GHQが戦後没収廃棄した本のリストから、タイトルに「太平洋」を含む書籍を調べると、全部で61点あり、そのうち23点が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。
その中から、中川秀秋 著『太平洋波高し』という本の一部を紹介させていただきたい。この本は昭和十六年四月に興亜資料研究所から出版された本で、同年三月に行われた講演会を書き起こしたものである。ちなみにわが国はその年の十二月八日に第二次大戦に参戦している。
ソ連がわが国にいくらかでも接近しようとしているのは、最近日独伊の三国同盟が優勢なので分け前欲しさに秋波を送っているにすぎないのであります。その秋波がこんな棘を持っているのですから、まことにソ連という国は油断も隙もあったものではありません。しかも一方においては、蒋介石を利用し、抗日を続けさせているのであります。もっともこれは、シナの共産化という目的があるのであります。
元来、ソ連は二重性格を持っていると言われております。それは資源の点からは英米同様『持てる国』ではありますが、その国があまりに北方に偏しておりますため、冬に使える港がないという点からは、一種の『持たざる国』と見ることが出来るのであります。このことから、その外交方針が融通自在、少しでも有利と見れば一夜のうちにでもドテン返しするくらい平気なのであります。しかしなお、その上にソ連外交にはもう一つ奥の奥の目的があるのであります。それは、コミンテルンの世界赤化政策であります。その為には自分を除いたすべての国が弱くなることが必要なのであります。そして漁夫の利を占めようとしているのであります。かつて、独ソ条約が発表された時、日本では複雑怪奇と申しましたが、ソ連から見れば決し不思議でも何でもなかったのであります。老大国イギリスがいつまでも世界を牛耳っていては、自分の思う通りになりませんので、ドイツ人と結ぶことにより、英独を闘わせて両国を疲れさせ、欧州を支配しようとしたのであります。しかしこれは少し誤算でドイツがあんなにも簡単に勝つとは、思わなかったでありましょう。と言って今さら英国と結ぶことは手遅れでありますから、第二の策として、日米を戦わせ、そのすきに乗じようとしているのであります。ですから今日、ソ連が、わが国に近づいてきたからとて、安心して充分な用意もなく対米戦争に突入すれば、その結果はソ連をして独り甘い汁を吸わせることになるのであります。
中川秀秋 著『太平洋波高し : 日本を襲ふ魔手の正体』興亜資料研究所 昭和16年刊 p.28~30
実際にソ連は、昭和二十年(1945年)八月八日に日ソ中立条約を一方的に破棄してソ満国境で対日参戦し、「漁夫の利」を得ようとしたのであるが、戦前戦中には、このようなソ連の戦略の存在を指摘している識者が少なからず存在したのである。ところが、戦後のわが国では長きにわたり、このような歴史記述はほとんどタブー扱いであった。
しかしながら、近年になってソ連の暗号文書や機密文書などが解読され、欧米を中心に二十世紀がソ連・コミンテルンとの戦いであったという見方の正しさが主張されるようになってきた。わが国でも江崎道朗氏の著書などでこのような見方がで紹介されるようになってきたのだが、戦前のわが国にはそのような指摘をする識者が中川氏のほかにも、何人も存在していたことを知るべきである。
以下が、GHQ焚書でタイトルに「太平洋」を含む書籍のリストだが、気になるタイトルや著者の著作を覗いていただければありがたい。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 出版年 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL |
亜細亜民族と太平洋 | 松本悟朗 | 誠美書閣 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1273685 |
動く太平洋の実相 | 南方調査会 | 高山書院 | ||
開戦太平洋脱出記 | 四至本八郎 | 青磁社 | ||
極東大陸及び太平洋大決戦 日と米露何れが勝つか | 加藤 明 | 極東出版社 | ||
軍縮の不安と太平洋戦争 | 平田晋策 | 天人社 | 昭和5 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1464370 |
血戦場南太平洋 | 吉田一次 西野源 | 大雅堂 | ||
皇国の興廃太平洋にあり | 廣瀬彦太 | 興亜日本社 | ||
濠洲及南太平洋 | 長倉矯介 | 日本書房 | ||
濠洲の現勢 太平洋叢書 | 伊藤孝一 | 海洋文化社 | ||
刻下の南太平洋 : 日蘭会商の 経過と其経済的再吟味 | 辻森民三 | 開南同盟本部 | 昭和10 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1276397 |
史歌太平洋戦 | 川田順 | 八雲書林 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1127890 |
上代太平洋圏 | 仲小路彰 | 戦争文化研究所 | ||
新聞記者の観た太平洋戦争 | 鹽崎 誠 | 鹽崎 誠 | ||
西南太平洋 | 毎日新聞社 | 毎日新聞社 | ||
戦雲動く太平洋 | 石丸藤太 | 春秋社 | 昭和8 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1465583 |
大東亜太平洋圏の新展望 | 欧文社編輯局 | 欧文社 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267114 |
太平洋海軍問答 | 杉本 健 | 朝日新聞社 | ||
太平洋近代史 | 仲小路彰 | 戦争文化研究所 | ||
太平洋経済戦争論 | 加田哲二 | 慶応書房 | ||
太平洋攻防世界第二大戦 | 石丸藤太 | 万里閣書房 | ||
太平洋上の制覇 | 菅勇 | 富士書房 | 昭和14 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1441386 |
太平洋上の日本 | 相馬 基 | 東京日日新聞社 | ||
太平洋侵略史 | 仲小路彰 | 戦争文化研究所 | ||
太平洋侵略史 | 仲小路彰 | 戦争文化研究所 | ||
太平洋侵略史3 | 仲小路彰 | 戦争文化研究所 | ||
太平洋侵略史5 | 仲小路彰 | 戦争文化研究所 | ||
太平洋侵略史6 | 仲小路彰 | 戦争文化研究所 | ||
太平洋戦争 | 石丸藤太 | 春秋社 | ||
太平洋殲滅戦 | 石丸藤太 | 聖紀書房 | ||
太平洋戦略序論 | 斎藤忠 | 春陽堂書店 | 昭和16 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1444887 |
太平洋戦略論 | 池崎忠孝 | 新光社 | 昭和8 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1037202 |
太平洋争覇の実相と 帝国の自衛 | 岡田銘太郎 | 自衛社 | ||
太平洋と列強海軍 | 中村伸康 | 高山書院 | 昭和13 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1462936 |
太平洋読本 | 日本青年外交協会 研究部 編 | 日本青年外交協会 | 昭和16 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1439039 |
太平洋島嶼誌 メラネシヤ篇 | 荘司憲秀 | 三省堂 | ||
太平洋波高し : 日本を襲ふ魔手の正体 | 中川秀秋 | 興亜資料研究所 | 昭和16 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1272762 |
太平洋に於ける 英帝国の衰亡 | 角田順 | 中央公論社 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1439030 |
太平洋に於ける経済的現勢 | 清水博 | 富士出版社 | 昭和16 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267395 |
太平洋の今と昔 | 松田伊勢次 | 三成社書店 | ||
太平洋の危機 陛下の艦隊とアメリカ | 宮島惣造 | 文教科学協会 | ||
太平洋の発見 | 永田寛定 | 十一組出版部 | ||
太平洋の夢 | 室伏高信 | 青年書房 | 昭和15 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1686536 |
太平洋は叫ぶ | 今野幸助 | 新東亜社 | 昭和15 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1441397 |
太平洋防衛史1 | 仲小路彰 | 戦争文化研究所 | ||
太平洋民族誌 | 松岡静雄 | 岩波書店 岩波書店 | 昭和16 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1453694 |
太平洋問題 | 加藤尚雄 述 | 天理教道友社 | 昭和14 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1272501 |
東亜共同体と太平洋戦争 | 原 勝 | 日本青年外交協会 | ||
東亜に立ちて外人記者の 見たるソ連及び太平洋 | 枡居伍六 編 | 日本電報通信社 | ||
南進叢書. 第9 南太平洋諸島 | 南方産業調査会 編 | 南進社 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1044041 |
南方圏の現実と太平洋 | 山田文雄 | 万里閣 | 昭和16 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1281503 |
ハウスホーファーの 太平洋地政学解説 | 佐藤荘一郎 | 六興出版部 | 昭和19 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438943 |
東太平洋征空隊 | 藤田義光 | 研文書院 | ||
非常時海軍と太平洋 | 高橋節雄 述 | 積文館書店 | ||
米国の太平洋戦備 | 中村秋季 | 新生社 | ||
南太平洋航空戦 | 大本営海軍 報道部編 | 山海堂出版部 | ||
南太平洋航空戦 | 大本営海軍 報道部編 | 文芸春秋社 | ||
南太平洋諸島 | 南方産業調査会 編 | 南進社 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1876041 |
南太平洋諸島 | 鈴木改記 | 東京講演会出版部 | ||
南太平洋読本 | 外務省情報部 編 | 改造社 | 昭和13 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1878636 |
南太平洋の決戦 | 瀧田憲次 | 天祐書房 | ||
南太平洋の戦場 | 瀧田憲次 | 日本軍事図書 |
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ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年の4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。
無名の著者ゆえ一般の書店で店頭にはあまり置かれていませんが、お取り寄せは全国どこの書店でも可能です。もちろんネットでも購入ができます。
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