中国思想に関するGHQ焚書 『儒教と我が国の徳教』、『孫子』

テーマ別焚書リスト

 中国思想に関するGHQ焚書を探してみると、中国の春秋戦国時代(紀元前770年~紀元前221年)に現れた諸子百家に関するものばかりで、大半は孔子が創始した儒教、あるいは孫子の兵法に関する書物である。孫子が焚書処分されたのは理解できるのだが、孔子や『論語』に関する書籍が多数焚書処分されており、児童用の絵本である講談社の『コウシ』まで処分対象にされているのは意外であった。

『儒教と我が国の徳教』

諸橋轍次

 諸橋轍次てつじ 著『儒教と我が国の徳教』という本がある。著者は漢学者で、漢和辞典の最高峰である『大漢和辞典』の編者代表として知られているが、彼の著した儒教に関する本が二点GHQにより焚書処分されている。
 著者が儒教とはどのような内容であるかについてまとめている部分を紹介したい。

 ごく平易に申しますれば、儒教というものは古人にもすでに論じております通り、おのれを治め、人を治める学問で、修己治人の学問であるというに尽きるのであります。儒教がすでに孔子によって大成せられたというならば、孔子の考えて居りまするこれらの思想を我々が分析して考えていく時に、この結論を得るわけであります。しかしこれはわずかな時間で出来ることではありませんから、その中の根本的な孔子の思想について調べて行きたいと思います。

 孔子の根本的の思想として普通論ぜられて居りますものは、論語にたびたび出て参りますじんという言葉であります。この仁という言葉を私どもが味わって考えてみますと、ことごとく今申しまする、おのれを治めるということと、しかして人を治めるということの二方面に説かれているようであります。

 ある人が仁とはどんなものでうるかと言って質問した時に、孔子は答えて、仁というものは難しいことではない。自分の居る境遇に対してうやうやしくすることである。自分の守る仕事に対して敬うことである。他人と交際している場合に忠実に、偽りを持たないことである。居処恭、執事敬、与人忠、これが人であると申しております。こういう平易な説明をされておりますが、これは仁の一面が、己を治めるということ、即ち自分にあることをしめしたのであります。その外論語に於いて五十八章も仁を論じたのでありますが、大隊以上の如くであります。
 ただ己を治めるということだけを強く説きますると、ややもすると利己的なまた個人的な弊害に陥ることがあります。しかし孔子の申す仁ということは、社会即ちごく広い大きい己を考えているのでありまして、時によっては小我、小さい我を棄てて大我に就くことを意味します。そこで志士仁人は時に身を殺して仁を為すことがあると綿密な注意を施して居ります。即ちごく広い意味に己を治めることを仁と考えるのであります。

 それからまた人を治めるということに就きましては、だいたい人間というものは、人々相愛して行くところに社会は治まって行くと説いております。これもある門人が仁を質問した。これに答えて孔子は、仁者は人を愛すと説いている。言葉は簡単でありますが、苟もこの愛人の思想なくして人を治めることはあり得ないのである。愛人の思想が即ち社会共済の根本であります
諸橋轍次 著『儒教と我が国の徳教』目黒書店 昭和15年刊 p.47~49

 孔子は法治主義ではなく徳治主義による政治を理想としたのだが、このような孔子や儒教に関する本がGHQによって焚書処分されたのは、戦勝国の政治が徳治主義ではなかったからと理解すればよいのだろうか。あるいは、日本人が孔子を偉人とすることで日中両国が親睦することを戦勝国が望まなかったからなのか。

『孫子』

 次に紹介したいのは、桜井忠温ただよし 著『孫子』。桜井は日露戦争に出征し、旅順攻囲戦で右手首を吹き飛ばされる重傷を負い、帰還後療養中に執筆した実践記録である『肉弾』ほか、合計十五の著作がGHQにより焚書処分されており、そのうちの三点についてこのブログで紹介させていただいた。

 孫子の「戦わずして勝つ」は非常に有名な言葉だが、桜井はこの言葉について次のように解説している。文中で太字の部分は孫子の言葉であり( )内の部分は桜井の補足部分である。

 戦わずして敵を服するを上の上とする。人民を傷つけず、城郭を損せず、府庫を焼かざるを第一等とす。方略を以て、人の国を取ることが出来れば何よりである。戦争によらず、外交手段によって、敵国を服した例は昔も今も乏しくない。秦は六国を併呑したが、その多くは戦争によらなかった。イギリスがインドを取ったのも、ドイツが膠州湾を奪ったのも、アメリカがハワイを取ったのも、ソヴィエトが蒙古を侵略したのも皆それである。それにはどこまでも権勢武力を背景としなければならない。軍備無き外交は何の力もない。軍備があればこそ「断じて戦争無し」などと上がってしまう外交官も出来るのである。
 ぜひなく戦争をし、敵国を破るのを第二とする。

 凡そ、用兵の法、国をまっとうするをじょうと為し、国をやぶる、之に次ぐ。
 (一軍というのは昔は一万二千五百人である)を全うするを上と為し、軍を破る之に次ぐ。
 りょ(五百人)を全うするを上と為し、旅を破る、之に次ぐ
 (百人)を全うするを上と為し、卒を破る、之に次ぐ
 (五人)を全うするを上と為し、伍を破る、之に次ぐ

 戦争となっても、敵軍をほふらずして服せしめるを最善とし、止むを得ず戦うを次善とする。「人の兵を生かして我が有と為す」という意味もここにある。

 この故に、百たび戦いて百たび勝つは善の善なるものに非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり

 百戦百勝――もとよりそうなければならない。しかし、百勝、戦わずして勝つのでなければならない。一戦せずして勝つこそ上の上とすべきである、としてある。
 秦将白起はくき、戦いに勝って、七十余城を抜いたが、四十五万人の首を斬った。しかし、秦の士率もその過半を失った。

 上兵じょうへいはかりごとつ。

 名称は敵の作戦方針を見抜き、戦わずして敵を服する。敵の腹心を潰し、その羽翼を剪り、敵をして起つ能わざらしむるを「上兵」とする。…中略…

 その次は交わりをつ。

「将を射んと欲せば、まず馬を射よ」
というに当たる。樹の枝や葉を伐って、その根を枯らすのたぐい、先ずその関係国、親交国を討って、敵国を降す。之を次等とする。

 その次は兵をつ。

 これが三等である。いよいよ戦闘という段取り。

 その下は城を攻む。

 攻城は、師を老し、財を費やすのみとしてある。「攻城の法は止むを得ざるが為なり」とあって、兵家の下策とされている。
桜井忠温 著『孫子』成光館 昭和十六年刊 p.114~118

 満洲やチベットやウイグルは、かつては漢民族がほとんど居住していなかったのだが、大量の漢民族を移民させることで主導権をとり、国を奪ったと言って良いだろう。それと同じことが、いまわが国に仕掛けられていることが理解できない政治家が多いのは困ったものである。移民を侵略の武器として利用する国はあの国ばかりではないのだろうが、他国と同様に移民をしっかりと統制しなければ、わが国も、伝統文化も、日本語も溶けていくことにならざるを得ない。

中国思想に関するGHQ焚書リスト

 GHQ焚書リストかの中から、本のタイトルから判断して中国思想に関する本を抽出して、タイトルの五十音順に並べてみた。
 分類欄で「〇」と表示されている書籍は、誰でもネットで読むことが可能。「△」と表示されている書籍は、「国立国会図書館デジタルコレクション」の送信サービス(無料)を申し込むことにより、ネットで読むことが可能となる。

タイトル 著者・編者 出版社 分類 国立国会図書館デジタルコレクションURL
〇:ネット公開 
△:送信サービス手続き要
×:国立国会図書館限定公開
出版年 備考
コウシ オノ タダヨシ 講談社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1874050 昭和19  
孔子教の戦争理論 北村佳逸 南郊社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1210313 昭和10  
支那思想概説 日支事変に就いて 諸 橘 述 山崎作治 https://dl.ndl.go.jp/pid/1093780 昭和13  
儒学と国学 斎藤 毅 春陽堂 https://dl.ndl.go.jp/pid/1914523 昭和19 新国学叢書 ; 第8巻 第1
儒教と我が国の徳教 諸橋徹次 目黒書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1684851 昭和15 教学新書 ; 第10
儒道報国時局大講演集. 第1輯 浜野知三郎 編 斯文会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1105803 昭和13  
孫子 桜井忠温  成光館書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1456921 昭和16  
孫子の兵学 友田冝剛  国民教育普及会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1456783 昭和16  
孫氏の兵法 公田連太郎 大場弥平 中央公論社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1869559 昭和10 兵法全集. 第1巻
孫子論講:戦綱典令原則対象 尾川敬二 菊地屋書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/1230764 昭和11  
鍋島論語 葉隠読本 山本常朝 述 
大木陽堂解説 
教材社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1909443 昭和12  
日本精神と儒教 諸橋轍次 帝国漢学普及会 https://dl.ndl.go.jp/pid/1235376 昭和9  
日本精神文献叢書第10巻 儒教篇下 山口察常 編 大東出版社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1256946 昭和14  
兵法孫子 北村佳逸  立命館出版部 https://dl.ndl.go.jp/pid/1460444 昭和17  
論語兵語 西川虎次郎 軍事学指針社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1054334 昭和5  
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