき直したのだ。 勝った国は大きくなり、負けた国は土地を取られて小さくなった。ただこの地図のかき直し方が、勝った国が、負けた国を取るというように、簡単には行かなかった。
ウイルソンというアメリカの大統領の意見で、民族の自決といって、独立した言葉や人種や、歴史をもった国々は、各々独立した国にならなければならないということになり、今まで大きな国の一部分になっていた所が、 小国として沢山独立してしまったのだ。いつか新聞に出ていたラトヴィアとか、リトアニアとか、フィンランドとかも、その時ロシヤから分れて、 独立した国だ。 ところがその民族自決という理想も、 勝った国はそのままにして置いて、負けた国の或る部分だけを、独立させたのだから、公平には行われていない訳だ。
そして国際連盟という平和をまもる集りをこしらえて、そこで多くの国が相談づくで戦争を避けるとか、またその連合した力で、戦争をしようとする国をおさえて、戦争の起きるのを防ぐとかするようにしようという相談が、成立ったのだ。」

伯父「ところがね。このウィルソンの考え方は、一寸みると立派だけれど、それは考え方だけが、立派だという意味で、実際にはこの考え方が、行われていない場合がかなり多いのだ。たとえば、前にいったとおり、戦争に勝った国は、民族自決のために、自分の国を分けようとはしなかったからだ。 決してインドを独立させようとはしなかったのだ。
いや、独立のことはともかく、一つの独立した国の内でも、外国人を、その国の人と同じように取扱っていない場合があるのだ。たとえば日本では、アメリカ人を、日本人同樣に取扱って居るのに、アメリカでは日本人や、 アメリカ人にくらべて、不公平な取扱いをうけている
そこで日本は、ヴエルサイユの講和会議で、「人種平等案」を出そうとしたことがある。 ところがこれを聞いた各国は驚いて、 それを引込めてくれといって、躍起となったことがある。 決して公平ということは出来ないのだ。」

伯父「こういうようなことは、他にもある。 いろいろの小国が、 敗けた国から独立したことは、前にも云った通りだが、その独立の仕方は、人種や、言葉や、歴史などを、基にするものだったために、独立した小国が、生きて行くために必要な産業や、また天產物(天然資源)などが、 どうなって居るかということはまるで考えられなかったのだ。
そこである国は、 その国だけではやって行けないものだから、フランスやイギリスからお金をかりて、まるで保護国のようになった国もある。 それからまたこれまでは、 同じ一つの国の内で、お互いに物を造ったり、売ったりして何の不自由もなく暮らしていたものが、急に別の国に分けられたので、物の売買が不自由になり、両方とも困るようになった国もある。それからさらにチェコのように、民族自決主義に反して、ドイツ人や、ハンガリー人や、ポーランド人のいる部分までも分けてもらったために、今度のように、ズデーテン・ドイツ人の住んでいる部分が、 チェコから離れて、 ドイツへ帰るようになったのもある。
これはつまり、ヴェルサイユ条約による国の分け方が、間違っていたということになるのだ。」
外務省情報部編『日本の外交』文昭社 昭和14年刊 p.3-5

ウッドロウ・ウィルソン米国大統領

 アメリカのウッドロウ・ウィルソン大統領が一九一八年に発表した「十四ヶ条の平和原則」の第五条で民族自決に言及し、この考え方がヴェルサイユ条約での原則とされ、この原則によりオーストリア=ハンガリー帝国などが分国され、ポーランドやチェコスロバキアやフィンランドやバルト三国などの小国が多数誕生したのだが、民族自決の考え方は世界に広がって、アジアやアフリカではモンゴルやアフガニスタン、イラク、イエメン、エジプトが独立を果たしたのだが、イギリスやアメリカなど海外に多数の植民地を持つ国は、自国の植民地の独立運動を弾圧するという姿勢を取り続けた。要は、戦勝国にとって都合の良い場合は民族自決を認めたが、都合の悪い場合は認めなかったのである。

敗戦国や小さい国がいじめられた

 学生時代に、第一次世界大戦で敗戦したドイツは植民地の全てを失い、アルザス・ロレーヌをフランスに返還したことなどを学んだ記憶があるが、戦勝国は世界中の資源の大部分を独占して、敗戦国やわが国を傷めつけたことについては戦後の教養書などにはほとんど何も書かれていない。

伯父「… 戦争に負けた国は、 ひどい目にあったが、その内でも一番ひどいのは、ドイツであった。これはイギリスやフランスなどから見ると、戦争のほんとうの相手だったからだ。しかしひどい目にあったのは、戦争に負けた国ばかりではなく、小さな国は大きな国からいじめられているのだ。天産物(天然資源)や富を、たくさん持っている国は、天産物の少ない国を、平和と人類愛のために助けるどころか、これを大きな軍備を造っておさえつけるとか、商売が出来ないようにするとか、いろいろとひどい目にあわせたものだ。こういうことは国際正義に反することだ。」

伯父「ところが、こういう道義に反した関係は、いつまでもつづくものではない。ドイツは、そのいい例だ。欧州戦争の結果、ドイツはひどい目に会ったが、それでもなかなか屈しなかった。ドイツは、まず戦争の償金は貧乏で約束どおり払えないといって、かなり負けてもらった。それから軍艦や、飛行機を造ることをとめられていたのを、国をまもるためには、ぜひ必要だといって、これを造り出すようになった。フランスとの国境のザールという地方は、もとはドイツ領で、石炭の産地だから、ドイツの工業を盛んにするためには、どうしてもその石炭が必要だ。そこでヴェルサイユ条約できめたとおり、人民投票といって、『ドイツへ帰るか、フランスへ付くか』という投票をやったところ、 その地方に住む人々の大多数が、ドイツへ帰りたいというので、ザールはドイツのものになってしまった。こんな工合に、ドイツは、一歩一歩貧乏から、うかび上る努力をつづけたのだ。」

伯父「こういうことは、国家というものが、地図の上で色分けされてるような単純なものではなく、生きているから、起ることだ。国家が成長しようとする時に、それを妨げるものがあると、それをはねのけて伸びるのは、当り前のことだろう。ドイツとか、イタリアとか、日本とかいう国は、この妨げるものをはねのけて、伸びようとする国で、イギリス、フランス、アメリカなどは、なるだけ自分の財産を失うまいとする、いわば年寄の国と見てもいいだろう。イタリヤが、イギリスやフランスにおどされても、それに屈せずに、エチオピアを併合したのは、国家の若い力が、ほとばしり出たからだ。日本が色々の苦しみに耐えて、日本の国を防ぎまもるために、満州国を守り立てているのも、こういう意味から来ていることだ。」

伯父「そして、この伸びようとする国と失うまいとする国との争いは、ヨーロツパでは特にいちじるしくて、元気のいい国のイタリヤとドイツとが、堅く手を握って、金持ち国のイギリスやフランスにあたっているのだ。ロシヤは、ドイツとイタリヤとが共産主義に反対するので、その反対側のイギリスやフランスの側に立っている。つまりヨーロツパは、イギリス、フランス組とドイツとイタリヤ組との二つに分れて、争っているといってもいい。そしてドイツと、イタリヤの組が、攻勢に出ていることは愉快ではないか。ドイツがオーストリアを併合し、チェッコのズデーテン・ドイツ人の地方を取ったことは、つまりこの攻勢の結果なのだ。」
同上書 p.5-8

 わが国は第一次世界大戦では連合国の一因として参戦し、ヴェルサイユ条約により支那山東省のドイツ権益を引き継いだほか、赤道以北のドイツ領南洋諸島の委任統治権を得ている。そうすると、わが国も英米からいじめられるようになっていく。

『神戸大学新聞記事文庫』外交8-62

 当時の新聞を調べると、「英米協会」という団体が、山東におけるドイツ権益を日本に譲ることは「民族自決主義に反する」として、英米両政府に建議したことが報じられている。ヴェルサイユ講和条約の調印日は一九一九年六月二十八日で、この新聞日付は六月九日だから、「英米協会」の建議は講和条約には採用されなかったことになるのだが、「民族自決主義」の考え方によりドイツから侵略された土地は取り返すべきであると支那民衆の期待を膨らませておきながら、結局山東省のドイツ権益は日本に譲渡されることが決定し、条約の定めにより山東省に進出したわが国が支那と対立するように仕組まれていたのではなかったか。

防共協定に加わる国と加わらない国

『神戸大学新聞記事文庫』外交147-10

 富士夫君と伯父さんとの話は当時唯一の共産主義国であったソ連の問題に移っていく。普通の国は世界の平和を希求するものなのだが、当時のソ連は世界中に赤化工作を仕掛けて世界秩序を破壊し各国を混乱させていた。このようなソ連の赤化工作から自国を守るために協力しあおうとする動きもあったのだが、この防共協定に参加する国と参加しない国とが対立することとなる。

伯父「… ロシアは…世界の平和をやぶって、共産主義を以て各国の国体をこわし国々を混乱させようとして、支那やスペインにまで手を伸ばしているのだ。世界の国々で、このロシヤの共産主義のために迷惑をしている国は数かぎりなくあるわけだ。そこで、そういう危険なロシヤの共産党の魔の手を防がなければならぬ国もまた世界には沢山あるわけだ。
日本とか、ドイツとかは、みなその危険なロシヤの隣りにいるものだから、どうしてもその共産主義を防がねばならないのだ。共産党はそうして各国の国体をみだして平和をやぶるためには、世界のあらゆる所にその手をひろげているものだから、それを防がねばならぬ国も、一緒に手をつないで防がねばならなくなる。 これが防共協定で、 日本とドイツと、イタリヤとが、それを眞先きにはじめたのだ。しかし、同じ立場や志をもつ国は、満州国やハンガリーのように、どんどんこの防共協定に入って、それぞれの国の平和をまもるようになるだろう。日本が支那で戦争をしているのも、東洋の平和をまもるための防共協定の表われだと見てもいいだろう。 共産主義をおさえるために出来たものだが、 日本でもドイツでも、イタリヤでも、金持ち国でないために、自然に伸びようとする国の仲間みたように、ほかの国からは、 考えられている。 …中略…」

伯父『そこでだ、富士夫。世界が、防共協定の国と、それからこれに加わっていない国との二つに分れていることは、わかったね。しかしそれは自然にそうなったので、もとはそういう積りのものではない。 防共協定の国は、 イギリスでもフランスでも、 これに加わることを望んでいるのだが、 イギリスも加わって来ないから、 やむを得ず、この二つの国々が対立することになっているのだ。
ところが、これは東洋だとて例外はないのだ。支那事変の起こりは、お前も知っているだろうが、これは支那がロシヤの言うことをきいて、共產主義を取り入れて、 日本に反対したからだ。 抗日赤化の支那と云ったね。あれが一部の者が云っている間は、相手にしなくともよかったが、人民戦線といって、いつの間にか一般の国民までも赤化させて、日本に反対させるようになったので、日本や満州国は、 これを防がねばならなくなったのだ。 それからなくなったのだ。 それからまたこれば東洋の平和を保っている日本にとっては、その平和をみだす原因となるものだから、そこでとうとう戦争をしなければならぬことになったのだ。」
伯父「いいかい、富士夫。そうしたらだ。支那を助けた国は、どこだと思う。」
富士夫「そりやロシヤでしょう。飛行機やタンクを、 新聞に書いてあった。それからイギリスも、何うやら怪しんじゃないですか。」

伯父「そうだ。イギリスもフランスも、支那に武器をやったり、金を貸したり、それから日本の作戦の邪魔をしたり、いろいろ癪にさわることばかりやっているんだ。
だが、 日本の味方をしている国だってあるさ。例えばイタリヤがその一つだ。 イタリヤは、 初めから、日本に好意をもってくれた。それからドイツもそうだ。富士夫、お前は、支那からドイツとイタリヤとの軍事顧問が、 それは日本に好意をもったやり方なのだ。
こんな工合に、ヨーロツパで二つに分れてやって居る争いが、 東洋においてもくり返えされて居るのだ。だからこの争いは、ヨーロツパのみならず、東洋にも、否世界いたるところ行われて居るものと 思って置かなければならぬ。日本がいま支那でやっている戦争は、この大きな世界の争いの一部でしかないからだ。」
同上書  p.9-13

 防共協定は昭和十一年(1936年)十一月二十五日に日本とドイツの間で調印され、翌年十一月にイタリアも加盟し日独伊防共協定と呼ばれる三国協定となり昭和十四年(1939年)にはハンガリー、満洲国、スペインが参加し、一九四一年六月の独ソ戦開始後は、ブルガリア、ルーマニア、デンマーク、スロバキア、クロアチア、フィンランド、中華民国南京政府(汪兆銘政権)が加盟したのだが、殆んどが第二次世界大戦の枢軸国側についている。

GHQが焚書処分した外務省編集の書籍リスト

 GHQ焚書リストの中から、著者・編者欄に「外務省」と出ている著作を抽出して五十音順に並べてみた。『イギリスの魔手 ノルウェーに及ぶ』はドイツ外務省の編集によるもので、他は日本の外務省の編集である。
 いずれもネットで公開されおり、ネット環境があれば誰でも無料で読むことが出来る。

タイトル 著者・編者 出版社 分類 国立国会図書館デジタルコレクションURL
〇:ネット公開 
△:送信サービス手続き要
×:国立国会図書館限定公開
出版年 備考
亞米利加讀本  外務省情報部 編 改造社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1452060 昭和13 国際読本. 第8巻
イギリスの魔手ノルウェーに及ぶ 独逸国外務省 編 独逸国大使館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1267846 昭和15  
国際時事解説 外務省情報部 編 三笠書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1268027 昭和12  
国際事情. 続編 〔第6〕 外務省情報部 編 良栄堂 https://dl.ndl.go.jp/pid/1171921 昭和8  
国際事情昭和十三年 外務省情報部 編 良栄堂 https://dl.ndl.go.jp/pid/1079116 昭和13  
国際事情 : 昭和十四年版世界の動き 外務省情報部 編 良栄堂 https://dl.ndl.go.jp/pid/1079113 昭和14  
大戦外交読本
 ①ミュンヘン會議・英佛宣戰
外務省情報部 編 博文館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1441327 昭和15  
大戦外交読本
② ソ・芬戰より白蘭進擊
外務省情報部 編 博文館 https://dl.ndl.go.jp/pid/1441338 昭和15  
中南米讀本 外務省情報部 編 改造社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1452045 昭和13 国際読本 第3巻
独逸の教育、文化、社会政策 外務省調査部 編 日本国際協会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1461239 昭和16  
独逸の宣伝組織と其の実際 外務省調査部 編 日本国際協会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1450457 昭和15  
日本の外交 外務省情報部 編 文昭社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1720039 昭和14 小学課外読物
米国対支経済勢力の全貌 外務省通商局 編 日本国際協会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1453550 昭和15 日本国際協会叢書 ; 第215輯
満洲読本 外務省情報部 編 改造社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1452065 昭和13 国際読本第九巻
南太平洋読本 外務省情報部 編 改造社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1878636 昭和13 国際読本第十巻

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