『支那事変とローマ教皇庁』
GHQ焚書の中でキリスト教に関係する本は決して多くはないのだが、いずれの本も戦後の史書には書かれていないような情報が満載で、戦後に出回っている史書とは全く異なる視点を提供してくれる。
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例えば『支那事変とローマ教皇庁』という本には、結構興味深いことが記されている。
ちなみに、文中の「ピウス十一世」はミラノ大司教を経て1922年にローマ教皇に選出された人物で、19世紀以来断絶関係にあったイタリア王国との関係を修復し、イタリア政府にバチカンを独立国として認めさせたり、バチカンの絵画館、ラジオ局、ローマ教皇庁科学アカデミーを創設した人物である。また「支那事変」というのは、昭和12年(1937年)の盧溝橋事件を発端とする大日本帝国と中華民国との間の武力衝突を指し、当初は「北支事変」と呼びその後「支那事変」と呼んだが、戦後になって「日華事変」と呼称が変更され、後にこの戦いは日本の中国に対する侵略であるとの認識が広まり、1970年代から「日中戦争」と呼ばれるようになった。今日では第二次世界大戦の開戦責任がわが国にあるかのように論じられることが大半なのだが、当時の世界の論調は必ずしもそうではなかったし、そもそもローマ教皇が日本を支持したのである。この重要な事実が、戦後の長きにわたりタブー扱いにされてきた。ではなぜローマ教皇が日本を支持したのであろうか。
同書の序文に、著者の岡延右衛門は次のように述べている。
支那事変に関して、欧米諸列強が、その政治上の理由から、ややもすれば支那側に加担するが如き態度に出で、これが為に、好むと好まざるに拘わらず、ソ連の赤化政策を援けるが如き結果を招来しつつあることは、「赤化防止の聖戦」を敢行しつつあるわが国民の、最も遺憾とするところである。
しかるに世界に四億の信徒を有し、カトリック教会の頭首として、偉大なる精神的勢力を有するローマ教皇ピウス十一世が「極東の防共聖戦に協力すべし」との指令を発したとの噂が、全世界に絶大なる反響を呼び起こし、対日世論を好転せしむる役割を演じたことは、蔽い難き事実である。
その指令は、非公式を以て為されたとも言われ、或いはその噂は打ち消されたとも言われているが、共産主義の絶対的排撃は、ローマ教皇庁の万古不易の鉄則である。されば、今回の指令発表の有無を詮議することは寧ろ第二義的の事であるから、本書に於いてはその噂に対する世界的反響が如何に甚大なものであったかを紹介するに止め、ローマ教皇庁が一世紀間の長きに亘って、倦まず撓まず精神的に、防共の聖戦を、戦い続けた事実を強調せんとするものである。
なお、ローマ教皇庁の防共に対する態度が、かくの如きものである必然の結果として、ローマ教皇を信仰上の頭首とする日本のカトリック教徒が、全身全霊を挙げてわが大日本帝国の尊き使命たる「防共の聖戦」に協力しつつある事実、及び世界のカトリック教徒が、同様の立場から精神的に日本の「防共の聖戦」を支援しつつある実状を紹介し、併せて、ローマ教皇庁の組織、国際上に於ける地位、現教皇ピウス十一世の人となり及び厳粛を極める教皇の選挙などについて紹介するのが、本書の目的である。…
岡延右衛門 著『支那事変とローマ教皇庁』栄光社 昭和12年刊 序文
ローマ教皇のこの指令が全世界に大きな影響を与えたことは言うまでもなく、特に対日経済ボイコットが相次いで行われていたアメリカでは、カトリック教徒が団結して日本を支持し米国内の反日運動を排撃したことの影響は大きかったようだ。
またわが国には当時二十六万のカトリック信徒がいたのだが、支那事変勃発後に東京大司教主催のもとに「皇軍武運長久祈願祭」が催されて、その趣意書には「共産主義と氷炭相容れない我がカトリック教会は、従来の反共戦線を一層強化して帝国の声明を支持し、もって現下の時局に対処せんとするものである。」と記されている。さらに著者は次のように記している。
カトリックと共産主義は、絶対に氷炭相容れざるものである。わが光輝ある国体と共産主義思想が永久に相容れざることもまた絶対である。二つの「絶対」がカチ合ったのだ。日本のカトリックが全身全霊を挙げて、或いは戦場に於いて、或いは銃後に在って「防共」の聖戦を戦い抜きつつあるあるのは当然である。
然らば、銃後に在る日本のカトリック信徒は何を為しつつあるか、と言えば、各信者はまずその信仰に従い、日本の防共聖戦が完全なる勝利を獲んことを朝夕祈る外、各協会に於いて公に皇軍の武運長久の祈願祭を行い、教区または教会を単位として、或いはカトリックの機関紙の発行所たる「日本カトリック新聞社」が主催して、国防資金、皇軍慰問資金等を募集して献金し、個人としては駐日ローマ教皇施設パウロ・マレラ大司教を始め、宣教師たるとを問わず、また国籍の如何を問わず、率先して献金しつつあるのである。
カトリックの精神総動員は、その防共の精神がその信仰に根強く根底せるだけに、最高度に迄昂揚せらりつつあり、この種の精神運動は、日本カトリックの発祥の地たる長崎教区内に於いては、特に盛んに行われつつある。
同上書 p.19~20
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ローマ教皇が日本を支持したことは当時の新聞でも大きく報じられている。「神戸大学新聞記事文庫」では見つからなかったが『新聞集成昭和史の証言 第11巻』に昭和12年10月16日付の国民新聞の記事が掲載されている。
『満州帝国とカトリック教』
ローマ教会がわが国を支持したのは支那事変の時だけではなく、満州事変後におけるわが軍の行動についても強く支持し、満州国の成立についてローマ教皇が承認したということを以前このブログで採り上げたことがある。この事実も戦後の歴史叙述からはほとんどタブー扱いにされているのだが、『満州帝国とカトリック教』という本によると、満州で布教に従事していたカトリック教会は、昭和六年九月に満州事変が起こり、その約一ヶ月後に世界各地の教会に対して日本軍の駐在を要望する運動をはじめようとしていたことがわかる。
昭和六年「十月二十三日発電通」として二十四日東京朝日新聞に掲載された「満州カトリック本部はわが軍の駐在を要望、世界各地の教会に実状報告」なる標題のもとに…記事をかかげているのを見ても判るのである。その記事の内容は
「奉天にあるフランスのカトリック教満州伝道本部は,満州事変発生以来満州各地に散在するカトリック教会及び伝道支部から引き続き来たる支那良民の被害状況等の報告に驚き、満州三千萬民衆の安泰のため、一日も早く平和の日の来たらんことを希望していたが、最近の報告はますます悪化を示し、馬賊に化しさった支那官兵は、支那良民に対して掠奪暴行をなし、これに応ぜざる者に対しては殺害または放火する等暴虐の限りを尽くし、自分等は目のあたり生き地獄を見せつけられている。これら良民にとってただ一つの頼みは、日本軍が馬賊討伐に来てくれることであって、人類愛に富む日本兵は支那良民の感謝の的となっている。もし日本軍が現駐地を撤退するならば、満州各地は混乱の巷と化し去るであろう、と日本軍の行動を非常に礼讃しており、中には国際連盟を動かして日本軍の増兵を斡旋せられたき旨依頼して来るものもあるので、カトリック教満州伝道本部は、近く世界各地の教会に対し、支那兵及び馬賊によって荒らされた満州の実情を報告し、人道上日本軍の永久駐在を主張する運動をおこすこととなった。」
というのである。これはわが国が満州国を承認する満一ヶ年前の記事であることは特に注目すべきところである。
田口芳五郎 著『満州帝国とカトリック教』カトリック中央出版部 昭和10年刊 p.27~28
もともと支那には確固たる中央政府は存在せず、特に満州では騎馬の機動力を生かして荒らしまわる盗賊団(馬賊)が跋扈していたのだが、そういう連中が傭兵として支那兵に入り込み、あるいは除隊されて馬賊になるなどして悪事を繰り返していた。彼等に対して支那の警察は無力であり、カトリック信者にも馬賊の襲撃による犠牲者がかなり出ていたのだが、日本軍が満州事変の後に駐留することでようやく治安が正常化したのだ。もし日本軍が撤退すれば、いずれ元の不法地帯に戻ってしまうことを多くの支那良民が危惧していたからこそ、満州のカトリック教会は日本軍の永久駐在を強く望んだわけである。
日本が現在満州にあることは、満州住民の唯一の安全保障であるのである。したがって、全盛期のタイ・ヒン及びボクサーの臭味を有する暴虐なる馬賊横行する混乱状態にある今日の支那に於いて、十八省の支那植民は、大群をなして秩序と繁栄との創始者たる日本の保護の下に、安楽と平和を得んために、この地に来たりつつあるのである。
同上書 p.31
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1932年3月に成立した満州国を最初に国家承認したのはわが国だが、1934年4月にローマ教皇庁も承認し、その後ドイツ、ポーランド、ハンガリーなど合計23ヶ国が満州国を承認した。満州国成立を通告した相手国は日本を除くと71ヶ国であったが、そのうちの約三割が満州国を承認したことになる。当時の世界はアジア、アフリカ、オセアニアのほとんどの国が欧米列強の植民地であり、当時の世界の独立国の内約三割が満州国を承認したことの意味は大きい。満州国を承認した国の中には、日本と直接利害関係のなかった北欧・東欧・中南米の諸国が含まれる事実は重要なのだが、このような史実は、「満州国」を日本の「傀儡国」だとする歴史観を維持したい勢力には余程不都合なのであろう。戦後刊行された一般的な歴史解説書では、このことがしっかり記されている本はほとんど存在しないといって良い。
キリスト教に関するGHQ焚書
GHQ焚書リストかの中から、本のタイトルに「キリスト(基督)」「カトリック」「教皇」「十字」などキリスト教に関連する用語を含む本を抽出して、タイトルの五十音順に並べてみた。
エス・ニールスの『不法の秘密 反基督の印章』は「ユダヤ議定書. 第2篇」として出版されたもので、「ユダヤ議定書. 第1篇」の『世界転覆の大陰謀』の続編である。GHQ焚書処分を受けたのは第2篇のみなのだが、「ユダヤ陰謀の核心」と訳者が序文で述べているような本が焚書処分されていることは興味深い。
分類欄で「〇」と表示されている書籍は、誰でもネットで読むことが可能。「△」と表示されている書籍は、「国立国会図書館デジタルコレクション」の送信サービス(無料)を申し込むことにより、ネットで読むことが可能となる。
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 分類 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL 〇:ネット公開 △:送信サービス手続き要 ×:国立国会図書館限定公開 |
出版年 | 備考 |
国体と基督教 | 大谷美隆 | 基督教出版社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1685332 | 昭和14 | |
支那事変とローマ教皇庁 | 岡延右衛門 | 栄光社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1091870 | 昭和12 | |
日本精神と基督教 | 藤原藤男 | ともしび社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1112489 | 昭和15 | |
反共十字軍 独ソ戦の真相とその経過 |
原田瓊生 | 日独出版協会 | 〇 | https://dl.ndl.go.jp/pid/1460179 | 昭和17 | |
不法の秘密 反基督の印章 | エス・ニールス | 破邪顕正社 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1121670 | 昭和18 | ユダヤ議定書. 第2篇 |
満州帝国とカトリック教 | 田口芳五郎 | カトリック中央出版部 | △ | https://dl.ndl.go.jp/pid/1214306 | 昭和10 |
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