第二次世界大戦が起きる前のアジアは、タイ国と日本を除いてはすべてが欧米列強の植民地であった。彼らの植民地統治が如何なるものであったかは戦後の日本人にはほとんど知らされていないが、戦前の日本人は欧米に侵略され続けてきたアジアの歴史について解説されている本はいくらでも存在した。しかしながら、そのような史実は戦勝国にとっては不都合な真実であり、そのような歴史叙述を戦後の日本人に読めないようにしたことは、焚書処分された書物のタイトルからほぼ見当がつく。
今回は昭和十三年に発刊された『大東洋の危機 : 英国よアジアより手を引け』の一節を紹介したい。
英国が日本掣肘を目的とするならば、太平洋作戦策源地としてのシンガポール、並びにその前線根拠地としての香港は、何等日本を脅威し得るに足るものではなく、かえって英国を自縄自縛せしむる二触角としての意義を示すに過ぎないものである。
冷静を誇る英国が、この明かなる現実を知らぬはずがない。知って行うものとすればそこに何らかの陰険なる目的が存在するのだ。
すなわち、海外貿易交通路の保護に藉口し、太平洋に於ける英国自治領植民地の現状維持体制強化を策進し、さらに一歩を進めて東亜を混乱に陥れしめ、ユダヤ的侵略の魔手を揮わんとしているのである。
その一表現として、英国は蒋介石を極力支援して(一方蒋介石の容共政策を警戒しながら)長期抗日を叫ばしめているのであって、これによって日本の憤怒を煽り立て、日支を第二のスペイン化せしめんとしているのだ。かくて、日支を長久に噛み合わせて、東亜を紛乱の極に達せしめ、その間、在南支英国権益は東洋において、政治的侵略に加うるに、バジル・サハロフ的辣腕を逞しうしているのである。
この目的遂行のためには、東亜を禍乱のうちに置くことが絶対不可欠の要件である。これがゼスチャーとして、シンガポール、香港の軍拡工作ありと推論し得ないであろうか。
英国の伝統的大陸政策は、英国が常に第一義的存在として、イニシアティブをとらんとするところにある。これがためには単独の強国を作らせないこと、すなわち、国と国との均衡を保たせ、常に国家と国家が互いに牽制し合う状態に置くことを政策の主眼としてきた。然して、それらの国が均衡を破りそうになると、必ず好意的表現の下に弱い方の国を助けて他の国を単独、または連合して恫喝し均衡を企画し、その間巧妙に盗利に恣(ほしいまま)にしてきたのであった。支那事変における英国の蒋介石支援がそれである。支那事変の原因は言うまでもなく、南京政権の抗日政策であった。非は正に彼にある。
然るに英国は、一方初めより蒋介石を援助し、他方世界各国に向かって、日本を侵略国なりと宣伝し、日本の行動は世界のバランスを破壊するものであって、引いては世界大戦の端緒を作るものだと反日的煽動をやったのである。これ正しく英国の伝統的政策の一具現である。…中略
つねにイニシアティブをとり、陰に陽に東洋攪乱の魔手を延べ来たったものは英国であった。
今また、シンガポールの軍拡を中心として兇腕を揮い、東亜の危局を叫んで、オランダ、フランス、アメリカをその傘下に糾合し、されら諸国のアジアにおける植民地防護の目的を、シンガポール軍拡に依存せしめんとする態勢をとっている。さらに英国の植民地たるインド、ビルマ、マレーをして資源と労力とを提供せしめているのだ。
(『大東洋の危機 : 英国よアジアより手を引け』大阪時事新報社 昭和13年刊 p.54~57)
戦前・戦中の本にはこのように、日中戦争(支那事変)の背後に欧米列強諸国が動いていたことが書かれている本がかなりあるのだが、このような記述のある本の多くは戦後の日本人に読めないようにされている。その理由はおそらく、このような史実が日本人に広まると、「日本だけが悪かった」とする「戦勝国にとって都合の良い歴史観」が成り立たなくなる点にあるのだと思う。このブログで何度か書いた通り、GHQ焚書を国別に分類すると、圧倒的に中国関係の書籍が没収処分されており、日中戦争に関する書籍は、本のタイトルに「支那事変」「日支事変」「北支事変」を含むものだけで133点も焚書されている。
下記のリストはGHQ焚書の中から、タイトルに「アジア(亜細亜)」、「東洋」を含む68点の書籍を抽出したものだが、そのうち29点が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。
また、大川周明の『新亜細亜小論』については中公文庫及び徳間書店で復刊されている。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL | 出版年 |
亜細亜建設者 | 大川周明 | 第一書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1918531 | 昭和16 |
アジア古典の復興 | 志田延義 | 日本放送協会 | ||
アジア周辺民族史 | 竹尾 弌 | 今日の問題社 | ||
亜細亜侵略史 | 高橋 勇 | 霞ヶ関書房 | ||
アジア侵略秘史 | 桑原三郎 | 清水書房 | ||
アジア宣戦 | 清水宣雄 | アジア問題研究所 | ||
亜細亜中原の風雲を望んで | 井上雅二 | 照文閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1878344 | 昭和17 |
亜細亜と阿弗利加 | 中平亮 | 平凡社 | ||
アジアに叫ぶ | 土井晩翠 | 博文館 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1112463 | 昭和18 |
アジア年鑑1935 | 日本国際問題 調査会 編 | 河出書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1117665 | 昭和10 |
亜細亜の火薬庫 火を呼ぶ満蒙 | 三浦悦郎 | 先進社 | ||
アジアの見識 | 小林 元 | 龍吟社 | ||
亜細亜の将来と 主盟日本の態度 | 山道襄一 | 日本人社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1270387 | 昭和11 |
亜細亜の新興国 アフガニスタン | 尾崎三雄 | 日本国際協会 | ||
亜細亜の旅人 | 林 房雄 | 金星堂 | ||
亜細亜の光 | 朝日新聞社編 | 朝日新聞社 | ||
アジアは一つなり | 情報局 編 | 内閣印刷局 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1263031 | 昭和18 |
アジア文化の基調 | 高楠順次郎 | 万里閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1914543 | 昭和18 |
アジア文化 | 精神科学会 | 目黒書店 | ||
亜細亜民族起つ | 中平亮 | 東洋研究会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1445187 | 昭和7 |
アジア民族興亡史観 | 松本君平 | アジア青年社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1459164 | 昭和18 |
亜細亜民族と太平洋 | 松本悟朗 | 誠美書閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1273685 | 昭和17 |
アジア民族の中心思想.
印度篇 | 高楠順次郎 | 大蔵出版 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1230076 | 昭和11 |
アジア民族の中心思想.
支那・日本篇 | 高楠順次郎 | 大蔵出版 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1040365 | 昭和13 |
アジア問題講座(1) 政治軍事編 | 矢部良策編 | 創元社 | ||
アジア問題講座(9) | 矢部良策編 | 創元社 | ||
アジア問題講座 | 矢部良策編 | 創元社 | ||
アジアを奪うもの | 本山桂川 | 国民文化書院 編纂所 | ||
英国人の東洋観 | 丸山 学 | 京極書店 | ||
英聯邦と東洋 | 伊東敬 | 大和書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1444907 | 昭和19 |
欧米勢力の東洋進出 | 太平洋問題調査部 | 日本国際協会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1280854 | 昭和14 |
革命亜細亜の展望 | ラス・ビハリ・ボース | 万里閣書房 | ||
国民に叫ぶ :
亜細亜の黎明に立ちて | 奥村喜和男 | 大日本雄弁会 講談社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460189 | 昭和17 |
新亜細亜小論 | 大川周明 | 日本評論社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1044933 | 昭和19 |
新亜細亜の誕生 | 村田光烈 | 人文閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1459166 | 昭和17 |
新東洋の建設 | 竹下文隆 | 東方公論社 | ||
西南アジアの趨勢 | 内藤智秀 小辻節三 小林元 | 目黒書店 | ||
西洋文明の没落
: 東洋文明の勃興 | 福沢桃介 | ダイヤモンド社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1130737 | 昭和7 |
赤色アジアか防共アジアか | 中保与作 | ダイヤモンド社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1441258 | 昭和12 |
大亜細亜主義 | 中平亮 | 日本評論社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1272754 | 昭和8 |
大アジア主義の歴史的基礎 | 平野義太郎 | 河出書房 | ||
大亜細亜先覚伝 | 田中正明 | 象山閣 | ||
大東洋の危機 :
英国よアジアより手を引け | 大阪時事新報社 | 大阪時事新報社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1093923 | 昭和13 |
中アジアの風雲 | 内藤智秀 三橋富治男 田邊宗史 他 | 目黒書店 | ||
中西アジア地理政治誌 | 松川二郎 | 新興亜社 | ||
ドイツはアジアをかく見る | ウェルネル・A・ローエ | 南北社 | ||
東南亜細亜諸国 | 野波静雄 | 平凡社 | ||
東南アジア地政治学 | クルト・ヴィールスビツキイ | 科学主義工業社 | ||
東南アジア文化圏史 | 舟越康壽 | 三省堂 | ||
東洋芸術と大東亜教育 | 金原省吾 | 第一出版協会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1871765 | 昭和17 |
東洋政治学 | 浜薫明 | 巌松堂書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1441588 | 昭和14 |
東洋政治哲学 | 安岡正篤 | 玄黄社 | ||
東洋精神の復活 | 伊福吉部隆 | 第一出版協会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1272213 | 昭和9 |
東洋に於ける素朴主義の 民族と文明主義の社会 | 宮崎市定 | 富山房 | ||
東洋の風雲急 | 松尾正道 | 新東洋社 | ||
東洋は血の臭がする 第二世界大戦 | 足立六郎 | 一心社 | ||
東洋問題十八講 | 満川亀太郎 | 白鳳社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1466203 | 昭和6 |
南方亜細亜の文化 | 満鉄東亜経済 調査局 | 大和書房 | ||
西亜細亜民族 | 岡島誠太郎 三島安精 内藤智英 | 六盟館 | ||
日清日露戦争物語
: 附・アジアの盟主日本 | 菊池寛 | 新日本社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1718008 | 昭和12 |
日本精神とアジア自治 | 利津賢一 | アジア自治協会 | ||
発展日本の目標 アジア体制への道 | 河相達夫 | 中央公論社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1463539 | 昭和13 |
人・道・自然 :
東洋のこころ | 樋口功 | 湯川弘文社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1039643 | 昭和19 |
風雲の亜細亜 | 良島栄六 | 近代社 | ||
婦人亜細亜(月刊) | 毎日新聞社 編 | 毎日新聞社 | ||
復興アジア論叢 | 大川周明 藤森清一郎 中山優 他 | 国際日本協会 | ||
見たままの南方亜細亜 | 高岡大輔 | 日印協会 | ||
南アジア民族政治論 | 大岩誠 | 万里閣 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1459137 | 昭和17 |
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ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しました。
通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。
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