中国の共産主義化と抗日運動

中国排日

 前回の「歴史ノート」で一九三六年 (昭和十一年)に、中国の各地で抗日テロ事件が起こったことを紹介したが、その頃に内蒙古で蒙古族が中国から独立しようとする動きがあった。

蒙古独立運動を好機と捉えたソ連

 もともと蒙古族が生活していた地域はかなり広域であったのだが、外蒙古はほとんどソ連領となり、満州は満州国となり、内蒙古は中国の領土となってしまっていた。内蒙古では古くからソ連の赤化工作による独立運動が存在していたが、隣接する満州国の独立に刺激されて、内蒙古の有力者である徳王を中心に、日本の協力を得て中国から蒙古を独立させようとする機運が盛り上がっていったのである。

 上の画像は昭和十年(1935年)十月二十日の満州日日新聞だが、内蒙古で独立運動が表面化したことを報じている。

 この内乱の動きを、ソ連は内蒙古を共産主義化する好機と捉えたのである。そのため徳王は、ソ連による共産化工作とも戦わなければならなかった。

 同年十二月十一日の大阪毎日新聞の記事では、徳王は赤化(せっか:共産化)防衛のため日本、満州と協議したことが報じられているが、内蒙古の赤化工作は水面下でかなり進められていたのである。

内蒙古綏遠省地図

 そして一九三六年(昭和十一年)十一月に、蒋介石は綏遠に八万の大軍を送り込んで徳王率いる内蒙古軍を鎮圧したのだが、その際に全国民に対して民族戦のために蹶起を促したために、中国全土で抗日の機運が一気に盛り上がっていったのである。
 この内蒙古独立を目指す蒙古人の内乱を「綏遠問題(事件)」と呼ぶのだが、「綏遠」というのは内蒙古にかつて存在した省の名前で、現在のモンゴル自治区のオルドス地方にあたる。

 上の画像は昭和十一年十一月十八日付の大阪毎日新聞の記事である。文中に「〇〇」と伏せて表記されているのは、「日本」か「日軍(関東軍)」のいずれかであると思われる。

 露国はすでに外蒙を完全に勢力下に入れ、さらに北支にも赤化の魔手を伸ばそうとしている矢先、この内乱こそ露国にとっては乗ずべき絶好の機会に違いない
 また全支統一に向って邁進しつつある蒋介石氏としては蒙古人の活動により動揺を来すことを好まない、かつまた雲王や徳王の背後に○○があるとして支那は南京交渉にもこれを持出しているほどである、またそのために全支に排日運動が再燃せんとする形勢もある

神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫 政治(621-095)

 蒋介石の仕掛けた宣伝戦により、中国民衆の抗日の気勢は盛り上がっていった。長野朗著『民族戦』(GHQ焚書)には次のように解説されている。

 綏遠問題は徳王一派の内蒙古自治運動で、支那側の不誠意に対し、武力により蒙古統一の目的を達せんとするや、蒋介石は山西、綏遠軍に次ぐ中央軍を以てし、八万の大軍を送って綏遠に進出した
 然るに支那側はこれを抗日の宣伝に利用し、あたかも日本軍の後援ある如く誣い「綏遠失われて西北なく、西北失われて支那なし」と呼号し、全国民に対して民族戦のために蹶起を促した。ために支那全国の各都市農村までも起ちあがり、学生は前線服務隊を設け、各地から義捐金及び物品の寄与は続々として集まり、一日間絶食して食費を寄付し、あるいは一週間暖を取らずして薪炭料を寄付するもの全国にわたり、囚徒、乞食、妓女に至るまで続々献金し、新聞紙は全紙面を割いて大々的に書き立てた。かくて百霊廟の占拠は支那全国民を乱舞させ、支那側ではあたかも日本軍と戦って勝ったかのように宣伝したので、支那民衆の気は傲り、日本を軽蔑するに至り、支那側の宣伝は百パーセントの効果を呈し、抗日の気勢は一挙に高揚された綏遠問題は実に抗日に一大転換を与え、戦士は民族戦の英雄として全国民賞賛の的となり、かつ日本に対する自信力を得たため、従来の受動的消極的態度から、一変して積極的となった

長野朗『民族戦(復刻版)』呉PASS出版 p.211~212
復刻 「民族戦」 長野朗著 呉PASS復刻選書51
A5版、242ページ。戦前の支那通、長野朗氏の著作復刻第三弾。GHQ焚書図書。 本書の、主要な考察対象は何といっても支那である。彼らの今も変わらぬ旺盛な侵略欲は、戦前と何ら変わりない。その狡猾、大胆な手法を分析する。 満州事変及び支那事変後、支那をめぐる国際情勢は風雲急を告げる。そのプレイヤーたる、日本、ロシア、米国、...

 中国軍が綏遠問題で日本軍と交戦した事実はない。実戦に参加した日本人将校が四名いただけで、蒙古軍は純然たる蒙古軍であった。それをあたかも日本軍と戦って勝ったかのように宣伝したわけだが、中国という国は事実でない情報を平気で流して宣伝や情報工作に用いる国であることを知るべきである。

中国の共産主義化と蒋介石を豹変させた西安事件

 当時の新聞に注目すべき記事がある。先ほどの大阪毎日新聞と同じ十一月十八日付の京城(ソウル)日報にはこう記されている。

 最近北平各大学教授及び学生等が南京交渉における北支、防共及び綏遠問題を宣伝項目として、各方面に亘り抗日運動を開始し形勢容易ならざるものあるに対し、これが裏面工作につき探査を進めた結果、中国共産党の魔手が大学内に浸潤し、北平師範大学、北京大学、東北大学、燕京大学等には既に驚くべき細胞組織が完備し「学生救国会」「民族解放先鋒」等の名儀を以て全国的に連携を保ちつつ抗日大衆運動を起し日支関係を破壊に導きつつあることが判明した

神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫 政治(621-091)

 学生団はさらに軍隊と結び付いていたというのだが、このようにソ連は、綏遠問題を機に抗日運動が中国全土で燃え上がっている最中に、着々と中国の赤化工作を進めていたのである。ところが陝西省の中国共産党軍の兵力は極めて弱体であった。彼らからすれば、蒋介石の掃共戦を止めさせて、抗日戦に集中させたいところであった。

 そのため中国共産党は、当時陝西省で掃共戦に従事していた東北軍兵士の赤化工作に取組んでいたのだが、その結果東北軍副総司令の張学良も次第に蒋介石の共産党殲滅作戦に疑問を持つようになり、一九三六年の夏ごろに彼は延安で共産党の周恩来と極秘で会談するようになっていた。

 そして同年の十二月十二日に蒋介石が張学良らに監禁されて、共産党との協力を迫られる事件(西安事件)が起きている。この事件を機に蒋介石は豹変し、共産党と手を握り、抗日に転換することとなり、第二の国共合作と抗日統一戦線が成立し、抗戦体制が整ったのだ。

国民党の宣伝戦

 しかしながら、軍隊の体制を整えるだけでは抗日戦で戦うことは難しい。国民の意識も抗日に誘導することが必要である。その点蒋介石の国民党は宣伝がうまく、大正年間から続けて来た排日教育により、全土で排日の機運が行き渡っていたという。長野氏の『民族戦』には次のように解説されている。

 国民党は宣伝で政権を取っただけに、宣伝はお手のもので、ポスターに漫画に、市内の壁という壁、高い塔、町の入口、すべて排日の文字ならざるはなく紙幣にも排日の二字が印され、商品にも排日の文字があり、民衆は足一歩出づれば、眼に見るもの耳に聞くもの、すべて排日ならざるはなく、長い間には無意識の間に排日思想が民衆の頭に刻み込まれて行った

 排日教育については国民党のやり方は徹底していた。国民政府内に教科書の編纂委員が出来、その方針を決定し、編纂を管理するにいたったから、排日教育は政府により行わるることとなった。国民党は自ら排日を行ったほか、その指導下に反日会なる排日実行団体が生まれ、これを通じて全国小学校に向け、たえず排日の教材を配布し、その他童謡に童話に、児童劇に、悉く激越な文字を羅列し、児童の頭に排日を植え付けて行った。…中略…

 こうした隣邦和親の原則に反するような排他的教育を、政府自ら深く国民の中に刻み込んで行くことは、長く双方民族の共存を妨げ、将来にわたって善隣の望みを断たんとする深刻なる民族戦の準備工作と見るほかなく、自己の辛辣なる民族侵略を棚に上げ、日本の侵略呼ばわりは一つの口実に過ぎない

(同上書 p.215~216)

 蒋介石が中国全土で排日思想を広めたのは、将来の抗日戦を想定していたと考えるしかないだろう。同書ではこう解説されている。

 次は民衆の戦争参加である。彼らはこの戦い(支那事変)を支那民族全部の戦いに持っていこうとしている。彼らは正規軍の力だけでは、日本軍に抗し得ないことを知っている。そこで民衆動員を企て、日本軍の背後にも一つの戦線を造ろうとした。これが遊撃隊である。かくて従来の戦争に見られない現象が起こった。即ち戦線が前方と後方とに二つ出来た。前方には正規軍、後方には民衆軍である。正規軍が二百万、これと同じくらいの数の遊撃隊がいる。この遊撃隊の組織に当たったのは主として共産軍である。

 この民衆軍の組織に当たっては、その核心となるものがなくては、民衆だけでは成り立たない。そこで共産軍はその全力を挙げて遊撃区に入り、中央軍、雑軍もまた加わった。この正規軍を核心として、その周囲に遊撃隊が編成されていった。…中略…

 この後方戦線の仕事は、前方戦線とは全く異ったものであった。また従来の不正規戦やゲリラ戦とも異っている。従来の遊撃隊が主として相手方の後方攪乱であったのと異って、後方攪乱はむしろ従であり、その主任務は政治・経済・思想工作であった。政治工作として彼らは日本軍の被占領区域に入り込んで、自分たちの県長を任命し、地方政府を造り、課税し、学校を設け、紙幣を発行し、新聞を発行し、郵便局までを設けた。経済方面では日本側が必要とするものを一切供給せず、皆日本から持って来させるようにし、日本の国力消耗を計り、又日本品を購買しないようにした。彼らは農村に拠り、日本軍の占拠する都市と対立した。

同上書 p.220~221

 長野は、漢民族は他民族との共存を考えず、譲歩することがないと述べた後、こう解説している。

…排日団体のある宣言文の中に示してある「吾人と日本とは両立すべからざるものであり、吾人は満州を奪還し、朝鮮を収め、台湾・琉球を取り、日本を吾人の楽園とするまで止めないであろう」という一句は、決していい加減な言葉ではなく、彼ら漢民族の心の奥深く蔵されている民族本能の現れである。

 殊に国民党のやり口は、支那歴代の漢民族政府のやり方に比してさらに深刻である。彼らが一つの民族として事を構えるや、長きは数百年を要している。

 今度の事変もその起こりは日清戦争からである。しかも日露戦争後には支那人の大々的満州移住を企てることによって、既に日露に対する民族戦を開始している。ただ日本人が気付かなかっただけである。

同上書 p.222~223

 中国がわが国と国交回復後、再び反日教育を強化し始めたのは一九九三年頃のことで江沢民が国家主席であった時代のことだが、それからすでに三十年近い年月が経っており、現在では中国国民の相当数が「反日」であることは確実だ。
 今の習近平主席も、日中戦争の頃の排日団体と同様に、台湾・琉球を手中にしたあとわが国も取り込もうと狙っていることが明らかだと思うのだが、今の政治家や官僚や財界人にそのことをほとんど警戒せず、大手メディアもほとんど何も報じない現状はどう考えても異常なことである。わが国では、国民が知らない間に、政官財マスコミなど重要な分野に、相当程度中国による影響力工作が進んでしまっていることを知るべきである。

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