GHQの焚書リストの中に、昭和十二年に海軍省海軍軍事普及部がまとめた『支那の対日宣伝策 : 支那に於ける国防と新聞事業の統制』という本がある。この書物は海軍省が書いたものではなく、支那藍衣社機関紙上海汗血書店発行の「汗血月刊」第八巻第六号(昭和12年3月号)で趙占元という人物が書いた「国防と新聞事業の統制」という論文を、海軍省の東亜経済調査局が要約したものである。
このような本がGHQによって、戦後の日本人に読めないように没収・廃棄されてしまったのだが、なぜGHQは中国人の著した著作を焚書にしたのかを考えると、中国や戦勝国にとって都合の悪いことが書かれていたということであろう。
著者の趙占元は戦時中の宣伝の目的についてこう述べている。文中の「国内」とは、もちろん中国のことであり、「敵国」は、日本と読み替えて良いし、当時の中国側の発表には、真実報道とは異なる目的があったことを念頭に置いて読むべきである。
敵国に対する宣伝は、敵国民衆の中心信念を動揺せしめ、その統一精神を破壊し、その経済生活の痛苦を暴露し、その現存政治の組織を擾乱し、敵国国民の戦闘意識を壊滅せしむるにある。
対内宣伝の目的は本国国民を激励し政府の対外政策の施行を認識せしむるとともに、国民をして極力政府を援助し、熱烈に擁護し、誓って後楯とならしむるにある。最後の犠牲を必要とする抗戦の時期にあれば、さらに一層た自国国民をして敵国に対して挙国一致して不倶戴天の敵愾心を起さしむるとともに、その戦争意識を増強し、最後の勝利を獲得し得ることを確信せしむるにある。今日国内においては漢奸匪党が謡言を製造し、邪説を伝播し、人民の視聴を困惑しているがゆえに、新聞界においては力を国内宣伝に注ぎ、人民の思想を正軌に入らしむるべきであって、これは国際宣伝よりも更に重要性を持っている。
『支那の対日宣伝策 : 支那に於ける国防と新聞事業の統制』海軍省海軍軍事普及部 昭和12年刊 p.25~26
このような考え方は、いつの時代もどの国でも為政者であれば、そのようにあって欲しいと願うものだと思うのだが、昨今のわが国のマスコミでは、非常時であるにもかかわらず、政権の足を引っ張るような報道が目に付いてしまうし、外国の報道を安易に信用しすぎではないか。
クラウゼヴッツは戦争の手段を、①敵の武力を壊滅すること ②その資源を占領すること ③その世論を征服すること の三つに分けたが、もし、宣伝戦で相手国の世論を征服し、戦わずして目的を達することができればそれが一番望ましいことは言うまでもない。戦後のわが国は、どこかの国が政治家などに圧力をかけて、マスコミを使って世論工作をすれば、簡単に援助を得ることが出来る国になってはいないか。
下記のリストは、GHQ焚書リストの中から、タイトルに「思想」「宣伝」を含む著作を集めたものだが、全部で78点があり、うち32点が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。
わが国が諸外国に宣伝戦で負けないためには、戦前に出版された書物が少しは参考になるのではないだろうか。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL | 出版年 |
欧州の宣伝戦とは 戦争は戦争でない | 山口勝治 編 | 厚生書院事業部 | ||
大川周明博士その思想 | 左山貞雄 | 大同書院 | ||
恩の思想 | 川合貞一 | 東京堂 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1038388 | 昭和18 |
加藤弘之の国家思想 | 田畑 忍 | 河出書房 | ||
教学と思想統一 | 西晉一郎 | 国民精神文化 研究所 | ||
近世国体思想史論 | 伊東多三 | 同文館 | ||
近代政治思想と皇道 | 藤沢親雄 | 青年教育普及会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1228417 | 昭和12 |
近代独逸哲学思想の研究. 第2巻 | 越川弥栄 | 修学館 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1038955 | 昭和19 |
勤王思想の発達 | 本夛辰次郎 | 日本学術普及会 | ||
決戦態勢下の思想対策 | 三島助治 | 国際政治経済 研究所 | ||
現代思想戦史論 | 野村重臣 | 旺文社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1062859 | 昭和18 |
現代思想の歴史的批判 | 中村孝也 | 青年教育普及会 | ||
現代の問題としての 復古思想 | 竹岡勝也 | 目黒書店 | ||
五・一五事件背後の思想 | 伊福部隆輝 | 明治図書出版 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1459120 | 昭和8 |
皇国思想の本源 | 紀元二千六百年 奉祝会 | 皇国青年教育 協会 | ||
皇道思想はどんな思想か | 鄭然圭 | 満蒙時代社 | ||
皇道主義思想の確立 | 藤井章 | 高陽書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1038375 | 昭和15 |
国体思想論 | 広島文理大 精神科学会 | 目黒書店 | ||
国体と思想国防 | 志水義暲 | 清水書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1044864 | 昭和17 |
国体の淵源日本精神 日本思想の原理 | 塩田盛道 | 建国講演会 | ||
国民思想の動向 | 水島 斉 | 不明 | ||
国家宣伝統制 | 森崎善一 | 宣伝統制局 | ||
国旗、皇道、正中思想 | 熊崎健翁 | 五聖閣出版局 | ||
最近思想学校訓練実践 の進歩 | 厚生閣編輯部編 | 厚生閣 | ||
思想維新論 | 三島助治 | 国民政治経済 研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1273642 | 昭和17 |
思想決戦 敵思想侵攻と撃碎 | 中井良太郎 | 鳴玄社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460324 | 昭和19 |
思想決戦記 | 水野正次 | 秀文閣書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1450655 | 昭和18 |
思想国防の神髄 | 田中智学 | 天業民報社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460200 | 昭和17 |
思想戦 | 棟尾松治 | 文芸社 | ||
思想戦 : 近代外国関係史研究 | 吉田三郎 | 畝傍書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1062862 | 昭和17 |
思想戦経済戦 | 陸軍省つはもの 編輯部 編 | 軍事科学社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1457952 | 昭和9 |
思想戦大学講座 | 大日本言論 報国会 | 時代社 | ||
「思想戦」と宣伝 | 神田孝一 | 橘書店 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462333 | 昭和12 |
思想善導の根本義 | 秦俊七郎 | 民友社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1279582 | 昭和3 |
思想戦と科学 | 荒木俊馬 | 新太陽社 | ||
思想戦と国際秘密結社 | 北條清一 | 晴南社 | ||
思想戦の根基 | 大日本言論 報国会 | 同盟通信社 | ||
思想戦の勝利へ | 高須芳次郎 | 大東亜公論社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1038432 | 昭和18 |
思想戦より観たる 敵アメリカ | 小林五郎 述 | 世界思想戦 研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1270374 | 昭和18 |
思想戦略論 | 小林知治 | 地平社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460326 | 昭和18 |
思想戦論 | 志村陸城 | 赤坂書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460329 | 昭和19 |
思想戦を語る | 下中弥三郎 | 泉書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1439722 | 昭和19 |
思想闘争と宣伝 | 米山桂三 | 目黒書店 | ||
思想と剛柔 | 桂川畦菽 | 松雲堂書店 | ||
思想問題と学校教育 | 吉田熊次 | 日本文化協会 | ||
思想問題と国民精神 | 亘理章三郎 | 大成書院 | ||
支那思想概説 日支事変に就いて | 諸 橋 述 | 山崎作治 | ||
支那事変に於ける 敵の戦場思想工作の一観察 | 教育総監部 編 | 教育総監部 | ||
支那の対日宣伝策 | 海軍省 海軍軍事普及部 | 海軍省 海軍軍事普及部 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1445903 | 昭和12 |
世界大戦における 仏独両軍戦術思想の変遷 | 廣 良一 訳 | 偕行社 | ||
全国思想関係新聞雑誌調 | 警保局図書課 | 内務省 | ||
戦争経済思想 9 | 本領信治郎 | 日本電報通信社 | ||
戦時宣伝論 | 小山栄三 | 三省堂 | ||
戦争思想の研究 | 松下芳男 | 不明 | ||
戰爭と思想 | 野村重臣 | 富強日本協會 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1085785 | 昭和19 |
戦争と思想動員 | 法貴三郎 | 日新書院 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460320 | 昭和17 |
戦争と宣伝 | F.C.パートレット | 高田書院 | ||
全体思想の再検討 第十九編 | 大串兎代夫 | 国民精神文化 研究所 | ||
宣伝技術 | 報道技術 研究会編 | 生活社 | ||
宣伝戦 | 中島鉱三 | ダイヤモンド社 | ||
宣伝戦の史家と理論 | 戸沢鐵彦 | 中央公論社 | ||
総力戦・思想戦・教育戦 | 寺田弥吉 | 敞文館 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460251 | 昭和18 |
総力戦と宣伝戦 ナチス思想謀略の研究 | 水野正次 | 新民書房 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1450656 | 昭和16 |
大東亜戦争と思想戦 | 竹田光次 | 週刊産業社 | ||
大東亜戦争の思想謀略 | 水野政次 | 霞ヶ関書房 | ||
大東亜の思想 | 大串兎代夫 | モダン日本社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1273648 | 昭和17 |
中道思想及びその発達 | 宮本正尊 | 法蔵館 | ||
敵国アメリカの戦争宣伝 | 中野五郎 | 新太陽社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460325 | 昭和20 |
独逸宣伝中隊の組織と活躍 | 川端勇男 | スメル書房 | ||
ドイツ的戦略とは : 戦争と謀略・宣伝 | 水野正次 | 名古屋新聞社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1463175 | 昭和15 |
独逸の宣伝組織と其の実際 | 外務省調査部 編 | 日本国際協会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1450457 | 昭和15 |
東亜協同体思想を撃つ | 篁 実 | 小倉虎治 | ||
東亜聯盟結成論 : 東亜宣化 (思想戦)の原則的研究 | 東亜思想戦 研究会 | 東亜思想戦 研究会 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1457117 | 昭和13 |
ドイツ宣伝中隊員の手記 | 稲本勝彦 | 晴南社 | ||
ナチス思想批判 | 蓑田胸喜 | 原理日本社 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268325 | 昭和15 |
ナチス思想論 | 山本幹雄 | アルス | ||
日本歴史と思想戦 | 佐藤忠恕 | 昭和刊行会 | ||
米国に於ける思想戦 | 東亜研究所 | 東亜研究所 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1439300 | 昭和18 |
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ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。
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