今回はGHQ焚書リストの中から、本のタイトルに「日本人」を含む書籍を探してみた。小説もあれば、人物論もあり、偉人のエピソードを集めたものなどいろいろだが、今回紹介したいのは『日本人の本領』という本である。
『日本人の本領』

著者の伏見韶望については、明治四十一年に新潟県で生まれた評論家で、実名で『日本人の本領』、『海の東郷元帥』(いずれもGHQ焚書)、及び高校受験生のための『受験必勝対策法』という本を著しているほか、『明治天皇御製分類集』を編集している。また南不二彦という筆名で『碧巌録講話』、『真義論語』、『武士道論語』、『宮本武蔵の書』という著書があるようだが、著者の詳しい経歴についてはよくわからない。
『日本人の本領』は、日本の様々な人物に関するエピソードを集めた本で、登場人物は著名な武士や政治家、軍人、財界人から市井の人物まで様々である。どこから読んでも結構楽しめて、おもしろい話を見つけるとついつい次の話を読みたくなるような本である。
最初は大久保利通と西郷隆盛の話。
日本の誇
大久保利通が英国から、金色燦然たる軍刀を仕入れたのが非常に評判となった。大久保はこれを自慢にしていたが、ある時西郷が訪ねて来ての話の末に、この軍刀の自慢に話が及んだ。すると西郷何か胸に考えたか、
「大久保どん、おはん、その軍刀を俺に一寸、貸してくるわけにゃ、いかんどかい?」
と切り出した。大久保も外ならぬ西郷のことなので、すぐ快よく貸してくれた。
西郷はその軍刀を借用に及ぶと、わが家に帰るや、押し入れの中に投げ入れてしまった。幾日か経った。大久保の方でも、もう返しに来そうなものだと心待ちにしていたが、何ら返事もないので、つい遠慮して黙っていられなくなって、わざわざ西郷を訪れて、
「おはんに貸した、あの軍刀な、返して貰わんと甚だ困ッこツがあって…」
と口に出した。すると西郷は、とぼけた調子で、
「ああ、あいか、ありや家の書生が、立派なもんじゃというち、呉れちしもたが…」
と平気な顔で答えた。みるみる大久保の顔色がサッと変わって、気色ばみながら、
「そげんこつ、しつ貰うちゃ困る。あれは俺が大切な軍刀ぢゃでな…」
こう言ってから、西郷を責めると、西郷は平気で、
「大久保どん、おはんも少し考えたがよか。日本の大久保ともあろう者が英国製の軍刀を大切にするとは、あまり感心せぬよ」
と、流石の大久保も二の句がつげなかったのである。
伏見韶望『日本人の本領』天泉社 昭和17年刊 p.2~3
次は大隈重信の話。

胆力
大隈重信が中央に乗り出した端緒は、長崎のキリスト教徒逮捕事件だった。
明治初年は、キリスト教徒問題が、なかなか厄介な外交問題だった。その頃はまだ信教の自由が認められていなかったから、キリスト教信者は相変わらず各地で迫害されていた。
終に長崎で、日本のキリスト教徒を大量逮捕した時に、英国公使パークスが立って、カンカンになって抗議して来た。
政府では、未だ外交談判に馴れたものがいなかったので、この交渉に当たるべき人物の選定に悩んだあげく、当時長崎にいて多少外人の応接に馴れている大隈八太郎がよかろうということになった。当時、大隈は未だ白面の一書生だ。それが交渉の相手方として、談判の席に着席したものだから、パークスは俄かに不快の色を現わして言ったものだ。
「本官は大英帝国皇帝の御名によって、大英国政府を代表して来ているものである。然るに何たることであるか!かかる若輩を出して予の談判の相手をするとは!本官を恥ずかしめられるのか、いや、大英帝国を侮辱されるのか!」
パークスは居猛高になって、会議場の列席者を睥睨しながら罵った。
すると、大隈は、口をへの字なりに結んで、パークスの顔をじっと睨んでいたが、
「お黙りなさい、パークス君!」
落ち着いた、底力のある声で言った。パークスも思わず口をつぐんで、大隈の顔をじっと見ると大隈は徐に続けた。
「あなたが大英帝国の代表なら、私も不肖大日本国天皇の御名によって大日本政府を代表する者である。然るにその大日本政府の代表と言葉を交わすのを好まないと言うなら、あなたこそ明らかに我が大日本政府を恥ずかしめられるものではないか。あなたが心から自分と談判することを好まれないなら、自分も敢えて望むところではない。その代わり、大日本政府代表大隈八太郎は、あなたが提出したキリスト教徒逮捕事件の講義を、あなた自身が引っ込めたものと認めますが、差し支えござるまいな?」
理路整然たる雄弁を揮った。これはさすがのパークスも一言もなく、打ち解けて大隈を相手に談判を開始した。
同上書 p.78~80
江戸幕末期に肥前国彼杵郡浦上村で大量の隠れキリシタンが発見されて捕縛され拷問を受けていたのだが、それからまもなく江戸幕府が瓦解し、幕府のキリスト教禁止政策を引き継いだ明治政府により信者が流罪となった。ところが、この処分を諸外国は問題視して外交問題に発展し、各国公使らは獄中の信者の解放とキリスト教の禁教を解くことを新政府に要求したのである。この時の政府代表が当時三十歳であった大隈重信である。
大隈はパークスの「キリスト教の禁制を解いて信徒を解放せよ、さもなくば日本は必ず滅亡する」との恫喝的言辞に動じることなく、「徒に外国人の指揮に従うの日こそ、これが日本の滅亡の時だ」と反論して一歩も譲らず、談判は午前十時から昼食も取らずに夕刻まで続いたと記録されている。
この談判に就いては以前このブログで詳しく書いたので、興味のある方は参照していただくとありがたい。
今のわが国の軟弱な政治や外交をみていると、大隈のような気骨ある政治家がいないものかと思えるのは私ばかりではないだろう。このような話は、政治や外交に携わる人々あるいは志す人々に、是非読んでいただきたいと思う。
次は大村益次郎の話である。

外敵を注目せよ
大村益次郎が京都の宿屋で刺客に襲われた時、高弟原田一道らが飛んで行ってみると刺客は通り魔の如く逃げ去ったあとだった。
「先生、暴漢の面体を御存知ですか」
「ウム、わかっとる」
「何奴ですか」
「それは言えぬ」
「どうぞ姓名を明かして下さい」
「明かしたとて捕まるまい」
「きっと捕まえます」
「捕まえたら、なお面倒だ。よしなさい」
「なぜです」
「わしは、とても助からぬ。わしはもとは医者だから自分で知っている。助からぬときまれば、わしはもうこの世には用のない身体だ。その人間のために刺客を捕らえると新政府と各藩の間に異常の動揺を醸す。そうでなくても未だようやく緒についたばかりの明治の新政はこれがためにどんな軋轢を来たすかもしれない。日本は今、内輪争いをしている時じゃない。国難は外にひしひしと迫っているのだ。いいか、諸君は海外を注視して今後の国難に備えるように全力を注いでもらいたいのだ。内輪喧嘩は愚の骨頂だ。必ず慎めよ」
重傷の苦痛を耐えつつ、大村益次郎は最後の訓戒を垂れたのであった。
同上書 p.180~181
大村益次郎のこともこのブログで調べて書いたことがある。明治二年九月に大村が襲撃され、駆け付けた原田らに刺客の名前を秘したという話は知らなかったが、実際には後に長州藩出身の神代直人らが襲撃犯として捕らえられて処刑されている。しかしながら、大村の言う通り、当時のわが国は内輪喧嘩しているような状況ではなく、むしろ協力して国難を乗り越えるべき情勢であった。そのことは今のわが国も同様であり、このままでは某国勢力に国が呑み込まれて行くことになりかねない危険な状況が近づいている。保守勢力が協力し合って、この国難を乗り越えてくれることを祈るばかりである。
このような本がなぜGHQによって焚書処分されたかについてはよくわからないが、よくよく考えると、高度成長期以降、わが国の偉人のエピソードを収録したような本が非常に少なくなっている。私が幼なかった頃は、本屋に行けば子供向けの偉人全集のような本や漫画のシリーズが沢山並んでいたのだが、最近刊行されている子供の本には実在した人物についての生涯について書かれたものがほとんどないようだ。
わが国の偉人の話を知ることが、子供に愛国心を育ませるきっかけになると思うのだが、GHQはそういう出版物を戦後の日本人には読ませたくなかったという事であろうか。
これまで紹介して来た「日本人」に関するGHQ焚書
これまでこのブログで、タイトルに「日本人」を含むGHQ焚書として、『支那人と日本人』、『北進日本人』を紹介させていただいている。


タイトルに「日本人」を含むGHQ焚書リスト
GHQ焚書リストかの中から、本のタイトルに「日本人」を含む本を抽出して、タイトルの五十音順に並べてみた。
分類欄で「〇」と表示されている書籍は、誰でもネットで読むことが可能。「△」と表示されている書籍は、「国立国会図書館デジタルコレクション」の送信サービス(無料)を申し込むことにより、ネットで読むことが可能となる。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 分類 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL 〇:ネット公開 △:送信サービス手続き要 ×:国立国会図書館限定公開 |
出版年 | 備考 |
教育行践 日本人の訓育 | 国民訓育連盟 | 第一出版協会 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1144971 | 昭和13 | |
軍国日本人物大鑑 | 宮越信一郎 | 議会政治社 | 〇 | https://dl.ndl.go.jp/pid/1035237 | 昭和13 | |
激動日本人物群像 | 小林知治 | 国防攻究会 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1239183 | 昭和14 | |
支那人は日本人なり | アジア問題研究所 編 | アジア問題研究所 | 〇 | https://dl.ndl.go.jp/pid/1441264 | 昭和14 | 戦争文化叢書 ; 第5輯 |
純正日本人 | 日本革新党本部 編 | 日本革新党本部 | 〇 | https://dl.ndl.go.jp/pid/1096849 | 昭和14 | |
世界ニ於ケル日本人 | 渡辺修二郎 | 経済雑誌社 | 〇 | https://dl.ndl.go.jp/pid/992281 | 明治26 | |
泰国、仏印と日本人 | 福中又次 | 婦女界社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1877531 | 昭和16 | |
大東亜共栄圏の指導たるべき 日本人の教育 |
安岡正篤 青木利三郎編 |
啓明会 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1070641 | 昭和18 | |
天山嶺を行く日本人 | 稲垣史生 | 協栄出版社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1131001 | 昭和19 | |
日本及び日本人のために | 水野武夫 | 晴南社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1123419 | 昭和18 | |
日本人の死 | 亀井勝一郎 | 新潮社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1900283 | 昭和19 | 新潮叢書 |
日本人の自然観 | 高瀬重雄 | 河原書店 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1265736 | 昭和17 | 日本の美と教養 ; 第4 |
日本人の使命 皇国精神にかえれ | 竹内浦次 | 修養団 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1056569 | 昭和10 | 白ゆり叢書 ; 第5輯 |
日本人の血:感激小説 | 青木信太郎 | 近代文芸社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1213298 | 昭和10 | |
日本人の熱帯適応性 | 中山英司 | 六興商会出版部 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1064568 | 昭和18 | 太平洋図書館 |
日本人の本領 | 伏見韶望 | 天泉社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1105812 | 昭和17 | |
日本人物論 | 満田巌 | 旺文社 | 〇 | https://dl.ndl.go.jp/pid/1043011 | 昭和19 | 日本思想戦大系 |
日本人よ日本人よ | 青野尊晃 | 丸山舎書店 | 国立国会図書館に蔵書なし あるいはデジタル化未済 |
昭和16 | ||
日本精神読本第2巻 日本人道篇 | 日本主義同志会 | 石塚信夫 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1217052 | 昭和13 | |
北進日本人 | 貴司山治 | 春陽堂書店 | 〇 | https://dl.ndl.go.jp/pid/1718710 | 昭和17 | 日本科学英雄伝 ; 2 |
よき日本人への生活教育 | 京都府師範学校附属小学校第二教室 編 | 立命館出版部 | 〇 | https://dl.ndl.go.jp/pid/1117431 | 昭和12 |
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