辛亥革命に続く第二革命に参加した山中峯太郎の著作は多数がGHQに焚書処分された~~『狙日第五列 』

GHQ焚書
山中峯太郎

 山中峯太郎は 陸軍士官学校に学び、陸軍大学校に進んだが、陸大に入校した明治四十四年(1911年)に辛亥革命が起き、大正二年(1913年)七月に、辛亥革命後に孫文から政権を奪った袁世凱の専制に反対する青年将校たちの多くが、陸軍士官学校で山中と交流を深めた清国からの留学生であった。それを知った山中は陸大を中退して第二革命に身を投じたが革命は失敗し、日本に亡命する旧知の中国青年将校らとともに日本に戻り、山中は陸軍をやめて東京朝日新聞の新聞記者となっている。その後東京朝日新聞を退社し雑誌などで評論や小説などを執筆しているのだが、山中が戦前・戦中に発表した著作の十五点もがGHQによって焚書処分されている。著者別では五番目に多い焚書点数となる。戦後は、戦争物は書かず、海外の推理小説を少年少女向けに読みやすくした『名探偵ホームズ全集』全二十巻をポプラ社から出したことで知られている。

 今回紹介するのは『狙日第五列: 見えざるスパイ』という小説の前書きだが、「第五列」という言葉の意味は、『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』によると、

狭い意味では,侵入軍に呼応する被侵攻国内の組織的活動集団をいうが,広くはスパイや対敵協力者をさす。 1936~39年のスペイン内戦において,フランコ軍の E.モラ将軍が「マドリードは内応者からなる第五列によって占領されるであろう。」と述べ,4列縦隊である自分の部隊以外に協力者がいることを示唆したのが語源であるといわれる。第2次世界大戦中よく使われた言葉。

と解説されている。

 この山中の著書は小説であるが、前書きで著者は次のように記している。

「近時、敵性列国の我が国に対する諜報宣伝謀略は、通常、経済、宗教、通信等、各種の組織体を以て、我が国内に諜報、宣伝、謀略網を布置し、その活動は合法的に行うものである。もとより本国から、一、二の特派諜者を派遣することもあるが、防諜の発達は、非合法行為を困難ならしめて来ており、組織体に依り活動し、合法的に目的とする真情報の推定資料の多数を獲得して、真情報に近いものを求めるのが通常である。ゆえに、国民はこの合法行為に幻惑せらるることなく、国家の機密、軍事の機密の保持に関しては、細心の注意を要する次第である。また、近時外国の我が国に対する宣伝は、極めて巧妙を極め、少しも宣伝らしくなく婉曲な方法でかつ合法的に行う趨勢にあるから、国民はこれまた細心の心構えを以て軽信することなく、国際情勢の刻々の動向に、深甚の注意を払うべきである。

 殊に我が国の思想方面に対する敵性列国の謀略行為は、数十年の長きにわたり、社会各部門各層に対し、着々各種工作によりその効果を求めて来ている。一例をあげると、英国の極東政策の第一階梯は、常にまず相手国内に親英派を獲得、扶植しながら親英思想を普及するのである。この親英思想は即ち英国の対日諜報や温床体となり、その活動を容易ならしめるものである。故に常に日本の真の姿を失うことなく、外国の思想事物を消化するの心構えが極めて大切である。

 当局として最も悲しむべきは、日本人で敵性列国の手先となり、悪事と知りつつ諜報に従事している者のあることである。かかる非国民に対しては、軍は断乎たる処置をとるに躊躇せぬものである。また、善意を以て特に国交に寄与せんとする心から外国人に接する者が、己の目的を果たさずかえって相手側から諜報されてしまう者が多いのは、真に遺憾である。かかる人は自己の能力を考え、その行為は厳に慎まねばならない。

 これを要するに軍、官、民が挙国一体となり『思想国防』を標語として、外国のあらゆる諜報宣伝謀略行為を撃滅し、真の日本の姿を犯されぬよう努力することが、最も大切であると考える。」

 陸軍当局の警告を、事変四年の今日において右の如く受けるのは、我ら国民として、すでに一つの恥辱であることを、深く自省自戒しなければならないと思う。

 銃後は敵の謀略戦場である。「防諜」の切要を、我らは満州事変の勃発と同時に叫んできた。敵性列国の謀略網に、日本国内が覆われているからである。この本は小説である。内容の実在性を問うなかれ。約二年、雑誌に連載したものを、「昭和動員令」と題して発行し、更に改定したものである。

「スパイなんてものが、日本の国内に実際いるのだろうか。」

 しばしば訊(たず)ねられた。時局の切迫性を識らない呑気な大衆的な質問も、最近、漸く聞かなくなった。が、あくまでも我らは、殊に敵性列国の謀略に対し、日常の生活意識に、日本の真の姿を失うことなく、防諜的関心と警戒を深めなければならぬ。特に今度、警鐘が鳴ったのだ。

(山中峯太郎 著『狙日第五列 : 見えざるスパイ』同盟出版社 昭和15年刊 p.1~2)

 この文章の末尾に「英人間諜群検挙の報を聞いて 山中峯太郎」とあり、調べると昭和十五年に十六人の英国人とその手先として働いた日本人数名がスパイで検挙されているがわかった。

 上の画像は、同年十月一日の大阪毎日新聞の記事で海軍大佐のC.H.Nジェームス以下英国人十名が起訴されたとあるが、日本人については次のように報じられている。

 日本人で起訴されたもの男一名、また留置されて取調べ中のもの女一名、男五名があるがこの事件に関し日本の上層階級者あるいは著名政治家にして不用意の機密提供者として証人尋問を受け、あるいは警告を発せられたもの数十名に達し当局も彼らの外人崇拝熱に対してはだた唖然たる有様であった、これらは法律の不備なるがゆえに辛うじて罪人たることを免れた人々でこれに徴しても防諜法のごときものが一日も早く公布されなければならぬ緊急を痛感されている。

(神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫 軍事(国防)(50-064))

 山中の文章の前半は、同年に陸軍当局が出した警告文であるが、「軍機保護法」が存在した戦前においても、「日本の上層階級者あるいは著名政治家に」機密を「不用意に」漏洩する者がいたのだから、世界から「スパイ天国」と揶揄されているわが国の現状は推して知るべしである。

 この小説に出てくる大橋桂子は日本で育った中国人女性で、若松工業会社に入社後社長に囲われ、会社の機密を盗み、中国の「第五列」に情報を渡していたわけだが、小説の中で山中峯太郎は、登場人物の一人にこのような発言をさせて、身近なところに外国の工作員や外国に協力する日本人が工作活動していることに対して無警戒な日本人に警鐘を鳴らしている。

日本人の思想攪乱、軍民離間、敗戦主義の宣伝などを目的に大分支那人が入り込んでいるらしい。皆、一度は日本に留学していた連中だそうだがね

(p.234)

 この種の工作は今も行われていることは言うまでもない。昨今のマスコミのおかしな論調を見ると、今は戦前よりも危険な状態にあると考えてよいだろう。2017年6月28日に施行された中華人民共和国国家情報法の第7条には「いかなる組織及び個人も、法に基づき国家諜報活動に協力し、国の諜報活動に関する秘密を守る義務を有し、国は、諜報活動に協力した組織及び個人を保護する」主旨のことが明記されている。わかりやすく言えば、中国のいかなる組織や企業および個人は中国のスパイ活動に協力し、その活動に関する秘密を守る義務があるのだ。こんな時期に中国人移民を推進しようとする政治家や財界や官僚やマスコミや教育関係者の中に、中国の「第五列」とつながりを持つ人物が何人いてもおかしくないのではないか。

 ファーウェイなどの中国企業の機器は、要請があれば出所に関係なくデータを中国共産党政府に引き渡さなければならないのだから、同社の機器を排除しようとする欧米の動きは当然のことである。中国人の留学生や駐在員などは、いざというときに日本の機密情報収集義務を帯びる可能性があるので、本来ならば排除するか、少なくとも相当警戒しなければならないはずなのだが、わが国では中国人の入国を進めようとする動きが今も存在しているのはなぜなのか。中国にはさらに国防動員法があり対中進出している日系企業も含めて、中国のあらゆる組織のヒト・カネ・モノの徴用が合法化され、戦時統制下におかれる懸念があるのだが、中国に投資した工場の施設すべてが有事に奪われるリスクを考えれば、米中対立が深刻化しているこのタイミングで中国から早めに撤退するのが正しい判断ではないのか。

 新型コロナ感染対策においてもわが国政府は、大量の中国人の入国をPCR検査なし、二週間の待機不要とするなどおかしなことが続いてきたのだが、わが国の政治家や官僚及びマスコミは相当中国の工作にかかってはいないか。

 GHQ焚書とされた山中峯太郎の著書のうち『日本的人間』というエッセーについて、西尾幹二氏が『GHQ焚書図書開封』で三回に分けて解説しておられる動画がある。この『日本的人間』という本は、わが国のいろんな人物の短いエピソードを紹介した本で、西尾氏は「この本はなかなかおもしろく、時代を超えた洞察眼があり、今も十分に評価に堪え、参考になります。当時の人が何を考えていたか、当時のメディアではどんなものが人気を呼んでいたか? そういうことも知ることができますが、人間そのものが問われていますので、今のわれわれにも直結します」と、高く評価しておられる。このようなおもしろい本が、なぜGHQによって焚書にされたのか興味のあるところだが、関心のある方は動画をご視聴願いたい。

・動静一如

GHQ焚書図書開封 第179回
GHQ焚書図書開封 第179回 ※「GHQ焚書図書開封」は、過去放映分を隔週水曜日に公開していきます。占領下、大東亜戦争を戦っ...

・孝の呼吸

GHQ焚書図書開封 第180回
GHQ焚書図書開封 第180回 ※「GHQ焚書図書開封」は、過去放映分を隔週水曜日に公開していきます。占領下、大東亜戦争を戦っ...

・破戒

GHQ焚書図書開封 第181回
GHQ焚書図書開封 第181回 ※「GHQ焚書図書開封」は、過去放映分を隔週水曜日に公開していきます。占領下、大東亜戦争を戦っ...

 西尾氏の動画ではなく、本で読む場合は、『GHQ焚書図書開封12 日本人の生と死』第六~八章が山中峯太郎著『日本的人間』の解説になっている。

 下記のリストはGHQによって焚書処分された山中峯太郎の全作品である。うち五点が「国立国会図書館デジタルコレクション」でネット公開されている。

タイトル著者出版社国会図書館デジタルコレクションURL出版年
偉人二等兵山中峯太郎東洋堂  
汪精衛:新中国の大指導者山中峯太郎潮文閣https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1057935昭和17
草むす屍山中峯太郎春陽堂  
皇兵山中峯太郎同盟出版社  
聖戦一路山中峯太郎 春陽堂書店  
聖戦外草むす屍山中峯太郎 八紘社杉山書店  
狙日第五列
: 見えざるスパイ
山中峯太郎 同盟出版社https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1106572昭和15
大東亜維新の今後山中峯太郎 二見書房https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1275931昭和17
大陸非常線山中峯太郎 大日本雄弁会講談社  
戦に次ぐもの山中峯太郎 春陽堂https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1717143昭和13
鉄か肉か山中峯太郎 誠文堂新光社  
泥の担架山中峯太郎 日本兵書出版  
日本的人間山中峯太郎錦城出版社  
日本を予言す山中峯太郎偕成社  
黎明日本の巨火 
吉田松陰
山中峯太郎 潮文閣https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1036061昭和17
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 前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年の4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しました。

全国どこの書店でもお取り寄せが可能です。もちろんネットでも購入ができます。
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内容の詳細や書評などは次の記事をご参照ください。

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