アメリカには多種多様な民族が混在して暮らしており、学生時代に「人種のるつぼ」などと学んだ記憶があるのだが、今では「人種のサラダボウル」などと言われることが多いのだそうだ。
「るつぼ」という言葉には、様々な国の移民が入り込み1つに融合するというニュアンスがあるがそれは理想にすぎず、今は大分落ち着いてきてはいるが、過去何度も人種差別を起因とする暴動を繰り返してきた歴史がある。
今まで世界文化社の「戦争文化叢書」シリーズの本を採り上げてきたが、今回はその最終回で『日米百年戦争』(GHQ焚書)という本の一部を紹介させて頂きたい。
アメリカ・インディアン
かつては西部劇映画がよく作られていて、私の子供の頃はテレビで何度も視聴した記憶があるのだが、今では西部劇はほとんど作られていない。アメリカの白人にとっては「西部開拓」であっても、アメリカ先住民にとっては簒奪であり虐殺であり、黒人奴隷にとっては搾取であり虐待であった。白人を「強く正しく」描き、インディアンや黒人を「悪者」に描くような勧善懲悪のストーリーが、戦後のアメリカ社会では次第に受け入れられなくなっていったことが原因のようだ。
『日米百年戦争』には、戦後に出版された書物には詳しく描かれることの少ない「アメリカ」の問題点が記されているのだが、人種問題について解説されている部分を紹介したい。
アメリカに関してまず考えるべきことは、アメリカはヨーロッパ人にとっては新大陸であるが、アメリカ・インディアンにとっては祖国だということである。さらに人道主義の国、自由平等主義の国であるアメリカは、実は最も惨虐な植民地戦争の舞台であり、有色人種を差別的に待遇する不平等不自由排他的な国であることも知っておかなければならない。
戦争文化叢書 ; 第32輯 アメリカ問題研究所 編『日米百年戦争』世界創造社 昭和15年刊 p.109~112
しかもアメリカ・インディアンは、アジアからベーリング海峡を渡って今から一万年前に移住してきたことが、民俗学の世界的権威エジンバラ大学の研究書によって証拠立てられた。
・・・中略・・・
インディアンはその能力は別段白人に劣るものではなく、学問その他について充分白人に対抗し得るが、社会的に白人に差別的待遇を被り、白人との融和問題は常に識者の問題となっている。
1904年の統計では、インディアン融和のために335の教会、157の学校、数百の伝道者がそれに動員されていることが見える。土人教化の教育機関・・・は、・・・中略・・・入学したインディアン子弟に対しては一般白人と同様なる教育を施し、彼らがその民族的個性と団結心とを消滅せしめんとしている。しかしながら、彼らは一般白人社会に進出することを希望せず、・・・白人と真に融和提携するのは未だ何時のこととも見当がつかない。今日のところ政治的に大なる力を有してはいないけれども、彼らがアメリカ原住民としての自覚を高め、南米諸国の同族と大同団結するときは、白人に対して非常なる脅威となるであろう。
黒人奴隷
広大なアメリカ大陸の原住民はインディアンであったが、彼らを追い払った後の土地を開拓していくためには、莫大な労力を必要とした。アメリカ人はその労力を如何にして獲得したのであろうか。
北米合衆国の西南部発展は、アフリカより購入せられた奴隷ネグロ、支那大陸から稼ぎに出た支那人、売られた苦力(クーリー)、日本からの出稼人に負うところ非常なるもので、今日のアメリカ文化は有色人の汗と血によって築かれたともいえよう。始めてアメリカ大陸に奴隷として売られたネグロの祖国はアフリカの西海岸で、今日でもこの地方は奴隷海岸の名を以て呼ばれているが、彼らが奴隷上人の手によって捕えられる有様は言語に絶する惨虐なるものであった。
スタンレーの『アフリカ探検記』は
「この巡行に51日を費やし、ウジジに帰営するに及びて病死、遁逃相次ぎ、一行の人員は、ますますその数を減じたから早々屯営を引き払い、舟にてタンガニーカ湖を横切り、針路を西に取って進行した。行くに従い奴隷商隊が惨酷残暴を極めた痕跡が到るところに散在するのを見る。処々の村落は焼失せて頽垣断礎を残し、田園は荒蕪して蔓草茫々としている。また原野には白骨累々たるものがある。これは防戦の際惨死したるものにあらざれば、老弱用に堪えずして横殺されしものの遺物であろう。昔日繁栄の地、今は無人境となる。心なき土蛮すらなお悵恨に堪えざるの状がある。奴隷商隊は大抵漂泊せるアラビア人より成り立ち、過ぐるところ暴戻を極めて黒人を拿捕することかくの如し、実に憎むべき所業である。」果してこれアラビア人のみの業であったろうか、仮にこの奴隷を捕えるものがアラビア人であるとするも、これを購い酷使するのは白人たちであったのだ。ナハチガル博士の『アフリカ内地探検記』の一節には
同上書 p.112~114
「来襲せし奴隷狩りの大衆去りたる翌日、余はその暴虐を逞しうせし後を巡視したが、到るところに血ににぢみ肉を破られ、虫の息にて呻吟せる黒人が無数に堆積しておった。彼らは奴隷狩りの意に最後まで反抗して、殺傷を加えられたのである。余は奴隷狩りがその命令に服せないときは他への見せしめとして忽ち黒人を殺戮することを聞いていたが、不幸中の幸いにも未だ命だけを取りとめた黒人のあるを目撃して彼らを慰めた。最初余はいかに奴隷狩りが惨忍無道の徒なればとて、同胞人類を殺戮するに鶏を殺すが如き方法を以てはしまいと想像していたが、事実は想像以上の暴虐さである。一日余は奴隷狩りがその強いて連れ行かんとするに反抗せる黒人を、忽ち匕首(あいくち:鍔の無い短刀)を閃かして殺戮せし惨状を目撃したが、かかる罪悪を前にしてこれを如何ともすることが出来なかった当時の余の心中は真に実情し難きものであった。」
この様にして捕らえられた黒人奴隷は、手枷足枷につながれて狭い奴隷船に横臥されて積み込まれ、数週間の航海によりアメリカ大陸に運ばれていった。諸説はあるが、18世紀末から19世紀の初めまで毎年十万人程度の奴隷が運ばれ、ほとんどが北米の南部で砂糖、棉、タバコ、米などの栽培に従事させられたという。
ところが、第一次世界大戦後に工業が発展し、奴隷の多くが工場労働者として北部工業地帯に移住したという。それは、南部よりも北部の方が待遇が良かったという事情が大きかったのだが、それでも黒人の給料は白人労働者の三分の一~半分程度にすぎず、また黒人は、黒人専用車以外の列車に乗ることが禁じられ、劇場やレストラン、ホテルなどにおいて白人と席を並べることが出来ず、劣悪なる住宅しか与えられず、ひどい差別を受けていたのである。
黒人の叫び
第一次大戦後、覚醒した黒人が白人の不当なる処置に反撃を試みるようになった。彼らはワシントン会議に、嘆願書を提出したという。かなり長文だが一部を紹介する。
我らは、いわゆる社会的平等よりも社会的正義の要求をなすものである。
同上書 p.124~125
我らの訴えるところは、経済上、教育上、政治上、市民としての権利が、平等に我らに与えられてないことである。彼の労働及び奉仕に対する廟堂の認識、職業に対する機会均等、選挙権の平等の如きは、実に社会的正義の根本である。而してこの正義に対する圧迫に対し我らは常に最も謙遜に、それが矯正につき嘆願したのであった。しかしながら我らの再三再四なした嘆願は、ただその度に益々重き圧迫と制限とによってのみ報いられたのである。
しかしかかる圧迫は、すべての被圧迫国民の人道的結合を促し、かつ世界の文明的良心により、正当なる酌量がなされることを期待して、我らは再び諸君の救援を切望しつつ、悲痛と嘆願とを併せ述べて、世界白人の本来の正義心に呼びかけ、各国民の立法、行政部に訴えるものである。
ネグロに対する搾取が止み、不正が矯正され、暴徒群衆の暴虐及びペオネージが厳禁され、法律並びに事実上の差別が撤廃されて、多民族と同様に、公平なる試験によって市民権その他各種特権の付与せられんことを懇願するのである。
白人はこのような声に耳を傾けようとせず、冷淡であった。米国政府はハイチ、プエルトリコなど独立国民であった黒人に対して武力的威嚇をし、英国もアフリカ、大西洋諸島の黒人に対し圧迫を加えていたという。
黒人たちは黒人工場促進国民協会などの活動を活発化させ、アメリカ下層社会に於ける隠然たる勢力を築いて闘い、日本人移住者にも協力を求めていた。またアメリカ共産党は黒人の不平不満を利用して党勢力を伸ばしていったが、共産党の帰趨いかんによっては、アメリカ・インディアンが動き出し、それに呼応して千五百万人の黒人が蹶起するなど、アメリカが大いなる影響を蒙る可能性を示唆している。
現実の歴史は、黒人も太平洋戦争でわが国と闘うことになるのだが、当時のデトロイトやニューヨークではハーレムを中心に人種差別は激しくなるばかりであった。旧ブログで書いた通り、マスコミでは、黒人がこの戦争の勝利に貢献することによって、念願の公民権を獲得し人種差別問題に打ち勝とうとする「ダブルビクトリー」キャンペーンを大々的に展開した。一方では、そのようなプロパガンダを冷ややかに見ていた黒人も少なからずいた。
わが国がどこまで考えていたかは不明だが、アメリカは白人と有色人種が分断される工作を恐れていたことは明らかで、日本からその工作を仕掛けられないように、有色人種の中で日系アメリカ人だけが強制収容所に送りこまれたことを知るべきである。
戦争文化叢書全冊のリスト
『戦争文化叢書』という三十五冊のシリーズ本のうち二十九冊(83%)がGHQ焚書図書になっている。これだけ高い割合でGHQが焚書処分したシリーズは、以前このブログで紹介させて頂いたアルス社の『ナチス叢書』に次ぐものである。以下のリストは『戦争文化叢書』シリーズで刊行されたすべての書籍である。タイトル欄で*太字で表記した書籍はGHQ焚書図書である。
タイトル *太字はGHQ焚書 | 著者・編者 | 出版社 | 国立国会図書館URL | 出版年 |
日本百年戦争宣言 戦争文化叢書 ; 第1輯 | 高嶋辰彦 著 | 戦争文化研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462811 | 昭和14 |
植民地解放論 戦争文化叢書 ; 第2輯 | 清水宣雄 著 | 太平洋問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
*八紘一宇 戦争文化叢書 ; 第3輯 | 志田延義 著 | 日本問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
*独伊の世界政策 戦争文化叢書 ; 第4輯 | 小島威彦 著 | ヨーロッパ問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
*支那人は日本人なり 戦争文化叢書 ; 第5輯 | アジア問題研究所 編 | アジア問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1441264 | 昭和14 |
*文学戦争 戦争文化叢書 ; 第6輯 | 丸山熊雄 著 | 映画文化研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
*天皇政治 戦争文化叢書 ; 第7輯 | 山本饒 著 | 日本問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
*対英戦と被圧迫民族の解放 戦争文化叢書 ; 第8輯 | 小倉虎治 著 | アジア問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268185 | 昭和14 |
*東亜とイギリス 戦争文化叢書 ; 第9輯 | 吉田三郎 著 | 支那問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
*東亜協同体思想を撃つ 戦争文化叢書 ; 第10輯 | 篁実著 | 支那問題研究所 | 国立国会図書館に蔵書なし あるいはデジタル化未済 | 昭和14 |
*日英支那戦争 戦争文化叢書 ; 第11輯 | 今藤茂樹著 | 支那問題研究所 | 国立国会図書館に蔵書なし あるいはデジタル化未済 | 昭和14 |
*日本世界戦争 戦争文化叢書 ; 第12輯 | 満田巌 著 | 北方問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1278161 | 昭和14 |
*日本戦争経済試論 戦争文化叢書 ; 第13輯 | 波多尚 著 | 日本問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
*ファッシズム教育 戦争文化叢書 ; 第14輯 | 渡辺誠 著 | ヨーロッパ問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462807 | 昭和14 |
*日本戦争貨幣論 戦争文化叢書 ; 第15輯 | 西谷弥兵衛 著 | 日本問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462810 | 昭和14 |
*日本史代の建設 戦争文化叢書 ; 第16輯 | 中村光 著 | 日本問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
*ルーデンドルフの国家総力戦 戦争文化叢書 ; 第17輯 | 間野俊夫 著 | 戦争文化研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
世界航空文化闘争 戦争文化叢書 ; 第18輯 | 泉四郎 著 | 航空文化研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和14 |
科学者は何を為すべきか 戦争文化叢書 ; 第19輯 | 深尾重光 著 | 科学文化研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和15 |
*印度民族論 戦争文化叢書 ; 第20輯 | 堀一郎 著 | アジア問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和15 |
*日本農兵戦争 戦争文化叢書 ; 第21輯 | 清水宣雄 著 | 農村問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462805 | 昭和15 |
教育動員計画の書 戦争文化叢書 ; 第22輯 | 伏見猛弥 著 | 日本問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462804 | 昭和15 |
*インド解放へ 戦争文化叢書 ; 第23輯 | 小倉虎治 著 | アジア問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和15 |
*皇国臣民の責務 戦争文化叢書 ; 第24輯 | 中岡弥高 著 | 日本問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和15 |
*英国の世界統治策 戦争文化叢書 ; 第25輯 | ヨーロッパ問題研究所 編 | アジア問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1271486 | 昭和15 |
*欧洲を繞る世界情勢 戦争文化叢書 ; 第26輯 | 白鳥敏夫 著 | ヨーロッパ問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462801 | 昭和15 |
*印度侵略序幕 戦争文化叢書 ; 第27輯 | 深尾重正 著 | アジア問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和15 |
*尊皇攘夷論と開国史観 戦争文化叢書 ; 第28輯 | 森昌也 著 | 日本問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和15 |
*南を衝け 戦争文化叢書 ; 第29輯 | 太平洋問題研究所 編 | 太平洋問題研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1441267 | 昭和15 |
*二十世紀人間闘争 戦争文化叢書 ; 第30輯 | 泉三郎 著 | 科学文化研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和15 |
*音楽戦争 戦争文化叢書 ; 第31輯 | 牧定忠 著 | 映画文化研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和15 |
*日米百年戦争 戦争文化叢書 ; 第32輯 | アメリカ問題研究所 編 | 世界創造社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1245901 | 昭和15 |
*円系通貨を繞る基本問題 戦争文化叢書 ; 第33輯 | 波多尚 著 | 日本問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和15 |
時間論 戦争文化叢書 ; 第34輯 | 泉三郎 著 | 科学文化研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和16 |
*佐藤信淵 戦争文化叢書 ; 第35輯 | 坂本稲太郎 著 | 日本問題研究所 | デジタル化されているがネット非公開 | 昭和16 |
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