図書館で調べることの限界
過去の事件や人物について詳しく調べたい時にどうやって関連書物や新聞記事を探し出しているのかと質問されたことがある。その方は、私が市販の書籍やネットの検索などではなかなか知り得ないような内容を記事にしているのが不思議であったようだ。
昔は調べ物をする時に何度か図書館通いをするしかなく、私も若いころに図書館に籠もった経験があるが、図書館で意中の本を探すことは容易ではなかった。どこの図書館に行っても図書の分類表(日本図書館協会『日本十進分類法』)に従って整然と書架が並んでいて、「日本史」など目的の書架の近くで大量の本の背表紙を目で追いながら、自分の知りたい情報が書かれていそうな本を探すのだが、本の背中に書かれている書名だけでは何がどのような立場で書かれているかは知ることが出来ないのでまず前書きや目次などを確認し、探している情報がでてきそうな章を斜め読みして参考になる本であるかどうかを見極める作業が必要になる。理科系の本ならばそれほど難しいことではないかもしれないが、文系の本は自分の求めている情報について書かれているかどうかの判断は、実際にある程度丹念に読まないと見極めが難しく、長い時間をかけても良い情報が得られる保証はない。
デジタル資料を「全文検索」することの威力
しかしながら、今ではパソコンの検索機能を活用することによって、求める情報を短時間で探すことが出来るようになっている。例えば、『国立国会図書館デジタルコレクション』には「全文検索」機能があり、この機能を活用することにより、求めている情報が、どの本の何ページに書かれているかを比較的短時間で探し出すことができる。
『国立国会図書館デジタルコレクション』でデジタル資料化の対象となっているものは国立国会図書館の蔵書のうち「明治期以降、1995年までに整理された図書等」で、デジタル化された図書のうち著作権が切れている図書については多くの部分がネット公開されており、ネット公開されていない図書や著作権が切れていない図書も「個人向けデジタル化資料送信サービス」の利用登録手続きをすることにより、かなり多くの著作を読むことが可能となる。このサービスは令和4年の5月から開始されたもので、ネット環境さえあれば誰でも無料で利用できるありがたいサービスであり、読者の皆さんに利用登録されることを強くお薦め致したい。
また『神戸大学新聞記事文庫』は神戸大学経済経営研究所によって作成された明治末から昭和45年までの新聞切抜資料で、約38万件の記事がデジタル化されていて、このサービスは特に事前の手続きは必要なく、ネット環境があれば誰でも無料で利用出来る。
いずれのデータベースも、一部のデータについては文字起こしがなされておらず各ページの画像あるいは新聞記事の切り抜き画像となっているが、大半のデータが文字起こしされており「全文検索」機能を利用することが出来ることはありがたい。「全文検索」でキーワードを入力すると、その言葉がどの本の何ページに何が書かれているか、いつのどの新聞の記事にでているかを誰でも短時間で見つけることが出来る。
この方法は歴史に限らずどんな分野においても利用することが出来るので、古い本や新聞に書かれていることを調べる際には、試しに利用されることを是非お薦めしたい。
ある地域の歴史や文化を調べる
では具体的に、どのように調べればいいのだろうか、その方法について述べることにしたい。例えば自分の親や祖父母の出身地の歴史や文化を調べるにはどうすればいいのか。古い神社や寺、あるいは伝統芸能が残されている場合は、寺や神社の名前、伝統芸能の名前を『国立国会図書館デジタルコレクション』の検索ボックスにキーワードを入力し「検索」と表示のある部分をクリックすればよい。
その時に気を付けなければならないのは、明治期の神仏分離で寺、神社の名前が変わったり、地名の場合は明治期の廃藩置県のあとで行われた府県統合や昭和期の市町村合併やなどで地域の名前が変わったり、村が町になったり、町が市になったりしているので、探している情報によっては検索するキーワードを工夫することが必要となる。
例えば丹波篠山市の歴史を調べたい時は、まずWikipediaで過去の市町村合併の有無について調べると、この市は1999年に旧多紀郡篠山町・今田町・丹南町・西紀町の4町が合併して篠山市が誕生し、2019年に篠山市から丹波篠山市に名称変更されたと解説されている。篠山の歴史が書かれた本がいつ刊行されたのかが不明なので『国立国会図書館デジタルコレクション』でキーワードを色々変えてみる必要がある。試しにキーワードを「篠山史」とすると22件、「篠山町史」とすると10件の書籍や雑誌がヒットする。『篠山町七十五年史』、『丹波篠山の城と城下町』、『郷土事典』、『篠山城史』、『多岐郷土史考 上巻』など、使えそうな図書をすぐに見つけることが出来る。ちなみに検索キーワードを「丹波篠山史」「丹波篠山市史」とすると1件も引っかからない。
長い歴史と伝統を持つ市町村はその地域の歴史を調べて出版しているケースが多いので、そのような図書を読んでみたいと思う方は、是非『国立国会図書館デジタルコレクション』の検索ボックスにその地域の名前を入れて「史」と入れるとかして検索を試みてほしいと思う。うまくいかなかったら、市を町にしたり、町を村にしてみたり、あるいはその地域にある古い寺や神社の名前を入れれば何か引っかかると思うのだが、せっかく何点か引っかかっても大半の図書が「送信サービス」の利用者登録をしていないと読めないので、これを機会に登録されることをお薦めしたい。
市や町の歴史よりも、郡や県の歴史を知りたい場合も同様の方法で調べることが出来るのだが、郡や県の名称が明治以降何度も変えられて来たケースが少なからず存在する。Wikipedia等で確認することも可能だが、昭和の市町村合併以前の郡県の名称変更については、「地理データ集」というサイトから「府県の変遷」に進み地図上で調べたい地方をクリックすると、その地域の版籍奉還から府県統合、その後に行われた郡の変遷までが非常にコンパクトにまとめられている。また昭和以降の市町村合併による名称変更については、Wikipediaで確認するのが良いと思う。
「国立国会図書館デジタルコレクション」で、ある人物の事績を調べる
自分の先祖など特定の人物のことを調べたい時も、「国立国会図書館デジタルコレクション」の検索機能が役に立つことが多い。歴史上の有名人でもない限りなかなか引っかからないものではあるが、地域や組織の中で尽力した人物であれば、誰かがどこかで記録している可能性がある。
例えば、1867~1869年にかけて英国の文献で登場する柳川藩のIkebe Goiという人物に関する情報を探しておられる外国人の研究者の方から、日本側の資料でこの人物について記されている資料はないかとの照会をいただいたことがある。Ikebe Goiが本名なのか、字はどのように書くのかもよくわからないということであったが、この時は、キーワードを「柳川藩」「池辺」として「国立国会図書館デジタルコレクション」で検索すると1833件の書籍・論文がヒットし、さらにタイトルに「柳川藩」を含むデータを絞り込むことで、『柳川藩資料集』という本のp.455に池辺城山と英国公使パークスとの会談についての記録が見つかった。その記録には「城山は池辺永益の号で通称は藤左衛門のちに節松と称した」と書かれていたことと、Goiは位階の「五位」ではないかと回答し、さらに池辺永益、池辺藤左衛門、池辺節松でも多くの書籍データがヒットすることを追記したところ、随分喜んでいただいた。
このように一昔前なら学究者が何年もかけて万巻の書物を探し集めて紐解いていかなければできなかったことが、現在では極めて短時間のうちに必要な書籍の該当箇所を探すことが出来るようになっていることは知っておいた方が良いだろう。
もし皆さんのご先祖で調べてみたい人物がおられたら、「国立国会図書館デジタルコレクション」で一度検索してみることをお薦めしたい。同姓同名の人物が引っかかる可能性は否定できないが、先祖が生前に交流のあった人物が本の中で登場することで、ご先祖本人であることが確認できるかもしれない。また旅行先で見かけた銅造や人物の名前が彫られた石碑が、その地域でどのようなことを成し遂げた人物であり、その地域でどのような事績が残されているかを調べる時、あるいは調べたい地域の出来事や、古寺古社の由来などを調べる時にもこの手法が有効である。
全文検索の威力を知る
上記のようにデータを絞り込めるのは、国立国会図書館に所蔵している相当数の書籍の全文がデジタルデータ化されているからなのだが、「全文検索」機能の威力について少し触れておくこととしたい。
例えば、奈良の寺社について江戸時代の寛政三年(1791年)に刊行された『大和名所図会』に、大和郡山市にある矢田寺についてどのように記述されているかを調べる方法について手順を簡単に述べておこう。
(1)『大和名所図会』を探す
最初に、「国立国会図書館デジタルコレクション」で「大和名所図会」で検索すると、この本の解説した本や引用した本が多いので2930件もの書籍がヒットする。そこで、タイトル欄にも「大和名所図会」と入力して検索をし直すと、15件のデータに絞られるので大日本名所図会刊行会『大日本名所図会 第1輯 第3編』がすぐに見つかる。このリンクをクリックすると、この書籍は江戸時代に刊行された『大和名所図会』全六巻を大正八年に復刻した本であることがわかる。他にも何点かヒットするが、三点が国立国会図書館内限定のデータで、他は江戸時代に刊行された書籍の画像データのため、「全文検索」データが利用できない。
(2)全文検索の利用事例
『大日本名所図会 第1輯 第3編』を選択した後「全文検索」をクリックし、検索欄に「矢田寺」と入力して検索ボタンをクリックすると、2件のデータがヒットする。「126 0126.jp2」は『大日本名所図会 第1輯 第3編』の本文p.206~207で、「金剛山寺 矢田村にあり、俗に矢田寺という。本尊は地蔵菩薩なり。…」と長めの解説が記されており、矢田寺の正式名称は「金剛山寺」で、「矢田寺」は俗称であることがわかる。「249 0249.jp2」は矢田寺とゆかりのある「矢田畠笠辻」という場所の解説である。
次にこのページのままで全文検索の検索ボックスを「金剛山寺」と打ち換えて検索すると、6件のデータがヒットし、「128 128.jp2」(本書 p.210~211)に金剛山寺の図会が確認できる。ヒット件数が多いのは、葛城山の山頂にも同名の寺が存在しており、目次と本文が重複してヒットし、さらに図会と図会の目次がヒットしているためである。
もし『大日本名所図会 第1輯 第3編』が文字起こしされていなかったら、この作業には本の目次に「矢田寺」の名前が出てこないので、郡山城あたりから本文を読み進んで探すしかないだろう。このやり方ではかなりの時間を費やさざるを得ない。
(3)「全文検索」でできること
この「全文検索」を用いることによって、いろんなことを調べることが容易になる。例えば以下のような作業が簡単にできる。
・『新古今和歌集』に「桜」を詠った作品がいくつあるか。
これは、『新古今和歌集』のテキストを見つけて「梅」を入力して全文検索すれば、梅を含む全作品を容易に調べることが出来る。
・福沢諭吉の「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という有名な言葉はどの作品に記されていて、その言葉の前後に何が書かれているか。
検索ボックスに「福沢諭吉」「人の上」と入力して検索すると、三万点以上の書籍がヒットするが、さらに著者名に「福沢諭吉」を入れて絞り込み、適当な書籍をクリックして、「人の上」とでも入力して全文検索すれば、その本のどのページに書かれているかがすぐにわかる。
ある人物の著作を探す
ある人物がどんな著作を残しているかを調べる際に、ネットで検索してもその人物が出てこないことがよくある。例えばこのブログで紹介させていただいた「須藤理助」や「長野朗」「武藤貞一」という人物はWikipediaには記載はなく、どんな人物であるかについてネットではわからない。
またWikipediaなどに出てきても、その著作の中にGHQが焚書処分した著作が伏されているということが良くある。たとえば以前このブログで何点かのGHQ焚書の一部を紹介させていただいた山中峯太郎の著作はWikipediaの「主な著作」一覧から、GHQ焚書処分された十六点すべてが掲載されていないのは不自然である。松岡洋右は彼の外交官・政治家としての事績が詳しく書かれているのだが、彼が多くの著作を残したことについては一言も書かれていない。
そんな事例は他にも多数あり、GHQによって焚書処分された書籍や論文については、日本国民には読む機会を与えないように、ネット上でも何らかの規制がされているのではないかと考えたくなるところである。
例えば、松岡洋右がどんな著作を残しているかについて調べてみよう。検索ボックスにの右下に「詳細検索」のリンクがあり、それをクリックすると詳細検索のページに飛び、次に「著者・編者」欄に「松岡洋右」と入力して「検索」ボタンをスリックすると、44点の図書と7点の音源がヒットする。
よく見ると重複する図書が存在するのでそれを差し引くと図書数は36点となる。すべての著作が国立国会図書館の蔵書になっているとは限らないのだが、他の著者の事例から類推すると、少なくとも戦前・戦中に出版された書籍の大部分は国立国会図書館が大部分を所蔵していると考えてよいだろう。松岡の著作の内GHQによって焚書処分されたものは8点存在し、彼も焚書された著作の割合が多い人物の一人である。
GHQ焚書のリストは公開されている
以前このブログで紹介させていただいたが、GHQ焚書のリストは昭和二十四年(1949年)に文部省社会教育局が編纂した『連合国軍総司令部から没収を命ぜられた宣伝用刊行物総目録 : 五十音順』が刊行されており、「国立国会図書館デジタルコレクション」で全文が公開されていて、ネット環境があれば誰でも閲覧することが可能である。またこの目録は書名と著者・編者名、刊行日がデジタルデータ化されており、全文検索機能を用いることで以下のようなことが可能である。
①焚書された書籍リストから、ある人物が著した、あるいは編集した図書を探す
例えば焚書書籍リストから、長野朗が著した、あるいは編集した著作を探す場合は、『連合国軍総司令部から没収を命ぜられた宣伝用刊行物総目録 : 五十音順』をクリックし、「全文検索」をクリック後、検索ボックスに「長野朗」と入力してクリックすると、17点の検索結果が表示されるので、全部で長野朗のGHQ焚書は17点と思いたいところだが、この目録のデータには相当数の重複があり誤記も多く、また「国会図書館デジタルコレクション」のデータにもかなり誤記が多いので、全点が正確に引っかかる保証はない。このケースでは『現代戦争読本』が文部省側のデータで2点存在し、『支那読本』と『日本と支那の諸問題』の2点が国会図書館側のデータ入力ミスにより引っかからず、長野朗のGHQ焚書は実際には18点である。
②手元にある古い本がGHQ焚書であるかどうかを確認する
例えば実家にある戦前の本がGHQ焚書であるかどうかを確認する時も同様に、『連合国軍総司令部から没収を命ぜられた宣伝用刊行物総目録 : 五十音順』をクリックし、「全文検索」をクリック後、検索ボックスに本の書名や副題の一部でも入力してクリックすることで概ね確認することが出来る。特に書名については新かなづかいで読み替えると検索結果に出てこないので注意が必要である。また目録のデータにも国会図書館のデータにも入力ミスが多いので、念のために著者・編者名で入力したり、タイトルの一部の文字を入れたりすることでたまに検索に引っかかることがある。たとえば丸本彰造著『食糧戦争』は、目録のデータでは著者が「丸山彰造」と誤っているために、著者でいくら検索してもヒットしない。
次回は「神戸大学新聞記事文庫」で記事の探し方について書くこととしたい。
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