小松緑「赤化運動の経緯」を読む 2

神戸大学新聞記事文庫

赤化(共産主義化)はどこの国でも起こり得る

 前回紹介した小松緑「赤化運動の経緯」(中外商業新報:昭和三年九月二十四日~十月一日)の続きだが、小松は共産主義思想は、資本主義でない国でも伝播していくものだと述べている。そもそも国民の大部分を占める労農階級が独裁することなど出来るはずがなく、国をまとめるためには結局少数の者が専制政治を行うものとならざるを得ない。したがって、政治権力の掌握に目の眩んだ輩にとっては、共産主義は極めて好都合な思想であり、革命思想で国民間の対立を誘導して国を弱体化させ、のちに過激な手段を取ることによって独裁権力を掌握することが夢ではないのだ。そして小松は、とくに中国のような「節制も秩序もない国には」共産主義者による革命が最も起こりやすいのではないかと述べている。

 今日の赤化運動は、世界革命とプロレタリア独裁政治とを目標とするものであるとすれば資本主義の存在しない国にでも、また帝国主義の消滅した国でも、等しく伝播するはずである。支那が赤化せぬとか、日本が赤化するとかいうのは、畢竟赤化の実質を誤認するからである。—プラトンの共産主義とマルクスの共産主義とを混同するからである。

 無産階級の独裁政治 —— 実は寡頭専制そして一群の政治ゴロツキが、憲法に依らず、議会に謀らず漫然たる委員制度の下に、人民の財産を強奪し、租税を濫徴し、国際条約を破棄し、内外の債権を蹂躪するという赤化は、どこの国にでも起ろうではないか。別けて、節制もない秩序もない支那には最も起り易いではないか。名は三民主義であろうが、民本主義であろうが、その実質が過激主議であるならば、それは立派な赤化だ。若し赤化というのがいけなければ、赤化以上の積禍とでもいうがいい。

 もっとも支那が自国の自由意志で、その政体を改めるだけならば文句はない。ただ赤露の煽動と後援とで、世界革命の旗幟を翻えし、日本の条約を無視し、日本の債権(公私合して約二十五億円)を踏倒し、その上へ日本の権益を侵害するが如き行動に出ずるにおいては到底容赦する訳にはいかない

神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫 思想問題(5-007)

中国の赤化を有望と考えたソ連

ミハイル・ボロディン(Wikipediaより)

 ソ連は支那の赤化が有望であるとし、活発に動き始めたことを述べている。文中の「ボロヂン」という人物はそれまでメキシコ、アメリカ、英国で赤化工作活動をしてきた人物で、ユダヤ人であった。一九二三年から一九二七年まで、孫文の政治顧問となり中国国民党に英国敵視政策と容共政策を誘導した。
 また「コロンバイル」というのは外蒙古の一地方で、古くから中国・ロシアの係争地であり、ソヴィエトはこの地方を赤化工作により取り込もうとした。

 近頃赤露の魔手が、支那の南北にわたり、いかに敏活に動き始めたかは、中国共産党と公称して赤露と気脈を通じている譚平山が広東、江西、湖南の三省においてソウェート連邦の組織を企て、六万の赤衛軍を養成しつつある事実と、更にコロンバイル事件におけるボロヂンの陰謀とを見ても、よくわかる。

 去る八月二十二日に東支鉄道の西部の一地点で、偶然多量の武器弾薬が発見された。この危険物はハルビンにおいてボロヂンに渡される手筈となっていたので、支那官憲は、オテル・モデルンに変名して滞留していたボロヂンを逮捕し、その室内を探索した結果多額の現金を入れた金庫を押収したそうだ。ボロヂンの部下は、ロシア人、支那人、朝鮮人、日本人併せて二十六名その中日本人は四名ほどいたということだ。

 ボロヂンは、南方において赤化運動に失敗してから、本国に引返し、暫く鳴りを鎮めていたが今や捲土重来、外蒙古に入り込み内乱を煽動して、先ず支那から独立してから、ソウェート連邦に加入させる計画を樹てたものと見える。一ボロヂンの一挙手、一投足でさえ、忽ち険悪な波瀾を捲き起すのである。幾多のボロヂンが支那の地域のみならず、やがて、日本の領分にまで出没することになったら、随分うるさいことであろう。

 その後汪兆銘率いる武漢政府が共産党の言論取締りを決定し、ボロディンは顧問を罷免されて帰国したため「日本の領分にまで出没」することはなかったようだ。

ソヴィエトと中国に対するわが国の姿勢

 ソヴィエトの赤化工作を警戒しなければいけないのに、なぜわが国はこの国と国交を結んだのか。それは通商上の利益を考慮したことが理由なのだが、わが国の利益よりもはるかにソヴィエトの利益の方が大きかったのだ。当時のイギリスとわが国のロシアに対するスタンスの違いは興味深い。
 また日貨排斥や経済断交で威嚇してくる中国との貿易も、継続する必要があったのだろうか。

 わが露支両国に対する外交を塩梅するに当っては、あるいは取越し苦労であるかも知れないが、万一の場合に、我国の蒙るべき利害を打算して置かねばならぬ。

 さきに日本がいやいやながら赤露と国交を開始したのは、言うまでもなく通商上の利益を考慮したからだ。若しそれが予期に反して、赤化宣伝に害用されるだけでは、間尺に合った話じゃない。ところが、いざ実際の商売となるとどうだ。先方では、輸出入の均衡を保つ為に、煩細な規定の下に、政府自身が取引に当るというのだから、結局ロシア側の利益になるばかりで、日本の為になるものとては、絶無ではないが、僅少だ。

 昨年度の日露貿易額は、総計一千八百七十万円弱で、しかもそのうち七割五分までが日本の輸入になっている。イギリスは、赤化宣伝を理由としてロシアと国交を断絶する為に、一億三千万円の貿易を犠牲にした。イギリスは、この位の利益に目がくらんで赤化病感染の危険を冒しては、割に合わないと、ちゃんと得失の打算をつけていたのである。これは、日本に取って、好個の実物教訓ではあるまいか。

 支那との関係に就ては、なおさら通商上の得失を考慮しなければならない。支那の方では、日貨排斥や経済断交などで、頻りに日本を威嚇しているが、それが実際に日本の正当な主張を抑制する効果のあるのは、実に不思議でたまらない。

 そもそも国際貿易は、相互に均等の利潤を浴するのを原則としている。然るに、今支那が日本との経済断交を敢てすれば、其結果として、支那だけが利益を得て、日本が損失を蒙るという理屈が那辺にあろうか。試みに日支両国の貿易関係を見るがいい。その総額は、約十一億円であるが、これを支那の対外貿易総額約三十億円に対照すれば、三割強に上っているから、日本は、支那にとって、欧米、いずれの国よりはるかに優れた最上顧客である筈だ。これに反して日本の対外貿易総額四十四億円から見れば、対支貿易額はわずか二割二分にしか当らないから、支那は、日本にとって、はるかに米国の下位にある第二流の顧客に過ぎない

 世間には対支貿易が日本の死命に制しているように想像している者が多いが、こういう数字から推して見れば、日支間の通商断絶は、日本に与える苦痛よりも一層深刻な苦痛を支那に与えねばならぬ筈だ。何となれば、支那は、一方において綿花の顧意先を失うのみならず、他方において、日常必需品の供給先をも失うという二重の損害を蒙るからだ。

 当時のわが国は、対ソヴィエトにせよ対中国にせよ、さんざんひどい目に遭わされながら、一部企業の利益ために貿易を継続していたのだが、この点については今のわが国の外交も同様である。

 小松が最後に述べているように、「正しきを踏んで怖れざるのみ!」。いつの時代もどこの国でも、正論を堂々と主張し相手にぶつけることが重要である。どこかの国に忖度して、言うべきことを言わない軟弱な外交を続けることは相手になめられるばかりで、いつかはもっと大きな禍がわが国に降りかかることになるのではないだろうか。

小松緑の昭和初期の新聞論考の一部

 前回は小松緑の大正時代の論考のいくつかを紹介したが、今回は昭和初期に新聞に掲載されたものをいくつか拾ってみた。

支那!何処へ行く? (一〜五) 中外商業新報 昭和二年四月三日~七日
・国民軍は、国民党と共産党とに立脚し、その背後に赤露の絶大なる援助がある。さらに中国の国民が民族解放、不平等条約破棄、帝国主義打潰、軍閥掃滅などという旗幟を歓迎している。

対支外交の根本方針 (一〜四) 中外商業新報 昭和二年七月四日~七日
・支那に対しロシアが干渉し、イギリスまでも干渉する場合ありと仮定して、これ等の両国以上に多大な利害関係を持っている日本は、いつまでも支那に不干渉でいることはできない。

変り行く世界の国情 (上〜下) 中外商業新報 昭和四年一月一日~四日
・第一次世界大戦で君主制の国々が一斉に没落した。世界の良民は、プロレタリア独裁と称する煽動政治家の横暴を忍ぶか、将た一人若しくは一党の専制政治を撰ぶか、両難の間に去就を決しねばならぬ破目に陥っている。

人種的僻見か政治的必要か 中外商業新報 昭和八年四月三日
・ヒトラーは随分深刻なユダヤ人退治を開始した。ユダヤ人が各国で虐待されたのはかつては神の子キリストを裏切ったことによるが、近代に至っては、共産主義を利用して世界を征服する陰謀を抱いているのが、世間から嫌われる理由となっている。

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コメント

  1. 憂国トラッカー より:

    日中貿易が日本の生命線と言うのは今に始まったことでは無かったんですね。

    • しばやん より:

      憂国トラッカーさん、コメントありがとうございます。
      以前はもっと日中貿易のウェイトが高かったのですが、日貨排斥を仕掛けられたためにかなりシェアが低下していました。
      中国は強気で「経済断交」などと日本を威嚇したことが書かれていますが、もし日中が経済断交すると、わが国よりも中国の方が遥かにダメージが大きかったはずでした。しかしながら、わが国は経済界の意向から思い切ったことができなかったわけですが、今の日本の状況とよく似ていますね。

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